シリーズの紹介
お便りいただいております。フィッシャーさんからお便りいただきました。ありがとうございます。
個別の言語学者と研究内容にフォーカスしたシリーズをやってほしいです。というリクエストですね。ありがたいですね。
というわけで、今回は言語学者とその思想シリーズ第1弾ということでやっていこうと思います。
今回はロバート・バンバーリン・ジュニアという先生のロール&リファレンスグラマー、RRGと言われる理論について取り上げます。
BGMです。始まりました、志賀十五の壺。皆さんいかがお過ごしでしょうか。忍者リバンバンです。
今回から新しく始まりましたシリーズ、言語学者とその思想ですけども、初回にね、バンバーリンというのが
結構意表をつくというか、意表をつかれたとも思ってない人の方が多いと思いますが、
普通であればというか、とっつきやすいのはもしかしたら
ノーム・チョムスキーであるとか、エドワード・サピアであるとか、あるいはソシュールであるとか、この辺の言語学者から始めるのもいいとは思うんですが、
過去のエピソードでもこの辺りの先生については取り扱ったものが結構あるので、今回はバンバーリンという先生の
ロール&リファレンスグラマー、RRGについてお話しします。
このロール&リファレンスグラマーは比較的新しい理論で、1980年代に生まれた理論と言っていいと思います。
バンバーリンと一緒にフォーリーという先生も教授でロール&リファレンスグラマー、RRGの理論を組み立てていて、
ちょっとマニアックな話ですけど、フォーリー&バンバーリンの1984年の
ファンクショナルシンタックス&インニバーサルグラマーっていうのが多分スタートで、その後90年代に入ってバンバーリン&ラポーラの強調で、
シンタックスっていうケンブリッジから出たものがあるんですよね。この辺りが多分RRGの基礎となったもので、
あと2005年にバンバーリンの短著で出たRRGの教科書的なものがあるんですけど、
ですのでロール&リファレンスグラマー、RRGはバンバーリン先生だけではなくて、フォーリーとかラポーラという先生も関わってはいるんですけど、
代表者としてここではバンバーリンを取り上げようと思います。
RRGの理論
このロール&リファレンスグラマー、RRGというのは文法理論で、
理論の枠組みというかね、目的としては世界中のあらゆる言語を記述するための理論という感じなんですよね。
どうしても今までの言語理論っていうのは英語中心というか、あるいは西洋中心、ヨーロッパ中心の考え方が主流で、
もしかしたらそれに対するアンチ定勢的なところがRRGにはあるかもしれません。
目指しているところは生成文法とRRGは一緒かもしれないんですけど、その生成文法も普遍文法というか、
あらゆる言語を統一的に記述するっていうのがある意味一つの目標なんですけど、
言語能力としては人間は同じものを持っているんだから、
いろんな言語を研究しなくても一つの言語だけ研究していれば真理にたどり着けるっていうのが、極端な言い方するとそれが生成文法の考え方なんですよね。
それだとやっぱり漏れがあるっていうか、どうしてもうまく説明できないものが当然あるので、
英語にはない現象っていうのが世界のあらゆる言語には当然見られるわけですから、そういった言語を記述するための枠組みがRRGです。
当然英語以外の少数言語、話者数が少ない言語、いわゆるエキゾチックな言語もたくさんRRGでは扱うんですよね。
で、RRGでは一見生成文法の樹形図に見えるような図を書くんですけど、それは生成文法の樹形図ツリーとは全然違って、
生成文法だとちょっと深く入り込めませんけど、Xバー理論とか、あるいはバイナリープリンシップルといって、
言語の構造っていうのは2つに2つに分かれていくっていうような考え方が基本としてあるんですよね。
今回は生成文法の話じゃないので、その辺は一旦置いといて、
RRGではどのように考えるかというと、 述語を中心としてどんどん文が包み込まれていくというか、
玉ねぎ的に階層を成していくっていうのがRRGの考え方です。
これは日本の言語学者の南藤雄の理論とすごく近いと僕は思ってるんですけど、
だから日本語とRRGっていうのはかなり相性がいいと思うんですよね。
