1. 志賀十五の壺【10分言語学】
  2. #91 太宰治『走れメロス』朗読..
2020-05-22 07:48

#91 太宰治『走れメロス』朗読 1/4 from Radiotalk

#落ち着きある #朗読 #小説

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00:01
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を覗かなければならぬと決意した。
メロスには政治がわからぬ。メロスは村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らしてきた。けれども邪悪に対しては人一倍に敏感であった。
興味めい、メロスは村を出発し、農を越え山を越え、十里離れたこのシラクスの市にやってきた。
メロスには父も母もない、女房もない、十六の内気の妹と二人暮らした。
この妹は村のある律儀な一牧人を近々花婿として迎えることになっていた。
結婚式も間近なのである。
メロスはそれゆえ、花嫁の衣装やら祝縁の御馳走やらを買いに、はるばる市にやってきたのだ。
まずその品々を買い集め、それから都の王子をぶらぶら歩いた。
メロスには筑波の友があった。
セティヌンティウスである。
今はこのシラクスの市で石工をしている。
その友をこれから尋ねてみるつもりなのだ。
久しく会わなかったのだから、尋ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにメロスは町の様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もうすでに日も落ちて、町の暗いのは当たり前だが、けれどもなんだか夜のせいばかりではなく、市全体がやけに寂しい。
のんきなメロスもだんだん不安になってきた。
道で会った若い衆をつかまえて、何かあったのか。
二年前にこの市に来たときは、夜でも皆が歌を歌って、町はにぎやかであったはずだがと質問した。
若い衆は首を振って答えなかった。
しばらく歩いて牢屋に会い、今度はもっと語声を強くして質問した。
牢屋は答えなかった。
メロスは両手で牢屋の体をゆすぶって質問を重ねた。
牢屋はあたりをはばかる訂正で、わずか答えた。
王様は人を殺します。
なぜ殺すのだ。
悪心を抱いているというのですが、誰もそんな悪心を持ってはおりません。
たくさん人を殺したのか。
はい。
はじめは王様の妹婿様を。
それからご自身のごよ次を。
それから妹様を。
それから妹様のお子様を。
それから皇后様を。
それから献身の荒歴史様を。
おどろいた。
国王は乱心か。
いいえ、乱心ではございませぬ。
人を信ずることができぬというのです。
このごろは親家の心をもお疑いになり、少しく派手な暮らしをしている者には人質一人ずつ差し出すことを命じております。
ご命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。
03:00
きょうは六人殺されました。
聞いてメロスは激怒した。
あきれた王だ。
生かしておけぬ。
メロスは単純な男であった。
買物を背負ったままでのそのその王城に入って行った。
たちまち彼は巡らの経理に捕ばくされた。
調べられてメロスの懐中から探検が出てきたので騒ぎが大きくなってしまった。
メロスは王の前に引き出された。
この担当で何をするつもりであったか。
いいえ。
暮君ディオニウスは静かにけれども威勢をもってそいつめた。
その王の顔は蒼白で、眉間の皺は刻みこまれたように深かった。
死を暮君の手から救うのだ。
とメロスは悪びれずに答えた。
お前がか。
王はびんしょうした。
仕方のない奴じゃ。
お前にはわしの孤独がわからぬ。
言うな。
とメロスは生きりたって反駁した。
人の心を疑うのは最もはずべき悪徳だ。
王は民の忠誠をさえ疑っておられる。
疑うのが正当な心構えなのだとわしに教えてくれたのはお前たちだ。
人の心はあてにならない。
人間はもともと支援の塊さ。
信じてはならぬ。
暮君は落ち着いてつぶやき、ほっとため息をついた。
わしだって平和を望んでいるのだが。
何のための平和だ。
自分の地位を守るためか。
今度はメロスが嘲笑した。
罪のない人を殺して何が平和だ。
だまれ下賤のもの。
王はさっと顔をあげて報いた。
口ではどんな凶ろかのことでも言える。
わしには人の腹渡の奥底が見えすいてならぬ。
お前だって今に張り付けになってから泣いてわびたって聞かぬぞ。
ああ王は利口だ。
うぬぼれているがよい。
わたしはちゃんと死ぬる覚悟でいるのに。
いのち恋など決してしない。
ただ、と言いかけて、メロスは足下に視線を落とし、瞬時ためらい。
ただ、わたしに情けをかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日元を与えて下さい。
たった一人の妹に弟子を持たせてやりたいのです。
三日のうちにわたしは村で結婚式をあげさせ、必ずここへ帰って来ます。
「ばかな。」
と王くんはしわがれた声で低く笑った。
とんでもない嘘を言わえ、逃がした小鳥が帰って来るというのか。
そうです。
帰って来るのです。
メロスは必死で言い張った。
わたしは約束を守ります。
わたしを三日間だけ許して下さい。
妹がわたしの帰りを待っているのだ。
そんなにわたしを信じられないならば。
よろしい。
この市にセルネンティウスという石膏がいます。
06:01
わたしの無二の友人だ。
あれを人質としてここに置いて行こう。
わたしが逃げてしまって三日目の日暮れまでここに帰って来なかったら、あの友人をしめ殺して下さい。
頼む。
そうして下さい。
それを聞いて王は残虐な気持でそっとほくそげんだ。
生意気なことを言わえ。
どうせ帰って来ないに決まっている。
この嘘つきにだまされたふりして話してやるのも面白い。
そうして身代わりの男を三日目に殺してやるのも気味がいい。
人はこれだから信じられぬとわしは悲しい顔して、その身代わりの男をたっけいに処してやるのだ。
世の中の正直者とかいうやつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。
願いを聞いた。
その身代わりを呼ぶがよい。
三日目には日没までに帰って来い。
遅れたらその身代わりをきっと殺すぞ。
ちょっと遅れて来るがいい。
おまえの罪は永遠に許してやろうぞ。
何?
何をおっしゃる?
はっはっ。
命が大事だったら遅れて来い。
おまえの心はわかっているぞ。
メロスは口をしく。
じだんだ踏んだ。
ものも言いたくなくなった。
チクバの友セルヌンティウスは深夜王城に召された。
暴君ディオニスの面前で良き友と良き友は二年ぶりに会いを負った。
メロスは友に一切の事情を語った。
セルヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめた。
友と友の間はそれでよかった。
セルヌンティウスは縄打たれた。
メロスはすぐに出発した。
諸賀満天の星である。
07:48

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