哲学者・東浩紀氏が,現在のインターネットの問題点を解決する手段として立ち上げた有料動画配信プラットフォーム「シラス」の理念を紹介し,シラスとLISTENを比較した上で,シラスの理念をLISTENで活かす方法を考察します。
参考リンク:哲学者による社会運動としての動画配信プラットフォーム──さやわか×辻田真佐憲×東浩紀「シラスの未来、配信の未来、データの未来」イベントレポート(2020.10.27, webゲンロン)
サマリー
2020年10月19日、新しい動画配信プラットフォーム「シラス」のサービスが始まっています。東浩紀さんが考える現在のインターネットの問題点を解決するために立ち上げられたシラスの理念は、広告主に依存せずに視聴者に財政基盤を置き、また会員と非会員の間の分断を避けようとしています。
シラスのサービス開始
2020年10月19日に、 新しい動画配信プラットフォーム
「シラス」のサービスが始まりました。 これは哲学者の
東浩紀さんが 現在のインターネットの問題点を解決するために
立ち上げたものです。東さんが考える 現在のインターネットの問題点というのは
2つあります。 まず一つ目は
「数だけが目標になっている」ということです。
これはどういうことかというと、プラットフォームに入ってくる収入が
広告主から来るため、広告主が求めるような
できるだけ多くの 視聴者を得る
そういう番組が求められてしまうということです。 つまり番組制作が広告主によって支配される
ということになります。 もう一つの
現在のインターネットの問題点は「友と敵の分断が深まっている」
ということだと言っています。
これは 現在でも有料の
オンラインサービスはありますが、その
有料会員のみが見られるようなコンテンツというのは、いわば配信者が
視聴者を囲い込むことになり
その 一部の
有料会員の意向にのみ
従う そういう形になりがちです。
つまり、そこでは
会員と非会員の間に溝ができ
分断されてしまうという、そういう傾向があるということですね。
この2つの問題点を解決するために
東さんは「シラス」という新しい動画配信プラットフォームを
考えたということなんですが、そのシラスの理念というのはどういうものかと言いますと、
現在のインターネットの問題点
まず
このサービスの財政基盤を広告主ではなくて
視聴者に依存する、そのために
全番組を有料化するという形をとっています。無料で見られるのはいいことのようで、結局それは
自分たちが見たいものというよりも 広告主の意向に沿ったものばかりになってしまう、
また番組の途中に広告が
頻繁に入る、そういう問題点もありますね。
これをなくす。見たくないものは見ない。
見たいものだけを見る。そのためにしっかりとお金を払う。
こういう仕組みが必要だというふうに東さんは考えています。それから2つ目の問題点である
友と敵の分断を避ける方法として、サブスクリプションの他に
単独で番組を購入できるようにする、つまり会員にならなくても
番組を見るということが可能にすることによって、会員と非会員の間の
壁を作らない。誰にでも見てもらえるような
そういう開かれた場にするということですね。
当然そこには、自分たちの考えと違う人も見に来るかもしれません。
そういうことも考慮に入れた上で
番組を作り、いろんな考えの人が
きちんと コミュニケーションとれるような、
そういう場を作ろうという ことだと思います。
さて、このシラスの理念を
LISTENに当てはめて考えてみたいと思います。そうしますと、
LISTENはかなりすでにもうシラスの理念を実現できる、
そういう条件を整えているように思います。まず
LISTENでは有料番組を配信できますので、もし配信者がその気になれば
全番組を有料化することも可能です。しかし、
LISTENにはシラスにない、配信者側がお金を払うプレミアムプランというものがありまして、
いわば視聴者が払う分を配信者が払うということも可能で、
そうすれば視聴者の意向に関わらなく、配信者の意向でもって
自由に番組を配信できるという、そういうシラスにはない自由さというものもあるわけですね。
ただ、これは逆に言いますと、
リスナー側の働きかけの力が弱まる
原因にもなります。やはり有料配信というものをすることによって
シラスの理念をLISTENで活かす方法
リスナーが何を求めているのかということを配信者側が知る必要もあるのではないでしょうか。
そうすることによって より多くのリスナーが求める
コンテンツがLISTENの中に増えていくような気がします。
それから
配信者とそれから受け手の間のコミュニケーションということについて、シラスとLISTENを比較してみますと、
シラスは基本的にライブ配信が中心です。
オンデマンドの内容もありますが、それはライブ配信のアーカイブの提供という形で行われます。
そして、配信者と
視聴者の間のコミュニケーションは、そのライブ配信の間での
コメント
ですね。この
ライブ中のコメントの形でリアルタイムに配信者は
視聴者の反応を見ることができます。
これがLISTENにはできないことですね。LISTENでは
基本的にオンデマンドのコンテンツを配信する、そういうサービスで
リスナーの反応をリアルタイムで
