1. 志賀十五の壺【10分言語学】
  2. #92 太宰治『走れメロス』朗読..
2020-05-22 08:41

#92 太宰治『走れメロス』朗読 2/4 from Radiotalk

#落ち着きある #朗読 #小説

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00:01
メロスはその夜、一睡もせず、十里の道を急ぎに急いで、村へ到着したのはあくる日の午前。
日は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事を始めていた。
メロスの十六の妹も、きょうは兄の代わりに傭軍の番をしていた。
よろめいて歩いて来る兄の疲労困敗の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
何でもない。
メロスは無理に笑おうと勤めた。
死に用事を残して来た。
またすぐ死に行かなければならぬ。
あす、お前の結婚式をあげる。
早いほうがよかろう。
妹は顔をあからめた。
嬉しいか。
きれいな衣装も買って来た。
さあ、これから行って村の人たちに知らせて来い。
結婚式はあすだと。
メロスはまたよろよろと歩き出し。
家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝縁の席を整え、
間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
目が覚めたのは夜だった。
メロスは起きてすぐ花婿の家を訪れた。
そうして少し事情があるから、結婚式をあすにしてくれと頼んだ。
婿の牧人は驚き、
それはいけない。
こちらにはまだ何の施策もできていない。
ぶどうの季節まで待ってくれと答えた。
メロスは、
待つことはできぬ。
どうかあすにしてくれたまえとさらに押して頼んだ。
婿の牧人も頑強であった。
なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論を続けて、やっとどうにか婿をなだめすかして時伏せた。
結婚式は真昼に行われた。
新郎新婦の神々への宣誓がすんだころ、
黒雲が空を覆いぽつりぽつり雨が降りだし、
やがて車軸を流すような大雨となった。
宿縁に列席していた村人たちは何か不吉なものを感じたが、
それでもめいめい気持ちを引き立て、
狭い家の中でむんむん虫熱いのもこらえ、
陽気に歌をうたい手を打った。
メロスもまんめんに喜色をたたえ、
しばらくは王とのあの約束をさえ忘れていた。
宿縁は夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、
人々は外の豪雨を全く気にしなくなった。
メロスは一生このままここにいたいと思った。
この良い人たちと生涯暮らして行きたいと願ったが、
今は自分の体で、自分のものではない。
ままならぬことである。
メロスはわが身にムチ打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までにはまだ十分の時間がある。
ちょっとひと眠りして、それからすぐに出発しようと考えた。
03:01
そのころには雨も小ぶりになっていよう。
少しでも長くこの家にぐずぐずとどまっていたかった。
メロスほどの男にもやはり未練の情というものはある。
今宵傍然、寒気に酔っているらしい花嫁に近寄り。
おめでとう。
私は疲れてしまったから、ちょっと御免こうむって眠りたい。
目が覚めたらすぐ死に出かける。
大切なようがあるのだ。
私がいなくても、もうお前には優しい弟子があるのだから、決してさみしいことはない。
お前の兄の一番嫌いなものは、人を疑うこととそれから嘘をつくことだ。
お前もそれは知っているね。
弟子との間にどんな秘密でも作ってはならぬ。
お前に言いたいのはそれだけだ。
お前の兄は多分えらい男なのだから、お前もその誇りを持っていろ。
花嫁は夢見心地でうなずいた。
メロスはそれから花嫁の肩をたたいて、
したくのないのはお互い様さ。
私の家にも宝といっては妹と羊だけだ。
ほかには何もない。
全部あげよう。
もう一つ、メロスの弟になったことをほごってくれ。
花嫁はもみてして照れていた。
メロスは笑って村人たちにも委釈して、
遠赤から立ち去り、羊小屋に潜り込んで死んだように深く眠った。
目が覚めたのはあくる日の白目の頃である。
メロスは羽起き。
ナムさん、寝過ごしたか。
いやまだまだ大丈夫。
これからすぐに出発すれば約束の刻限までには十分間に合う。
今日は是非ともあの王に人の真実の損するところを見せてやろう。
そうして笑って貼り付けの台に昇ってある。
メロスは悠々と身支度を始めた。
雨も幾分小振りになっている様子である。
身支度はできた。
さて、メロスはブルンと両腕を大きく振って、
宇宙、矢のごとく走り出た。
私は今宵殺される。
殺されるために走るのだ。
身代わりの友を救うために走るのだ。
王の寛寧邪智を打ち破るために走るのだ。
走らなければならぬ。
そうして私は殺される。
若い時から名誉を守れ。
さらば故郷。
若いメロスはつらかった。
幾度か立ち止まりそうになった。
えいえいと大声を上げて自信を叱りながら走った。
村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、
雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなってきた。
メロスは額の汗を拳で払い、
ここまで来れば大丈夫。
もはや故郷への未練はない。
妹たちはきっと良い夫婦になるだろう。
私には今何の気がかりもないはずだ。
まっすぐに王城に行き着けばそれで良いのだ。
06:02
そんなに急ぐ必要もない。
ゆっくり歩こう。
と、持ち前の呑気さを取り返し、
好きな小歌をいい声で歌いだした。
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、
そろそろ禅里邸の中場に到達した頃、
降って湧いた災難。
メロスの足は旗と止まった。
見よ前方の川を。
昨日の豪雨で山の水源地は氾濫し、
濁流とうとうと火流に集まり、
猛勢一挙に橋を破壊し、
堂々と響きを上げる激流が、
琴っ端みじんに橋桁を跳ね飛ばしていた。
彼は呆然と立ちすくんだ。
あちこちと眺め回し、
また声を限りに呼び立ててみたが、
景州は残らず波にさらわれて、
影なく渡森の姿も見えない。
流れはいよいよ膨れ上がり、
海のようになっている。
メロスは川岸にうずくまり、
男泣きに泣きながら、
ゼウスに手を挙げて哀願した。
ああ沈めたまえ、
あれ狂う流れを、
時は刻々に過ぎてゆきます。
太陽もすでに真昼時です。
あれが沈んでしまうのうちに、
王城に行き着くことができなかったら、
あのよい友達が私のために死ぬのです。
濁流はメロスの叫びをせせら笑うごとく、
ますます激しく踊り狂う。
波は波を呑み、
巻き、
煽り立て、
そうして時は刻一刻と消えてゆく。
今はメロスも覚悟した。
泳ぎ切るより他にない。
ああ神も生乱あれ、
濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、
今こそ発揮してみせる。
メロスはざんぶと流れに飛び込み、
百匹の大蛇のようにのたうちあれ狂う波を相手に、
必死の闘争を開始した。
満身の力を腕に込めて、
押寄せ渦巻き引きずる流れを何の懲れしきと掻き分け掻き分け、
めくらめっぽしし粉塵の人のこの姿には、
神も哀れと思ったかついに憐憫をたれてくれた。
押し流されつつも見事、
対岸の樹木の幹にすがりつくことができたのである。
ありがたい。
メロスは馬のように大きな動物類を一つして、
すぐにまた先を急いだ。
一刻といえども無駄にはできない。
日忘れに西に傾きかけている。
ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠を登り、
登り切ってほっとしたとき、
突然、
目の前に一体の山賊が踊り出た。
08:41

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