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いちです。おはようございます。
このポッドキャストは、僕が毎週お送りしているニュースレター、スティームニュースの音声版です。
スティームニュースでは、科学、技術、工学、アート、数学に関する話題をお届けしています。
スティームニュースは、スティームボート乗組員のご協力でお送りしています。
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改めましていちです。このエピソードは、2022年8月25日に収録しています。
このエピソードでは、スティームニュース第92号から、近道の技術についてお届けします。
18世紀のプロイセン王国の東部に、ケーニヒスベルク、現在のカリーニングラードという街がありました。
このsteam.fmのエピソード62でもお話しした、琥珀で有名な街です。
この街にはプレーゲル川という大きな川が流れていて、7本の橋が架けられていました。
プレーゲル川は大きな川だったので、ナカスがいくつかあって、
ナカスへ渡る橋であるとか、ナカス同士をつなぐ橋であるとかですね、複雑な形をしていたんですね。
メールで送りしているニュースレターの方では、このケーニヒスベルクに架かる7つの橋の地図も載せています。
このケーニヒスベルクの街の人が、このようなことを言ったんです。
このプレーゲル川に架かっている7本の橋を、2度通らずに全て渡って元のところに帰ってくることができるか、
ただしどこから出発しても良い。
これ簡単に言うと、全ての橋を一筆書きで通ることができるかという問題なんですね。
これ単純に見えて結構難しい問題なんです。
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おそらく当時の人、地図とにらめっこして何度も何度も考えたと思うんですね。
何とかして一筆書きができるはずだと思ったはずなんです。
しかし成功した人はいませんでした。
そしてスイスの数学者レオンハルト・オイラーが1736年この問題を解くことに成功しました。
彼は一筆書きのルートがないことを証明したんです。
まず彼は地図から街並みを取り払って、地面と水面と橋だけの図にしました。
こちらの図もメールで送りしているニュースレターの方にも敷図を載せていますので、
よかったらメールの方でね、見ていただければと思います。
次に彼は地図をグラフに置き換えました。
グラフというのは数学用語で点と点を線でつないだものです。
折れ線グラフを想像された方ごめんなさい、ちょっと違うんです。
どちらかというと地下鉄路線図みたいなものに近いですかね。
駅と駅を線路でつないでいったようなもの。これがグラフなんです。
そしてこのグラフが一筆書き可能であれば、
ケイニッヒズベルクの橋をすべて一つ通って戻ってくるルートが存在することになります。
そしてオイラーはこのグラフを作って、
ケイニッヒズベルクの橋を一筆書きで回れないことを証明しました。
彼は陸地を一つの頂点として橋を一つの辺という風にしたんですね。
気化学だとこの三角形の頂点とか辺とかありますよね。
この三角形をより複雑な形にしていったもの、
頂点から辺が出ていて次の頂点につながるというグラフを考えたんですが、
このケイニッヒズベルクの地図を元にグラフを作って、
そうすると頂点から出ていく線がすべて奇数であることを彼は見抜いて、
ということは一筆書き、一筆書きというのは元に戻ってこないといけないので偶数でなきゃいけないんですね。
ところがすべての頂点につながっている辺が奇数だからこれは一筆書きができないということを証明したんです。
ただしこのオイラーの証明よりももっと大事なのは、
オイラーが地図をグラフに置き換えたということなんですね。
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この置き換えによって我々は地図が持つ距離とか、
まして街並みとか、道がつながっている角度だとか、
そういった雑多な情報を無視してしまうことができるんですね。
どことどこがつながっているかだけを考えれば良くなるんです。
このようにある情報を無視することを我々はしばしば抽象化という風に呼びます。
そういえばですね、この天才スポーツ選手も瞬時に状況を抽象化できる。
そうですね、これは僕はもうスポーツ超オンチなので、
ちょっと想像もつかないんですが、
聞いた話ではこの天才スポーツ選手というのは状況を抽象化、リアルタイムにできるということなんですね。
例えば一流サッカー選手、上空からフィールドに立つ自分が見えていて、
ボールの位置とかも見えているとか、これなんかも視覚という情報ですね。
これを無視してイラスト化されたサッカーフィールドが見えているという意味では、
抽象化の具体例になるんじゃないでしょうか。
画家のパブロ・ピカソもまた対象物を抽象化してみることが得意だったという風に言われています。
彼の作品を見てみると、まあそうだとなろうなという風には思いますよね。
さて、地図を一旦抽象化してしまえば、我々のような計算機科学者の出番です。
地図のような情報から距離のことを忘れて、
こことここは繋がっているであるとか、こことここは繋がっていないという情報だけを残したものをグラフという文でした。
このようなグラフを調べていくと、
ある地点からある地点への経路が何通りあるのかも数え上げることができるようになります。
もし到達できなければ、経路はゼロ本ということになります。
僕たちがお世話になっている乗り換え案内も、内部では鉄道網をグラフとして持っています。
このグラフを使って、まずは出発駅から到着駅へ到着できるのかがチェックされます。
続けてグラフの頂点、すなわち駅と駅の間の移動時間が考慮されます。
グラフ上の一本一本の辺、つまり路線には所要時間も書き込まれています。
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鉄道の乗換え時間や待ち時間を無視した場合、1959年に発明されたダイクストラ法という方法が使えます。
ダイクストラ法は1959年に、オランダ人計算機科学者エドガー・ダイクストラによって発明されたアルゴリズムで、
所要時間が書き込まれたグラフから最短経路を求めるために使われます。
1959年という計算機科学の世界では、石器時代と呼んでも良い時代のアルゴリズムなんですが、
もうこの方法しかないというくらい本質をついたものなので、現在に至るまで使われています。
ところで皆さんはGoogleマップ使われているでしょうか?
