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みもれ 真夜中の読書会 おしゃべりな図書室へようこそ
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。 おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる
をテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。 さて、第36夜となりました。来週はもう12月ですね。今年はあっという間でしたか?
長かったですかね。 長かったような気もします。そろそろ1年を振り返りたくなる時期ですね。
さて、今日のお便りご紹介します。東京都にお住まいのチョコリンさんからいただきました。 以前にこちらのポッドキャストで北欧ミステリーを取り上げてくださって嬉しかったです。
翻訳ものが好きなのですが、なかなか紹介される機会がなく、バタやんさんは最近ハマっている翻訳小説はありますか? といただきました。ありがとうございます。
そうですね。今年は北欧小説、あまり読めなかったんですけど、韓国文学、経文学にハマった年でした。
今日は経文学がなぜ面白いのか、なんでハマるんだろうっていう、韓国ドラマにみんながハマるように、私たち日本人が魅了される、なぜだろうっていうことを考えながら話したいなぁと思っています。
今日の勝手に貸し出しカードは、そんな経文学から、これはね今年のベストブックの一つだなと思ってるんですけど、すごい小説に出会ったと思った。
毎年私、ベストブックっていうのを発表してまして、みもれの編集部ブログで、ジャンル別トップ5とかを今年はポッドキャストでも発表しようかな、そんなベストブックの一つと心に決めているのが、今日ご紹介する韓国のキムヘジンさんによる娘についてという小説です。
簡単にこのあらすじをカバーからご紹介しますね。
老人介護施設で働く私の家に、住む場所をなくした30代半ばの娘が、しばらく厄介になりたいと転がり込んでくる。
しかもパートナーの女性を連れて、娘の将来を案じるあまり、二人とぶつかる私に、やがて起こるいくつかの出来事と変化とは。
LGBT、母子の関係、追いというテーマを正面から見つめ、新論予布文学賞を受賞した傑作長編とあります。
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おー、なるほど面白そうって思ってくださった方もいらっしゃるでしょうか。
そう前回ご紹介した近藤文恵さんの夜の向こうのさなぎたちも同性愛が扱われていましたけれども、こういったクイアー小説、クイアー小説っていうのかな。
韓国でも今一大注目ジャンルとなっているようですね。
この娘についてにおいてはクイアーはいくつかある主題の一つであって、
母親から見て娘の受け入れがたい、苛立たせる部分というか、思い通りにならなさの一つとして同性愛っていう要素が描かれているという感じかなというふうに思いました。
なんでそんな汚い格好してんのとか、なんでそんな仕事なのかとか、なんでなんで、なんで普通の男の人と結婚して幸せになってくれたらいいのにっていう。
この娘はいわゆる高学歴ワーキングプアと呼ばれるそうで、せっかく勉強もできてというか、母親からしたちゃんとした学校にせっかく入れてちゃんと育てたのに、
家賃にさえ困るような生活にどうしてなってしまっているんだっていう苛立ちですよね。
この小説がすごいのは、キムヘジンさん、この著者の人の出力、構成力がすごいなって思ったのはですね、私というその母親目線の一人称でずっと描かれていて、
独白形式っていうんですが、だから母親から見た娘とその恋人の発言とか仕草とかは描かれるんですけど、
彼女たちの内面は描かれないから、一方的な描写なんですよ。この物語を娘サイド、母サイド、あるいは恋人目線も加えて、
章ごとに目線が変わるっていう描き方も多分できたと思っていて、ミナトカナエさんとかねお得意のパターンですけど、章ごとに主人公というか独白する人が変わっていくみたいな。
でもそうじゃなくて、母だけにして、それで最後まで引っ張るってすごいことだと後書きにも書かれてましたけど、それが故に娘が何考えているか分からないっていう、
娘の恋人も何考えているか分からないし、分かりたくもないみたいな、こう苛立ちと緊張感がこの小説をずっと引っ張ってるっていうところが凄みがありますね。
まず冒頭ちょっとだけ読んでみましょうかね。
店員が熱々のうどんを二つ運んでくる。カトラリーケースをまさぐってスプーンと箸を取り出す娘の顔は、少し疲れているようにも、やつれたようにも、老けてしまったようにも見える。
メール見なかったの?娘が聞く。うん、電話しなきゃと思いながらいつも忘れちゃって。私はただそう答える。嘘だ。本当はその逆で。週末はずっと娘の問題を考えていたせいでぐったりしてしまったほどだった。
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それなのにどうすればいいか分からないまま、こうしてまた娘と差し向かいに座っている。
ずっとこんな調子で、私から見た娘、そしてお母さんは働いていらっしゃるので、私から見た同僚みたいな形で話が進んでいくわけなんです。
後半は韓国の小説がなぜ面白いって感じるのか、冒頭からグッて引き込まれる感じとか、韓国ドラマにはまる理由と合わせて勝手に考えてみたいなと思っています。
娘についてに出てくる娘は大学の非常勤講師で、母親は老人介護施設で働いています。
どちらも肉体労働と感情労働を求められるわけですけれど、賃金は比較的安いんですね。
女性がそういう触手と対偶、処遇になりがちという点ではフェミニズム小説的ではありますが、
