まず最初にご紹介するのは、時代を越えて愛されるスチール製魔法瓶の老舗、スタンレイの作品です。これはどんなものなんですか?
スタンレイって日本ではそんなに知られているブランドではないので少し説明したいと思います。
今、たくなさんにおっしゃっていただいたように魔法瓶なんですけども、いわゆる魔法瓶だったりとかお弁当の箱だったりとか、工事現場で使うようなお弁当だったりとか、水筒みたいなもんだったりとか、あとキャンプとか、寮に行く人とか釣りに行く人とかっていう、どっちかっていうと正直男性向けのブランドなんですね。
で、ロゴを見てもライオンに羽根がついたすごく男性っぽいロゴで、いかにもこれ男性のブランドだなっていうのを醸し出している会社なんです。
その上に、まあ老舗って言ってるんですけども、アメリカでは珍しく100年以上ある会社で、それがここ数年すごく売れ始めていて、どういったことかっていうのが、
特にそのマーケティングとかビジネス界隈ではザワザワと噂にはなっていたんです。
で、それに油を注ぐというか、またさらに話題になったのが、ある一般の人がですね、自撮りのように自分のスマホで自分の車を撮ってるんですね。
それが火事で炎上しちゃった車なんですけども、その車の中に入っていって、この車焼けちゃったんだけど、
座席の隣のカップホルダーにその魔法瓶が入ってるんですよ。
で、それがスタンリーのカップなんですが、それを手に取って、スマホで撮りながら、
車こんだけ焼けちゃったんだけど、私のスタンリーのカップは大丈夫だった、マグカップは大丈夫だったって言って、手で揺すると、中にまだ溶けてない氷が入っている音が聞こえて、チャランチャランと音が聞こえて、
車がこんなに焼けちゃったんだけど、私のこれカップ大丈夫なんだよねっていうのを投稿していたんですね。
そしたら、まずそれ自体がバズりましたと。
その後に、スタンリーがブランドとして面白いことをやったのが、その会社の社長の人がその人にTikTokでリプライをして、
ダニエルさん大変なことになりましたねと、でも車は焼けちゃったけども、怪我がなくてよかったです。
そして慰めのために、我々がカップをもちろん贈呈しますので、ぜひぜひ受け取ってください。
それプラス、もう一つあなたのためにしたいことがあります。
車が焼けちゃったので特別、我々が車も代償しますっていうふうなことを、その社長の人が自分のスマホで撮って、ビデオメッセージとしてその人に送ったんですね。
それがまたすごくバズりまして、スタンリーっていうのがこんなに一人一人のことを思っている会社なんだっていうことで、非常に話題になったわけです。
そうですね。企業が作った動画とかだと、必ずよく言うから、そこまで響かないけど、一般の人が投稿した動画だと、その人は別にスタンリーを売る必要って全然ないから、
すごいなって、本当なんだろうなってやっぱり思っちゃいますしね、本当にいい宣伝をしてくれたっていう感じありますね。
まさしくそうです。
そのお礼としてスタンリーのマグボトルだけではなくて、車までプレゼントされちゃうっていう、なんか太っ腹な感じもまたいい。
そうですね。だから、車が例えば500万とかだと結構いい車になると思うんですけども、数百万で買えるものとしても、マーケティング予算ってもっともっと何千万っていうのが結構普通なので、それに比べたら全然それより安い。
確かに太っ腹ではあるんですけども、その人にメッセージを送っていたんですが、それを公に見れるので、結局その一人に対してのメッセージではあるんですが、何百万人っていう人たちにも共感されるメッセージもなってるっていうところで、
安上りって言うとちょっと言葉が間違っちゃってるかなと思うんですが、非常に効率的で効果的なメッセージの打ち出し方だし、ユーザーをうまくエンゲージしてマーケティングをしてるなっていうのを思いました。
そうですね。この作品は今年のカンヌライオンズのクリエイティブ戦略部門で銀賞に選ばれています。やっぱりクリエイティブ戦略部門で戦略が光っているっていう感じなんですね。
