不動産屋での出会い
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。 プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
ワンルームですか?お二人で? カウンターの向こうには、若い女と30代後半くらいの男が並んで座っている。
失礼ですけど、お二人で住まわれるなら、せめてワンLDKとかにした方が…。
いや、だから予算は6万しかないから、ワンルームでいいって言ってるじゃないですか。 男はイライラしながら言った。
この年齢で二人暮らしの予算6万って正気なのか?
彼女さんの方は今、働かれていないんですか?
いや、働いてはいますけど…。 じゃあ、お二人で力を合わせれば、もうちょっとご予算あげられるのでは?
いや、俺が払いたいんです。 俺一人で払える部屋がいいんです。
あー、なるほど。
家賃は俺が払うと格好をつけているつもりかもしれないが、 6万しか出せない時点で格好も何もないと気がついていないのだろうか。
蓄年数が経っていて、駅から遠い物件なら、何とか条件に合うものがあった。
内見に連れて行き、中を見ると、やはり二人で暮らすには狭すぎる部屋だった。
古い木造アパートで、壁も薄いし、隣の部屋の物音がすでに聞こえてきている。
いいじゃないですか!ここにします!
え?私もここでいいです!
まあ、本人たちがいいと言っているならいいか。
そのまま店に戻って契約手続きに入ることにした。
書類には、勝浦翔吾、35歳。 職業、俳優、年収400万と書いてあった。
決して多くはないが、俳優でそこまで稼げるならいい方なのだろう。
お客様、個人事業主様ということで、収入を証明できるもののご提出をお願いしたいのですが。
収入の証明?例えば確定申告書の控えとか。
確定申告?やってないっすよ、そんな面倒なこと。
え?
俺は久しぶりにゼックした。年収400万のフリーランスで確定申告をやっていない奴なんているのか?
普通やらないでしょ?あれは資産があるじいさんたちがやるもんでしょ?
いや、確定申告をしていないお客様はちょっと…
え?ダメなんですか?
はい、申し訳ありません。カツーラという男はブツブツと文句を言いながら帰っていった。
おそらく年収400万というのも嘘なのだろう。
彼女もなんであんな男と付き合っているのだろう。不思議なカップルというのはいるものだ。
主人公の日常
やっぱうちは最高だよな。
俺はソファーに寄っかかり、缶ビールをプシュッと開けた。
駅地下の2LDKのマンション。家賃は15万。
気がつけばここに住んでもう6年になる。
先ご飯食べちゃってよ。
アキがそう言いながらテーブルに夕飯を並べている。
どれどれ?今日の夕飯は?
ご飯に味噌汁にホイコーローか。
なんかもっとこうワクワクするもの作ってくれよ。
ワクワクって例えば?
もっとおしゃれなさ、肉にソースがかかったものとか。
なにそれ。そんなのおしゃれな店で食べてよ。
ほんとアキはセンスがないんだから。
アキは黙って席につくと、いただきますと言って食べ始めた。
キーポンは食べないの?
これ飲んだらな。
俺はソファに座り直し、テレビをつけた。
お、今日サッカーやってんじゃん。
テレビでは日本代表の強化試合をやっている。
日本がボールをキープしている。いいぞいいぞ。
ねえキーポン、来年の今頃ってどういう予定?
今頃?さあどうだろうな。
何もしてないんじゃない?
そっか。
あ、そうだ。マンションの更新のお知らせ来てたから払っとくな。
うん、ありがとう。
お、いけいけいけ。ああ、惜しい。
ボールはゴール端に当たり、大きく跳ね返った。
今週末さ、実家帰るね。
ふーん、了解。
キーポン仕事でしょ?
不動産屋に土日休みはございません。
そうだよね。
実はさ、
お、いいぞいいぞ。入った!
同僚との会話とアキの告白
週末、事務処理をしていると、3年先輩の奥村さんの声が休憩室から聞こえた。
おお、すごい。
俺は休憩室を覗き込む。
奥村さん、声が外まで聞こえてますよ。
お、わりぃわりぃ。つい興奮しちまって。
どうかしたんですか?
今日、息子の野球の試合なんだよ。ホームラン打ったって動画が送られてきてさ。
へー、すごいっすね。
お前は?今の彼女と長いだろ?結婚しないのか?
奥村さん、今の時代それなんちゃらハラスメントですよ。
なんでだよ。お前はいつもそうやってフラフラしやがって。
なんの説教なんですか?
責任取れない男に守れるものなんてないんだからな。
この令和の時代に何を言っているんだか。
秋は結婚なんて古い制度に固執するような女じゃない。
今の自由で身軽な関係が俺たちには一番合っている。
家に帰ると部屋が暗かった。
秋はまだ帰っていないのか?
パチンとビビンクの電気をつけると秋が座っていた。
びっくりしたー。
あ、ごめん。電気もつけずにどうした?
ごめん、考え事してて。
そっか、実家どうだった?
うん、実は話があって。
話?
俺がネクタイに手をかけた時、秋は今まで見たことのない顔をした。
私、結婚したい。
結婚?なんで急に。俺は嫌だよ。
うん、わかってる。だから、別れよ。
え?
お父さんがね、病気で、そろそろ両親二人暮らしはきつそうなの。
だから、私、地元に帰って結婚する。
いや、え?地元に帰るのはわかるけど、なんで結婚?
一人で歳をとるのは怖いもの。
秋は目に涙をためながら言った。
その時初めて、10年も一緒にいたのに、秋に一人だと認識されていたことに気がついた。
エンディング
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。