作品名:よだかの星
著者:宮沢賢治
図書カード:https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card473.html
青空文庫:https://www.aozora.gr.jp/index.html
ブンゴウサーチ for Kids:https://bungo-search.com/juvenile
BGMタイトル: そりのこし
作者: もっぴーさうんど
作者ページ: https://dova-s.jp/_mobile/_contents/author/profile060.html
DOVA - SYNDROME楽曲リンク: https://dova-s.jp/_mobile/bgm/play17520.html
7・15・23・31日更新予定
#青空文庫 #朗読 #podcast
【活動まとめ】 https://lit.link/azekura
【青空文庫関連商品】 https://amzn.to/4hEMRXV
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サマリー
宮沢賢治の「よだかの星」では、醜い外見を持つよだかが他の鳥たちに嫌われる悲しい物語が展開されます。よだかは自らの無力感と孤独を抱えながら、兄のカワセミに別れを告げ、夜の空へ飛び立つ決意をします。物語の中で、よだかは星になることを願い、様々な星に頼み込む姿が描かれていますが、最終的に彼は自らの運命を受け入れ、美しい光となって燃え続けます。
よだかの醜さと孤独
よだかの星 宮沢賢治
よだかは実に醜い鳥です。 顔はところどころ、
みそをつけたようにまだらで、 口ばしは平たくて耳まで裂けています。
足はまるでヨボヨボで、一軒とも歩けません。
他の鳥は、もうよだかの顔を見ただけでも 嫌になってしまうという具合でした。
例えば、ヒバリもあまり美しい鳥ではありませんが、 よだかよりはずっと上だと思っていましたので、
夕方などよだかに会うと、さもさもいやそうに しんねりと目をつぶりながら、首をそっぽへ向けるのでした。
もっと小さなおしゃべりの鳥などは、 いつでもよだかの真っ向から悪口をしました。
また出てきたね。 まああのざまをごらん。
本当に鳥の仲間のつら汚しだよ。 ねえ、まああの口の大きいことさ。
きっとカエルの親類かなんかなんだよ。 こんな調子です。
おお、よだかでないただの鷹ならば、 こんな生はんかの小さい鳥は、もう名前を聞いただけでも
ブルブル震えて、顔色を変えて、体を縮めて、 木の葉の影にでも隠れたでしょう。
ところがよだかは本当は鷹の兄弟でも親類でもありませんでした。
かえって、よだかはあの美しいカワセミや、 鳥の中の宝石のようなハチスズメの兄さんでした。
ハチスズメは花の蜜を食べ、カワセミはお魚を食べ、 よだかは羽虫をとって食べるのでした。
それによだかには鋭い爪も鋭いくちばしもありませんでしたから、 どんなに弱い鳥でもよだかを怖がるはずはなかったのです。
それなら鷹という名のついたことは不思議なようですが、 これは一つはよだかの羽がむやみに強くて、
風を切って駆ける時などはまるで鷹のように見えたことと、 もう一つは鳴き声が鋭くて、やはりどこか鷹に似ていたためです。
もちろん鷹はこれを非常に気にかけて嫌がっていました。 それですからよだかの顔さえ見ると肩を怒らせて、
早く名前を改めろ、名前を改めろ、というのでした。 ある夕方、とうとう鷹がよだかの家へやってまいりました。
おい、いるかい? まだお前は名前を変えないのか?