配信している最中に受けることはできません。けれども
コメントとか、あるいは星をつけるという形で反応を受けることができますし、
またリスナーが配信者である場合は、言及という形で
リスナーの番組の中で反応を
知ることもできます。ですので、
どちらが良いかということは よくわかりませんが、
それぞれの形で
うまく使えば配信者と受け手側の
コミュニケーションがうまく取れるのではないかと思いますが、現在のところ
LISTEN では配信者側が
リスナーの反応を受ける
機会は少し少ないかなという気がしまして、
それが有料配信によって少し改善するかもしれないなという
気はしています。また、今のことと関係ありますが、
シラスは基本的に配信者側は非常に少なくて リスナーが多いという、
こういうある種のマスメディア的な形をとっています。
誰でも自由にシラスで配信できるわけではなくて、
配信者はシラスの側によって選ばれた人たちとなります。そうですので
配信者と視聴者の関係(隔たり)はかなり大きいと言えますね。
しかし、LISTENは非常にフラットですね。
そのリスナーと配信者が入れ替わるということがよくある、そういう
プラットフォームです。これは多分メリットですね。
ですので、
これはそのLISTENのメリットですね、ぜひ生かして
いきたいなというふうに思うんですが、おそらくその違いは
やはり映像、
動画とそれから音声という
メディアのあり方の違いが大きいかと思います。さて、
ここでですね、シラスの理念を私はいいと思ってるんですけども、これをLISTENに生かすにはどうすればいいかと
いうことを考えてみますと、今のところ私2つ思いつきます。
一つは、やはり有料配信を増やすということです。これによって
プラットフォーム側、OND社の収入が
増えることになります。それから
もう一つは、リスナーが本当に聞きたい番組が
増えていき、またその質も上がっていくのではないかなというふうに思うんですね。 つまり配信者側がもっとリスナーのことを真剣に考えて配信するようになる
だろうということです。もちろん今のLISTENの
無料配信の気楽さというものも捨てがたいので、これをなくす必要はないと思います。
けれどもその一方で、
聞きたい番組、聞いてよかったなと思える番組が増えていくことも
大事かなというふうに思います。シラスの理念を
LISTENに生かすもう一つの方法は、サブスクリプション型の課金制度を導入するということです。
これは、有料配信をする配信者側の心理的なハードルを
下げることになるとともに、リスナーも
有料配信を購入しやすくなるというメリットがあるかと思います。
やはり一つ一つのエピソードに値段をつけるというのは
なかなか難しいものです。また購入する側も
このエピソード、この値段に値するだろうか、というふうに考えてしまったりしますと、
なかなか購入が難しいということになります。これが月額課金ですと、
手間も省けますし、値段を一つ一つ考える必要もないし、
配信者側にとってもリスナー側にとっても メリットがあるのではないでしょうか。
ただし 先ほどのシラスのところで
単独購入が可能であるようにすることのメリット、つまり
会員を囲い込まないということ、
これをするためにも、これまで通り
個々のエピソード単位で購入できるという
仕組みは必要だと思います。さて最後にですね、
私個人でできること、
これを述べたいと思います。
まず一つ目は、リスナーを意識した有料配信を
始めるということです。私はこれまでも
いくつか有料配信をしてみたことがありますけれども、
これはあまりリスナーのことを考えておらず、
売れ行きも
それほどではなかったということですね。
やはりきちんと、多くの人に
買っていただけるような内容を考えて
配信をするということが必要だという、
当たり前のことではあるんですが、それを
してみたいなというふうに思っています。それからもう一つはですね、
今LISTENではサブスクリプション制度がないんですけれども、
これを自主的に行うということです。
どういうことかと言いますと、毎月一定額を
LISTENの有料配信を買うために
とっておいて、それで
有料配信をその額まで買うということです。例えば
毎月1000円 有料配信を買おうというふうに決めたならば、
その額まで有料配信を買う。そして、
例えば1000円 と定めますと、そのうちの
2割である200円は、プラットフォーム側、OND社に入るわけですね。
ですので、配信者にも
購入代金が回りますし、
OND社側にも回るということで、プラットフォームを
維持する上で多少なりとも
貢献できるのではないかなというふうに思うんですね。
もちろん、プレミアムプランに入って
直接 OND社に
資金を提供するということはできますけれども、
やはり有料配信、
これをうまく活かすということが大事かなと。
それによるメリットというのはいろいろあるだろうということは、
シラスとの比較から分かるかと思います。以上、
今回は有料の動画配信プラットフォーム
「シラス」とLISTENを比較し
シラスの理念をLISTENで活かすにはどうすればよいか
ということをお話ししました。
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