ラビオリの作り方とバターソース
yunyantokyo
シェフ、四皿目のご紹介をお願いします。
matsui
この料理は、お肉のラビオリです。
yunyantokyo
それでは、いただいてみようと思います。
こちらは、どのようなお料理になりますか?
matsui
こちらの料理は、ピエモンテのレストランで働いた時、シェフのママに教わりました。
あちらの写真を見ていただけますか?
yunyantokyo
それは、後ろの壁の写真ですか?
はい。あちらの写真は100年以上続く家族経営のお店でして、
matsui
ママは歳だから調理場に入るなと息子や孫たちに言われているのですが、
ラビオリを仕込む時だけは、ママに「作って」とお願いして、
嬉しそうにラビオリの詰め物を作っている時の写真です。
詰め物には3種のお肉、豚肉、牛肉、うさぎ肉を入れるのですが、
この時、洗い場のスタッフにイスラムの方がいて、彼は豚肉が食べれないからと言って、
豚肉を入れず作っていました。
yunyantokyo
このお皿には3つのラビオリがありますが、これは豚肉が入っていない?
matsui
今回は豚肉をいれています。
yunyantokyo
どれに何の肉が入っているかを当てながら食べるという楽しみもありますね。
matsui
いや、全部まとめて、合い挽きにして入れています。
yunyantokyo
なるほど、合い挽きにしているんですね。
全部混ぜて入れている?
matsui
牛も豚もうさぎも入っていますね。
yunyantokyo
なるほど、「これ何の肉だろう?」って全くわからなかったんだけど、
合い挽きにしていると聞いて、今納得することができました。
matsui
分かりづらくて、すみません。
yunyantokyo
このソースは、
バターソース?
matsui
そうですね、セージとバターがど定番ですね。
うちの実家で母親がハーブを作っているんです。
yunyantokyo
お母さんが作ったハーブって素敵だね。
パンに入っているローズマリーもそうです。
yunyantokyo
松井シェフのご出身は?お母さんはどちらにいらっしゃるんですか?
matsui
横浜です。
yunyantokyo
横浜なんですね。そうすると、これは横浜産のハーブということですね。
ラビオリを作るコツとかポイントみたいなものはあるんですか?
matsui
ラビオリというのは、包むパスタの総称になるんですけど、
各地方にいろんなラビオリがあって、
ピエモンテで一番有名なのはアニョロッティ・ダル・プリンっていう
ラビオリなんですけど、
トスカーナだったら、ファゴッティーニとかトルテリーニとか
いろいろあります。
僕が気をつけているのは生地の薄さですかね。
僕の好みとしてはあまり厚いのは好みではないので、
なるべく薄めにはしています。
ただ薄すぎると茹でているときに切れて中身が出てしまうので、
その辺は気をつけていますね。
イタリアの家族の絆
yunyantokyo
生地も自分で作られているんですか。
小麦粉?
matsui
小麦粉です。
yunyantokyo
プリプリっとしていて、すごくいい食感ですね。
このような食感にするのに、大切なポイントはありますか?
matsui
茹で方はありますかね。
逆に、ちょっと茹ですぎなんじゃないかと思うぐらい、僕は茹でて
それで水分を含ませる、というのはあると思います。
yunyantokyo
それでプリプリなんですね。
ワンタンみたいなプリッとした食感。
matsui
水餃子みたいでしょ。
クリスマスにやるトルテリーニ・イン・ブロードっていう、
それもラビオリの一種なんですけど、
ちょっと話が飛びますが、
クリスマスのシーズンになると去勢した鶏肉が出るんですよ、市場に。
それで出汁をとって、そのスープでラビオリを食べるんですけど、
まさに水餃子みたいな感覚で食べるんです。
yunyantokyo
去勢した鶏って、
matsui
日本でもやってるとこはいっぱいありますね。
yunyantokyo
それは、太らせて脂肪をつけるために?
matsui
そうですね、脂肪をつけて大きくするためですが、
もちろんそれは鶏によって、できるもの、できないものがあります。
yunyantokyo
あとウサギの食材についてお聞かせください。
うさぎは、なんとなくフランス料理っていうイメージが強いんですけど、
イタリアでも結構食べられてる感じなんですかね。
matsui
そうですね、ウサギは本当に向こうではポピュラーで、
日本のスーパーで鶏肉が売られているように、パックされて売ってます。
日本だとウサギって高価なので売れないんですが、
向こうはそこまで高くないですし、
普通に食べますね。
yunyantokyo
日本では、ウサギの食材はあまり馴染みがありませんよね。
フレンチを食べに行った時に出てくるお肉、
そんな感じはしていましたけど、
matsui
ジビエとか。
yunyantokyo
日本に
ウサギっているんですか?
