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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、enough の複数形は enow?、
というものです。
enough、これは形容詞、副詞、そして名詞的にも、代名詞的にも使うわけなんですけれども、
普通、これの複数形は、なんていうことを考えたことがないと思うんですね。 enough は enough、これは不動、変わらない形ではないかと思うかもしれないんですが、
実はですね、歴史的には、enough に複数形がありまして、これがですね、enow?、これで、enow?というふうに発音される、こんな単語がありましたし、
今でも古風だったり、Cなんかでは見かける綴り字なんですが、普通は使われませんね。
ですがこれ、歴史的には、enough の複数形という位置づけなんです。
さあ、この単語の語源を遡ってみましょう。
これは、もともと語幹はですね、陰陽祖語に遡ります。非常に古い単語です。
そしてゲルマン諸語にはですね、似たような単語が見受けられますね。
語彙語の時の形は、enough という形だったんですね。
それが、例えばドイツ語なんか今でもですね、かなり近い形で残っていまして、genuke という発音になっていますので、非常に近い関係にあるということがわかりますね。
同じ語源に遡るわけです。
さあ、この語彙語のenough というものなんですが、語末の子音がgで終わっていますが、
これがですね、無声音化するとenough に近い発音になります。
enough という形ですね。
実際にこれはですね、g-e-n-o-h と書いて、enough と読ませるんですが、これがまあ語彙語でよく使われた形なんですね。
で、このho って音です。ドイツ語にあるauch とかのho ってことですね。
これが語彙語にもあった発音で、そしてenough とあったわけです。
このho の音が中英語記以降にですね、聴覚的な印象が近いということで、実際に日本語の波行音のように聞こえますよね。
日本語の波行音といえばだいたい h なんですが、f に近い発音も聞かれたりしますね。
なのでこの全体的に波行音に聞こえるような音という繋がりでもって、もともとenough だったのに、enough みたいに f の音で発音されるようになったということです。
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口の中でのこのho とですね、これ喉の奥の方を使う発音、それに対してf っていうのは唇と歯を使うというところでですね、
口の前の方で発音するわけで、だいぶ距離はあるんですけれども、聞いた印象が遠くないということで、音の変化といいますかね、発音の変化が起こることがあります。
結果として現在ですね、enough というふうに f で発音するわけなんですが、大元はですね、喉の奥で発音する、yenoho のような発音だったということになります。
これがいわば単数形といいますか、今標準的にenough と発音されているあの語の由来ということになりますね。
では今日の話題であるその複数形といわれるこの enough これはどういうふうに生まれたかといいますと、
小英語の時代はですね、形容詞、主に enough というのを形容詞的に用いられることが多いわけですが、形容詞というのはちゃんと単数複数の区別があるんですね。
すべての形容詞、それだけじゃなく性とか格とか、そういったカテゴリーによっていろいろと屈折、語尾がついたんですね。
で典型的には複数形の場合ではですね、後ろにe みたいな語尾がつくんです。
そうすると、yenoho という形で複数では現れることが多かった、yenoho ってことですね。
この yenohe という部分が後に中英語記の時代に、ge っていう子音声を少し弱めてですね、
yenohe、w で書いたほうがふさわしいような、そんな発音になってくるんです。
そして実際にスペリング上もですね、w で綴られるようになって、e-n-o-w ってことですね。
yenohe、これが yenohe になり、最終的に大母音推移という変化を遂げてですね、yenao のように今なってくるっていうことですね。
つまり本来的には enough というのは、単数形のデフォルトの形からそのまま来た、
現代まで持ってきたっていう、それが enough ですね。
それに対して複数形、後末に e が書くことが多かった、この複数形の enough ですね。
これが、enough という形に音を少し変えてですね、enough という形で続いてきたっていうことです。
さあ、近代以降になるとですね、完全にこの形容詞の単数とか複数、区別されるんだという発想はなくなりますので、
どちらか一方、集約されていくってことになりますね。
その際にデフォルトの単数形の enough の方が一般化して現在に至ると。
現代はですね、単数も複数もない、そんな区別はそもそもないということになっているんですが、
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中英語記ぐらいまではですね、まだこの enough、enough っていうのがそれぞれ単数、複数として使い分けられるというのが普通だったんですね。
ただですね、もう中英語記ぐらいから混同と言いますか、単数も複数もない、後の時代のそんな区別をつけないというような雰囲気はですね、少しずつ現れていまして、
enough と enough がそれぞれ単数、複数に由来するんですけれども、混同が起こってですね、明確に区別がつけられないような例も出てきています。
そして近代英語記になるとですね、これがほぼ守られなくなってですね、どちらか一辺とに、実際には enough の方に一辺とになっていったということです。
17世紀ぐらいまでにはもう区別はなされずに、enough、これ一本という雰囲気が出来上がっていたようです。
ただ一般には出来上がっていたんですけれども、書き物、書き言葉で、しかも古風なものではですね、この enough と enough の綴り分けで、おそらく発音もですが、分けられていた節もあります。
例えば17世紀のイングランドの詩人であるミルトンですね、ミルトンはこの歴史的な区別、enough と enough っていうのを明確に区別していました。
これは意図的に、意識的に区別していたという感が濃厚ですね。
それから18世紀半ば、1755年に出版されたサミュエル・ジョンソン、ジョンソン博士ですね、の辞書においては、一応ですね、この enough の方が別の見出しですね。
つまり enough とは別にちゃんと立てられていて、これは enough の複数形ですよというふうに、歴史的な語形であるとか使い方っていうのが一応のところ説明あるんですね。
ただ本当に1755年の時点で一般の英語話者がですね、これを使い分けていったかというと、それはおそらくないですね。
辞書という形式において、広くとして残しておくぐらいの、もうすでに古風で詩の言葉には出るかもしれませんが、そのような扱いとして辞書に載っていったんだろうなと、そういうことが考えられるわけですね。
現代では古風であるとか、詩の言語なんかに出る程度なので、あまり見る機会はないかもしれませんが、あった場合にはですね、一応 enough という発音なんだということを覚えておいてもらって、これが起源的には enough の複数形なんだと、この語源を味わっていただけるわと思いますね。
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最後に綴り字に関して、enough というのは e-n-o-u-g-h ですよね。
それから enough というのは e-n-o-w っていうことで、語尾の部分の綴り字が o-u-g-h か o-w かという関係になっていますね。
これに似たようなものは、一つ挙げるとですね、実は plow という単語がありますね。
これはスキの作業の道具としてのスキですね。
これ plow と書いて plow と読ませるこのスキは実はイギリス英語での綴り。
それに対して発音は全く同じながらも plow と綴ると、これはアメリカ英語でスキなんですね。
発音上は一緒なんですが、この o-u-g-h か o-w かということで、a、b の綴り字が違うということです。
これも一応ですね、この enough と e-n-o-w っていう関係と、スペリング上のパラレルということですね。