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2021-03-30 11:30

“美人すぎる姉”の代わりになりたかった妹は復讐によって癒されるのか【第52夜】

「意表を突く展開に心揺さぶられる小説を教えてください」とのリクエストにお答えして、クォン・ヨソンさんの『レモン』をご紹介します。日韓ワールドカップに沸く2002年の韓国で、ひとりの美しい女子高生が殺されます。犯人は捕まらないまま。彼女の妹は、死んだ姉の顔を求めて整形を繰り返し、ある日、容疑者の少年の家を尋ねるのですが……。問いかけの答えのない新しい小説とも言える『レモン』の魅力についてたっぷりと語ります。

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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと河童です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになるおテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第52夜となりました。今夜のお便りご紹介します。
ペンネームすみれさんからいただきました。しばらく読書から離れていましたが、おしゃべりな図書室を聞くようになって、図書館で借りてくるのが楽しみになりました。
先日紹介されていた町田園子さんの、「52ヘプツのクジラたちを読んで、火をつく展開にあまりに心を揺さぶられて終盤は号泣でした。
そんな意外性のある展開に心揺さぶられる小説があればまた教えてください。」といただきました。ありがとうございます。
52ヘルツのクジラたちね、そうなんですよね。ほっこりした表紙とタイトルに騙されて、騙されてってことはないんですけど、予想と違ってすごいですよね。
なんていうか、ディズニーランドでいうと、イッツアスモールワールドみたいなイメージで乗ったら、スペースマウンテンみたいな乗り物で激しく揺さぶられてびっくりするみたいなね、そんな小説でした。
そんな暗闇の中、右へ曲がるのか左へ曲がるのか、落ちるのかさえもわからない、意表をつく展開、見終わって呆然とするみたいな本がちょうどありました。
クウォン・ヨソンさんのレモンという小説です。今日はこちらを勝手に貸し出しカードとしてご紹介したいと思います。
また、経文学、韓国文学なんですけれども、韓国文学に意表をつかれることが多いなって思うのは、日本と似たところがあるから、
ああわかるなって、安心して読んでいると全然違うところがあったりして、え、そうくるの?ってなるんですよ。
いい意味で予想を裏切られる、予定調和にならないところが韓国文学を好きですね。
さて、レモンはどんなお話かあらすじから解説していきます。レモンという小説は、ある一つの実験をめぐって2002年から2019年まで、
年を追いながら章ごと、登場人物の視点を変えながら追っていく長編小説です。
2002年は日韓サッカーワールドカップがあった年で、その年に美貌の女子高生ヘオンが公園で頭を殴られて殺されてしまうんですね。
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容疑者になった2人の少年は、どっちも決定的な証拠がなく釈放され、犯人は不明のまま、ヘオンの母親は娘が死んだのは名前のせいだと思い込んで、
ヘオンからヘオンへ改名しようとしたりとか、ヘオンの妹にダオンというのがいるんですけど、彼女は美しかった姉に似せようとして、生計を繰り返しています。
そんな妹のダオンは、容疑者の一人だったハンマヌという少年の家を訪ねに行くんですね。
怖いでしょ、ちょっと怖い展開を予想するじゃないですか。この生計魔になってしまった妹がハンマヌに復讐しに行く。
そしてそこで知った真実に、妹を死に追いやったクラスメイトたちを次々復讐していく。
そんな話を私は想像していたんですよ、この本のあらすじを読んで。
でも実際には全然違う展開なんですね。そのあたりをあまり詳しく言えないけど、ちょっと後半で解説していきたいと思います。
レモンという小説は、ドロドロの復讐劇でもサイコスリラーでもなくて、喪失と愛の物語なんですね。
突然の喪失、愛する身近な人の死によって、人はネジが一つ外れたみたいに壊れてしまうことがある。
狂ってしまうことがあるというような、妹とお母さんだけじゃなくて、美しいダオンの周りの人たちの人生が少しずつ狂ってしまうんですよね。
ヘウンのクラスメイトにテリムという女の子がいて、この子が小説の影の主人公と言えるほど大事な役所なんですけど、
テリムが初めて美しい同級生のヘウンに出会うシーンの描写がすごいんですよ。
大好きなのでちょっと読みますね。
