非認知能力の概念
ストーリーとしての思想哲学
思想染色がお送りします。今回のテーマは、非認知能力です。
非認知能力って概念、子育ての文脈で最近流行ってますよね。
ただ、流行ってんなーと思って見てみたら、なんかふわっとした説明ばかりを見かけました。
認知能力、すなわちIQやペーパーテストに変調するのではなく、それ以外の部分。
認知能力ではない能力も重要であるみたいな概念で、非認知能力とは目標に向けてコツコツとした努力ができるとか、
他者ときちんとした信頼関係を築けて協調性を持って目標に取り組めるとか、
要は、きちんとしているという概念であるわけだけど、
非認知能力を伸ばせば子供が将来高収入になるみたいな紹介もされてたりして、それはちょっと事実とは異なります。
非認知能力の概念を深掘りすると、割と人の地雷を踏む可能性があるので、
多分肝心なところをぼかして説明しているから、全体的にふわっとした紹介が多いんだと思います。
というのも、これは家庭環境の話だから、人の家庭環境を育児という文脈において正解とか不正解とか言い悪いでジャッジすることにもなりかねないから、
だからぼかさないで説明すると普通に気分を害する人もいると思われるんだけども、
この辺がどういうことなのかっていうのを読み解いてみたいと思います。
ペリー就学前プロジェクトの効果
非認知能力の提唱者は、ジェームズ・ジョセフ・ヘッグマンっていうアメリカ人です。
ヘッグマンは2000年にノーベル経済学賞を受賞しています。
アメリカではマイノリティの経済的貧困が社会問題となっているわけですが、
なぜ所得格差が起こるかを分析すると、学歴の違いが大きな要因として浮かび上がってきたというのが前提としてあります。
そこでアメリカでは、マイノリティの大学進学率を高めるために過去に様々な補助政策が行われてきたんですが、
その効果が小さい、あんまり意味がないっていうことが研究によって明らかにされてきました。
じゃあどこに力を入れれば効果が高いのかというと、ヘッグマンらの研究によると、
そもそも所得階層別の学力差は、すでに小学校に入る時点、未就学時の時点から続いているっていうことが明らかになってきました。
つまり、所得階層別の学力差の原因は、子どもたちの就学前の時点にあるということです。
ペリー就学前プロジェクトというアメリカの研究があって、この研究が日本の幼児教育無償化のきっかけにもなったんだけど、
ペリー就学前プロジェクトはですね、経済的に恵まれない3歳から4歳の黒人の子どもたちを対象に、
毎日平日の午前中は学校で教育を施し、週に一度、午後に先生が家庭訪問をして指導に当たるというものでした。
この就学前教育は2年間続けられて、就学前教育の終了後、この実験の被験者となった子どもたちと、
就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子どもたちとの間では、
その後の経済状況や生活の質にどのような違いが起きるのかについて、約40年間にわたって追跡調査が行われました。
恵まれない家庭の未就学時に、お勉強という形をとって介入した場合と、介入しなかった場合とでの対象実験をしたわけですね。
で、実は、介入してもしなくてもIQに差はつきませんでした。
未就学時にお勉強を教えても、IQは一時的にしか上がらず、元に戻ってしまうということがわかりました。
だから一見意味がなかったかのように思えるんだけど、各グループを40歳になった時点で比較したところ、
就学前の教育の介入を受けたグループは、高校卒業率や持ち家率、平均所得が比較的高く、婚外子を持つ比率だとか、
あとは生活保護受給率、逮捕者率が低いという結果が出ました。
つまり未就学時に対して、非認知能力というきちんとするということができる能力を獲得させることで、その後の人生もきちんとすることができるようになる。
その結果、高校をちゃんと卒業したり、犯罪を犯したり、生活保護を受給しなくてもいいようになるということがわかりました。
効果を具体的に言うと、所得や労働生産性の向上、生活保護率の低減など、社会全体の投資収益率に換算すると、年利15から17%の投資収益率があったそうです。
まあ、この投資利回りはちょっともってる部分もありそうだし、ペリー就学前プロジェクト的な介入の仕方が最善というわけでもなさそうなんだけど、
シンプルに言えば、未就学時に幼児教育という形で介入することで、社会や労働市場にきちんとした人をより供給できるようになる。
これは投資としても割がいいし、本人もより良い人生を歩めるわけだから、本人の幸福だとか倫理面からもとても良いよねという話なわけです。
ここまでは特に異論ないかと思います。
だって、税金の使い道としても投資収益率が比較的高いわけだから、これは税金の無駄遣いには当たらないし、不平等の是正っていうのは倫理的なことでもあるし、
その上、本人の幸福にも資するわけだから、あちらもこちらも両立させている、けうな政策ですから。
じゃあ次は、非認知能力の話はあくまで福祉の話なのかという点で見解が分かれてきそうです。
という話を次回したいと思います。次回に続きます。