こわだかにそれを社会に訴えるというような作りにはなっていません。
同性愛者や身寄りのない高齢者への社会の冷たさ、礼遇、言葉も含めた暴力、旦那さんを先に亡くした女性の老後の不安感なども描かれるんですけれども、
それでもただただ暗くつらいだけの小説にならないところが、
キムヘジンさんのすごさであり、韓国の小説やドラマのカルチャーの作り方のすごさだと思いました。
キムヘジンさんは1983年生まれとありますから、82年生まれキムジオンと同じくらいということですね。
こういう社会的なテーマを物語に織り込みながら、エンタメに仕上げるっていうのが前ですよね、韓国の小説も映画もドラマも。
韓国フェミニズム日本という本がありまして、そこで韓国文学の翻訳家の大科である斎藤まりこさんがこんなことをおっしゃっていて、
大きな物語を大きい武器を使って書くというよりは、小さい武器で小刻みに書くようになったというのが今の韓国文学ではないかと思いますとおっしゃってるんですよ。
この小さい武器で小刻みに書くようになったっていう表現がすごいですよね。
南北問題があって、北朝鮮があって、上平制度があってという大きな物語が常にあり、男の人が国に抵抗したり苦悩したりという大きな物語で描かれることが多かったわけですが、
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女性を主人公にした場合、もう少し視点を小さく低くしたリアルを描く小説やドラマが増えているということですかね。
日本人が韓国の物語にはまるのは、そういう国家レベルの悲哀になりがちなシチュエーションって言ったらちょっと軽い言い方ですけど、
悲哀を想定させるシチュエーション、大きな物語がありながら小さい視点で描く社会問題や働く女の人たちの苦悩を織り混ぜつつ、
恋愛とか関西解決みたいなエンタメのストーリーが描かれるっていう、そこに心を持っていかれるんじゃないかなと思いました。
もう一つは、これは私の本当に個人的な解釈なんですけど、ノスタルジックさと近未来感がミックスされているのが日本から見た韓国カルチャーの魅力なんじゃないかなと思っています。
例えば82年生まれキムジオンとか映画ハンチカの家族なんかって、なんとなく向田邦子さんが描くホームドラマのような寺内カンタロイカとかそういう過不調性があった昭和の家庭がイメージとして湧いてくるんですけど、
キムジオンは比較的大人しい女性として描かれてますが、一方ですごく強く意見する女の人たちが出てくるドラマも多いじゃないですか。
だから懐かしい感じで昭和ドラマのイメージの展開でセリフの返しを想像すると、いい意味で裏切られるんですよね。
日本のドラマなら女の人が泣いて終わるところを反撃するんかーいみたいなね。窓から捨てなくてもみたいな。
韓国ドラマのヒロインってすごく泥酔しますよね。道端で何か物を壊したりして。
あんなに日本の女優さんは道端で泥酔して物を壊したりするシーンあんまないんじゃないかと、いつも思いますが。
ちょっと話がそれちゃいましたが、シチュエーションの昭和感に対して女性像は古臭くない。
あとね、近未来っぽいって私が言うのはちょっとSFが入るというかファンタジーが入る物語も少なくないですね。
キムジオンもそうだし、netflixで今やってる保健教師アン・ウンニョン、原作はチョン・セランの保健室のアン・ウンニョン先生という作品ですが、
あれもファンタジー要素が入るのが面白いなぁって思いますね。
昭和のホームドラマ、恋愛ドラマの世界観と、平成も含めてかな、昭和平成のドラマの世界観とSF観、
2030年ぐらいの日本の30代男女ってこんな感じなのかなって思わせるような近未来感がミックスしている魅力がはまらせる理由なんじゃないかと私は思っています。
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今日はこの娘についてから紙フレーズをご紹介したいと思います。
記憶はいつもデリケートな部分から目を覚ます。私としては整理することも認めることもできない記憶。
だから口をつぐむこともできず、心は入り乱れ、苛立ちを覚える記憶。またしても蓋が自然に開け放たれる。
という一説なんですけど、すごいですよね。すごくないですか。記憶はいつもデリケートな部分から目を覚ますって。
痺れますね。少し前にもその北欧ミステリーをご紹介した時にお話ししたかもですが、英語圏以外の、英語以外の言語の翻訳物ってそのジャンル自体が売れないとなかなか日本語訳化される本が増えていかないんですよね。
翻訳者も増えていかないので、面白いって思ったらその国の小説を、その国の映画とかそういうカルチャーを積極的に買おうって思っていて、積極的に紹介したいなと思っています。
先日韓国文学を日本で出版している出版社のクオンっていうところの代表のキムスンボクさんに取材をさせていただいたんですが、
キムさんが諸外国のカルチャーがヒットする、外国のカルチャーが入ってきてヒットする順番は音楽、映画、ドラマ、そして文学っていう順番で売れていく、流行る、広がって浸透するっていうような話をされていて、そうかもしれないなと思いました。
そうなるといいなと思いましたね。だって韓国の小説のエッセイも面白いからもっと翻訳されて読めるといいなって思いました。
今日はちょっと長くなっちゃいましたかね。こんなところで最後までお付き合いいただきありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりなと出出はこんな感じで皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
みもれのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。おやすみなさい。おやすみ。