1. 志賀十五の壺【10分言語学】
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2021-09-22 10:08

#363 「教える」とアイヌ語(適用態) from Radiotalk

少納言 「現代日本語書き言葉均衡コーパス」
https://shonagon.ninjal.ac.jp/

関連トーク
339 オーストラリアの言語(逆受動)
https://radiotalk.jp/talk/609967

参考文献
『明解言語学辞典』 (斎藤純男ほか編、三省堂)

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#落ち着きある #ひとり語り #豆知識 #雑学 #教育
00:01
「教える」っていう日本語の動詞は、その教える内容というか、ことっていうのが目的語で出てきますよね。
つまり、をっていうので表されます。数学を教えるとか、秘密を教えるみたいに。
一方、その教える内容だけじゃなくて、人も目的語に現れることができますよね。
中学生を教えるとか、弟子を教えるみたいに。
はい、始まりました。志賀十五の壺。
僕はね、ずっとこの人を教えるっていう風に、動作の受けてというか、教わる人も目的語として出るって思ってたんですけど、
なんかずっとね、そういうことを考えていると、もしかして本当は言えないんじゃないかっていう気にもなってきてですね。
そういう時に役に立つのが、コーパスっていうもので、コーパスっていうのは言語テキストの集合体というか集まりなんですね。
日本語だと、小名言っていうコーパスがあって、正式名称は現代日本語書き言葉均衡コーパスって言うんですけど、
これはね、新聞記事とか小説とかブログとか、そういったものから書き言葉を集めて、
検索すれば、どういった場面で使われているか、文脈で使われているかっていうのがわかるようになるようになってるんですね。
そこで、例えば学生を教えみたいに検索してみると出てきたので、
よかった、日本語でやっぱり人を教えるっていう言い方できるんだなと確認できたんですね。
この小名言のリンクは詳細欄に貼っているので、気になった方はぜひ見ていただけたらと思います。
僕はよくこういうことをします。
こういった日本語って言えるんだっけ、使われるんだっけ、どうなんだっけって気になった時は、
この小名言を使ったりとか、もっと簡易的な場合はツイッターで検索とかしてみるんですね。
というのも、母語っていうのが一番よくわかってないんですよね。
で、こういった話は最近やったような気もするんですけど、
自分が言えると思っていても、実際に使用例を調べてみると全然使われていなかったりとか、
逆に言えないと思い込んでいたものがガンガン使われてるっていうこともあるんですね。
本当に母語って反省ができないので、僕はこのコーパスないしツイッターっていうのを参考にしています。
で、この教えるっていうのは、話に戻りますけどね、教えるっていうのは、その教える内容も、教わる人の方もですね、どちらも目的語に現れるっていう点で、結構面白いと思うんですよね。
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例えば、あげるっていう動詞ではそういうのできなくて、本をあげるはもちろん言えますけど、子供をあげるとはちょっと到底言えないんですね。
それだと子供がプレゼントっていう意味になってしまいます。
そういった点で、教えるっていうのはかなり得意な感じがするんですけど、
ただ、やっぱりデフォルトっていうか、本当のっていうか、ちゃんとした目的語は内容の方だと思いますね。
数学を教えるの方が、劣気とした目的語じゃないかなと思います。
というのが、同時に出てきた時は、数学を学生に教えるっていう風に、人の方が2でマークされるんですよね。
で、学生を教えるとも言えますけど、学生に教えるっていう言い方も頻繁になされるし、もしかしたらそっちの方がね、普通の言い方なのかもしれません。
こういう風に教えるっていう動詞を考えると、学生を教えるっていう言い方は、
学生に教えるっていう、本来目的語じゃなかったものが目的語になっているっていう風に考えることができます。
こういう現象に言語学では名前がちゃんとあるんですね。
適用体という言い方をします。英語だとアプリカティブっていう言い方になるんですね。
日本語の場合は厳密には、この学生を教えるっていう言い方は適用体ではないんですね。
この適用体っていうのは、受動体とちょっと似ていて、受動体っていうのは、本来主語じゃなかったものが主語になるみたいな現象なんですよね。