まさしくそうです。今回、もちろんそれが一番目立った試作ではあったんですが、それ以上に僕はすごいなと思ったのは、この会社のここ数年にわたっての戦略なんですね。
っていうのも、この今紹介した、去年話題になったビデオっていうのはもう1年以内の最近のことなんですけども、実は2017年、18年くらいから大きく企業のビジネス戦略の舵取りをしてるんですね。
どういうことかというと、さっきもお伝えしましたように、もともとはこの会社すごく男性向けの商品を使っていて、男性目線で展開をしていたんです。
それが2015年の頃に、それまで売っていたある商品を打ち切るっていうことをオンラインで発表したら、あるブロガーの方が、その商品私すごく気に入っていて、クリスマスだったりとかお友達のプレゼントによく買ってるんですと。
だから打ち切られると困ります。残ってる分を私にくださいっていう風にそのブロガーが言ったらしいんですね。
で、スタンレイがその人に直接連絡をして、今5000個だったか残ってますよっていう風に伝えて、これを現貨で大売りするので、もしお宅でブログで売っていただけるんだったらぜひ引き取ってくださいっていう風に言ったらしいんです。
そしたら、そのブロガーがそこそこのフォロワーがいたと思うんですけども、ほんの2、3地で数千個のマークアップというのが売れちゃったんですって。
で、どういうことかと思って調べてみたら、その人のフォロワーっていうのは女性ばっかりで、実はこれ女性に人気があったと。
それまでは男性向けに展開をしてたのに、この一人のブロガーにちょっと詳しく話を聞いたら、実は女性が重宝して使っていたっていうことが分かったらしいんです。
で、それからそのブロガーの人といろいろこう話し合って、戦略をそれまで男性向けのそういうアウトドアで使ってもらうっていう、それも例えばその温かいコーヒーが冷めないようにみたいな感じで使ってもらっていたのを、そうではなくて女性向けにして、
そしてそういうキャンプとか釣りとかアウトドアではなくて、日常的に常に水分を取るための冷たいものを冷たいまま残していけるものとして売り出して、あと色の展開もパステルカラーにしたりとか、そういうふうに結構大きな商品展開をかじ切りをして、
男性向けのものから女性向け、そして日常的に使えるものに切り替えていったっていうのが、戦略の背景としてあったんですね。
そしたら、それを2014年、18年ぐらいから打ち出して、どんどんどんどん売上が伸びて、その6年ぐらいで売上が10倍になったっていう、そのブランド企業変革を成し遂げたブランドなんです。
6年で10倍ってすごいですね。
すごいですよ。
しかもすごく大きな研究開発を行ったっていうことじゃなくて、今ある既存の良い商品を例えばパステルカラーにするとか、釣り用品っていうコーナーに置いてもらうようなものじゃなくて、ライフスタイルストアに置いてもらえるような可愛らしい感じにするとか、そのぐらいのあんまり大きな変化ではないことで、そんなに売り上げって伸びるんですね。
そうなんですよ。
この展開の仕方が実は日本でも、つい最近だと思うんですけども展開されていて、例えばTSUTAYAでポップアップストアみたいなのを展開していて、そこで売っている。
TSUTAYAって別に釣りをする人が行くようなお店じゃないじゃないですか。
そうですね。
それこそ今おっしゃられたみたいに、ライフスタイルとか一般の人だったりとか、男性女性問わずいろんな人が行くところで、特にTSUTAYAだとオシャレっぽいものがあったりとか、本だったりとかそういうものがたくさん置いてあるところで、オシャレのアクセサリーとして売るっていうことも実は日本でも展開し始めているみたいです。
へーそうなんですね。
いやーでもこの映像の中で、その炎上した車の中で、まずこのマグカップが無事だったっていうのもすごいですけど、中の氷が溶けてないってやっぱりそのそもそもの品質がすごい良いっていうのがわかる動画ですよね。
