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みもれ真夜中の読書会、おしゃべりな図書室へようこそ。
こんばんは、ナビゲーターの高段者ウェブマガジン、みもれ編集部のバタやんこと河童です。
おしゃべりな図書室では、「水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる!」をテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第102夜をお届けします。今夜のお便りをご紹介します。
羊さん、18歳、大学生の方からいただきました。バタやんさん、こんにちは。いつも楽しく聞いています。ありがとうございます。
私は読書は好きなのですが、たくさん読むわけでもなく、流行りの作家さんなどに詳しいわけではありません。
そのため、本が好きというのが少し申し訳ない気持ちになります。
なるほど、すごいわかりますね。なんか本が好き、そうね、読書好き、本好きって言うと、すごく巨匠とか名作を読みこなしていないと名乗ってはいけないような、
読書というジャンル全般に精通していないと、読書好きって言っちゃいけないような気がしますよね。
少し前に本屋幸子さんと長浜寝るさんの対談の取材をさせていただいたときに、長浜さんも映画好きって言うと、
じゃあどんな監督が好きなんだとか、あれは見たかとか言われて、そんなに別に巨匠とか名作映画とか何でも見てるわけじゃなくて、
単に映画が好きなんだけど、そういうのが怖くなっちゃったっていうような話をされていて、
で、本屋さんが映画好きって言うと、映画というジャンル全般を愛しているみたいな感じにとらわれて、
そういうマウント取られたりしちゃうから、映画好きじゃなくて映画が好きですって言っておけばいいんじゃないっておっしゃってて、
すごいそうだなって思ったんですよね。だからそれから私も読書好きじゃなくて、読書は好きです、読書するのは好きです、本は好きですというふうに答えています。
ハッシュタグでね、読書好きさんとつながりたいとか、本好きさんとつながりたいみたいなハッシュタグがあって、
私もつけたりもするんですけど、読書好きさんとつながる価値が自分にあるだろうかとか、そんなこと思っちゃいますね。そんなことないから、
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出版社に勤めていると本当にものすごい読書家っていう人たちもたくさんいらっしゃるので、
その人たちを前に読書好きと名乗るに値しないみたいなことは思って言い出しにくかったりしますね。
ちょっとそんな前振りに長くなっちゃいましたけど、羊さんからのリクエストは、
結末や答えがはっきりしているような本ではなく、余白が多くてこういうことかなと考えを巡らせられるような本があれば教えてくださいといただきました。
ありがとうございます。
今日そんな羊さんにご紹介する勝手に貸したシカードは川上美恵子さんの最新刊、春の怖いものにしました。
ピンク色の枕ですかね、クッションかな?がクシャッとなった非常に美しい表紙で、
この感性がわかる人しか手に取ってくれるなというような美しい表紙にちょっとおじけづいちゃうような想定なんですけれども、
春の怖いものは短編小説集ですね。
パンデミック直前の2020年の春の東京、このコロナ禍がまだちょっと得体の知れないものだった大感染拡大になる前の東京を舞台にした短編集なんです。
いろんな人たちが出てくるんですけれども、得体の知れない捉えどころのない怖さのある小説ばかりです。
わかりやすい意味の適当、見方とかっていう感じではないので、羊さんに気に入ってもらえるといいかなと思って選びました。
春の怖いものっていうタイトルが素腕にすごく刺さるなと思っていまして、四季の中でいうと春が一番怖くないですか?そんなことないかな。
桜が咲くようなこのくらいの時期になると春の匂いがして、春って匂いがありますよね。夏もあるか。
でも春の匂いが一番、冬から春の匂いに変わったなって思う時があって、私の中には。
春の匂いはクラス替えの緊張感と一体化してるんですよね。
その匂いを嗅ぐとクラス替え間近な、誰と同じクラスなんだろうとか馴染めるかなっていう緊張している気持ちが蘇ってくるんですよ。
クラス替えなんかあったの高2以来だからもう何十年も昔なんですけどね。匂いの記憶って面白いですよね。
だから春は怖いものだと思っていて、怖い、緊張感があるっていうんですかね。
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ワクワクするとかポジティブな気持ちというよりは、体をキュッとこわばらせるようなそんな感じのある季節です。
川上さんの春の怖いものがどんな怖いお話かこの後ご紹介していきたいと思います。
