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2024-03-21 20:38

Extra24 e41アップデート:男女の体格差は文化により生じた

e41 昔は「男が狩猟、女が採集・子育て」だったという定説について、の再放送に加えて、男女には体格差があるから、男性優先であるという定説を覆す研究の話をします。


https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0287101

https://www.nature.com/articles/s41598-023-40451-8


https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.02.21.529406v2 

https://www.nature.com/articles/s41562-023-01756-w

サマリー

男女の体格差は文化によって生じたという定説について扱うエピソードで、男性が狩りをし、女性が子育てをしているという考えが主張されています。しかし、最近の研究では男性が優先される社会から男女の体格差が生まれた可能性が示唆されています。犬の進化と人との共生、男女の体格差は文化により生じたことが分析されています。

男性が狩り、女性が子育てという定説
あの、昔は男性が狩りをして、女性が子育てをしていたので、男女の分業っていうのは人間の自然な姿であるっていう主張があるんですね。
で、この男性が狩猟、女性が子育てだったという定説自体が正しいかどうかっていうのを、当番組のエピソード41で扱っているんです。
でも、そもそもこの定説の前提にあるのは、平均として男女には体格差・体力差があって、だからこそ男性が力の必要な狩りをしているっていうことなんです。
つまり、体力差があることが原因で、分業を含め男性優位な文化ができたという考えです。
でも最近、実はそれは逆で、男性が優先されるから男女の体格差が生まれたということを示唆する研究が発表されています。
今日はエピソード42の再放送をした後に、この研究について触れたいと思います。
日本の歴史でいくと弥生時代に農業が始まるっていうことで、その前の旧石器時代とか縄文時代っていうのは狩猟採集社会であったっていうことなんですよね。
だから狩猟、狩りをしたりとか、植物を採集してきて食べていたと。そういうふうに教科書なんかでは習うわけです。
これは教科書で習ったかはちょっと定かではないんですけれども、狩猟採集社会では一般的に男女の分業があったって言われているんですね。
だから男性が狩猟をして女性が採集をしていたっていう、そういうふうに一般的には思われているんです。
さらに狩猟と違って採集の方が子育てと相性がいいんですよね。
だからそこから男性は家の外で狩りをしていて、女性が家庭で子育てをして、それに加えて採集をしていたっていう、そういう考えがあるわけなんです。
で、こういう定説が受け入れられるようになったのは、この業界でですね、1960年代に大きな影響を持つ本が出版されて、こういう定説ができたと。そういう経緯があると言われているんです。
なんですけれども、最近この男性が狩り、女性が子育てプラス採集っていう、この考え自体が間違っているかもしれないっていう、そういうことを示している研究が出ているんですね。
女性も狩りをしていた可能性
今日はそんな研究を2つ紹介していきたいと思います。 フォトサイエンティストへようこそ、こなやです。
今日紹介する一つ目の論文はシアトルパシフィック大学のアビゲール・アンダーソンらによる研究で、2023年6月にプロスワンに掲載されたものです。
この研究の前から、女性も狩りをしていたっていう話はあったんですね。 ただ、そもそもですね、昔誰が狩りをしていたのかっていうのをはっきり知るのは難しいんです。
例えば、お墓にその狩りをするための道具と一緒に男性の骨が埋めてあれば、きっとこの男の人がこの道具を使って狩りをしていたんだろうっていうふうに推測するんですね。
なんですけど、女性の骨と狩りの道具が一緒に見つかることもあったようなんですけれども、誰もあまりちゃんと調べてなかったんです。
1918年にアメリカ大陸の遺跡を調べていくっていう研究があって、確かに女性の骨と狩りの道具が一緒に埋まっていることも多いということがわかったんです。
かなり大雑把な推定になると思うんですけれども、そこから狩りをしていたのの3割から5割が女性だったのではと、そういうふうにこの研究では結論付けています。
ただ、この話はあまり受け入れられていなかったようなんです。