そう、だからそれがもうなんだかんだいろいろストーリーを作って感情的な反応をお客さんターゲットからにさせようっていうことよりかは、もうそのプロダクトがいかに良いかっていうものを直接証明するプロダクトデモンストレーションの動画になってるわけですよね。
それも企業から出したものではなくて、一般の人が投稿してたっていうところがすごく本当っぽくて、それもそれで刺さってたんだと思います。
あとこのマグボトルっていうものも、マグカップと昔ながらのほうびんの水筒の間というか、私たちが子供の頃にはなかったような。
今ちょうど使い捨てカップをやめようみたいなの、そういうのを持ってコーヒーショップに行って入れてもらおうみたいな、そういう時代ともマッチした商品だなーなんていう感じがしますね。
だからここ5年10年ぐらいサステナビリティっていうことがすごく騒がれていて、なかなか正直定着しないところもあるんですけども、それをオシャレとして定着させ始めてる。
今おっしゃられたみたいにマグカップではなくてマグボトルっていう位置づけで、あれ結構大きいんですよ。750mlとかで。
そんなに入るんだ。
結構20センチ以上ぐらいある高さなので、なかなかそのいわゆる古い水筒とかだと結構1リットルとか大きかったりとか、あと日本だとその300ミリとかせいぜい500ミリみたいなものが多いと思うんですけども、そのちょうど中間で結構長い間冷めないで、もしくは冷えたままで飲めるとかいうのもあるので、その日常的に使えるものとして非常に便利なんですよね。
このスタンレイというブランドは創業111年を迎えて、確かな品質から孫の代まで使えるというふうに言われて、もともと愛されていたブランドだったようなんですけれども、まさかその111年前は今こんなオシャレな感じでこのマグボトルを持ってコーヒーショップに行って、サステナビリティのために使うとか、そういうのは想定していなかったでしょうから。
かなり時代に合わせてうまく変革しているブランドだなあっていう感じしますね。
そうなんですよ。やっぱりそのお客さんの声を聞いて、それをうまく企業戦略の中に取り込んでいってるっていうのがすごくキーポイントだと思います。
さて、続いてはレイさん、どんな作品ですか?
はい、次の作品は178年の歴史を持つスペインの王室御用達ブランド、ロエベの作品です。
これはですね、日本人の僕にはすごく嬉しかった作品なんですが、ロエベとあとこの京都に拠点を置く夫婦の工芸家ユニット、スナ・フジタのコラボレーションアイテムの販売に伴うキャンペーンで制作されたものなんですね。
鍵となる5つの陶器の世界観を服や小物に落とし込んでいく様子が動画で紹介されているんですが、僕はですね、これすごくなんか嬉しくて勇気をもらったのが、
日本のそのものづくりの文化っていうのがこうやって世界で認められている、そして受けているっていうのは、今の日本、そして今後の日本の一つの在り方のキーになるんじゃないかなっていうふうに思います。
日本企業が世界に、そして海外に出始めたのが1960年代なんですね。それはですね、もう今となっては世界の大企業であるトヨタさんだったりとかソニーだったりとかパナソニックだったりとかホンダだったりとか、
主に車として電子機器の企業たちがたくさん世界に出ていって、そしてその昭和戦後の日本の成長を支えたのがそういう企業だったと思うんです。
ただそれがそうですね、1990年、2000年前後くらいから中国と韓国にそういういわゆるものづくり製造業がそっちにどんどん移ってしまって、日本がそれまではその昭和の時代は安くていいもので、そして壊れないものを作っていたのがお隣の韓国だったり中国に安くて、まあそこそこ良くて、
まあ壊れないかはちょっとわかんないですけども、そういうものにどんどん負けてしまったっていうのがここ25年くらいだったと思うんですね。それで勝とうとしてもなかなか簡単に勝てる領域ではないと思うんですけども、
