喉音理論の概要
以前のエピソード、シャープ703で、陰陽祖語の音韻体系、ソシュールの口音理論というエピソードを配信しております。
今回のエピソードは、そのソシュールの口音理論をもうちょっとだけ掘り下げようと思います。
口音というのは喉の音と書いて、そもそも陰陽祖語というのはインド・ヨーロッパ祖語の日本語訳みたいな感じでね。
要は、英語やドイツ語、フランス語、イタリア語、そういったヨーロッパの言語、さらにはヒンディー語、ウルドゥ語、ペルシャ語などのインドやイランなどの言語の祖先の言語、
それをインド・ヨーロッパ祖語、ないし陰陽祖語と呼んでおります。
口音理論というのは、そのインド・ヨーロッパ祖語、陰陽祖語に喉を使った発音の音があったと考える理論です。
それがまあソシュールが指摘したわけですけど、ソシュールのすごいところは、現在話されているインド・ヨーロッパ語族の言語、ヨーロッパであれ西アジアであれ、
現在話されている言語にはその喉を使った発音の痕跡っていうのはないんですが、理論上、理屈の上では祖語にはそういった発音があっただろうと主張したことです。
口音というのは喉の音なので、具体的にはHの音、ハーみたいな音だったと考えられています。
そのHみたいな音自体は、いかなる言語にも残ってないんですが、じゃあソシュールはどうやってそのHみたいな口音というものを予測したんでしょうか。
BGMです。
始まりました4月15日のツボ。皆さんいかがお過ごしでしょうか。渋谷区大型デパート横瀬夫です。
ソシュールの時代の言語学というのは、すなわち比較言語学、ないし歴史言語学で、インドヨーロッパ祖語の再建っていうのが主な目的というか目標でした。
インドヨーロッパ祖語には古典語がたくさんあるので、つまり文献として残っている古い時代の言語があるんですよね。
ラテン語、ギリシャ語、サンスクリット、こういった言語は当然現在話されている言語よりも祖語に近いだろうと考えられます。
そういったギリシャ語とかラテン語とかサンスクリットとか、そういった古典語の特徴として屈折語ということがよく指摘されます。
それと合わせて母音交代というのも古典語に結構特徴的で、なのでインドヨーロッパ祖語にもそういった母音交代というのが重要な役割を担っていたと考えられました。
母音交代っていうのは、その名の通り母音が交代することでいろんな役割を果たすっていうようなことですが、英語にもあります。
英語だと例えば足のfootっていうのは複数形がfeetですよね。これは母音が交代することで複数性を表しています。
同じことは歯のね、toothとteethも同様ですけど、英語の複数形っていうのは、
まあいわゆる普通のっていうかね、大多数のものはsをつければ、つづりの上でsをつければ複数形になるんですが、
ものによっては足とか歯みたいに母音交代によって複数を表します。
あるいは不規則動詞と英語で言われているものも母音交代によるものがあります。
これも規則的なものであれば、つづりの上でedっていうのをつければ、
過去形ないし過去分詞形になるわけですよね。 like, liked, liked みたいに。ただ皆さんね、英語の授業で覚えたと思いますけど、
母音が交代することによって過去形や過去分詞形を表すというものもあります。
sing、歌う、だったらsing, sang, sung っていう風に母音が変わるし、
teach、教えるっていうのもteach, taught, taught っていう風に、eとoで母音が交代して過去形や過去分詞形になっています。
英語のいわゆる不規則動詞と同様に、引用祖語でも動詞の母音交代によって
現在形とか過去分詞形っていうのが派生されていたっていうところまで推定されていたんですね。
これもなかなかすごいですよね。 その言語の音だけではなくて、動詞の活用、動詞だけではなくて名詞の変化とかも含めて
引用祖語の再建っていうのはソシウルの時代は進められていました。 もうちょっと具体的に言うと、
引用祖語では、動詞の現在形にはaという母音が出てきて、