RRGの専門用語で言うと、一番真ん中にある、その文のど真ん中にある中心的なものをニュークリアスと言います。
これは典型的には動詞ですね。述語と言っていいんですけど、典型的には動詞。
食べる。これが文の中心。 その外側に
コアというのが想定されます。これはさっきの動詞に主語や目的語が追加されたような、
ちょっと膨らんだ状態ですね。 私が魚を食べる。
これがコアです。 そのさらに上にクローズと言われるものがあって、
これは一般的にも節と言われるものですけど、これは周辺的な要素も加わった単位です。
今日、家で私が魚を食べる。これが節と言われるものです。 食べるっていうのが一番ニュークリアスで中心としてあって、そこに主語や目的語が
加わってコアになり、周辺的な要素が加わってクローズになる。 こういった玉ねぎ的な構造をRRGでは想定します。
それぞれの段階、単位、ニュークリアス、コア、クローズに
作用するというか、働きかけるオペレーターというものがRRGでは想定されて、
例えばアスペクト、進行、あるいは完了みたいなものはニュークリアスにかかっていく、作用すると考えられています。
それに対して点数、過去とか未来っていうのはクローズに作用するっていうふうに考えるんですね。
この辺の考え方はさっきも言ったように南富士丘の4段階仮説と言われるものに本当に近いなと思うんですけど、
南富士丘についても関連エピソードがあるのでそちらも合わせて聞いていただけたらと思います。
RPの概念
ここで重要なのは文というのは ニュークリアス、述語が中心としてあって、そこからだんだん
包み込むようにして広がりを持っていく。それぞれに働きかける オペレーターというものがRRGでは想定されるということです。
この辺りの話は副文を考えるときにも重要で、 2つの単位が並んで出るときに、それはニュークリアスレベルでつながっているのか
コアレベルなのかクローズレベルなのかっていうふうに RRGでは分けて考えるんですね。
RRGの特徴として面白いのはRPというものです。
RPはこれはリファレンスフレーズの略で、 これは普通NPと言われます。
特に生成文法だとNPと言われるもので、これはナンフレーズの略ですね。 日本語風に言えば名詞句です。
名詞句というのは大きい犬とかいうものですね。 大きい犬という句は大きいという形容詞と犬という名詞とあるわけですけど、
全体として名詞と同じように振る舞うので、 大きい犬というのは名詞句と呼ばれます。
生成文法でもそのように考えて、 名詞句の中身は普通名詞があるっていうふうに考えるんですよね。
特にこれをヘッドネスプリンシプルっていうこともあるんですけど、 まあそれが前提になっているところが生成文法ではあります。
NP、ナンフレーズの中身はナウンである。 ただそうではない言語もあるんですね。
ある句が名詞と同じように機能している、その意味では名詞句なんですけど、 その中身は必ずしも名詞とは限らない。
そういう言語もあります。 具体的に言うとタガログ語なんかがRRGでは想定されていて、
日本語風に言うと、 走るを見たみたいに、走るみたいな動詞がそのまま名詞っぽく使われる。
名詞化することなしにそのまま名詞句っぽく振る舞うことがあるんですね。 言語によってはそういうのがあります。
そうなると、これはナンフレーズとは呼びづらいので、 その代わり、RP、リファレンスフレーズと名付けています。
ここがアンチ生成文法的なところがあって、 英語みたいな言語だったらナンフレーズの中身は当然ナウン。
そういう、専門的にはエンドセントリックという言い方しますけど、 そういうエンドセントリックな構造が普通なんですけど、
そうじゃない言語も統一的に記述しようとするんだったら、 NPじゃなくてRPの方がいいんじゃないかというのが
RRG、ロールリファレンスグラマーの主張の一つです。 いわゆるマイナーな言語、エキゾチックな言語を含めて、
言語の多様性を記述するためにRRGは考案されました。 非常に若い理論と言っていいと思います。
興味のある方は概要欄のURLなどを見てください。 それではまた次回のエピソードでお会いいたしましょう。
このシリーズ、言語学者とその思想シリーズは月1ぐらいでね、できたらいいかなと思います。
番組フォローもぜひよろしくお願いします。 お相手はシガ15でした。
またねー!