最近、最近と言ってもここ10年とか15年くらいよく聞くのがその日本の伝統工芸だったりとかそういうものの跡継ぎがいないとか、そういうことが結構その特に地方とか自治体の課題になっていると思うんですよ。
そうですね。跡継ぎ問題っていうのは、なんか伝統工芸の継承においては今本当に深刻な問題ですよね。
このご夫婦の工芸家ユニットの砂藤田さんたちは、いわゆる伝統工芸ではないかもしれないんですが、それでもその陶器、日本の陶器の技術を使っていろんなアイテムを作っていらっしゃるユニットなんですけども、やっぱりその手で作るもの、ものづくりっていう日本の古き良き文化を今の時代、現代風にアレンジしたものではあるんですが、
それをスペインのロエベというブランドと、それも178年ある企業なんですが、そこと組み合わせることによって新しいものになっていく。そして日本チックでもないし、ヨーロピアンでもない独特な世界観が作れるっていうのは、なんかすごく新鮮で、日本文化の架け橋役的な存在になるんじゃないかなと思いました。
このスナー藤田さんの作品というのは、日本の古くからあるようなお茶碗とか器に、現代的なデザインがされてるんですよね。ペンギンだったり、クジラだったり、あとなんかキャラクターのようなデザインだったりとか、可愛らしい感じのデザインが結構施されているんですが、それがブランドとコラボすることで、比較製品の上にキャラクターが載ったりとか、ペンギンが載ったりとかしているって、
なんかすごい斬新な感じしますよね。
そうですね。ここにももう一つ、僕すごい良いヒントが隠されてるなと思うのは、この作品が賞をもらったのがラグジュアリーライフスタイル部門なんですね。
日本が特に海外で展開をするときに非常に苦手としているのが、まさにこのラグジュアリーのカテゴリーなんですよ。
そうなんですか。
そういうのも、例えば世界の、今トヨタさんにもなってますし、例えば我々が、僕がお付き合いがあるユニコールさんも、ラグジュアリーではないじゃないですか。
良いものをお手頃の値段で買えるっていうことをグローバルで展開して、そして大成功を収めているっていうのが、日本は一つのお家芸というか得意な分野ではあると思うんですね。
そうですね。壊れないとか、そういう質が良いっていうところですよね。日本製品って。
ただ商品にその値段では買えない価値、付加価値をつけるっていうのが非常に苦手で日本人というのは。
確かにそうかもしれないですね。そういうイメージあんまりないですね。
そうなんですよ。で、それがうまいのがフランスの企業だったりとかイタリアの企業だったりとか、オレミドラやスペインの企業だったりとかで、付加価値っていうのをやっぱり商品とかサービスにつけていかないと、結局値下げの戦争に巻き込まれてしまって、
そうすると物に価値がなくなって、結局終わりのない争いになっちゃって、なかなかその企業としてビジネスが伸びないという、そういう悩みをたくさんの企業が抱えてきたと思うんです。
で、それで結局中国で作ってるものとか他の東南アジアで作ってるものに勝てなくて、で、今逆に日本が物価が安くなったりとか、あとその円がすごく弱くなったりとかそういう状況になっちゃってると思うんですけども、やっぱりその付加価値を商品につけられてないっていうのが一つ日本企業の弱みなんですよね。
で、今回これ取り上げたのはその日本の大物、そして日本の人たちが海外のブランドとコラボして賞をもらってはいるんですが、そのどうやって自分たちの商品、自分たちのサービスに付加価値をつけていくのかっていうところが一つヒントになるんじゃないかということで、この作品を取り上げさせていただきました。
なるほど。今回は日本の工芸デザインをロエベというスペインのブランドが取り上げてくれた事例ですけど、日本の良さを日本のブランドが同じように表現できるような未来がやってきたら、レイさんいいですね。