00:03
星の進軍 第5話
新しき国へ 箱舘総攻撃により
榎本武昭率いる旧徳川幕府軍の敗北は決定的となった 肘方俊三の戦死後、弁天大馬に立てこもっていた新戦組は降伏
千代香大馬を守っていた中島三郎助と その二人の息子も戦死した
さらには五稜郭そのものへもあの鋼鉄が放つ アームストロング砲の砲弾が着弾し
数人の死者を出した
榎本が北の大地に夢見た江戸共和国は 幻となりつつあった
降伏勧告か 昨今の形勢海軍は敗れ候えども五稜郭並びに弁天大馬奮戦のこと
指導において貫復の至りに候えども
指導においてか
おっと 戦場で笑ってると肘方さんに叱られるな
どこまでも戦うか否かのお答え下され候 戦うのは諦めろということだね
編集はどうするかまさん降伏はしない だろうね我が軍には未だ弾薬もある
兵衛もある何より戦いたいと願う兵たちがいる みな殺虫に城をあげると言っても効くまい
じゃあ編集はそうだねー 例えば
君臣を自して遠く北の大地へ来たりしわけは 戦犯再三再始朝廷単元いたし走路通り
こんな文章も入れよ 一度枕を共にして潔く天陸に伏し
大すべく走路 みんなで一緒に死にますって言いさ
はっはっは
かまさんああちょっと それは
万国快立全書 海軍が守らなければならない国際的な法律が書いてある
かまさんがオランダ留学から持ち帰った本だねそうだ 間違いなくこれからの日本にとって必要な書物さ
戦争にも国際的な法律があって、その法律を破るようなことがあれば、結局は世界の一員としては認められない。これを、敵の三亡黒田に贈る。
しかし、お主はそれを肌見放さず大切にしていたじゃないか。
03:01
だからこそ、燃やしたくないんだよ。この本は。日本にはこれ一組しかない。これからの日本を作る明治新政府軍にこそ、この本を学んでほしいのだ。
鎌さん。
笑っておくれ、太郎さん。兵には命を捨てさせるくせに、榎本鎌次郎は本を大事にしている。こんな大将についてくると、皆に恨まれるだろうね。
お主を恨む者なら、とっくに逃げ出してるさ。にしても。
しても?
お主らしいよ。
榎本さん。やりたいようにやれ。あなたはあなたであり続けるんだ。
ねえ、鎌さん。
ん?
その本は、オランダ語で書かれているんだろ?今の日本に、その本を翻訳できる奴が、お主の他にいるかね?
そういえば、そうだね。
笑
それでも、榎本は本を黒田に送った。
戦うさ中に、本の心配とは。榎本さ、一体どげなお人じゃ。
その夜、私は榎本が心配で、眠れなかった。
君、大塚君だったね。
あっ、松平副総裁。眠れないのですか。
夜回りご苦労様。
どうかされたんですか。厳しいお顔をしていらっしゃいますけど。
うん。今夜、榎本総裁を見張っていてくれないか。私では、警戒されるだろうから。
は?あ、はい。承知いたしました。
頼む。
見張るって一体どういう意味だろう。
総裁は。
ああ、お部屋にいらっしゃるのか。
ああ、総裁、おやめください。
君は。
榎本の手から担当を奪うとき、大塚角之丞は、指に銃匙を負った。
痛っ。
大塚君、大丈夫か。
総裁、なぜお腹を召されようとしたのか。
誰か、松平さん。
河村さん。やっぱり、切腹しようとしたね。
気づいていたのか。
当たり前だ。副総裁だぞ、俺は。
すまん。
それより、大塚君の傷を。
刃を握って、担当を取り上げてくれたのか。
ありがとう。君のおかげで、この馬鹿を救えた。
06:01
恐縮です。
早く、手当てを。
はい。
河村さん、深くは聞かない。
だが一つだけ言わせてくれ。
あんたが消えれば、この国も終わる。
国?
江戸共和国。
お主が描いた、夢の国さ。
共和国の夢なんて、とっくに。
いや、違う。
ここにはある。
俺の胸に、生き残っているみんなの心に。
そして、死んでいった者たちの魂に。
江戸共和国はある。
だがお主が死ねば、全ては消える。
そうだ、それでも死ぬのかい?
それで、この江戸地以外に、逆心の汚名を着せられた英士たちの魂は、
一体、どこへ帰ればいいんだ?
何のために死ぬか、という答えだが。
ああ。
俺たち新選組も、江戸共和国の一員になれるかな?
