ハーバー・ボッシュ法の概要
どうも、かねまるです。
プラントライフは、化学プラントの技術者が、化学や工場に関するトピックをわかりやすく紹介する番組です。
今回は、「ものづくり系ポッドキャストの日」という企画に参加しています。
だいたい2ヶ月に1編ぐらい、ものづくり系ポッドキャスト番組が共通テーマに沿って話す企画です。
今回のテーマは、逆転、回転軸の正転逆転、発想の転換、
正軌の大逆転、逆だったかもしれねえ、など逆転をテーマのものづくりの話を語りましょう、という企画です。
化学にまつわる人類の大逆転劇を今回は紹介してみます。
アンモニア合成が可能となるハーバー・ボッシュ法という反応です。
そもそも、ハーバー・ボッシュ法とは、窒素と水素、これらのガスからアンモニアを合成する手法です。
元となる反応は、1909年、フリッツ・ハーバーが初めて反応に成功しました。
これは、人類最大の発明と呼ばれています。
まず、時代背景をお伝えしますと、1900年頃というのは、産業革命に伴って人口が増加しています。
人口増加に合わせて、食料危機が寸前に迫っていました。
それなら、食物を作ればいいんじゃないか、と思われるかもしれないんですけれども、
植物は窒素原を肥料から吸収して、タンパク質ですとかDNAを作り出します。
収穫したら、土壌の中の栄養が減ってしまいますので、肥料で窒素原を供給しなければなりません。
この栄養が減った状態は、よく土地が痩せ細っていると言われたりしますね。
じゃあ、肥料を上げたらいいのか。 当時はそんなに簡単な話ではありませんでした。
1900年頃の窒素原というのは、塵小石と呼ばれる小酸ナトリウムがメインでした。
また、小枝芽ですとか家畜の堆肥、そういったものが肥料に使われていました。
つまり有限なものなんですよね。 だんだんと窒素原が足りない、そんな状態になっていました。
そんな中、肥料の原料に使えるアンモニアを合成できるようにしたのがハーバーボシュ法という反応です。
出来上がったアンモニアは酸素と反応して、小酸アンモニウムという肥料原に変わります。
余談ですが、この反応はオストワルト法と呼びます。 ここからハーバーボシュ法の詳しい話をしていきます。
技術的課題と反応条件
まず、この反応の何がすごいのか。 大きく難しい点が2つあります。
1つ目は窒素ガスを原料にしているというところです。
窒素というのは空気中に約78%含まれているガスです。 非常に化学的に安定で不活性ガスとも言われます。
つまり反応しづらいということで合成には向いていません。
普段の有機合成で使うとしたら窒素は空気中の酸素や水分を取り除くように使います。
フラスコの中を窒素でいっぱいにして空気を置換してあげます。 それぐらい安定な機体です。
この非常に安定な窒素を原料としてアンモニアを合成するには非常にエネルギーが必要になります。
2つ目はアンモニアを合成する反応が火逆反応で、なおかつ発熱反応というところです。
まず火逆反応というのは窒素と水素が反応してアンモニアが出来上がった後に、また水素や窒素に戻ってしまう反応。
こういう反応が火逆反応と呼ばれます。 そしてアンモニアが出来る時は発熱反応が起きます。
つまり反応に伴って熱が放出されます。 火逆反応と発熱反応を考えると
ルシャトリエの原理というものが関わってきます。 今回の現象に沿って言いますと、発熱反応の場合だと温度を下げないとアンモニアがあまり
出来ないということを表します。 ただし温度が低いと反応速度というのは落ちてきます。
アンモニアをたくさん作ろうと思っても温度を下げないといけなくて、そうするとアンモニアのできる速度が落ちてしまう。
そんながんじがらめの状態になります。 じゃあ温度を上げたらどうなるか。
そうするとほとんどアンモニアができません。 こうした状態に対して最終的にハーバーは
反応500度程度、それぐらいの高温で行っています。 そして鉄系の触媒を使って反応速度を上げています。
触媒というのは 反応自体には直接関わってこないものなんですけれども
反応の速度を上げるような役割があります。 さらに鉄系の材料だけじゃなくてアルミナや酸化カリウムを組み合わせて性能を向上させています。
これは二重促進触媒と呼ばれます。 反応にあたっては合わせて高圧で行います。
これもルシャトリエの原理が関わってきます。 圧力が高いと分子が少ない方に反応が進んでいきます。
反応前は窒素が1分子、水素が3分子、合計4分子です。
反応後はアンモニアが2分子です。 反応前の4分子から反応後の2分子になった方が都合が良いので
圧力が高い場合は反応が進んでアンモニアができるようになります。 どれくらいの圧力をかけるんでしょうか?
だいたい200気圧程度です。 イメージつきますか?