弟を叱るから弟が叱られるみたいに。
本来主語じゃなかったものが主語になる。これが受動体ですよね。
適用体っていうのは、本来目的語じゃなかったものが目的語になるんですけど、
普通適用体っていうと、動詞に何か形の変化があるものなんですよね。
これも受動体と似ています。叱るから叱られるになるのと同じように、適用体も何か動詞に変化があるものなので、
学生を教えるといった場合は、教えるで動詞の形は何も変わっていないので、厳密に言うと適用体とは言えないんですね。
適用体的っていう感じですかね。英語にもないかなと思います。
英語にも適用体っぽいものはありますけど、例えばwait forっていうのが、待つっていうものですけど、
それとよく似た動詞でawaitっていうのがあって、この動詞は他動詞なので、await人っていうふうに目的語を取ることができるんですよね。
つまりforでマークされてた名詞が目的語になっているっていう意味で、適用体っぽいということができます。
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こういうふうに身近な言語ではあまり適用体っていうのがないんですけど、アイヌ語にはあるんですね。
例えばアイヌ語で家に住んでるっていうのは、ちせたほらりっていう言い方をするんですね。
ちせっていうのが家で、たっていうのが日本語のにに相当するものです。
ほらりっていうのが住むっていう動詞で、これは三人称主語の動詞の形なので、彼彼女が家に住んでいるっていう意味になります。
これは自動詞の文なんですけど、この家っていうのが目的語になった適用体っていうのもあって、どういう文になるかというと、ちせえほらりっていう言い方になるんですね。
ちせっていうのが家で、アイヌ語の目的語っていうのは、日本語のをみたいに何かつくわけじゃなくて、何もつかないことが目的語を表します。
動詞の形は えほらりっていうふうに、ほらりっていう動詞の前に えっていうのが出てくるんですね。
つまり 動詞の形が変わっているということです。
なので 元の文が ちせたほらりから ちせえほらりっていう感じになるんですね。
あるいは 有名なところだと インドネシア語にも こういう適用体というものはあります。
こういうふうに適用体っていうのは、もともと目的語じゃなかったものが目的語になるっていう、そういうシステムなんですよね。
いろんなものが目的語になり得ます。
アイヌ語だったら 場所が目的語になってたわけですよね。
他にも 道具とか あるいは目的地とか
英語でイメージすると 全知識で表されそうなものが目的語になります。
で 繰り返しになりますけど こういう適用体は 受動体と同じように 動詞に何らかの形の変化があるものなんですね。
だから 日本語には適用体っていう現象はありません。
冒頭言ったように それっぽいのはあるんですけどね。
学生に教えるから学生を教えるとか あるいは犯人を鉄砲で撃つから鉄砲を撃つっていうふうに
道具がこういうふうに目的語になっているものはあるんですけど
いかんせんね 動詞の形が変わってないので
これがもし動詞の形も変わっていれば 日本語にも適用体という現象があるということになります。
こういうふうに いろんな名詞を主語にしたり目的語にしたりする現象を 広くボイスっていう言い方をするんですね。
あるいは日本語だと対という言い方をします。
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このボイスっていう現象の中には受動体とか 今日やった適用体とか
あるいは過去のトークでお話ししたことのある逆受動体とかね 子役っていうのもここに含まれることもあります。
例えば子供が行くから子供を行かせるっていうふうに もともと主語だったものが目的語になっているので
そういった意味ではボイスの定義に当てはまるんですね。
こういうふうに我々の馴染みのないような現象も いろんな言語で観察されます。
つまり目的語じゃないものを目的語にするっていうね ちょっとイメージしづらいものですけど面白いですよね。
というわけで今回のトークは適用体というものについてお話ししてみました。
もしご質問等あればお便りいただけたらと思います。
最後まで聞いてくださってありがとうございました。 また次回のトークでお会いいたしましょう。
お相手はシガ15でした。
10:08

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