僕自身は熱心なAppleユーザーなんですが、地図だけはGoogle派です。
本当Appleのマップアプリにはどれだけ変な場所に連れて行かれたことか、大失敗数々あるんですけれども、それは置いといて。
Googleマップを使うと徒歩の経路や自動車での経路も見つけてくれますよね。
実はGoogleマップでも経路はすべてオイラーの方法に従ってグラフ化されています。
つまるところ、本質的にはGoogleマップと乗り換え案内は同じものなんです。
すべての交差点、すべての建物、すべての公園、これらが駅になっているようなものなんです。
こう考えると地図をグラフに置き換えたオイラーの先見性には、ただただ驚くばかりですね。
鉄道ファンの間では有名な大回り乗車も一種の人筆書きなので、ケイニースベルクの橋の応用問題ともいえます。
コロナ禍がまだまだ続いているので強く推奨するわけではありませんが、首都圏や関西の方、オイラーに思いを馳せながら大回り乗車を試しになってはいかがでしょうか。
最後に少し余談です。
古代ギリシャの哲学者たちは目的論というアイディアに魅力を感じていました。
一言で言うと目的が先にあってそのためにプロセスが生じたという考え方ですね。
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科学者たち、とりわけガリレオガリレイたちはこの目的論を捨て去ることから近代科学を発展させていきました。
原因が積み重なって結果が生じると考えたわけですね。
しかし目的論の魅惑は現代の科学者たちにさえ根強く残っています。
例えば光は最短の経路を通るとするフェルマーの原理という物理法則は未だに人気のある考え方です。
フェルマーの原理から光の反射や屈折の説明がすべてつくので物理法則としてフェルマーの原理が間違っているわけではありません。
しかし乗り換え案内を持っていない光の粒々がどうやって最短の経路つまりは近道を見つけているんでしょうか。
フェルマーは光が神の視点を持っていて自ら最短の経路を選ぶと考えたようです。
一流サッカー選手のようですね。
だけど光の粒々がそんな知能を持っていて自らこう進む道を選ぶという過程には無理がありすぎます。
アメリカのノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンは別の考え方をしました。
光は目的地に到達するありとあらゆる経路を同時にとると考えたんです。
そしてもし我々が光がどこを通ったのかを計測すると結果として最短の経路を通ったということを知るというわけですね。
ごめんなさいあんまり上手に説明できていないと思います。
これあの英語になってしまうんですけれどもリチャード・ファインマン自身が書いた書籍でQEDという本があるんです。
こちらの物理学の教科書ではあるんですが一般向けにわかりやすく説明していますのでもし英語が苦にならないという方はぜひ読んでみていただければと思います。
残念ながら翻訳が出ていないので英語になってしまうんですけれどもリチャード・ファインマンのQEDという本です。
QEDというのはQuantum Electrodynamicsで量子電気力学の略なんですがこれ数学用語で照明終わりという意味にもなるので両方かけたネーミングファインマンらしいダジャレなんじゃないかなと僕個人的には思っています。
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こんな風に一旦はこの目的論を追い出した物理学でしたがフェルマーの原理を始めいくつもの目的論っぽい考え方再導入しています。
大学で物理学を勉強された方ならラグランジアンであるとかハミルトニアンであるとかがそれに当たります。
しかしリチャード・ファインマンの力によって近代物理学は再び目的論を追い出すことに成功はしています。
まあとはいえですね最短経路ってなぜか科学者や技術者のロマンなんですよね。
ついついそんなことを思ってしまいます。
いやなんか目的論に感じる美しさって何なんでしょうね。
科学における美しさって僕は予測可能性だというような仮説を立てているんですが
目的論だと先に結論があってそのためにプロセスが生じるという考え方ですから
まあ究極の美という風に考えられなくはないですよね。
ここらへんの考察僕まだまだ甘いのでもう少し考えを煮詰めていって
またこのポッドキャストでひょっとしたら余談として皆様にご紹介できるかもしれません。
ぜひ皆様の感想も寄せていただければと思っています。
TwitterでSteamニュースコミュニティーしていますのでよかったら検索してみてください。
というわけでここから余談です。
このエピソード収録しているのは2022年の8月25日なんですが
この2022年の9月23日に僕の住む長崎から西九州新幹線が開通します。