川上美恵子さんの新刊春の怖いものは6つの短編集からなっています。
青×青、あなたの花がもう少し高ければ、花瓶、寂しくなったら電話をかけて、ブルーインク、娘についてという6つですね。
一番怖かったのは娘についてかな。
すごいパンチ力があるんで、ちょっと体力が、心の体力が充実しているときに読まれることをお勧めします。
この娘についてはちょっとまた後で話そうかな。
一番気に入っているのはあなたの花がもう少し高ければという2番目の短編です。
これはですね、ギャラ飲みってありますよね、ありますよねって私も別に言ったことはないんですけど、
可愛い女の子がお金をもらってご飯を、おじさんたちとというかお金のある男の人たちと飲むごちそうになりに行くみたいなのがギャラ飲みっていうらしいんですけど、
主催している、マッチングをしているインフルエンサーのモエシャンさんっていうアカウントがあって、
主人公の女の子はそのモエシャンさんのファンで、その人に今憧れているし、
自分はあまりお金がなくて小切れにしているからギャラ飲みに参加したいなと思って、面接を受けに行くことになるんですよ。
ルックスが可愛い子を呼ぶっていうことに、男の人からお金持ちの男の人からすると価値があるわけなんで、
ルックスを見られるっていうことが一つと、憧れているモエシャンさんに直接会えるっていうことですごい緊張して、
主人公の女の子はトヨちゃんって言うんですけど、
トヨちゃんはめちゃめちゃ張り切ってお化粧して、おしゃれして、手土産も買って、
その呼び出された高級ホテルに行くわけなんですね。
なんかこの今の感じをキャッチアップする川上さんがすごいって思うのと、話し言葉のような脳内言葉のような文体がずっと続いていくわけなんですけど、
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初めてモエシャンさんと会いに行く場面をちょっと読みますね。
時計を見る。初めてモエシャンとその界隈の存在を知って半年。
今日実際に自分がモエシャンに会うのだと思うと、トヨの溝落ちはキュッと縮こまり、死ぬほどドキドキする。
いけんのかこれ。ってすごいでしょ。
トヨの溝落ちはっていうのは自分で自分のことを言っているのかな。
ちょっと客観的な文体のようでありながら、死ぬほどドキドキする。いけんのかこれっていうのは独り言みたいな感じですよね。
そんな風に自分の独り言なのか、第三者目線なのかっていうのはちょっと混ざったような言い回しにわざとなっているのかな。
その辺が本当に天才だなと思うんだけど。
もう一個大好きなところを読もうかな。
サイトのアパレルの広告が出てくるんですよね。向かう途中でね。
それを見ながらなんか普通に可愛くないって思うんだけど、でも結局骨格ストレートって限界あるんだよ。
こういうフレア系とか全滅過ぎて笑えるよな。
マジ骨格ウェーブで優勝したい。
大体なんで私はブルベ冬として生まれてこなかった人生なのか。
どうでもいいけど黄色すぎるから顔。
そんな風に何秒間かがっかりしてまた別のページへ飛ぶとあります。
ちょっと意味がわかんない方に簡単にご説明すると、知っている方は読み飛ばして聞き飛ばしてください。
イエベブルベっていうね。
イエローベースかブルーベースかっていう肌色の話なんですけど、
メイク業界では大変に流行っているわけですね。
黄色っぽい肌かブルーっぽい青みがかった肌かということで言うと、
あんた黄色っぽい肌って言われるよりは青みがかった肌って言われた方がちょっと嬉しいというか勝ち組みのような気がするというニュアンスが
この文章には含まれていて、
なんでブルーベースっぽい肌に生まれてこなかったのか。
どうでもいいけど黄色すぎるから顔って自分のことを言っているっていう。
骨格診断というまた体型の診断も流行ってまして、
ストレートとかウェーブとか大角の特徴によってこういう服が似合いますよとか
フレアスカートが似合いますよとか
細めのパンツが似合いますよみたいなのを診断してくれるわけなんですけど、
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生まれながらにシャレた骨格、生まれながらにってことはないか赤ちゃんでってことはないけど、
太ってるとか痩せてるとかってこととは別にして、
シャレた骨格の人っていますよね。
だから生まれながらにして同じ格好してもああいうふうにはならないなって思う気持ちは分からんではないっていうね。
その辺のもういろいろいろいろ劣等感とか誰よりはマシみたいなことを
トヨさんという人はとにかくすごい考えているわけなんですわ。
いよいよこのモエシャンさんと対面して、
この後はちょっとネタバレになっちゃうんで言わないでおきますけど、
ちょっとしんどい怖い思いをするわけなんです。
この短編が本当にすごい面白いなって私が思うのは、
