どうも、かねまるです。 プラントライフは、化学プラントの技術者が、化学や工場に関するトピックを分かりやすく紹介する番組です。
今回は、豚骨ラーメンのスープをデイゼル燃料に変えるお話です。 ラーメンを食べた後、丼に残っているあの白濁したスープ、
その残り物からトラックを動かすディーゼル燃料を作る事例がありました。 この面白くて珍しい事例を紹介します。
取り上げるのは、福岡の運送会社西田松雲さんです。 この会社は、ラーメン店の飲み残しスープからラードだけを回収して、バイオディーゼル燃料を製造することで、
グループのトラック燃料に使っています。 皆さんはバイオディーゼル燃料って知っていますか?
原料が石油ではなくて、植物とか動物のような生物資源が用いられているディーゼル燃料です。 動植物など生物資源というのはバイオマスと呼ばれますので、バイオディーゼルと名付けられています。
材料としては、菜種油ですとか大豆油のような植物を使っていることが多いです。 近年はバイオマス燃料を使って飛行機を飛ばすような話もありまして、この燃料は持続可能な航空燃料
サフと呼ばれたりもします。 話をラーメンに戻しますと、今回の燃料の主役になっているのがラードです。
ラードは豚の油を生成した常温で半固体の油です。 豚の油ということで
豚骨ラーメンにももちろん含まれています。 これがディーゼル燃料になるまでの過程を追っていきましょう。
バイオディーゼル燃料を知っている方なら、なぜ豚骨ラーメンなのと思いませんでしたか?
すでに利用が進められている菜種油の方が圧倒的に使用量は多いと思います。 そしてもう一つ、豚骨というのは動物由来ですので生産量を増やすにも限りがあります。
それでも豚骨ラーメンを使うというのはラーメン店のとある悩みからでした。 お店で食べたラーメンの飲み残しのスープというのは当然廃棄されます。
ですけれどもそのまんま排水溝に流すような廃棄の仕方というのはできないんです。 厨房にはグリーストラップと呼ばれる油や野菜くずなどをせき止めて
下水に流れないようにする設備があります。 必ずそこを通さないといけないんです。
このグリーストラップのおかげである程度きれいにしてから排水されます。 ですけれどもグリーストラップというのは定期的に掃除をしないといけないだけではなくて
清潔に保たないと臭いの原因にもなってしまいます。 極論は豚骨ラーメンのスープは廃棄しない
つまりは全部飲み干してもらうというのが一番ですね。 ただ
こってりしたスープを飲みきれる方の方が少ないかもしれませんね。 そこで再利用するということです。
豚骨ラーメンのスープを燃料に使うと言っても難易度が高いんです。 スープの中身を詳しく見てみましょう。
水と油が入っているのに2層に分離していないですよね。 白濁スープとして一つになっています。
白濁の正体は乳化です。 豚骨スープの出汁を取るために豚骨を煮込んでいくと油だけではなくて
コラーゲンというタンパク質も得られます。 長時間煮込み続けるとコラーゲンがゼラチン化して油と水をなじませる
均一化する働きを持つようになります。 これを乳化と呼びます。
乳化すると水の中に油が非常に小さな粒子として細かく分散します。 ですので見た目は白く濁っていて口当たりはクリーミーになります。
乳化によってスープは均一になります。 ドレッシングのような置いておけば2つに分離するようなものではありません。
当然燃料に水は混入してはいけません。 水を取り除いて油だけを手に入れる必要があります。
その他にも具材や麺が残っていたら分離しないといけませんね。 こうした混ざり物からどのようにしてラードを分離するか見ていきましょう。
まずラーメンスープはそれぞれのラーメン店から回収します。 お店にトンコツカット君という名前の分離装置をシンクの下に置いて自動的にスープとラードを分離してくれるらしいです。
細かい構造というのは公開されていませんでした。 ただ分離装でラードと水を分けてラードのみ1度間に回収するというようなレベルで話が乗っていました。
化学プラントでも分離装置というのは使われています。 どんな仕組みになっているかを想像してみました。
