2025-11-13 14:35

#75 古事記7(故二柱の神)

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#75 古事記7(故二柱の神)


【今回のキーワード】

イザナキ、イザナミ、天沼矛(あめのぬぼこ)、天浮橋(あめのうきはし)、こをろこをろ、curdle-curdle(チェンバレン)、churning-churning(フィリッパイ)、sloshed-swished(ヘルト)、沼島(ぬしま)、オノゴロ島


【原文の出典】

《角川書店 ビギナーズ・クラシックス日本の古典》

https://kadobun.jp/special/beginners/nihon.html


【参考文献】

高橋憲子「『古事記』の中のオノマトペーー「塩こをろこをろ」の解釈と英訳」

サマリー

古事記のエピソードでは、二柱の神が雨の浮き橋に立ち、ぬぼこを差し下ろして国の基盤であるオノゴロ島を形成する過程が描かれています。神話の中で、これらの出来事が国の成立にどのように寄与するのかが探求され、一連の儀式や神聖な場の重要性についても論じられています。

二柱の神の登場
吉村ジョナサンの高校古典講義。このポッドキャストは、高校で勉強するような日本の古典文学を読んでいく文化系ポッドキャストです。
今回もまた古事記を読んでまいります。
前回はイザナキとイザナミという二人の神様が現れて、その二人がアメノヌボコというアイテムによって、この国を作りなさいと命じられたというところでした。
今回はその続きで、一体どのように国が生まれていくのか、その最初の場面に立ち会いたいと思います。
まずは原文を読みましょう。
彼二柱の神、雨の浮き橋に立たして、そのヌボコを差し下ろして書きたまい。
詩をコウロコウロに書きなして、引き上げたまいし時に、その矛の先よりひたたり落つる潮のつもりでなれる島は、これ、尾のごろ島なり。
まずは彼二柱の神、そこで二柱、二人の神様が雨の浮き橋、これもまた特別な場所ですね。
雨の浮き橋、天の浮いている橋という意味ですね。
字を書きます。
この前のところにあったように、この世界というのはまだどろどろしていて、なんか不確かなものなんですね。
そういう状態から状況が変わっていくという時に、まずはその場所に寄って立たなければいけない。
そこにある場所というのが雨の浮き橋という場所なんですね。
浮いている橋があるというんです。
どこかに立たなければいけないわけですからね。
これもまたちょっと面白いところですよね。
例えばいきなりここで天を作るとか、何かを作り出すとかでもいいのに、ちゃんとまず立ち位置を決めるというか、そこに場があるっていうのは不思議な感じがしますよね。
例えばお祭りや儀式の中でも、ある特定の場所を必要とすることってあると思うんです。
その儀式を行うのはどこでも良いわけではなくて、特定の場所とか場を作り出す、そうしたところから儀式が始まったりしますよね。
ここでは雨の浮き橋という場が大きな役割を果たすわけです。
ちなみにこの場所についてはこれ以降は出てこないんですね。
そしてその雨の浮き橋に立ってそのぬぼこを差し下ろしてと、先ほど申し上げた雨のぬぼこという穂子ですね。
そのアイテムを差し下ろして、その下に下ろして書きたまい。書くっていうのがおそらくここでは書き回すという意味なんでしょうかね。
塩コウロコウロにかきなして、塩コウロコウロにかき混ぜたっていうんですけれど、
オノゴロ島の形成
塩というのが海の塩のようなものですかね。海水という風にとってもいいかもしれませんが、
ここが今場としては海なのかっていうとちょっと怪しいところなので、
そういう海のような場所、そのどろどろした流動的な場所にぬぼこを差し下ろしてコウロコウロに書きました。
このコウロコウロっていう言葉はちょっと印象的ですよね。
コウロコウロ、これはある種のオノマトペ、擬態語、もしくは擬音語として扱うこともできるでしょう。
じゃあこのコウロコウロっていうのはどういうオノマトペ、どういう状況とか、どういう音をさしているのか。
これには諸説あるんですが、ここでは英訳をどのように行ったかっていうところを一つの手がかりとしたいと思います。
この古事記の英語訳、英訳をした人には何人かいるんです。
その中で全訳をしたとなると、4人くらいしかどうやらいないようなんですね。
まずその初期の代表的な人物がチェンバレンっていう人がいます。
バジルホール・チェンバレンというイギリスの方ですね。
この人はわりと有名な方ですね。
この英訳といったらチェンバレンの訳っていうのは有名なんですが、
この人はコウロコウロというところをカーダルカーダルと訳しています。
カーダルカーダル、ここでわかる通りオノマトペなんですね。
書き回す様子、特に何でしょうね。
ちょっと気味の悪さというか、ちょっと気持ち悪さも含むような感じで、
なんかこう、恐れとか神聖さも表すんでしょうね。
そういうところも含めているようにも受け取れましたかね。
またその後のフィリッパイっていう人もいらっしゃいます。
アメリカの方ですね。
この方が訳したところはチャーニングチャーニングって訳してるんですね。
これはかき混ぜてる感じがそのまんま出てるものですね。
またわりと最近の善訳の中でヘルトという方が訳してまして、
この方はスロッシュとスイッシュとって訳してる。
これも結局かき混ぜるっていうところで、水しぶき、水のようなもの、とろみのあるものってよりは、
もうちょっと水っぽいものをかき混ぜてる感じになるんでしょうかね。
ちょっとその英語の詳しいニュアンスについては、私もそこまで及ばないところもあるんですが、
ただここで共通しているのはオノマトペ。
ギオン語もしくはギタイ語としてこのコウロコウロを受け取っているということですね。
