実験ノートの重要性
どうも、かねまるです。
プラントライフは、科学プラントの技術者が、科学や工場に関するトピックを分かりやすく紹介する番組です。
今回は、「化学系ポッドキャストの日」という企画に参加しました。
毎月、化学系ポッドキャスト番組が共通テーマで語る企画です。
毎回、ホスト番組が決まっておりまして、今回のホスト番組は、英語でサイエンスしないとさんです。
そんな今回のテーマは、ノート。
科学といえば、実験ノートですね。
今回は、電子実験ノートについて話してみようと思います。
そもそも、実験ノートとは何でしょうか。
研究者の方が、自らの実験を記録するものです。
記録といっても単なるメモではありません。
どんなことを、なぜ、どのようにやったのか、ということを証拠として残すための非常に重要なものです。
場合によっては、知的財産権を保護する際の証拠資料にもなり得ます。
そんな実験ノートには、何を書くのか。
それは、まず日付です。
この日に何をしたのか、ということを書かなければなりません。
例えば、実験の目的や、どんな材料を使って、どんな装置で測定したのか。
あとは手順ですね。
そして、実験中に変更があったり、気づいたことも記録します。
実験の結果は、残しておくのはもちろんのことで、あとは考察や次回へのメモも残しておきます。
実験が終わればサインを記載します。
場合によっては、上司ですとか、第三者の方のサインも残します。
実験ノートは非常に重要な記録、証拠として残すものですので、記入にあたっての注意点もあります。
それは時系列に順番に記入する、ですとか、空白のページや時間の逆行がないようにする。
消せるペンで書かない、などがあります。
そして意外と忘れがちなのが、第三者が読めて理解できるように書くということです。
字が汚くて読めないなんていうところも注意が必要です。
実験ノート自体にも特徴がありまして、これは上質な紙を使っていたり、
防水のカバーがされていたりするものもあります。
そしてノートの縁には改ざん防止のパターンが印刷されています。
ページには連板が振られていて、中抜き、ちぎって抜いたりするようなことができないようになっています。
非常に重要な実験ノート、機能性が高いんですけれども、いくつか問題点があります。
それはノートを保管しなければならないということです。
紙ですので劣化します。
また書いたものが滲んだりすることもあります。
例えば溶剤を使っていると、それをこぼしてしまうと一瞬で書いたものが消えてしまいます。
またノートを探すのがひと苦労というところもありますね。
この人の実験結果を見たいとなった時に、大量のノート、大量のページから指定のものを探さないといけません。
そして最も重要なのが、ノートに書き足せないことはないということですね。
当然ノートに連板が振られていたり、中抜きできないようにはなっているんですけれども、書いているところにちょっと追記するということはできます。
電子実験ノートの利点
このような背景から電子実験ノートというものが注目を集めています。
電子実験ノートは実験データを電子プラットフォームに記録するものです。
単純にデジタル化するものではないというところは注意が必要です。
ですのでエクセルやワードに残してデジタル化したというところとは違います。
電子実験ノートは従来の紙の実験ノートに機能が追加されたものと考えて良いと思います。
例えば画像や図表が挿入できるですとか、ものによっては科学構造式の描画ツールで代表的なケムドローが組み込まれているものもあります。
科学式を入れると等量計算もできる場合もありますね。
そして外部システムと連携することもものによってはできます。
ですので分析機器ですとか他のデータベースとの連携も可能です。
計量後にそのまま記録として残せる場合もあります。
また実験ノートの信頼性向上という役割もあります。
電子署名や承認の機能があったり、アクセス制限が設けられていたり、
編集履歴のような小石が残せるものもあります。
このように研究結果を証明する機能が充実しています。
地震をはじめとして災害が多い日本ですけれども、
データをバックアップすることで災害時の消失リスクを下げられます。
実験ノートが消えてしまうのは、ゲームのセーブデータが消えてしまうような感覚に似ていると思っています。
頑張って成し遂げたことを一瞬で消えてしまって、
何をやればいいのか分かっているけど、
