1. おしゃべり本棚
  2. 注文の多い料理店 後編
注文の多い料理店 後編
2025-01-04 16:01

注文の多い料理店 後編

0118 250104 宮沢賢治 注文の多い料理店 後編 朗読:本田奈也花
Learn more about your ad choices. Visit megaphone.fm/adchoices

感想

まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!

00:03
この時間は、福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
注文の多い料理店 後編
宮沢賢治、少し行きますと、また戸があって、その前にガラスの壺が一つありました。
扉にはこう書いてありました。
壺の中のクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。
見ると確かに、壺の中のものは牛乳のクリームでした。
クリームを塗れというのは、どういうんだ?
これはね、外が非常に寒いだろう。
部屋の中があんまり暖かいとひびが切れるから、その予防なんだ。
どうも奥にはよほど偉い人が来ている。
こんなとこで案外僕らは貴族と近づきになるかもしれないよ。
二人は壺のクリームを顔に塗って手に塗って、それから靴下を脱いで足に塗りました。
それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら食べました。
それから大急ぎで扉を開けますと、その裏側には
クリームをよく塗りましたか?耳にもよく塗りましたか?
と書いてあって、小さなクリームの壺がここにも置いてありました。
そうそう、僕は耳には塗らなかった。危なく耳にひびを切らすとこだった。
ここの主人は実に用意周到だね。
ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。
ところで僕は早くなんか食べたいんだが、どうもこう、どこまでも廊下じゃ仕方ないね。
するとすぐその前に次の戸がありました。
料理はもうすぐできます。
15分とお待たせはいたしません。すぐ食べられます。
03:04
早くあなたの頭に瓶の中の香水をよくふりかけてください。
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
二人はその香水を頭へパチャパチャふりかけました。
ところがその香水はどうも酢のような匂いがするのでした。
この香水は変に酢臭い。どうしたんだろう。
間違えたんだ。下女が風邪でもひいて間違えて入れたんだ。
二人は扉を開けて中に入りました。
扉の裏側には大きな字でこう書いてありました。
いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
もうこれだけです。どうか体中に壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。
なるほど立派な青い瀬戸の塩壺が置いてありましたが、
今度という今度は二人ともぎょっとしてお互いにクリームをたくさん塗った顔を見合わせました。
どうもおかしいぜ。僕もおかしいと思う。
たくさんの注文というのは向こうがこっちへ注文してるんだよ。
だからさ、西洋料理店というのは、僕の考えるところでは、西洋料理を来た人に食べさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして食べてやるうちと、こういうことなんだ。
これは、その、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが、
ガタガタガタガタ震えだして、もう物が言えませんでした。
その、ぼ、ぼくらが、ガタガタガタガタ震えだして、もう物が言えませんでした。
逃げ、ガタガタしながら、一人の紳士は後ろの戸を押そうとしましたが、戸はもう一部も動きませんでした。
奥の方にはまだ一枚扉があって、大きな鍵穴が二つ付き、銀色のホークとナイフの形が切り出してあって、
06:10
いや、わざわざご苦労様です。大変結構にできました。
さあさあ、お腹にお入りください。と書いてありました。
おまけに、鍵穴からは、きょろきょろ、二つの青い目玉がこっちを覗いています。
ガタガタガタガタ、ガタガタガタガタ。
二人は泣き出しました。すると、戸の中では、こそこそこんなことを言っています。
「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみ込まないようだよ。」
「当たり前さ。親分の柿葉がまずいんだ。あそこへいろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でしたなんて、まぬけなことを書いたもんだ。」
「どっちでもいいよ。どうせ僕らには骨も分けてくれやしないんだ。」
「それはそうだ。けれども、もしここへあいつらが入ってこなかったら、それは僕らの責任だぜ。」
「呼ぼうか。呼ぼう。」
「おい、お客さん方、早くいらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんでおきました。あとは、あなた方と菜っ葉をうまく取り合わせて、真っ白なお皿にのせるだけです。早くいらっしゃい。」
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラダはおきらいですか?それなら、これから火をおこしてフライにしてあげましょうか?とにかく早くいらっしゃい。」
ふっふと笑って、また叫んでいます。
「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては、せっかくのクリームが流れるじゃありませんか?」
「へい、ただいま。じきに持ってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
「早くいらっしゃい。おやかたがもうナフキンをかけて、ナイフをもって舌なめすりしておきゃくさまがたをまっていられます。」
09:04
ふたりは、泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
そのとき、うしろからいきなり、
ワン、ワン、グワーという声がして、
あの白クマのような犬が二ひき、戸を突き破って、部屋の中に飛び込んできました。
鍵穴の目玉はたちまちなくなり、犬どもはうううとうなって、
しばらく部屋の中をくるくるまわっていましたが、
また一声、ワンと高くほえて、いきなり次の扉に飛びつきました。
扉はがたりとひらき、犬どもはすいこまれるように飛んでいきました。
その扉のむこうのまっくら闇の中で、
ニャー、グワー、ゴロゴロという声がして、それからがさがさ鳴りました。
部屋はけむりのようにきえ、ふたりはさむさにぶるぶるふるえて、草の中にたっていました。
見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、
あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。
風がどーっと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
犬がふーとうなってもどってきました。
そしてうしろからは、
「だんなぁ、だんなぁ。」とさけぶものがあります。
ふたりはにわかにげんきがついて、
「おい、おい、ここだぞ、はやくこい。」とさけびました。
身のぼうしをかぶったせんもんのりょうしが、草をざわざわわけてやってきました。
そこでふたりはやっとあんしんしました。
そしてりょうしのもってきただんごをたべ、
とちゅうでじゅうえんだけやまどりをかって、東京にかえりました。
しかしさっきいっぺんかみくずのようになったふたりのかおだけは、
12:05
東京にかえってもお湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。
お問い合わせごよやくは、スタービル博多祇園のホームページからどうぞ。
16:01

コメント

スクロール