これ全く関係ないかもしれませんけど、
ユウキヤコンコって歌ありますよね。
ユウキヤコンコ、アラレヤコンコ、コンコって言葉があって、
これ別の動揺だと、ユウキヤコロ、アラレヤコロっていう動揺もありますよね。
こちらはコウロなんですよ。
こうした動揺の中にはある種の語感というか、日本語の古いものが残っていたりもしますから、
とは言ってもね、奈良時代あたりの日本語の語感とはだいぶ違うというか、
たまたま一緒だということは十分可能性として高いんですけれども、
ただなんとなくコウロっていう語感は分からなくもないかな。
ただユウキヤコンコ、アラレヤコンコのコンコとは一体何なのかっていうのは、
これもまた難しい議論でして、
こうしたオノマトペっていうのは単純には語れないところではあるんですけれども、
どうなんでしょうね。
このコンコはコウロっていうのとコウロコウロっていう関係はあるんでしょうかね。
塩をコウロコウロにかきなして引き上げたまえしときに、
そのどろどろしたものをかき混ぜて引き上げたときに、
そのホコの先より下たり落ちる塩の積もりでなれる島は、
そのホコから下たり落ちた部分が積もってできたのが、
これオノゴロ島なり、オノゴロ島という、
言ってみればこの国の最初の大地であるというんですよ。
このオノゴロ島、実はこのあとは出てこないんですね、またね。
神話の中ではもう出てこないんですが、
オノゴロってなんかね、これをまた互換とした不思議な感じがしますよね。
現代ではオノゴロっていう響きからあまり伝送しにくいというか、
和語としてはね、日本の伝統的な言葉感としては、
なんかこうちょっと変な感じがするというか、
あんまり聞きなれない響きな気はするんですね、個人的には。
これが実際今の場所でどこかっていうと、
例えばヌ島という兵庫の島がありますね。
淡路島のちょっと下あたりの島です。
そこがオノゴロ島か、みたいな言い方ありますが、
もちろんこんなものはですね、2000年も経っているわけでして、
いろんな言い方があるし、
日本各地にはこの神話の舞台となった場所の候補地っていうのがいっぱいありますからね。
それは2000年かけていろんな伝説を語り継がれたりとか、
ある種の捏造というか、物語からここの場所じゃないかと言われるようになっていくわけなんですね。
ですからここがオノゴロ島だっていうとちょっとあるかもしれませんが、
ただある種の観光地としてね、伝説が残る島ということで受け取る分にはいいんじゃないでしょうかね。
ただオノゴロ島とは一体じゃあ何なのかと言われると、
神話上は古事記上はちょっとよくわからないところがあります。
いずれにせよこの島というのは、
もともとの世界っていうものにぬぼこをさして、
それを引き上げて、その滴り落ちたものできたと。
でもこの滴り落ちたものが何かに形作るっていうのは、
例えば塩とかですね、これも塩っていうのが一つのキーワードになっていますけれども、
海水から塩ができるものをどこか連想させることもあるのかもしれませんね。
神話の世界観
そうやってできるものは特に例えば溶岩のイメージとか、
どろどろに溶けた溶岩が固まるイメージとかとも、
どこか重なるところがあるのかもしれませんね。
日本にも葛飾山というものはあるわけで、
また2000年前とかにも、おそらくどこかで噴火が起きたりとかもした可能性はあるわけですよね。
そのことっていうのがどこか日本に残っていることはあるのかもしれません。
島国だとですね、だいたいこの溶岩とか、
あとは火にまつわるものっていうのは、
伝説家なんかに残っていることが多いですよね。
私何度かハワイに行ったことがあるんですけど、
ハワイでは火の神が非常に重要な、ある種のグレートマザーとしてですね、
母なる大地の象徴としても、大地の神とも言えるわけですね。
ですから溶岩というかその火の神っていうものが非常に大事な役割で、
今もちろんハワイ、ハワイ島っていう、
ハワイ島をはじめのね、ハワイの島々っていうのは、
やっぱり溶岩とか、あとは溶岩から形を作られた大地っていうところが、
非常にある種のアイデンティティになっているわけですね。
ですからそういう神話の中には、
溶岩とか火の神様っていうのは結構出てくるんですね。
ところがここではですね、この神話の中では後からまた出てきますが、
火の神っていうのは生まれるんですけどね、
生まれるんだけど別にそれが大きなメインの神様であるかっていうよりは、
ある種のメインの神様を殺す存在として出てきてしまうんですね。
なんかこう島国としてはもうちょっと火というものにアプローチしても良さそうなんですが、
意外とその火とか溶岩というもののイメージは薄い。
ただその国生み、もちろんハワイの神話でもそうですけど、
この国を生んだというところで溶岩とか火が出てくるっていうのは、
非常に面白いところだと思うんです。
そういった意味ではもしかしたらこのオノゴロ島っていうのが、
溶岩からできた島というか、火から生まれた、
堂々に溶けたものから生まれたものっていうものとの共通点というか、
世界の様々な島国の神話との共通項として、
どこか重なった部分があるのかもしれないなと思ったりいたします。
ということでようやくこの国が生まれてきたわけでございます。
では原文を読みましょう。
かれふたはしらのかみ、あめのうきはしにたたして、
そのぬぼこをさしおろしてかきたまえ。
しをこうろこうろにかきなして、ひきあげたまえしときに、
そのほこのさきよりしたたりおつるしおのつもりてなれる島は、
これオノゴロ島なり。
原文の出典は、門川ソフィア文庫ビギナーズクラシックス日本の古典、古事記でした。
ご案内は吉村ジョナさんがお送りしました。
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