1. 志賀十五の壺【10分言語学】
  2. #93 太宰治『走れメロス』朗読..
2020-05-23 07:06

#93 太宰治『走れメロス』朗読 3/4 from Radiotalk

#落ち着きある #朗読 #小説
「ひちょうのごとく」ですね。
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00:00
「待て、何をするのだ。私は日の静まぬうちに王城へ行かねばならぬ。話せ、どっこい話さぬ。持物全部置いてけ。私には命のほかには何もない。そのたった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。その命が欲しいのだ。さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだが。」
三賊たちは物も言わず一斉に金棒を振り上げた。メロスはひょいと体を折り曲げ、あすかのごとく身近の一人に襲いかかり、その金棒を奪い取って、気のぞくだが正義のためだと、猛善一撃、たちまち三人を殴り倒し、残る者の怯む隙に、さっさと走って峠を下った。
一気に峠を駆け下りたが、さすがに疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともにかっとてって来て、メロスはいくどとなくめまいを感じ、これではならぬと気を取り直しては、よろよろ二三歩歩いて、ついにがくりと膝を負った。
立ち上ることができぬのだ。
天を仰いで、悔し泣きに泣き出した。
ああああ、濁流を泳ぎ切り、三賊を三人も打ち倒しいたてん。
ここまで突破してきたメロスよ、真の勇者メロスよ、今ここで疲れ切って動けなくなるとは情けない。
愛する友はお前を信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
お前は期待の不審の人間、まさしく王の思う壺だぞと、自分を叱ってみるのだが、全身なえて、もはや芋虫ほどにも全身かなわぬ。
道端の草原にごろりと寝転がった。
身体疲労すれば精神も共にやられる。
もうどうでもいいという、勇者に不似合いな不適された根性が心の隅にすくった。
私はこれほど努力したのだ。
約束を破る心はみじんもなかった。
神も生乱、私は精一杯に努めてきたのだ。
動けなくなるまで走ってきたのだ。
私は不審の人ではない。
ああ、できることなら私の胸を立ちわって、深苦の心臓をお目にかけたい。
愛と真実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。
けれども私はこの大事な時に、
精も根も尽きたのだ。
私はよくよく不幸な男だ。
私はきっと笑われる。
私の一家も笑われる。
私は友を欺いた。
中途で倒れるのは始めから何もしないのと同じだ。
ああ、もうどうでもいい。
これが私の定まった運命なのかもしれない。
セルネントゥースよ、許してくれ。
君はいつでも私を信じた。
私も君を欺かなかった。
私たちは本当に良い友と友であったのだ。
03:02
一度だって、
暗い疑惑の雲をお互い胸に宿したことはなかった。
今だって君は私を無心に待っているだろう。
ああ、待っているだろう。
ありがとう、セルネントゥースよ。
よくも私を信じてくれた。
それを思えばたまらない。
友と友の間の真実は、この世で一番誇るべき宝なのだからな。
セルネントゥースよ、私は走ったのだ。
君を欺くつもりは未尽もなかった。
信じてくれ。
私は急ぎに急いでここまで来たのだ。
落流を突破した山賊の囲みからもするりと抜けて、一気に峠を駆け下りて来たのだ。
私だから出来たのだよ。
ああ、この上、私に望み給うな。
放っておいてくれ。
どうでもいいのだ。
私は負けなのだ。
だらしがない。
笑ってくれ。
王は私にちょっと遅れて来いと耳打ちした。
遅れたら身代わりを殺して私を助けてくれると約束した。
私は王の比率を憎んだけれども、今になってみると私は王の言うままになっている。
私は遅れて行くのだろう。
王は独り勝手にして私を笑い、そうしてこともなく私を訪問するだろう。
そうなったら私は死ぬよりつらい。
私は永遠に裏切り者だ。
地上で最も不名誉な人種だ。
セルヌンティウスよ、私も死ぬぞ。
君と一緒に死なせてくれ。
君だけは私を信じてくれるに違いない。
いや、それも私の独り上がりか。
ああ、もう一粒悪徳者として生き延びてやろうか。
村には私の家がある。
羊もいる。
妹夫婦はまさか私を村から追い出すようなことはしないだろう。
正義だの、真実だの、愛意だの、考えてみればくだらない。
人を殺して自分が生きる。
それが人間世界の情報ではなかったか。
ああ、何もかも馬鹿馬鹿しい。
私は醜い裏切り者だ。
どうとも勝手にするがよい。
やんぬるかな。
獅子を投げ出して、うとうとまどろんでしまった。
ふと耳にせんせん水の流れる音が聞こえた。
そっと頭をもたげ、息をのんで耳をすました。
すぐ足下で水が流れているらしい。
よろよろ起き上がってみると、岩の裂け目からこんこんと何か小さくささやきながら、しみずが湧き出ているのである。
その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。
水を両手ですくって一口飲んだ。
ほーっと長いため息が出て、夢からさめたような気がした。
歩ける。
行こう。
肉体の疲労回復とともに、わずかながら希望が生まれた。
義務遂行の希望である。
我が身を殺して名誉を守る希望である。
06:00
斜陽は赤い光を木々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
日没までにはまだ間がある。
私を待っている人があるのだ。
少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
私は信じられている。
私の命などは問題ではない。
死んでおわび、などと気のいいことは言っておられぬ。
私は信頼に報いなければならぬ。
今はただその一時だ。
走れ、メロス。
私は信頼されている。
私は信頼されている。
さっきのあの悪魔のささやきは、あれは夢だ、悪い夢だ。
忘れてしまえ。
小僧が疲れている時は、ふいとあんな悪い夢を見るものだ、メロス。
おまえのはじではない。
やはりおまえは真の勇者だ。
再び立って走れるようになったではないか。
ありがたい。
私は正義の死として死ぬことができるぞ。
ああ、日が沈む、ずんずん沈む。
待ってくれ、ゼウスよ。
私は生まれた時から正直な男であった。
正直な男のまま、死なせて下さい。
私は正直な男のまま、死なせて下さい。
07:06

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