なんとなく周りを見回した私は、ふとある子が目に止まり、はっと息を飲んだ。
その子の目は大きく、目尻が斜めに置いたアーモンドのように吊り上がり、唇は花びらのように赤かった。
確かに綺麗な子なのだが、それは普通に綺麗だというのではなく、なんと言えばいいのだろう、ピーポーピーポーと鳴らしながら走っていく救急車のサイレンのように、
差し迫った危なっかしい美しさだった。目が離せなかった。
ピーポーピーポーっていいですよね。なんかちょっと今度私も使ってみようと思いちゃいました。
そしてその彼女が窓際を見てたんですけど、ふっとこっちに振り返るという瞬間があるんですよ。
やがて教室の方を振り返った。その途端、横顔からも伺えた美しさが私に向かってパッと、
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それこそ空中でパラシュートが開くように、パーと花開いたのだった。
私は何かが爆発したような灼熱に包まれた。
ピーポーピーポーから次は空中でパラシュートが開くようにってすごいですよね。
韓国の小説やドラマの美術に対する描写、その必要なまでの描写がまたすごいなと思うわけです。
美しさについてもですし、醜さに関しても、妹のダオンが事件から成形して、
またその何年後かにいわゆるちょっと劣化しているっていうことの描写なんですけど、
ちょっとこちらも読みましょうか。
私は多分彼女に気づかなかったと思う。
大学の図書館の階段で偶然会ってから10年ぶりのことだった。
長い月日が経ったとはいえ、ダオンはまた私をびっくりさせるほど変わっていた。
パーマをかけたショートカットに眼鏡をかけ、以前よりずっとふっくらしていた。
茄子色のダウンジャケットに黒いコットンパンツを履いており、
ダボッとしたジャケットは中に茄子でも詰め込んでいるかのようにデコボコしていた。
茄子でも詰め込んだかのようにデコボコしているってすごいですよね。
太っているとは描写してなくて、以前よりずっとふっくらしていたって控えめな言い方をした割には、
結構残酷な描写をするっていうところとか、
この後に、高校の時田舎の少女みたいだったダオンが田舎の女性みたいになっていたのだからってあるんですけど、
笑うところじゃないけど、ちょっと笑ってしまうっていうね。
ちょっと意表つく表現も、翻訳も、韓国の小説を読む楽しさではありますね。
さて今日はこのレモンから紙フレーズをご紹介します。
死は私たちをガラクタかゴミのようにしてしまうの。一瞬にして残りの存在にしてしまう。
ダオンがそう言うなり、私はふと平穏を思い出した。
一瞬にして私たちを残りの存在にしてしまった平穏の美貌。
あまりの美しさに圧倒され、果たしてあの美しさは実在したものなのかと疑わしくなるほどだった。
そのことを思い出した途端、私は胸が波打った。
生きている時も私たちを残りの存在にする人っているよね。
その人と残りの存在の人みたいにしちゃう人っていますよね。
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死という形ほどの喪失じゃなくても、例えばご飯会でその人がいる場といない場でお家買いみたいなとか、
その人がちょっと子供のお迎えがあって私先に出ちゃうねって帰っちゃうと、すっかり残りの人みたいになっちゃう感じってあったりしますよね。
声が大きいとか目立ちたがりとかそういうことじゃなくて、穴があるみたいなことかな。
本人の自覚があるかないかは別として、周りの人がその人のために集まっているみたいになっちゃう人っているなってことを思ったりしました。
妹は美しい姉さんに憧れていたとか、彼女みたいになりたかったとか、あるいは嫉妬してたっていうそういう直接的なことはこの小説には書いてないんですけど、
姉さんあっての私だったっていうことなのかなと思って、おねがけとなったりしました。
この小説、いろんな意味ではっきりしたことは書いてないんですよ。問題提起はするけど、答えは明確には書かれていないっていうところがまた新しくて興味深いと思いました。
最後まで読んで、これってどういう意味だったんだろうと思って、また前の章を読み返したくなるようなそんな小説です。
気になった方はぜひ、クォン・ヨソンさんのレモンを検索してみてください。
今日はスミレさん、リクエストありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会、おしゃべりなと出出はこんな感じで、皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
みもれのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
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