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みもれ真夜中の読書会 おしゃべりな図書室へようこそ
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。 おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる
をテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。 さて第37夜をお届けします。
おしわすですね。しわす感出てきましたか。さて今日のお便りをご紹介します。 大阪府にお住まいのリブラさんからいただきました。
じっくり読書したい気持ちはあるのですが、老眼がきつくなり、夜の読書は辛くなりました。 気軽に読める短編集のおすすめを教えてほしいです。といただきました。
ありがとうございます。いつも聞いてくださってありがとうございます。
これまでご紹介した本の中では、結構私、ブラックなものだったり、ドロドロだったり、残酷な描写があるものが多いかなと思っていて、ついそちらばかりになってしまうんですけど、
気持ちに余裕がない時なんかは、やっぱりパンチがあるものは辛くて、今ちょうど霧野夏夫さんの日没を読み始めたところなんですが、
ちょっとこれに対峙できる自信が今ないなと思って、年末の元気なところにとっておこうと思っています。
今日はそんな気軽に読み始められて心温まるハートフルな短編集をご紹介したいと思います。
美浦さんへの勝手に貸し出しカードは、田中聴子さんの後を継ぐ人という短編小説にしました。
タイトルの通り後を継ぐ人を描いた6つの短編集です。
美容室、美容室じゃなくて、美容室とか老舗旅館とか、家業の後継ぎの話もあるんですけども、仕事の引き継ぎだったりとか、会社のムードの継承みたいな話も入っています。
引き継ぎって、なんかドラマがありますよね。
私は営業職だったので、担当クライアントの引き継ぎっていうのがあって、先輩から引き継ぐことが多かったんですけど、人によって引き継ぎっていろんなやり方があるなぁと思っていて、
何々社といえば何々さんみたいな代名詞だったような人でも、引き継ぐとなったらパッて存在を消しちゃう人もいれば、OBとしてずっと顔を出し続けるみたいな人もいて、どっちがいいとか悪いとかってことじゃないんですけど、
今は後輩に引き継ぐ側になることが多くなって、どうだと公認の人にとってやりやすいのかなっていうのはすごい悩みますよね。
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立つ鳥跡を濁さずって言うけれども、 皆さんはどう思いますか?
さて、それで今日ご紹介する後を継ぐ人の6編の中で、私が一番お気に入りの短編は、我が社のマニュアルという小説です。
地元の文具メーカー、チョークを作る会社に就職した翼くんという25歳の男の子が主人公なんですけど、翼くんは訳あって就職がなかなか決まらず、そのチョークの会社にやっと決まったんですね。
その会社は知的障害者の方を多く雇用している会社で、彼と同じ部署になった伊藤さんっていう、
エクセルとか資料を作るのはめっちゃ上手いけど、コミュニケーションがなかなかちょっと取りづらい、つきにくい女性に手こずりながらも、彼女をどうにか笑わせたいと思ったりと、思考錯誤する翼くんが描かれる小説です。
一方コミュニケーション能力は高いけれど、エクセルとかが全く苦手な翼くんは伊藤さんに色々質問したりして、
なるほどなるほどってなって、どんどん聞いてたら机をいきなりバーンって叩いて、伊藤さんに切れられちゃうんですよ。
今日はそんなシーンから少し早めに紙フレーズをご紹介したいと思います。
相手のことを知るって人から聞いて知ったかぶりするんじゃなくて、時間に交わることでいろいろ失敗したり、自分であれこれ悩みながらだんだんわかっていくものじゃない?
これは原口さんという職場の気の良いおばさん、そういうとなんですけど場を和ませてくれる先輩が言った言葉です。
伊藤さんが急に切れたりするからどうしていいかわかんないと思った翼くんは、こういう時のために立て続けに質問してはいけないみたいなマニュアルをくださいよってぼやくわけです。
それに対して言われた言葉なんですよ。そうやって自分の取説みたいなのを作られたらあなたも嫌でしょっていう意味でね。
ここはネットで感想とかツイッターとかで見るとここがすごい良かったって書いていらっしゃる方も他にも結構いらっしゃったクライマックスかなと思うんですけど、
翼くんのいいところはとっても素直なところで、自分は健常者で伊藤さんのできないことをいろいろフォローしてたつもりでいたけれども、
実は伊藤さんの事務能力に支えられて助けてもらってたことがいろいろあったってことに気づいて反省するわけですね。
その後仕事でミスったりして翼くんは業務連絡のついでに伊藤さんにLINEで愚痴るんですよ。
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そしたら伊藤さんからどんまいって返事が来るのね。ここすごい泣けちゃって何度読んでも泣ける。今喋ってても泣けますね。
どんまいって四文字、伊藤さんから返ってくるんですよ。いいですよね。
そんな翼くんもなぜ就職が25歳までなかなか決まらなかったのかっていうこととか、人付き合いが得意そうなのに外回りの営業ができないって彼は言っていて、
それは彼なりの事情があるわけなんですよ。というところが話が大きく転換するので、その先は言わずにおきますね。
健康を見えても人ってわかんないものだなぁと思ったりして、
このチョークの会社はどの人の障害がどのレベルみたいなことは公表してなくて、どの人には何を頼んじゃいけないとか、何を頼んでいいとか、こう接しないとダメだとか、そういうのをマニュアル化しないよっていう方針でやっているわけなんです。
私もキレた翼くんと一緒で、ダメならダメって先に言ってくださいよとか、マニュアルやレギュレーションがあるんだったら先にくださいってまっすぐ言っちゃうんですけど、
それをもらってしまうとそれは絶対やっちゃいけないルールになっちゃうなっていうのは思うんですよね。
悪しき習慣というか、惰性でずっとそうしてきたけど、なんでダメなんだっけ?変えてもいいのでは?みたいなことって知らないから信山者だから言えるってことはきっといっぱいありますもんね。
引き継ぎって仕事だけじゃなくてPTAとかマンションの組合とかそういったものも含めて暗黙のマニュアルを変えるチャンスだったりするのかもしれません。
そんな田中聴子さんの心が温かくなる短編集、後を継ぐ人をご紹介しました。
他にも死にせりょかんを引き継ぐ息子はトランスジェンダーで彼、彼女か、おかみになりたいって奮闘するのだけどっていうお話、
おかみになりたいもすごくいいですし、ゆっくり気軽に読める小説なのでぜひ読んでみてください。
田中聴子さんは、私は以前甘いお菓子は食べませんっていう短編集があって、それがものすごく良くて、
そっちは40代女性の焦燥感みたいなのをいろいろ描いた短編集なんですけど、この後を継ぐ人のほっこり優しい感じというか、同じ人が書いたとは思えないって最初思いましたけど、
一人一人の感情の描写とか、善人と悪人みたいな完全超悪的でない繊細な表現とか、そのあたり読みどころだなって思いました。
甘いお菓子は食べませんもすごく面白いので、よかったらぜひ読んでみてください。
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今日はこんなところで、Vibraさんリクエストありがとうございました。皆さんも最後までお付き合いいただきありがとうございます。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな途中室はこんな感じで、皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
MIMOREのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。