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2023-09-28 16:09

e41 昔は「男が狩猟、女が採集+子育て」だったという定説について

狩猟採集時代は「男が狩猟、女が採集・子育て」だったという定説を覆す研究を紹介します。

https://www.newscientist.com/article/2380011-the-myth-that-men-hunt-while-women-stay-at-home-is-entirely-wrong/

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0287101

https://karapaia.com/archives/52325057.html

https://www.nature.com/articles/s41598-023-40451-8

サマリー

日本の歴史では、狩猟採集社会において男性が一般的に狩猟を行い、女性が採集と子育てを担当しているとされています。しかし、最近の研究により、女性も狩猟に参加していたことが明らかになりました。また、狩猟に使われる投げ槍とアトラトルを比較した実験から、女性でも力を頼らずに狩猟が可能な道具が存在した可能性が示唆されています。

狩猟採集社会の考察
日本の歴史でいくと、弥生時代に農業が始まるっていうことで、その前の旧石器時代とか縄文時代っていうのは狩猟採集社会であったっていうことなんですよね。
だから狩猟、狩りをしたりとか、植物を採集してきて食べていたと。そういうふうに教科書なんかでは習うわけです。
で、これは教科書で習ったかはちょっと定かではないんですけれども、狩猟採集社会では一般的に男女の分業があったって言われているんですね。
だから男性が狩猟をして女性が採集をしていたっていう、まあそういうふうに一般的には思われているんです。
さらに狩猟と違って採集の方が子育てと相性がいいんですよね。
だからそこから男性は家の外で狩りをしていて、女性が家庭で子育てをして、それに加えて採集をしていたっていう、そういう考えがあるわけなんです。
で、こういう定説が受け入れられるようになったのは、この業界でですね、1960年代に大きな影響を持つ本が出版されて、こういう定説ができたと、そういう経緯があると言われているんです。
なんですけれども、最近この男性が狩り、女性が子育てプラス採集っていう、この考え自体が間違っているかもしれないっていう、そういうことを示している研究が出ているんですね。
で、今日はそんな研究を2つ紹介していきたいと思います。
ホットサイエンティストへようこそ、こなやです。
今日紹介する一つ目の論文は、シアトル・パシフィック大学のアビゲール・アンダーソンらによる研究で、2023年6月にフロスワンに掲載されたものです。
この研究の前から、女性も狩りをしていたっていう話はあったんですね。
ただ、そもそもですね、昔誰が狩りをしていたのかっていうのをはっきり知るのは難しいんです。
例えば、お墓にその狩りをするための道具と一緒に男性の骨が埋めてあれば、きっとこの男の人がこの道具を使って狩りをしていたんだろうっていう風に推測するんですね。
なんですけど、女性の骨と狩りの道具が一緒に見つかることもあったようなんですけれども、誰もあまりちゃんと調べてなかったんです。
1918年にアメリカ大陸の遺跡を調べていくっていう研究があって、確かに女性の骨と狩りの道具が一緒に埋まっていることも多いということがわかったんです。
かなり大雑把な推定になると思うんですけれども、そこから狩りをしていたのの3割から5割が女性だったのではと、そういうふうにこの研究では結論付けています。
ただ、この話はあまり受け入れられていなかったようなんです。
一旦定着してしまった定説、男女の役割分担があったという考えが強い影響を持っていて、それが理由だと考えられるわけです。
それに加えて、個別の研究ではどれだけ女性が狩りをするっていうのが一般的なのかがわからないっていうところがあるわけなんです。
それをもっと網羅的に調べてみようっていうのが今回の研究になります。
D-PLACEというデータベースがあるそうなんですね。
これは1400の人間の社会について過去150年間に集められたデータをまとめたものなんです。
特に狩猟採集社会についてはビンフォードハンターギャザラーデータセットっていうものがあって、ここには狩猟採集民族研究についてのすべてのデータが入っていて、これもD-PLACEに含まれているということなんです。
おそらく数千年数万年前の社会だけでなくて、わりと新しい時代の狩猟採集社会もこういったデータに含まれていて、300以上の社会についてのデータが入っているんです。
今回の解析をするだけのデータが含まれていたものが63社会あって、それについてデータベースを見ていったというものになります。
僕はこういった研究は完全に専門外なんですけれども、ちょっとデータベースだけのぞきに行ってみたんです。
この中にはいろいろな情報がテキストの形で入っているんですね。
だから例えばこの社会では身長がどれぐらいであったとか、定住していたかどうかとか、そういったデータが無数に入っているわけです。
今回のこの研究の結果なんですけれども、63個の社会のうち50個では女性が狩猟をしていたという記述があったということなんです。
つまり最低8割の狩猟採集社会では女性も狩猟をしていたという証拠があるということなんです。
詳しく見るとそのうちの多くではたまたま狩りに参加したのではなく、意図的に参加しているということがわかることが記述されているし、
大型の動物の狩りにも女性が参加していたということなんです。
さらに狩りを子供を連れて行ったという場合もあれば妊婦や赤ちゃんを背負って狩りをしたというのも見られたということです。
