幸せの訪問
幸せがいろいろな家へ訪ねて行きました。
誰でも幸せの欲しくない人はありませんから、どこの家を訪ねましても、みんな大喜びで迎えてくれるに違いありません。
けれども、それでは人の心がよくわかりません。 そこで幸せは、貧しい貧しい戸敷のような鳴りをしました。
誰か聞いたら、自分は幸せだと言わずに、貧乏だというつもりでした。
そんな貧しい服装をしていても、それでも自分をよく迎えてくれる人がありましたら、 その人のところへ幸せを分けておいてくるつもりでした。
この幸せがいろいろな家へ訪ねて行きますと、 犬の飼ってある家がありました。
その家の前へ行って幸せが立ちました。 そこの家の人は幸せが来たとは知りませんから、
貧しい貧しい戸敷のようなものが家の前にいるのを見て、 お前さんは誰ですか?と尋ねました。
私は貧乏でございます。 ああ貧乏か。
貧乏はうちじゃお断りだ。 とそこの家の人は戸をピシャンと閉めてしまいました。
おまけにそこの家に飼ってある犬が恐ろしい声で追い立てるように鳴きました。 幸せは早速ごめんをこむりまして、
今度は鳥の飼ってある家の前へ行って立ちました。 そこの家の人も幸せが来たとは知らなかったと見えて、
嫌なものでも家の前に立ったように顔をしかめて、 お前さんは誰ですか?
と尋ねました。 私は貧乏でございます。
ああ貧乏か。貧乏はうちじゃたくさんだ。 とそこの家の人は深いため息をつきました。
それから飼ってある鳥に気をつけました。 貧しい貧しいコチキのようなものが来て、鳥を盗んで行きはしないかと思ったのでしょう。
コッコッコッと、 そこの家の鳥は
用心深い声を出して泣きました。 幸せはまたそこの家でもごめんをこむりまして、今度はうさぎの飼ってある家の前へ行って立ちました。
お前さんは誰ですか? 私は貧乏でございます。
ああ貧乏か。 と言いましたがそこの家の人が出てみると、
貧しい貧しいコチキのようなものが表に立っていました。 そこの家の人も幸せが来たとは知らないようでしたが、
情けというものがあると見えて台所の方からおむすびを一つ握ってきて、 さあこれをあがり
と言ってくれました。 そこの家の人は黄色いたくあんのおコッコまでそのおむすびに添えてくれました。
グーグーグーとうさぎは高い指揮をかいて、 さも楽しそうに昼寝をしていました。
幸せにはそこの家の人の心がよくわかりました。 おむすび一つたくあん一切れにも人の心の奥は知れるものです。
それを嬉しく思いまして、そのうさぎの飼ってある家へ幸せを分けて置いてきました。