過去分詞形には母音が出てこないっていうような、 そういった母音交代が推定されていました。
この母音が出てこないっていうのはちょっと妙な気がしますけど、 ただ、子音が母音の代わりをするっていうようなことが
あり得ます。それは引用祖語に限った話ではありません。 またちょっと英語の例ですけど、英語だと例えばlの音が
ソシュールの理論の正当性
母音の代わりをすることがあります。 ボトルっていうね、bottleっていう最後のlは
これは母音的に機能しているということができるんですね。 母音的に機能しているっていうのは、つまり音節の中心になるっていうことなんですけど、
このボトルについての話というか、真が母音っぽく振る舞うっていうような エピソードも関連エピソードがあるので、そちらをぜひ聞いてください。
で、話をまとめますと、引用祖語では、 動詞の現在形はaという母音が出てきて、過去分詞形では母音が出てこずに
真が母音の代わりをするような、まあそういった母音交代だったと考えられているんですね。
ただ、この現在形と過去分詞形で母音がaと0に交代するという、このパターンに沿わない動詞っていうのもあります。
一つは長母音のaと短母音のaが現在形と過去分詞形で対応しているのと、もう一つは同じく長母音のoと短母音のoで現在形過去分詞形で対応しているパターンと。
この2つがaと0という母音交代パターンに従ってないんですよね。
普通だったら、引用祖語の母音交代のパターンっていうのに大きく2つあって、
1つは現在形でaが出てきて過去分詞形に0が出るというパターン。
で、もう1個は現在形で長母音が出て、過去分詞形で短母音が出る。
それにaとa、oとoという2つあるっていうふうにね。そういうふうに考えても良さそうなとこなんですけど、
ソシュールのすごいところは、この長母音と短母音の現在形と過去分詞形の母音交代もaと0の対応に遡れるというふうに考えたことです。
これは普通はそういう発想にはならないと思います。
aとa、oとo、どちらも本当はaと0の母音交代で、
実は引用祖語にはaという母音をaとかoという発音に変える、
そういった働きを持ったシーンがあったと想定したんですね。で、そのシーンが口音と言われるものです。
つまり、現在形でaとなっているのは、aプラスhみたいな音で、それがaという長母音に変わっちゃったと。
過去分詞形で0が現れるところでaというのが出てきているのは、本当はaじゃなくてこれもhみたいな口音で、
それが隣接する母音がない時に自ら母音となることでaとなっているというふうにソシウルは考えたんですね。
で、oの方も同様で、これは別の口音だったと考えられて、
aプラスhみたいなのがこっちの口音ではoという長音になって、
で、過去分詞形ではこれも同様に隣接する母音がないので自ら母音になってoとなったと。
そういうふうに考えて、一見不規則に見える長母音と短母音の現在形過去分詞形の対応も、
起源を遡ればaプラス口音。 で、それが長音に変わっちゃって、
過去分詞形の方も母音はなくて、 つまり0で、
そこにあるのは親音である口音だったんですけど、それが自ら母音の代わりをすることでaとかoになっていると。
ソシウルはそう考えたんですが、 ただ、
そういった口音、hみたいな音はインドヨーロッパ語俗のどの言語にもなかったんですね。古典語にすらなかったです。
確かにそういう口音というのを想定して、で、そいつのせいで母音の長短とか音色の質が変わってるっていうふうに考えれば、
全部動詞の変化形母音交代はa0で説明はできるんですけど、ただその証拠は、
直接的な証拠はなかったんですが、
ただ後になって、例えば筆体と語みたいな言語が発見されると、 そのソシウルの指摘した h みたいな口音が確かにあったんですね。
ですのでソシウルの指摘っていうのは、 正しかったということです。
ぜひね、今回のエピソードは、まあ関連エピソードいくつかありますけど、 ぜひシャープ703と一緒に聞いていただけたらと思います。
それではまた次回のエピソードでお会いいたしましょう。 番組フォローも忘れずよろしくお願い致します。
お相手はシガ15でした。