一旦定着してしまった定説、男女の役割分担があったという考えが強い影響を持っていて、それが理由だと考えられるわけです。
それに加えて、個別の研究ではどれだけ女性が狩りをするっていうのが一般的なのかがわからないというところがあるわけなんです。
それをもっと網羅的に調べてみようというのが今回の研究になります。
D-PLACEというデータベースがあるそうなんですね。
これは1400の人間の社会について過去150年間に集められたデータをまとめたものなんです。
特に狩猟採集社会についてはビンフォードハンターギャザラーデータセットというものがあって、ここには狩猟採集民族研究についてのすべてのデータが入っていて、これもD-PLACEに含まれているということなんです。
おそらく数千年数万年前の社会だけでなくて、わりと新しい時代の狩猟採集社会もこういったデータに含まれていて、300以上の社会についてのデータが入っているんです。
今回の解析をするだけのデータが含まれていたものが63社会あって、それについてデータベースを見ていったというものになります。
僕はこういった研究は完全に専門外なんですけれども、ちょっとデータベースだけのぞきに行ってみたんです。
この中にはいろいろな情報がテキストの形で入っているんですね。
だから例えばこの社会では身長がどれぐらいであったとか、定住していたかどうかとか、そういったデータが無数に入っているわけです。
今回のこの研究の結果なんですけれども、63個の社会のうち50個では女性が狩りをしていたという記述があったということなんです。
つまり最低8割の狩猟採集社会では女性も狩りをしていたという証拠があるということなんです。
詳しく見るとそのうちの多くではたまたま狩りに参加したのではなく、意図的に参加しているということがわかることが記述されているし、
大型の動物の狩りにも女性が参加していたということなんです。
さらに狩りを子供を連れて行ったという場合もあれば妊婦や赤ちゃんを背負って狩りをしたというのも見られたということです。
こういった情報がすでにデータベースに入っていたということは、これまでの研究ですでに女性も狩りに参加していたということはわかっていたわけなんですけれども、
もともとの定説があるというのがあって、なかなか個別の研究は重要視されないというところがあったわけです。
研究による女性の狩り参加の証拠
でも今回の研究ではデータベースを見て網羅的に調べることによって、女性が狩りを行うというのが普遍的であったということを明らかにしたんです。
今回のこの研究でもってどこまで一般的な認識が変わっていくかはわからないんですけれども、
男性が狩猟、女性が採集と家事・育児というのが一般的であるという定説が間違っているということが今回の研究で明らかになったというわけです。
でも疑問が残るんですよね。
やっぱり平均で見ると男女には体力差があって、腕伏しが強いのはやはり男性なんです。
そうなってくると、狩りは男性がやった方が合理的なのでは?という疑問はそのままなんです。
次はその点について示唆のある研究を紹介していきたいと思います。
これはケントステート大学のミシェル・ベバーラによる研究で、2023年8月にサイエンティフィックリポートに掲載されたものです。
この研究はアトラトルというものについて調べていっているんですね。
アトラトルというのは槍とか矢みたいなものを手で投げるより速い速度で投げるための道具なんです。
木とか骨でできていて、先端のあたりに引っ掛けるフックのような形状の場所があるんです。
そこに矢を引っ掛けて投げるというものなんですね。 言ってみれば、手が長くなった形で投げることができて、より速い速度で投げることができるという、そういうものなんです。
狩りのための道具っていうのを考えた時に、最初は手で槍とか森を持って狩りをしていたと考えられるんですね。
でもそれだけだと獲物の非常に近くまで行かないといけないので危険なわけです。
それに加えて警戒心の強い動物であれば逃げられてしまうということがあるわけなんです。
それで遠くから狙うために最初は槍を手で投げていた。 だから投げ槍を行うようになったと考えられるわけですね。
さらに遠くから狙えるようにこのアトラトルが開発されて、その後弓と矢になっていったと、そういう考えがあるんです。
ただ投げ槍とアトラトルを比較すると、確かにアトラトルの方が速度っていうのは速いんです。
でも投げ槍は結構重いんだけどアトラトルは細い矢みたいなものを使うことが多いので、殺傷能力という点ではあまり変わらないと考えられます。
というかむしろ槍の方が強いかもしれないです。
どちらもそれなりに遠くまで届くので、動物に襲われる危険とか逃げられてしまう可能性っていうのはあまり変わらないのではないかとこの論文の筆者らは議論していました。