想像ですので確定情報じゃないというところはご理解ください。 まず分離装置にスープを流し込んだとき網で麺や野菜などを取り除きます。
網でろ過するということですね。 その後はフィルターを通していると思います。
油と馴染みやすい繊維で作られたフィルターを使って小さな油粒子をキャッチします。 キャッチされた油が増えてくると小さな油の粒同士がくっついて大きくなってそのまま繊維から剥がれていきます。
あとは油は水に浮きますので上に溜まっていくという形です。 そこから静かに置いておけば水と油の2層に分離していきます。
後ろから新しいスープがどんどん入れられると流れが乱されてしまいますので 仕切りの板を入れてゆっくり液が流れるようにして耐える時間を伸ばしていると思います。
雑菌が繁殖しないようにというのとスムースに流れて分離するようにという意味合いで 50度くらいには温めているかもしれませんね。
あとは浮いた油を取り出すか下に溜まった水を抜き出せば分離完了です。 とんこつカットくんの外側の写真だけは見れました。
下に油を受けるビット缶が置いてあります。 分離装置にスープをどんどん継ぎ足していくとどこかで溢れてきますよね。
油が溢れた先にビット缶が置いてあってそこに油が入るようになっています。 同じように下に溜まってくる水はそこにあるバルブを開けると抜き出せるようになっています。
ここまでのプロセスをまとめると最初に固形分をろ過して油と水に分離して ゆっくり2層に分けていく。こんな形で分離しているんだと思います。
ここから分離したラードを燃料に変えていきます。 燃料の製造は一般的なバイオディーゼル燃料の作り方を参考にしていると思われます。
分離したラードは科学的には油脂と呼ばれる種類の物質です。 油脂というのは高校科学でも出てきているんですけど覚えてますか?
脂肪酸とグリセリンで構成されているということを習います。 分子の化学構造を見ると足が3本のクラゲみたいな形をしています。
この油脂に水酸化カリウムとメタノールを入れて反応させます。 油脂の3本足と胴体
合計4つの分子に分解されます。 足の方が燃料になる脂肪酸メチルエステルと呼ばれる化合物です。
胴体の方がグリセリンです。 あとは不要な水分やグリセリンを取り除くことでディーゼル燃料になります。
改めて整理すると油脂に水酸化カリウムやメタノールを入れて反応させます。 すると燃料になる脂肪酸メチルエステルと分解物であるグリセリンが得られます。
水分や不純物を取り除いて燃料の規格に合うように調整して燃料として使えるようになります。
とんこつラーメンスープでできた燃料は現在どれくらい使われているのかを調べてみました。 調べてみたんですけどこれ食用油も一緒に使ったりしていて
実際にとんこつラーメンスープがどれくらいなのかというのがわからなかったですね。 2022年の記事だと1日に1300リットルのバイオディーゼル燃料を製造していて
約170台保有しているトラックの4割、 つまりは70台ぐらいのトラックに対して燃料を使っているとありました。
今はもう少し増えているかもしれませんね。 世にも珍しいとんこつラーメンから生まれた燃料の話、今後も注目してみてください。
バイオディーゼル燃料の話はここで終わりです。 ちょっとだけ雑談です。
このとんこつラーメンの話をしたきっかけというのは、もう私がとんこつラーメン大好きだからなんですよね。
福岡とか九州に行った時に食べる、そんなレベルではなくて、 大阪でも名古屋でも東京でもどこに行ってもだいたいとんこつラーメン探して食べています。
とんこつのこってりな感じで、なおかつ細麺、それが私の大好きなラーメンです。 主要都市だけではなくてできればいろんなところのとんこつラーメンを食べてみたいと思っています。
よろしければ皆さんのおすすめのお店を教えてください。 私のメモには行きたいところと食べたいもののリストを都道府県別に作っています。
ぜひともそこにいいお店入れさせてください。 よろしくお願いします。
今回はここまでです。 ブラントライフでは化学や工場に関するトピックを扱っています。
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