モエシャンさんというインフルエンサーとインフルエンサー界隈の人たちが悪で、
トヨさんはかわいそうな主人公のヒロインっていうことでもなくて、
トヨさん自体もちょっと気持ち悪いとこがあるんですよね。
だから完全懲悪という話でもないし、
もう一人面接を受けに一緒に行くことになる女の子がいるんですけど、
その子も単純にかわいそうな被害者ってことでもなくて、
三者三様、もう一人面接官の女の子がいるんだけど、
どの人が悪でどの人が善人ということでもないっていう、
そういう意味で羊さんのリクエストにありました。
分かりやすい結末とか、この話はこういうことを問題提起しているとか、
こういうことを言いたい小説なんだ、みたいなことがあまりない小説なんですね。
そこが面白いし、天才だなって思いました。
最後ちょっとビールを飲むシーンがあって、
それを見てすごいビールが飲みたくなる短編でもあります。
今日はこの本から紙フレーズをご紹介します。
どれだけ金をかけても何にもなれない。
あなたの娘がどのくらい愚かでどうしようもないのか。
込み上げてくる愉快さを追いかけるように、
意地悪な言葉が後から後から溢れて、
それを喉の奥に待たせておくのが大変だった。
これは娘についてという短編にある一節です。
意地悪な言葉が後から後から溢れて、
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それを喉の奥に待たせておくのが大変だったっていう描写が、
すごいなぁと思ってピックアップしました。
娘についてっていう小説はですね、
吉江さんという主人公がいて、
その同級生の三沢杏奈ちゃんから電話がかかってくるんですね。
高校生の時の同級生から急に電話がかかってきたら、
結構誰でもびっくりすると思うんですけど、
別に自分が何をした覚えもないのに、
不安とも後悔ともつかない感情が突き上げて、
緊張が走り、一瞬で汗をかく、
そういう予期せぬ再会が私は怖いとあります。
ここにある感情の通りですね、
三沢と私は仲良しだったんだけど、
少し後ろめたい気持ちがあるわけなんですね。
吉江さんと三沢さんのお母さんである、
ネコさんというあだ名で呼ばれてるんですけど、
お母さんと仲良しなんですよ。
二人して彼女のことをちょっと馬鹿にしているところがあって、
彼女をコントロールしようとするっていう話が出てくるんですけど、
毒親と母、毒親の母親と娘っていう母娘のペアの話は、
小説は結構いろいろあると思うんですけど、
友達と友達のお母さんというのが意地悪をしかける相手っていうのは、
なかなか珍しい設定ですよね。
そして電話がかかってきた理由は、
そのお母さんが亡くなったっていう話からスタートするんですけど、
過去三沢さんの方がお家が裕福なんですよ。
だけど彼女の中では、
少しよしえちゃんとしては彼女をちょっと馬鹿にしている節があって、
馬鹿にしてるけどいろいろ恵まれている三沢さんの家に対して、
ちょっとこじれた感情を持っていた。
それがさっき引用したようなネガティブなことが三沢さんに起こったときに、
すごく意地悪なうずうずするような気持ちが起こるっていう描写がまた、
絶妙で怖くて怖くて仕方がないんですけど、
もしかしたら誰にでもこういう心の中でちょっと馬鹿にしていた友達、
なんかコントロールしようと陰で動いたことがある友達っていうのは、
誰しも思い出せる人がいるんじゃないかなと思ったりして、
その辺が河上さんは絶妙な突き放すでもなく、過剰すぎるでもなく、
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じわじわと怖い、三人とも怖いところがあるんですけど、綴っていきます。
この小説に関する別のインタビューで河上さんは、
過去の自分からリベンジされるっていうような表現をされてましたけど、
自分自身が過去に誰かにしでかしたひどい仕打ちだったりとか、
自分が覚えてはいないけれども傷つけた過去だったりに、
後から自分が仕返しを受けるっていうことは、
誰しもちょっと暗い過去が思い出せる過去があるんじゃないかなと思ったりしました。
そんな非常に面白い短編集です。
羊さんも気に入ってくださると嬉しいです。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございます。
皆さんもお付き合いいただきありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は、
皆様からのお便りをもとに、
いろいろなテーマでお話したり、本を紹介したりしております。
みもれのサイトからお便り募集していますので、ぜひご投稿ください。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。
おやすみー。