アトラトルと性別の速度差
この論文の研究者が考えたのはアトラトルというのは非力な人でも狩りに参加できるようにする道具なのではないかということなんですね。
この考えでもってこの研究者たちは実験を進めていきました。 実験としてはですね学生とか地元の人を集めて槍投げとかアトラトルで矢を投げるっていうのをやってもらって速度を測定していったんです。
でその結果なんですけれども槍の場合はですね速度の男女差が大きいんですね。 女性の場合の中央値が秒速8メートルで男性の場合が12メートルくらいだったということなんです。
あの中央値っていうのは例えば50人いたらその真ん中の25番目の人の数値っていう意味でまあそれぐらいの値の人が多いっていうそういう意味なんです。
で中央値で見ると女性が秒速8メートル男性が12メートルだから男性が女性の1.5倍の速度が出ているということなんです。
でこれに対してアトラトルの場合はですね 速度が速くて女性の中央値が秒速15メートルだったんですね。
で男性は18メートルくらいっていう結果だったんです。 で計算すると男性が女性の1.2倍っていうことで槍の場合と比べると差が縮んでいるっていう
そういうことだったんです。 でまぁなんでそうなるかっていうところなんですけれどもアトラトルを投げるのは力よりもテクニックが大事で
で槍には投げるのに力が必要なのでこういう結果になったんだろうっていうことです。 ここから出てくる仮説なんですけれども
槍を投げるのには力がいるので扱えるのは主に男性で女性ではごく一部しか 使えなかっただろうっていうところなんです。
でも破壊力に男女の差が少ないアトラトルというものができてそういうものがあれば 女性も狩りに参加しやすくなったんではないかっていうことなんです。
実際に多くの狩猟採集社会でアトラトルのようなものが使われていたかはよくわからない ところはあるんです。
でも体力差を克服するためにこういった道具が使われた可能性はあるっていうまあそういう 研究なんですね。
ただこれは僕の個人的な考えになってくるんですけれども 例えばライオンだとオスのライオンの方がメスより大きくて強いんだけど
でも群れで狩りをするのはメスライオンなんです。 だからそもそも体力があることが狩りをする理由には必ずしもならないとも思う
わけです。 今は女性が外で働くっていうのは当たり前だし、こういうことは基本的に文化的に決まるものだっていう考えなんですよね。
でも狩猟採集の時代は男性が狩りで女性が家庭だったから これが人間の自然な姿であるっていう主張もあるわけです。
つまり性別で分業するのには生物学的な根拠があるっていう主張があるんですよね。
でもこの主張の前提となっている昔は男性が狩りをして女性が家庭だったという 定説自体が間違っている可能性もあるわけでそんなことを示した研究を今日は
2つ紹介しました。 もちろん個人差はあるんですが平均として見た時に男女に体格差があるというのは当たり前のことだと思われているわけです。
でも最近の研究でヨーロッパのいくつかの地域で旧石器時代のたくさんの骨から 身長、健康状態、そして遺伝種を調べるということが行われました。
その結果としては遺伝的には理由が認められないにも関わらず 地域によって男女の体格差が大きいところと小さいところがあるということだったんです。
その大体骨の長さで見ているんですけれども差が大きい地域では男女で14%の違いがあるのに小さいところでは5%だけだったんです。
この論文の筆者らはこのような地域による違いは例えば食料が限られている時に男性が優先されるかなどの文化的な要因によると推測しています。
男女の体格差の文化的要因
つまり男性の方が体が大きいから男性優位の文化ができたと考えられているんですけど、実は逆あるいはそれを助長するように男性優位な文化があるから体格差が生まれるという面があるかもしれないということなんです。
もちろん生物学的な精査も確かにあるだろうし、この研究では特定の時代の特定の地域の話なのでどれだけ一般化できるかはまだわかりません。
でも今でも女性の方が食べる量が少なくて、それは小柄な女性の方が一般的に好まれるからっていう文化的なものがある可能性も個人的には想像します。
男女で身長に違いがあるのなんてあまりにも当たり前で、それが自然であるっていうのを疑いもしないわけなんですけど、そんな視野の狭さを指摘しているような発想させられる研究だったので、今日はこれを紹介しました。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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