女性の狩猟参加の証拠
こういった情報がすでにデータベースに入っていたということは、これまでの研究ですでに女性も狩りに参加していたということはわかっていたわけなんですけれども、
もともとの定説があるというのがあって、なかなか個別の研究は重要視されないというところがあったわけです。
でも今回の研究ではデータベースを見て網羅的に調べることによって、女性が狩りを行うというのが普遍的であったということを明らかにしたんです。
今回のこの研究でもってどこまで一般的な認識が変わっていくかはわからないんですけれども、
男性が狩猟、女性が採集と家事・育児というのが一般的であるという定説が間違っているということが今回の研究で明らかになったというわけです。
でも疑問が残るんですよね。
やっぱり平均で見ると男女には体力差があって腕伏しが強いのはやはり男性なんです。
そうなってくると、狩りは男性がやった方が合理的なのではという疑問はそのままなんです。
次はその点について示唆のある研究を紹介していきたいと思います。
これはケントステート大学のミシェル・ベバーらによる研究で、2023年8月にサイエンティフィックリポートに掲載されたものです。
この研究はアトラトルというものについて調べていっているんですね。
アトラトルというのは槍とか矢みたいなものを手で投げるより速い速度で投げるための道具なんです。
木とか骨でできていて、先端のあたりに引っ掛けるフックのような形状の場所があるんです。
そこに矢を引っ掛けて投げるというものなんですね。
言ってみれば手が長くなった形で投げることができて、より速い速度で投げることができるという、そういうものなんです。
狩りのための道具っていうのを考えた時に、最初は手で槍とか森を持って狩りをしていたと考えられるんですね。
でもそれだけだと獲物の非常に近くまで行かないといけないので危険なわけです。
それに加えて警戒心の強い動物であれば逃げられてしまうということがあるわけなんです。
それで遠くから狙うために最初は槍を手で投げていた。だから投げ槍を行うようになったと考えられるわけですね。
さらに遠くから狙えるようにこのアトラトルが開発されて、その後弓と矢になっていったと。そういう考えがあるんです。
ただ投げ槍とアトラトルを比較すると、確かにアトラトルの方が速度っていうのは速いんです。
でも投げ槍は結構重いんだけどアトラトルは細い矢みたいなものを使うことが多いので殺傷能力という点ではあまり変わらないと考えられます。
投げ槍とアトラトルの比較実験
というかむしろ槍の方が強いかもしれないです。
どちらもそれなりに遠くまで届くので、動物に襲われる危険とか逃げられてしまう可能性というのはあまり変わらないのではないかとこの論文の筆者らは議論していました。
この論文の研究者が考えたのはアトラトルというのは非力な人でも狩りに参加できるようにする道具なのではないかということなんですね。
この考えでもってこの研究者たちは実験を進めていきました。
実験としてはですね、学生とか地元の人を集めて槍投げとかアトラトルで矢を投げるっていうのをやってもらって速度を測定していったんです。
その結果なんですけれども、槍の場合はですね、速度の男女差が大きいんですね。
女性の場合の中央値が秒速8m、男性の場合が12mくらいだったということなんです。
中央値っていうのは例えば50人いたらその真ん中の25番目の人の数値っていう意味で、それぐらいの値の人が多いっていうそういう意味なんです。
中央値で見ると女性が秒速8m、男性が12mだから男性が女性の1.5倍の速度が出ているっていうことなんです。
これに対してアトラトルの場合はですね、速度が速くて女性の中央値が秒速15mだったんですね。
男性は18mくらいっていう結果だったんです。
計算すると男性が女性の1.2倍っていうことで、槍の場合と比べると差が縮んでいるっていう、そういうことだったんです。
なんでそうなるかっていうところなんですけれども、アトラトルを投げるのは力よりもテクニックが大事で、槍には投げるのに力が必要なのでこういう結果になったんだろうということです。
ここから出てくる仮説なんですけれども、槍を投げるのには力がいるので扱えるのは主に男性で、女性ではごく一部しか使えなかっただろうっていうところなんです。
でも破壊力に男女の差が少ないアトラトルというものができて、そういうものがあれば女性も狩りに参加しやすくなったんではないかっていうことなんです。
実際に多くの狩猟採集社会でアトラトルのようなものが使われていたかはよくわからないところはあるんです。
でも体力差を克服するためにこういった道具が使われた可能性はあるっていう、そういう研究なんですね。
ただこれは僕の個人的な考えになってくるんですけれども、例えばライオンだとオスのライオンの方がメスより大きくて強いんだけど、でも群れで狩りをするのはメスライオンなんです。
だからそもそも体力があることが狩りをする理由には必ずしもならないとも思うわけです。
今は女性が外で働くっていうのは当たり前だし、こういうことは基本的に文化的に決まるものだっていう考えなんですよね。
でも狩猟採集の時代は男性が狩りで女性が家庭だったから、これが人間の自然な姿であるっていう主張もあるわけです。
つまり性別で分業するのには生物学的な根拠があるっていう主張があるんですよね。
でもこの主張の前提となっている、昔は男性が狩りをして女性が家庭だったという定説自体が間違っている可能性もあるわけで、そんなことを示した研究を今日は2つ紹介しました。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
16:09

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