ずいぶんお前も恥知らずだな。 お前と俺ではよっぽど人格が違うんだよ。
例えば俺は青い空をどこまででも飛んでいく。 お前は曇って薄暗い日か、夜でなくちゃ出てこない。
それから俺のくちばしや爪を見ろ。 そしてよくお前のと比べてみるがいい。
鷹さん、それはあんまり無理です。 私の名前は私が勝手につけたのではありません。
神様からくださったのです。
いいや、俺の名なら神様からもらったのだと言ってもよかろうが、 お前のはいわば俺と夜と両方から借りてあるんだ。
さあ返せ。 鷹さん、それは無理です。
無理じゃない。俺がいい名を教えてやろう。 イチゾウというんだ。
イチゾウとな。 いい名だろう。
そこで名前を変えるには、 改名の披露というものをしないといけない。
いいか。 それはな、首へイチゾウと書いた札をぶら下げて、
私は依頼イチゾウと申しますと、 工場を行ってみんなのところをお辞儀してまわるのだ。
そんなことはとてもできません。
いいや、できる。 そうしろ。
もしあさっての朝までにお前がそうしなかったら、 もうすぐつかみ殺すぞ。
つかみ殺してしまうからそう思え。 俺はあさっての朝早く、
鳥の内を一軒ずつまわって、 お前が来たかどうかを聞いて歩く。
一軒でも来なかったという家があったら、 もう貴様もその時がおしまいだぞ。
だってそれはあんまり無理じゃありませんか。 そんなことをするくらいなら、私はもう死んだ方がマシです。
今すぐ殺してください。
まあ、よーく後で考えてごらん。
イチゾウなんてそんなに悪い名じゃないよ。
鷹は大きな羽をいっぱいに広げて、 自分の巣の方へ飛んで帰っていきました。
ヨダカはじっと目をつぶって考えました。
一体僕はなぜこうみんなに嫌がられるのだろう。 僕の顔は味噌をつけたようで、口は裂けてるからなぁ。
それだって僕は今まで何にも悪いことをしたことがない。
赤ん坊の目白が巣から落ちていた時は、 助けて巣へ連れて行ってやった。
別れの決意
そしたら目白は赤ん坊をまるで盗人からでも取り返すように、 僕から引き離したんだなぁ。
それからひどく僕を笑ったっけ。
それに、ああ、今度はイチゾウだなんて首へ札をかけるなんて、 辛い話だなぁ。
辺りはもう薄暗くなっていました。
ヨダカは巣から飛び出しました。 雲が意地悪く光って低く垂れています。
ヨダカはまるで雲とすれすれになって、音なく空を飛び回りました。 それからにわかにヨダカは口を大きく開いて、
羽をまっすぐに張って、まるで矢のように空を横切りました。
小さな羽虫が幾匹も幾匹もその喉に入りました。 体が土につくかつかないうちに、ヨダカはひらりとまた空へ跳ね上がりました。
もう雲はネズミ色になり、向こうの山には山焼けの日が真っ赤です。
ヨダカが思い切って飛ぶときは、空がまるで二つに切れたように思われます。 一匹のカブトムシがヨダカの喉に入ってひどくもがきました。
ヨダカはすぐそれを飲み込みましたが、その時なんだか背中がゾッとしたように思いました。
雲はもう真っ黒く、東の方だけ山焼けの日が赤く映って恐ろしいようです。
ヨダカは胸が疲れたように思いながらまた空へ登りました。 また一匹のカブトムシがヨダカの喉に入りました。
そしてまるでヨダカの喉をひっかいてバタバタしました。
ヨダカはそれを無理に飲み込んでしまいましたが、 その時急に胸がドキッとして
ヨダカは大声を上げて泣き出しました。 泣きながらぐるぐるぐるぐる空を巡ったのです。
ああ、カブトムシやたくさんのハムシが毎晩僕に殺される。
そしてそのただ一つの僕が今度はタカに殺される。 それがこんなに辛いのだ。
はあ、辛い。 辛い。
僕はもう虫を食べないで、飢えて死のう。 いや、その前にもうタカが僕を殺すだろう。
いや、その前に僕は遠くの遠くの空の向こうに行ってしまおう。
山焼けの日はだんだん水のように流れて広がり、 雲も赤く燃えているようです。
ヨダカはまっすぐに弟のカワセミのところへ飛んで行きました。 綺麗なカワセミも
ちょうど起きて遠くの山火事を見ていたところでした。 そしてヨダカの降りてきたのを見て言いました。
兄さん、こんばんは。 何か急の御用ですか?
いや、僕は今度遠いところへ行くからね。 その前ちょっとお前に会いに来たよ。
兄さん、行っちゃいけませんよ。ハチスズメもあんな遠くにいるんですし、 僕一人ぼっちになってしまうじゃありませんか。
それはね、どうも仕方ないのだ。 もう今日は何も言わないでくれ。
そしてお前もね、どうしても取らなければならない時の他は、 いたずらにお魚を取ったりしないようにしてくれ。
ね。 さよなら。
兄さん、どうしたんです? まあもうちょっとお待ちなさい。
いや、いつまでいても同じだ。 ハチスズメ、後でよろしく言ってやってくれ。
さよなら。 もう会わないよ。
空への飛び立ち
さよなら。 ヨダカは泣きながら自分のお家へ帰って参りました。
短い夏の夜はもう明けかかっていました。 シダの葉は夜明けの霧を吸って青く冷たく揺れました。
ヨダカは高くキシキシキシと泣きました。
そして巣の中をきちんと片付け、 きれいに体中の羽や毛を揃えて、
また巣から飛び出しました。 霧が晴れてお日様がちょうど東から登りました。
ヨダカはぐらぐらするほど眩しいのをこらえて、矢のようにそっちへ飛んでいきました。