その失った喪失感と、これからまた一から始めないといけないという疲労感、これを感じてしまいますね。
そして電子実験ノートの特徴として記録の活用ができるというところがあります。
基本的には自社に設けたサーバーですとか、クラウド上に一元管理できるようになっています。
人のノートが検索できるというところが特徴です。
また、ものによっては構造式で検索できるものもあったり、基本的なキーワード検索もできます。
このあたりは確実に今後、生成AIが組み込まれていくはずです。
そんな電子実験ノートの価格ですが、基本的には非公開です。
未来の実験方法
ですけれども、当然紙よりは高くなります。
自社でサーバーを置く方が安くなりますけれども、アップデートができないデメリットがあったり、
クラウドはクラウドで、アップデートが多い反面、継続して費用がかかってしまいます。
ここからは、今後の電子実験ノートの役割について話していきます。
従来の実験ノートとしての役割はもちろんなんですけれども、
実験データベースとして特に活用されていくんじゃないかなと思っています。
機械学習、AIが普及していって、適応的実験計画法という実験の組み立て方が普及してきました。
過去の実験データから目的の物性などを実現できる配合ですとか、条件というものを機械学習モデルから予測します。
新たな結果が出てくると、それをまた機械学習モデルに組み込んで、修正して次の実験結果を精度高く予想できるようになります。
これを繰り返して最短距離で実験ができるようになります。
そして、実験データベースとして活用するということは、さらに広げていくとロボットと組み合わせるということが考えられます。
AIを使って実験内容を決定したとしても、実験作業自体に時間がかかります。
その作業自体をロボットに任せるということです。
近い将来には、電子実験ノートに集められたデータから適応的実験計画法で実験内容を計画する。
それをロボットで実験する。
そこからロボットが成果物を評価する。
そして自動的に電子実験ノートに記録する。
というサイクルが繰り返される未来が待っています。
無人で実験が続けられるという特徴もありますし、
機能が人によってばらつかないので、物や場所さえあればどんどん実験ができる環境が作れます。
そして個別に撮影し続けるなどできますので、常に実験作業の記録というものが残せます。
電子実験ノート単体ですと単純なデジタル化に近いような見られ方をするかもしれませんけれども、
最終的にロボット、フィジカルの部分ですね。
そこが組み合わさっていくと大きな革新につながっていきます。
これからの実験の在り方が変わっていくと思いますので、
ぜひとも電子実験ノートがただ紙からデジタル化することだけじゃないというところは理解しておいてほしいなと思います。
ここからクロージングです。
私は普段ロボットを扱う時もあるんですけれども、製造業で主に使われるのは垂直多関節型ロボットというものですね。
ロボットアームというとイメージしやすいかもしれません。
人間の肩から指先までを持ちたものになってまして、
見た目としては卓上のスタンドライトみたいな見た目になっています。
近年では共同ロボットというものが普及しておりまして、
簡単に言うと法令上は安全柵が不要なロボットになっています。
基本的に産業用ロボットというのは安全のために柵で囲わないといけません。
当然非常に広いスペースを取ってしまうことになりますので、
それもあって共同ロボットというものが注目されています。
そんな共同ロボットはこれまで例えば5キロとかそういう小さなものを運ぶものが多かったんですけれども、
最近は下半重量が20キロを超えるようなラインナップが増えてきています。
特にファナックというメーカーですと50キロの下半重量まで対応しているものがあります。
これ想像してほしいんですけれども、ロボットの横を歩けるのは歩けるんですけど、
50キロのものを持ち運んでいるロボットの横を歩くのって怖くないですか?
法令上は柵は不要なんですけれども、使用者はリスクアセスメントという形で、
使用環境が安全であるか判断して、安全でないと判断した場合はリスクを下げるような対策をしなければなりません。
柵がいらないと言われているものの柵を設けてしまって、
結局今までのロボットと変わらないねとなることもあります。
今回はここまでです。
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