00:02
あの、心筋梗塞は主要な死亡原因の一つなんですね。
心臓に血液を送る血管が突然詰まって、心臓の筋肉に酸素が届かなくなる病気なんですけど、
強い胸の痛みとか息苦しさを伴い、命に関わるんです。
実際、日本だと毎年数万人の人が急性心筋梗塞によって亡くなるとされています。
医療が進歩した現在では、家庭テル治療などによって血管を素早く開くことができるようになって、
発症直後に命を落とす人の割合は以前よりは下がりました。
それでもなお、発症した人のうち何割かは死亡しますし、助かった場合でも後遺症を抱えることがあります。
これは心筋梗塞が単に血管が詰まるだけではないからなんです。
血流が止まっている間に心臓の筋肉が傷つくっていうのもあるんですが、
血流が再開した時に炎症とか酸化ストレスによって細胞死が起こってダメージが広がるんです。
こういったふうに再び血液が流れた時に起きる二次的な損傷が心筋梗塞の重症化に大きく関わっています。
心筋梗塞は1日のうちでも時間帯によって起こりやすさが違うということが知られています。
以前から多くの研究で朝の時間帯に特に発症が多く、しかも重症になりやすいことが報告されていたんです。
でもそれがなぜなのかについてはよくわかっていませんでした。
人間を含む動物の体には24時間のリズムがあってサーカディアンリズムと呼ばれます。
この体内時計のおかげで神経とか代謝の働きであったりホルモンの分泌量が時間帯によって変化するんです。
これによって昼は体がよく動いて夜は眠くなるっていうようなリズムが生まれます。
心臓の働きもこのリズムの影響を強く受けていて血圧とか心拍数は1日の中で大きく変動します。
この制御なんですが神経やホルモンの分泌量が時間帯によって変化していて、そういった外からの制御によって心臓の働きに変化が起きるっていうのがまず一つあります。
03:08
それから24時間のリズムを作る体内時計っていうのはすべての細胞が持っていることがわかっていて、心臓の細胞自体がリズムを作るっていうのもあります。
しかしこのような外的要因、内的要因が心筋梗塞による障害にどのように関わっているのかはわかってないっていうのが現状なんです。
この謎を解くことは心筋梗塞の治療にとっても重要です。
明け方の方が夕方よりも心筋梗塞がひどくなりやすいのであれば、夕方には被害を減らす何かが働いているっていうことになります。
ですからその何かを突き止めて、それを朝に働かせれば重症化を予防できる可能性があるっていうことになります。
今日はまさにこのような因子を見つけたマウスの研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日紹介するのはテキサス大学のウェイ・ルアン・ラニオル研究で、2025年4月のNatureに発表されたものです。
人の心筋梗塞をマウスでどうやって再現するのかですが、この研究では再関流モデルと呼ばれる方法を使っています。
人間の心筋梗塞では先ほど話したように、心臓の筋肉に血液を送る血管が詰まるっていうことが起きて、その後に血流が再開して、その再開に伴って心筋が障害されるっていうことが起きるわけです。
同じような状況にするために、マウスでは人工的に心臓への血流を止めてから再び流すっていうことを行います。
具体的にはまずマウスを麻酔して人工呼吸を行います。
次に手術をして、心臓の表面にある重要な血管を一時的に縛ります。
その結果、心臓を動かしている筋肉の一部に血液が届かなくなるんですが、45分後に糸を解いて血流を再開させるっていう形になります。
06:03
これによって人の心筋梗塞のように、心臓の筋肉に障害が見られます。
こうした時に実際に細胞が死んだ領域の大きさ、つまり梗塞のサイズを調べます。
このサイズがどれだけ心筋梗塞による障害が大きかったかっていう重症度の指標になるわけです。
この研究ではこの一連の実験を異なる時間帯で行っています。
マウスは人と違って夜行性なので、人間で心筋梗塞が多い早朝っていうのはマウスにとっては明るい時間が終わる夕方っていうことになります。
ですから人間の場合とは時計上の時間は違うんですが、マウスにとっての目覚め前後の時間と、そろそろ寝る時間、入眠前後の時間があって、この2つで結果を比較するっていうことになります。
まず人と同じようにマウスでも目覚めの時間で心筋梗塞が重症化するのかを調べています。
これは過去の研究でもすでに示されていることなんですが、目覚め前後の時間帯では入眠の時間よりも心筋梗塞によって細胞が死んだ領域が大きくなることが確認されました。
さらにこの時間帯での心臓の細胞の遺伝子の働きを網羅的に解析しています。
すべての遺伝子の発現量を一度に調べる方法っていうのがあって、それを使って調べたところ、B01っていう遺伝子が目覚めの時間には少なくて、入眠の時間には多いっていうことがわかりました。
このB01は時計遺伝子であることが知られています。1990年代に細胞内にある体内時計の実体が明らかになっていて、B01を含む4種類のタンパク質がその中心で働きます。
そもそも遺伝子とはというところなんですが、遺伝子っていうのはDNAでできていて、この情報を基に機能を持つタンパク質が作られます。
ですからB01遺伝子っていうのがDNA上にあるわけなんですが、この情報が読み取られてB01タンパク質が作られるわけです。
09:01
では実際に体内時計がどう働いているのかについてです。
まず最初に、寝ている時間帯の状態では細胞内にB01タンパク質ともう一つ、クロックタンパク質っていうのが存在していて、ペアとなって働いています。
で、この2つは別の2つの遺伝子、パー遺伝子とクライ遺伝子のスイッチを入れる働きがあります。