matsui
野ウサギがいますね。でもその場は結構肉が赤いので、
もうちょっと癖があったりします。
yunyantokyo
先ほどお話を伺って、
レストランのスタッフにムスリムがいらっしゃって、
その人に配慮して豚肉を使わないで料理を作っていたっていうのが
素敵なエピソードだなと思いました。
イタリアの家族の絆の深さみたいなものを感じることができたんですが、
その辺もう少し何か詳しくお聞かせいただいてもいいですか?
matsui
はい。
その方は洗い場の人なので、仕事で豚肉を口にすることは決してないと思うんです。
ただ、オーナーがそのような細やかな配慮をしている、というのが僕には驚きで、
イタリアにいると、いろんな国の方と働くことが多かったので、
宗教のこととか、日本でしか働いていなかった僕は
あまり、そういうことを考えたこともなかったですし、
ラマダンが明けたら、明日は午後8時13分に夜ご飯を食べなきゃいけないとか、
今日は8時16分だとか、
レストランだと8時ってめちゃくちゃ忙しい時間なんですけど、
忙しい時に「ご飯まだか?」みたいなことを当たり前に言ってくる感じとかが、
それに対して日本だったら「忙しいんだからそんなこと言うなよ」って言われると思うんですけど、
そういうことじゃなく「作ってやれよ」っていう家族思いの感じ、
ちゃんとスタッフの背景のことも考えてる、っていうのを僕が言ってたのって2007年とかなんですけど、
20年近く前でしっかりそれをやれてるっていうのは驚きましたね。
yunyantokyo
やっぱりそういう意味ではやっと日本もそういういろんな多様な文化に対する理解とか、
そういったものがようやくわかり始めたのかなと思うんですけど、
思い出と優しさ
yunyantokyo
イタリアは前からそういうふうにしっかりスタッフの文化とかそういったものを尊重するというカルチュアがあるというのを聞いて、
豊かだなというか文化が豊かだなと思ったりしましたね。
そういう優しさというのが料理にも出てくるんじゃないかなと思いました。
逆に僕なんかで言うとイタリアって家族、絆深いよ。
なかなかそこに受け入れられるまでに時間がかかる、
ゴッドファザーとかじゃないですけど、
家族に入るまでは結構なかなか大変みたいな、
そういう印象もちょっと思っちゃったりしたんです。
それにまつわるようなエピソードとかあったりします?
matsui
逆にいい話だと思うんですけど、
3軒目に働いたトスカーナのお店の時は、
その前に働いてたお店を辞める3日前に
次決まってたんですけど、
そこから連絡が来て、
matsui
他の人間を入れてしまったから来なくていいと連絡が来たんですよ。
僕らって住み込みで働いてるみたいな形だったんで、
仕事なくなると家までなくなるんですよ。
ちょっと困ってたんですよ。
でもお金もなくて、安いホテルで何泊かしてて、
ほぼお金なくて。
その時にいろいろ紹介していただいた
トスカーナのお店のシェフがいて、
僕は家もなかったので、
面接というか話をしようということで行ったんですけど、
家もなかったので、
荷物を全部持っていったんですよね。
トラン、ケース2つとか持って、
リュックとか。
なんでお前面接なのにそんな持ってきたんだって言われて、
いや実はこうでこうでって話したら、
じゃあわかったって言って、
そこのシェフが知り合いのホテルを取ってくれて、
食事もここのお店に行けば
ただでも食えるようにしておいてあげるからって言っておいてくれて、
初対面なのに。
だから面接というか、
もうそのまま働けたっていうか、
働かせてくれて、
でももちろん空きがなかったので、
部屋の玄関みたいなところで、
2、3週間は寝てたんですけど、
でもそうやって用意してくれて、
本当にありがたかったですね。
そういう思い出はすごいありますね。
yunyantokyo
なんかすごい温かい、
本当に優しさみたいなのが伝わるエピソードかなと思いました。
ありがとうございます。
matsui
ありがとうございます。