も、もちろんだ。だって、もうなってるじゃないか。
それが答えさ。
ひじかたさん、みんな、すまない。
明治2年5月18日。
函館戦争は、江戸元軍の降伏によって終結した。
これはすなわち、幕末という時代の終わりでもあった。
これを機にこの国からは、武士と呼ばれた人々もいなくなったのだ。
江戸元軍幹部は、亀田村の新政府軍陣野へ出動した。
やっと、会え申したな、江戸元殿。
黒田さん、万国戒律全書は?
我が根拠に大切にお預かりいたします。
いずれこの本は日本語に翻訳し、天下に降伏いたしましょう。
そうですか。
安心しました。ありがとう。
ふん、妙なお方じゃ。
降伏し、東京と名を変えた江戸へ連行された我々は、
辰野口急問所の牢へ入れられた。
09:00
ここは一緒に入れられた城廃将軍こと大取啓介が設計した牢屋だったのだから、
全く笑えない。
我々は皆、死刑になるだろうと覚悟をしていた。
江戸元さんもおとなしく、法律をたっ飛ぶあの人らしく、
沙汰を待っていた。
明治五年、我々の処遇を決める会議が開かれた。
死刑医がいないだろ。
その通り。
逆臣どもだ。
議論の余地なし。
お待ちください。
黒田殿、
黒田は坊主頭だ。
黒田はその会議場に坊主頭で現れた。
江戸元は、これからの日本に必要な人材だ、今度。
御異論がどれほどの思いで頼んどるか示すため、
今通り、丸坊主になってき申した。
江戸元は、自分の命よりも戒律全書なる書物を信だ。
知識いうもんがいかに重要か、
それを知っとる人材を殺してはいかん!
どういうことです?
オランダ語の本らしい。
国際法だそうだ。
江戸元の他に読める者はいないんじゃないか?
黒田の必死の探願によって、
明治五年一月、
捉えられていた旧幕府軍の幹部たちは、
全員が釈放された。
太郎さん、
あたしは、生きることになってしまった。
そうだね。
嬉しいよ、鎌さん。
ああ、
これが、
新しい日本の空か。
青いね。
江戸元はその後、
黒田の口利きで開拓主となり、
再び江戸地へ渡ることになった。
北海道と呼ばれるようになったこの土地で、
江戸元は石炭の採掘をする丹田を発見。
さらには、
特命全権公主としてロシアへ渡る。
その後は、
提審大臣に外務大臣、
農政務大臣を歴任。
農業大学まで作った。
他の者たちも皆、
それぞれに立派な道を生きた。
私、松平太郎は、
江戸元の仕事を助けつつも、
商売に手を出して失敗ばかり、
表舞台に立つことない人生を送った。
後悔はないのかと聞かれることもあるけれど、
12:00
そういう時は、
いつもひじかたさんを思い出す。
あの人は、
私を、
わかってくれていたのだろう。
近藤勲という名優を、
東大一の武士にするために、
生きていた男ならば、
強く輝く誰かを、
支えたいと願う生き方を。
明治三十三年に、
黒田清高が死ぬと、
江戸元は総議院長を務め、
その江戸元も、
半年前の明治四十一年、
七十三歳で世を去った。
残った私の命も、
そろそろ尽きようとしている。
私は思い出す、
あの北の大地に輝いた光、
今は歴史の彼方で、
瞬き続ける、
江戸共和国の物語。
後の世の人々も、
そう、
きっと、
この光を見るのだろう、
最後の者の二人の、
魂のきらめきを。
大塚角之丞 杵川秀樹
黒田清高 大東秀文
選曲・効果 小坂
音楽協力 天茶
スタジオ協力 スタッフアネックス
プロデューサー 富山正明
制作 株式会社 ピトパ
ボイスドラマで学ぶ日本の歴史
シーズン1 星の神軍
いかがだったでしょうか。
責任感が強くて、
残された爆心のために、
夢を実現させようとするも、
それを叶えるための実践経験が
乏しい江戸元と、
愚直に戦いの場に身を置き続けて、
15:01
武士としての最後を探していた肘方。
まあ初めは立場や経験の違いから
わだかまりがあった二人ですが、
最後にはお互いを尊重して、
戦争に身を投じる仲間となっていく様子が
描かれていましたね。
しかし侍肘方は、
この函館戦争の中、
武士として最後を遂げます。
一方オランダへの留学経験や、
万国皆立全省翻訳、
理解している知識の人、江戸元は、
明治新政府の要人として、
生き残る道が与えられることになったわけです。
これは一つの時代の流れの体現と言っても、
いいのかもしれません。
さて次回はエピローグ回として、
私ナビゲーターの熊谷陽子が、
シーズン1星の神宮を描き起こしてくださった、
作家日野草さんに、
今回の物語についてインタビューをしてきましたので、
そちらを公開いたします。
どうぞお楽しみに。