西九州新幹線といっても長崎を出発して佐賀県に少し入って竹与温泉というところで行き止まりなんですね。
この先は在来線で博多を目指すということになります。
この日本一短い新幹線なんですが
この開通の1ヶ月前8月23日の午前10時にチケットが販売されました。
なんと10秒で完売したそうです。
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10秒とかすごいですよね。
僕は鉄道のことは全然詳しくないんですが
新幹線と在来線が入り組んでいるおかげで
新幹線駅、新しくできた新大村駅という駅が
在来線の乗り換えができるように乗り入れている駅なんですけれども
ここを使うと新大村駅初、新大村駅着の片道切符が買えるそうなんです。
同じ駅から出て同じ駅に戻る片道切符ってなんじゃそりゃという感じなんですけれども
オイラーの方法によるとこれは正しい経路です。
実際に切符を買われた方がいらっしゃって
ネットではその切符の画像なんかも上がっています。
長崎以外の方はわざわざそんな遊びをすることはないかと思うんですが
せっかく西九州新幹線通りますから
残念なことに博多から直通ではないので
首都圏の方関西圏の方、飛行機で長崎に来ていただいて
長崎を拠点に新幹線で武雄温泉であるとか
一来て前の嬉野温泉であるとかこれ両方佐賀県なんですが
この新幹線のおかげで長崎から本当に30分以内で行けることができるようになりましたから
とてもいい温泉ですし長崎を拠点に
長崎とそれから温泉地と武雄温泉、嬉野温泉を回られてみるというツアーいかがでしょうかね
この地域ですね、五道府という、五は呉という字ですね
五道府というとても珍しいローカルフードがあるんです
お豆腐っていうと要は豆乳を苦りで固めたものなんですが
五道府は苦りではなくて豆乳をクズで固めたものなんですね
すごい美味しいです
どちらがオリジナルのお豆腐なのか僕はちょっとわからないんですけれども
五道府すごくおすすめなので温泉と一緒に楽しんでいただければなと思っています
よかったらこれから温泉いいシーズンですからお越しになってはいかがでしょうか
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メールでお送りしているニュースレタースティームニュースの方では
今週の書籍そして今週のテッドトークもご紹介をさせていただいています
今週のテッドトークはかなり関連が深いんですが
ダニエル・クエルチャー最も楽しい経路が選べる地図というのをご紹介しています
この最短経路を探すというダイクストラ法ですね
こちらは実はいろいろ奉行ができるんですね
グラフの辺に移動時間というのを書いておいて
その移動時間を足していってその移動時間が最小になるものを選ぶというのがダイクストラ法だったんですが
これ小さい方を選ぶのも大きい方を選ぶのも同じアルゴリズムで求めることができます
移動時間を最大にするということも簡単にできます
移動時間じゃなくて例えば眺めの良さをスコアにしておいて
例えば移動時間何分という代わりにここは眺めの良さが100点とかここは0点とかというふうにしておくと
同じ地図から同じグラフから眺めが一番いい経路というものをダイクストラ法で求めることができるんですね
眺めだけじゃないです
例えば自転車で通る時にここはアップダウンが少ないから走りやすさのスコアを作るとか
あるいは人によってこの道はいい思い出があるとかこの道は美味しい食べ物屋さんが多いとか
あと僕みたいにお腹が弱い人にはですねこの道は公衆トイレがあるよとか商店街が近いよとか
あるいはこの道は雨風が防げるとか日差しが避けられるとかそういったもの数値化できるものは全てダイクストラ法で最も適した経路を見つけていくことができます
これオイラーとダイクストラのおかげなんですね
というわけで詳しくはぜひTED TalkそしてSteam Newsの方で見ていただいたり読んでいただいたりしていただければなと思っています
両方とも無料で見たり読んだりできますのでぜひお試しください
今日も最後まで聞いてくださってありがとうございました
Steam.fmの一でした
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次回予告
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I hope you feel the same way as I do!
Wi-Fiも一緒に、簡単にマットカットされていて素晴らしいですね!
とにかく、海外の方々にお届けしてくれれば幸いです。
ご視聴ありがとうございました!
チャンネル登録よろしくお願いします!
次回は、海外の方々にお届けします!