それでB01とクロックの働きによって、パーとクライのタンパク質が作られていくんですが、この過程にはそれなりの時間がかかるので、ゆっくりとパーとクライのタンパク質が溜まっていきます。
このパーとクライの働きが何なのかというと、B01とクロックの働きを抑制することなんですね。
つまりパーとクライからすると、自らのスイッチを入れていたもののスイッチをオフにするっていう働きになるわけです。
で、パーとクライが徐々に溜まっていくわけなんですけれども、十分に働くとB01とクロックの働きが抑制されます。
そうするとパーとクライが作られなくなって、パーとクライは徐々に分解されて減っていきます。
そして十分に減ると、今度は抑制が解かれますからB01とクロックが再び働くようになって、またパーとクライが作られるようになります。
こういうふうにして細胞の中にあるパーとクライの量が周期的に増えたり減ったりするんですが、これがだいたい24時間のサイクルで起きていて、これこそが体内時計の分子的な実態であるということがわかっているんです。
ちなみにこの研究によって3人の症状倍研究者が2017年にノーベル賞を受賞しています。
さらにB01についても24時間サイクルで量の変動があるということがわかっていて、入民の頃には多く、起きる頃には少ないという形になっています。
今回の研究では驚くことではないんですけれども、マウスの心臓の細胞でもB01の変動があるということが確認されたわけです。
次にB01遺伝子を働かなくするとどうなるかを調べています。
12:03
B01がもし心筋梗塞重症化の時間帯による違いに関わっているのであれば、B01がないマウスではいつでも同じような重症度になるはずです。
実際に調べてみたらその通りだったんです。 B01が働かないマウスでは目覚めの時間帯でも寝る時間帯でも心筋梗塞の重症度に違いがなかったんです。
次にB01と一緒に働く因子を探しています。 様々な解析を行っているんですけれども、まず一つ見つけたのは皮膚痛Aというものです。
皮膚っていうのは意味としては低酸素誘導因子で、酸素が足りなくなった時に働いて他の遺伝子、特に低酸素状態に対応する遺伝子を働かせる重要なタンパク質です。
心筋梗塞っていうのは血管が詰まって心臓の細胞に酸素とかエネルギーが送られない状態ですから、まさに関係がありそうな因子です。
実験の結果、心筋梗塞が起きた時にB01と皮膚痛Aが一緒に働くということを示しています。
その時にB01と皮膚痛Aは結合をしているっていうことだったんですね。
もともと時計遺伝子としてはクロックと結合しているっていうことがわかっていたB01が別のもの、皮膚痛Aと結合しているっていうのは意外で、これは興味深い点です。
さらにこのB01と皮膚痛Aは別の遺伝子の働きを制御していて、アムフィレギュリンという分子の増加を引き起こすっていうことも明らかにしています。
アムフィレギュリンは増殖因子の一種で、細胞が周りの細胞に合図を送るために外に出すメッセージとして働く分子です。
このアムフィレギュリンが心筋梗塞の時に細胞の障害を減らすのに働いているっていうことをこの研究では示しています。
ここまでの結果をまとめると、心筋梗塞で重症化しやすい目覚めの時間帯ではB01が心臓の細胞に少なくて、重症化しにくい入眠の時間帯ではB01は多いっていうことがまず示されました。
15:04
B01が多い時にはHIF-2aと一緒に働くことでアムフィレギュリンの発現が増えて、これが重症化を抑制しているっていうのが今回の結果から考えられるメカニズムっていうことになります。
さて、もしこの通りであって、目覚めの時間帯に心筋梗塞が重症化しやすいのがB01が少ないせいなのであれば、この時間帯でもB01HIF-2aアムフィレギュリンという一連の働きを人工的に強くしてやれば重症化が食い止められるっていうことになります。
この論文では実際これも試しています。まず一つ試しているのがノビレチンという薬物で、この薬物はB01の量を増やす作用があるっていうことがすでにわかっています。
で、ノビレチンをマウスに投与してみたんですが、そうすると目覚めの時間での心筋梗塞による心臓の障害が改善していたっていうことでした。
さらにはHIF-2aを安定化する薬物、それからアムフィレギュリンそのものを投与するっていうこともやっていて、これらによっても心臓の障害が改善するっていうことを示しています。
ここまで話してきた実験というのはマウスのものなんですが、人についても実験をしていて、人の心臓サンプルでもB01が時間により変動するっていうことを示していますし、
B01、HIF-2a、アムフィレギュリンという経路が人の細胞でも働くっていうことを示しています。
この研究では限界もあって、B01以外の時計遺伝子の影響とか、アムフィレギュリンの下流で何が働いているのかについてはまだ明らかになっていないという点がありますし、
心筋細胞に焦点を当てているので、筋肉以外の細胞については何が起きているか分かっていないっていうことになります。
でも、今回明らかにした経路を標的にすることで、心筋梗塞による障害を抑えられる可能性というのは示していて、将来的に治療の改善につながりそうな結果といえます。
さらにもっと広範な示唆というのもあります。
18:00
体内時計は全ての細胞に存在するので、心筋梗塞だけではなくて、低酸素が関わる他の病気でも同じような仕組みが病気の進み方に影響している可能性があります。
ですから、今回明らかになった仕組みは他の病気にも関わっている可能性がありますし、このような仕組みをさらに研究していくことによって、体内時計を利用した新しい治療方法につながるかもしれません。
今日はこれで終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。