1. 志賀十五の壺【10分言語学】
  2. #74 宮沢賢治『注文の多い料理..
2020-05-06 08:22

#74 宮沢賢治『注文の多い料理店』朗読 2/2 from Radiotalk

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少し行きますとまた戸があって、その前にガラスの壺が一つありました。 戸にはこう書いてありました。
壺の中のクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。 見ると確かに壺の中のものは牛乳のクリームでした。
クリームを塗れというのはどういうんだ? これはね外が非常に寒いだろう。
部屋の中があんまり暖かいとヒビが切れるからその予防なんだ。 どうも奥にはよほど偉い人が来ている。
こんなとこで案外僕らは貴族と近づきになれるかもしれないよ。 2人は壺のクリームを顔に塗って手に塗って、それから靴下を脱いで足に塗りました。
それでもまだ残っていましたから、それは2人ともめいめいこっそり顔に塗るふりをしながら食べました。
それから大急ぎで戸を開けますと、その裏側には クリームをよく塗りましたか?耳にもよく塗りましたか?
と書いてあって小さなクリームの壺がここにも置いてありました。 そうそう僕は耳には塗らなかった。
危なく耳にヒビを切らすとこだった。 ここの主人は実に用意周到だね。
ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。 ところで僕は早く何か食べたいんだが、どうもこうどこまでも廊下じゃ仕方ないね。
するとすぐその前に次の戸がありました。 料理はもうすぐできます。15分とお待たせはいたしません。
すぐ食べられます。 早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。 二人はその香水を頭へパチャパチャ振りかけました。
ところがその香水はどうも酢のような匂いがするのでした。 この香水は変に酢臭い。どうしたんだろう?
間違えたんだ。下嬢が風邪でもひいて間違えて入れたんだ。 二人は戸を開けて中に入りました。
戸の裏側には大きな字でこう書いてありました。 いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
もうこれだけです。どうか体中に壺の中の塩を たくさんよく揉み込んでください。
なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、 今度という今度は二人ともギョッとしてお互いにクリームをたくさん塗った顔を見合わせました。
どうもおかしいぜ。 僕もおかしいと思う。
たくさんの注文というのは向こうがこっちへ注文してるんだよ。 だからさ、西洋料理店というのは僕の考えるところでは
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西洋料理を来た人に食べさせるのではなくて、 来た人を西洋料理にして食べてやるうちとこういうことなんだ。
これはそのつつつつつまり、ぼぼぼくらが、
ガタガタガタガタ震えだしてもう物が言えませんでした。 そのぼぼくらが、
うわぁ! ガタガタガタガタ震えだしてもう物が言えませんでした。
逃げ! ガタガタしながら一人の紳士は後ろの塔を襲おうとしましたが、
どうです、塔はもう一部も動きませんでした。 奥の方にはまだ一枚塔があって、大きな鍵穴が2つ付き、銀色のホークとナイフの形が切り出してあって、
いや、わざわざご苦労様です。大変結構にできました。 さあさあお腹にお入りください、と書いてありました。
おまけに鍵穴からはキョロキョロ2つの青い目玉がこっちを覗いています。 うわぁ!
ガタガタガタガタ。 うわぁ!
ガタガタガタガタ。 2人は泣き出しました。
すると、塔の中ではこそこそこんなことを言っています。
ダメだよ、もう気がついたよ。死を揉み込まないようだよ。 当たり前さ。親分の書きようがまずいんだ。
あそこへいろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でしたなんて招けたことを書いたもんだ。
どっちでもいいよ。どうせ僕らには骨も分けてくれやしないんだ。 それはそうだ。けれども、
もしここへあいつらが入ってこなかったらそれは僕らの責任だぜ。 呼ぼうか、呼ぼう。
おいお客さん方、早くいらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい。 お皿も洗ってありますし、ナッパももうよく塩で揉んでおきました。
あとはあなた方とナッパをうまく取り合わせて真っ白なお皿に乗せるだけです。 早くいらっしゃい。
へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌いですか? そんならこれから火を起こしてフライにしてあげましょうか。
とにかく早くいらっしゃい。 二人はあんまり心を痛めたために顔がまるでくしゃくしゃの紙くずのようになり、お互いにその顔を見合わせ
ブルブル震え、声もなく泣きました。 中ではフフフと笑ってまた叫んでいます。
いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いてはせっかくのクリームが流れるじゃありませんか。 へい、ただいま。時期持ってまいります。
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さあ早くいらっしゃい。 早くいらっしゃい。
お館がもうナフキンをかけてナイフを持って下がめずりをしてお客様方を待っていられ ます。
二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。 その時後ろからいきなりワンワングワー
という声がしてあの白雲のような犬が2匹、 塔を突き破って部屋の中に飛び込んできました。
鍵穴の目玉はたちまちなくなり犬どもはウーと唸ってしばらく部屋の中をくるくる回っていましたが、
また一声ワンと高く吠えていきなり次の扉に飛びつきました。 塔はガタリと開き犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。
その扉の向こうの真っ暗闇の中で、 ニャーオ、コワー、ゴロゴロという声がして、それからガサガサ鳴りました。
部屋は煙のように消え、二人は寒さにブルブル震えて草の中に立っていました。 見ると上着や靴や財布やネクタイピンはあっちの枝にぶら下がったりこっちの根元に散らばったりしています。
風がドーッと吹いて、草はザワザワ、木の葉はカサカサ、木はゴトンゴトンと鳴りました。
犬がフーと唸って戻ってきました。 そして後ろからは、
「旦那!旦那!」と叫ぶものがあります。 二人はにわかに元気がついて、
「おいおい!ここだぞ!早く来い!」と叫びました。 身の帽子をかぶった専門の漁師が、草をザワザワ分けてやってきました。
そこで二人はやっと安心しました。 そして漁師の持ってきた団子を食べ、途中で10円だけ山鳥を買って東京に帰りました。
しかし、さっきいっぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、 東京に帰ってもお湯に入ってももう元の通りに治りませんでした。
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