お日さん、お日さん、 どうぞ私をあなたのところへ連れてってください。
焼けて死んでもかまいません。 私のような醜い体でも焼ける時には小さな光を出すでしょう。
どうか私を連れてってください。 行っても行ってもお日様は近くなりませんでした。
かえってだんだん小さく遠くなりながらお日様が言いました。
お前はヨダカだな。 なるほど、ずいぶんつらかろう。
今度空を飛んで、星にそう頼んでごらん。 お前は昼の鳥ではないのだからな。
ヨダカはお辞儀を一つしたと思いましたが、急にぐらぐらして、とうとう野原の草の上に落ちてしまいました。
そしてまるで夢を見ているようでした。 体がずっと赤や黄の星の間を登って行ったり、
どこまでも風に飛ばされたり、 また鷹が来て体をつかんだりしたようでした。
冷たいものがにわかに顔に落ちました。 ヨダカは目を開きました。
一本の若いススキの葉から梅雨が滴ったのでした。 もうすっかり夜になって、
空は青黒く、一面の星がまたたいていました。 ヨダカは空へ飛び上がりました。
今夜も山焼けの日は真っ赤です。 ヨダカはその日のかすかな照りと、
冷たい星明かりの中を飛びめぐりました。 それからもう一遍飛びめぐりました。
そして思い切って、西の空のあの美しいオリオンの星の方に、
まっすぐに飛びながら叫びました。
お星さん、西の青白いお星さん、 どうか私をあなたのところへ連れてってください。
焼けて死んでもかまいません。 オリオンは勇ましい歌を続けながら、
ヨダカなどはてんで相手にしませんでした。 ヨダカは泣きそうになって、ヨロヨロと落ちて、
それからやっと踏み止まって、もう一遍飛びめぐりました。 それから南の大犬座の方へまっすぐに飛びながら叫びました。
お星さん、南の青いお星さん、 どうか私をあなたのところへ連れてってください。
焼けて死んでもかまいません。 大犬は青や紫や黄や、美しくせわしく瞬きながら言いました。
バカを言うな。お前なんか一体どんなものだい。 たかが鳥じゃないか。
お前の羽でここまで来るには、 億年、長年、億長年だ。
そしてまた別の方を向きました。 ヨダカはがっかりして、ヨロヨロ落ちて、
それからまた二遍飛びめぐりました。 それからまた思い切って、北の大熊星の方へまっすぐに飛びながら叫びました。
北の青いお星さま、あなたのところへどうか私を連れてってください。 大熊星は静かに言いました。
余計なことを考えるものではない。 少し頭を冷やしてきなさい。
そういう時は、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、
近くに海がなかったら、氷を浮かべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。 ヨダカはがっかりして、ヨロヨロ落ちて、
それからまた四遍空をめぐりました。 そしてもう一度、東から今登った天の川の向こう岸のわしの星に叫びました。
東の白いお星さま、どうか私をあなたのところへ連れてってください。 焼けて死んでもかまいません。
東は大風に言いました。 いいや、とてもとても話にも何にもならん。
星になるにはそれぞれの身分でなくちゃいかん。 また、よほど金もいるのだ。
ヨダカはもうすっかり力を落としてしまって、 羽を閉じて地に落ちていきました。
そしてもう一尺で地面にその弱い足がつくという時、 ヨダカはにわかにのろしのように空へ飛び上がりました。
空の中ほどへ来て、 ヨダカはまるでわしが熊を襲う時するように
ぶるっと体をゆすって毛を逆立てました。 それから
キシキシ、キシキシキシと
高く高く叫びました。 その声はまるで鷹でした。
野原や林に眠っていた他の鳥はみんな目を覚まして、 ぶるぶる震えながら
いぶかしそうに星空を見上げました。 ヨダカはどこまでもどこまでもまっすぐに空へのぼっていきました。
もう山焼けの日はタバコの吸い殻のくらいにしか見えません。 ヨダカはのぼってのぼっていきました。
寒さに息は胸に白く凍りました。 空気が薄くなったために
羽をそれはそれはせわしく動かさなければなりませんでした。
それなのに、星の大きさはさっきと少しも変わりません。
つく息はふいごのようです。 寒さや霜がまるで剣のようにヨダカを刺しました。
ヨダカは羽がすっかり痺れてしまいました。 そして涙ぐんだ目をあげてもういっぺん空を見ました。
そうです。 これがヨダカの最後でした。
もうヨダカは落ちているのか、のぼっているのか、 逆さになっているのか、上を向いているのかもわかりませんでした。
ただ心持ちは安らかに、 その血のついた大きなくちばしは横に曲がってはいましたが、
確かに少し笑っておりました。 それからしばらくたってヨダカははっきり眼を開きました。
そして自分の体が今、林の火のような青い美しい光になって、 静かに燃えているのを見ました。
すぐ隣はカシオピア座でした。
天の川の青白い光がすぐ後ろになっていました。 そしてヨダカの星は燃え続けました。
運命を受け入れた瞬間
いつまでもいつまでも燃え続けました。 今でもまだ燃えています。
23:35
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