水深で考えてみます。 だいたい水深が10メートル深くなると1気圧増えると考えてください。
今回の200気圧だと水深2000メートルくらいです。 それぐらいの圧力をかけて反応させています。
ちなみに高圧ガス保安法という高い圧力のガスを使うときに規制されるレベルが10気圧、これが境目です。
これに対して今回は200気圧ですのでかなり高い圧力で反応させていることがわかります。
この200気圧500度程度の厳しい条件でアンモニアを作ることがハーバーはできました。
これで世の中が救われた。 そんな簡単な話ではありません。
まだ量産ができてないんです。 ここからハーバー没収法の没収産が関わってきます。
使う材料が水素ガスと窒素ガス。 出来上がるのがアンモニアです。
窒素は不活性ですけれども水素は爆発性が非常に高いです。
また出来上がったアンモニアというのは毒性があります。 装置設計が非常に難しい条件です。
特に問題だったのが高い圧力条件と水素を扱うということです。 このアンモニア合成の工業化に取り組んだのがドイツの科学企業BASFです。
まず高い圧力に耐えるための反応容器が必要です。 当時のBASF社で扱うのは高くても30気圧程度です。
工業化と環境への影響
そこから200気圧程度の高い圧力が求められるようになりました。 もう一つの問題は水素税化というものです。
水素が存在することによって金属が脆くなってしまうという状態です。 水素というのは分子の中でも最もサイズが小さいです。
特に高圧になりますと金属の隙間に入り込みやすくなります。 そして水素が金属と反応します。
そもそも鉄というのは炭素を含んで強度が上がっています。 この強度を上げている炭素と水素が反応してメタンガスになります。
そうすると鉄の中の水素が減っていって弱く脆くなってきます。 高い圧力に耐えるための容器と
脆くならないための材料が求められました。 そんな中、ボッシュが取った対策は
容器を二重にするということです。 内側の容器は水素に触れますので炭素が少ない鉄にしています。
そして外側は炭素を含む鉄にして強度を上げています。 こうして最悪、内側は脆くなってしまってもしょうがない。
そんな設計になっています。 1913年、世界初のアンモニア製造プラントがこれで稼働できるようになりました。
当時、1日30トンのアンモニアが作られたそうです。 高い圧力で製造する技術、高圧化学の分野がこれで始まりました。
合成砲を開発したハーバーさんは1918年にノーベル科学賞を受賞しました。 そして工業化を進めたボッシュさんは1931年にノーベル科学賞を受賞しました。
このハーバーボッシュ砲のおかげで人類が救われました。 しかし、今でも課題が残っています。
原料の水素は石炭や石油、天然ガスなどの化石由来の資源が使われています。
現在はこれを自然エネルギー由来の電気を使って水の電気分解という形で作ろうと進められています。
そしてハーバーボッシュ砲は先ほど500度程度とお伝えしました通り反応温度が高いです。
ハーバーボッシュ砲に由来するCO2排出量というのは全世界のだいたい2%程度を占めています。
アンモニア合成の新たな可能性
これから人口が増えていくにあたって一層アンモニア合成でCO2が排出される見込みです。
そして最後に反応が高圧で行われるということです。
製造現場で高い温度というのはもちろん危険なんですけれども、圧力というのは目に見えないからこそ非常に危険で事故も多いです。
できる限り私たちが普段使う圧力、待機圧である常圧で反応させるのが理想的です。
現在のアンモニア合成を見ていきます。 今でもハーバーボッシュ砲が主流です。
ただ、触媒は鉄からルテニウム触媒に変わったりするものもあったり、改良が進んでいます。
ただし温度や圧力は大きく変わっていません。 そんな中でも大学や企業で新たな触媒や反応方法が考案されています。
今回は3つの例を紹介します。 1つ目が東京大学の事例です。
モリブデン系触媒と硫化サマリウムを用いて、常温、常圧でアンモニア合成をした例があります。
しかも、原料は水素ガスではなくて水なんです。
製造の目線では温度が低いですし、圧力が低いというのは魅力的ですね。
また、安全に気を使う水素というのが使われないので非常に安心できます。
ただ、この反応も全てが良いわけではなくて、触媒としてサマリウム、これはレアアースです。
またモリブデンもレアメタルになります。 触媒の調達リスクというのが伴います。
最近は国の間で規制をかけたりして輸入ができなくなる、関税がかかってくる、そんなリスクが増えてますね。
技術的に確立してももしかしたら作れない、そんな可能性があります。
触媒を長く使えるようにしたり、回収して再利用できるような技術開発も併せて必要です。
そして、金属が高価なものなので価格が市場に合うかが焦点になってきます。
次は東京工業大学の例です。 鉄系触媒に水素カバリウムを用いることで100度でアンモニア合成ができました。
100度と言いますとエネルギー面で非常に優秀ですね。 排熱を使いやすいという特徴があります。
100度程度だとヒートポンプという装置が使えるようになります。 また圧力は吸気圧。
10から1二十分の1程度になっています。 少し気になるのは水素カバリウムを使っていることです。
水素カバリウム単体は危険物の第三類、 菌水性物質に該当します。
これは水と接触すると可燃性ガス、 今回だと水素ガスを発生する危険物です。
この触媒は鉄と合わせていますので、実際にどれくらい危険性があるかというところはわからないんですけれども、
水素カバリウムを使うということで少し取り扱いが難しくなるのかなと個人的には思いました。
それでもエネルギーや圧力の面で魅力がありますね。
最後にツバメBHBという企業の内容を取り上げます。 アンモニアだけを投下するゼオライト膜が用いられています。
ここで重要になるのは、またルシャトリエの原理です。 この場合のルシャトリエの原理は、生成物であるアンモニアの量が少ないほど、
アンモニアができる反応が起きやすいというものです。 反応でできたアンモニアをゼオライト膜に通して取り除きます。
そうすると、温度が上がったりしても水素や窒素に戻らなくなります。
アンモニアを取り出していますからね。 そうすることでアンモニアができる反応が進みます。
また、ツバメBHBが進めているのは、 アンモニアの小規模合成プラントです。
だいたい年間数万トン以下の小規模なプラントにすることで、 アンモニアが必要な場所で作りやすくなります。
そして圧力は数十気圧と、これも小さくなっています。 これまで紹介しました通り、着実にハーバーボシュ法から進化が進んでいます。
プラント技術とリスナーへの提案
今後もぜひとも情報を追ってみてください。 今回はここまでです。
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