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2024-09-05 22:42

S2E14 なぜ血圧に男女差があるのか

科学系ポッドキャストの日の配信です。共通テーマ「圧、熱、暑」で各科学系番組が配信しています。

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一般に女性よりも男性の血圧が高いことが知られています。性ホルモンがその理由であると考えられているのですが、全く別の意外な要因を明らかにした研究の話です。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adk1487

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高血圧になると、様々な病気のリスクが高まることが知られています。
高い血圧のせいで、血管が傷つき、動脈効果が起きることで、脳梗塞や脳出血といった脳の病気、それから心筋梗塞や心不全のような心臓の病気が引き起こされる原因となります。
他にも、腎臓や目の病気のリスクも高まるのです。
血圧は120、80みたいに、最大と最小の圧力で表されて、単位はmmHgになります。
今の基準だと140、90を超えると高血圧だとされます。
そうなると、生活の改善をしたり、薬を飲んだりと治療をするということになるわけです。
血圧には男女差があることが知られています。
血圧はおおむね若い方が低いのですが、40代、50代くらいまでは、どの年代でも、男性が女性よりも平均すると10くらい血圧が高いのです。
でも、年をとるにつれ血圧の男女差は減っていって、70代では男女で平均の血圧が同じになります。
この血圧の男女差の原因ですが、性ホルモンによるものだというのが一般的な考えです。
男性ホルモンのテストステロンは血圧を上昇させる作用がありますし、女性ホルモンのエストロゲンは血圧を下げる作用に加えて血管を保護する作用があるので、
その結果、男性の方が女性よりも血圧が高くなるという考えです。
そして女性が平均後に女性ホルモンの量が減ると、女性ホルモンが血圧を下げるという作用がなくなっていくので、
高齢者では血圧の男女差がなくなるというふうに説明されます。
でも、性ホルモンだけでは全てが説明できないということも指摘されています。
平均後に高年期障害の治療のために女性ホルモンを補うという治療が一部の女性では行われるんですけれども、
このホルモン補充療法では必ずしも血圧は変化しないんです。
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さらに、高齢の男性ではテストステロンが低下する人がいるんですが、
これによって血圧が下がって病気のリスクが下がるわけではなくて、むしろ心臓や血管の疾患のリスクが上昇することが示されています。
ホルモンの他には体格の違いや脂肪の量の違い、あるいは行動の違いなども指摘されているんですが、
血圧に男女差がある理由にはまだよくわからないところが残されているわけです。
今日は臭いの需要帯という意外な要因がこれに関わっていることを明らかにした研究を紹介します。
ポッドサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日紹介するのは、ジョーンズ・ホップキンス大学のジャオ・ジャオ・シューらによる研究で、
2024年3月のサイエンスアドバンシーズに発表されたものです。
あの血圧とはあまり関係なさそうな気がするので少し唐突ですが、
この研究では臭い需要帯というものに注目をしています。
臭いというのは、気発性の分子が空気中に漂っていて、それを認識するから臭いを感じるわけです。
その認識を行っているのが臭い需要帯、嗅覚需要帯と呼ばれるものです。
鼻の細胞の表面にこの分子が存在していて、
臭いの分子に結合して細胞の中に情報を伝えるので、臭いが認識されているわけです。
臭いになる分子というのはたくさんありますから、それに対する需要帯というのもたくさんあって、
例えばマウスの場合だと1000個くらいあると言われています。
人間だともう少し少なくて400個くらいだと言われているんです。
少し意外な感じがするんですが、この臭い需要帯というのは鼻だけではなくて、他のいろんな組織にも存在するんです。
だから外界からの臭いにはさらされることのない体の中のいろんな臓器にもあって、重要な働きをしているということが知られているんです。
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例えば免疫系で炎症反応に関わっているとか、精子とか卵子でそういった生殖細胞の働きにも関与しているなんていう話もあるんです。
今回の研究ではこの研究グループが前から研究していた一つの臭い需要帯に注目しています。
この名前がマウスでは臭い需要帯558です。
ここでは558と呼ぶことにします。
なぜこの研究グループがこの需要帯に特に注目していたかなんですけれども、
このグループはもともと腎臓に興味があって研究をしていて、この需要帯が腎臓に存在するからということです。
でも腎臓以外のいろいろな場所にも存在するということもわかっていました。
さらにこの需要帯の分子としての働きというのもわかっていて、この需要帯が結合する標的の分子というのもわかっているんです。
それが腸内細菌なんかが作る落酸という物質で、それによく反応するということです。
だからすでにわかっていたこととしては、この需要帯が腎臓に存在するということ、それから分子としては臭い需要帯として特定の物質に反応するということだったわけです。
でも動物にとってどんな働きがあるかはわからないという段階だったわけですね。
それでこの需要帯が作れないマウスを作って、そうしたら何が起きるのかを調べてみるというところが今回の研究の出発点になります。
この558の遺伝子に変異を入れて作れなくなったマウスですが、おおむね健康で体重は正常だし、腎臓の大きさとか血液の成分にも特に問題がないということでした。
それで他に何か違いはないのかといろいろ調べていったんですけれども、その結果血圧が普通のマウスとは違うというところに行き当たります。
最初のところで人間では男性の方が女性よりも10くらい血圧が高いという話をしたんですが、マウスでも同じでオスのマウスの方がメスよりも10くらい血圧が高いということが知られています。
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この558が作れないマウスではどうだったかというと、このような血圧の精査が見られませんでした。
つまり558がないとオスでもメスでも血圧が同じくらいだったんです。
もう少し詳しく言うと、558がないメスと正常なメスを比べると558がないメスの方が血圧が大きく上昇していました。
オスの方はどうだったかというと、558がないオスは正常なオスよりも少し血圧が低下していたんです。
だから558の作用というのはオスとメスで違うんですね。
でも558がなくなればオスとメスの精査がなくなるというわけですから、558は通常オスとメスの血圧の違いを生み出しているということなんです。
それから注目すべき点ですが、その他の精査はそのままだったとこの論文では言っています。
例えばマウスでは通常オスの方がメスよりも体重が大きいんですが、それは558がないマウスでも同じだったということです。
さらに558のないオスもメスもちゃんと子供を産むことができるということで、それぞれの性別になること自体に異常があるわけではなくて、558は特に血圧の精査だけに関わっているということになります。
さらにこの研究では558がマウスのどの組織に存在するか、詳しく見るということもしています。
その結果、腎臓だけではなくて心臓とか脂肪にもあるんですが、特にそれらの組織の中の血管にあるということを示しています。
だから558は腎臓の血管にもあるわけですが、腎臓の血管ではレニンという酵素が作られます。
高血圧の薬を飲んでいる人は知っているかもしれませんけれども、アンジオテンシンというホルモンがあるんですね。
これが血圧を上げるんです。
最近の高血圧の薬というのは、このアンジオテンシンの作用を抑制するものが主流なんですね。
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レニンはアンジオテンシンを生み出すという作用があるので、レニンは血圧を上げる作用があるんです。
というわけで、血圧を調節するレニンというのを作る細胞にこの558需要体が存在するということなので、次にこの研究では558とレニンの関係について調べています。
その結果ですが、558のないマウスではレニンが減っているということが分かりました。
558がないマウスでは血圧の精査がなくなっているわけでしたよね。
その理由の一つが、オスで血圧が下がっているということだったわけですが、
その原因はオスでレニンが減ることである可能性がこれで示されたわけです。
で、メスの方でも調べたんですけれども、メスではレニンの量に変化が見られないということでした。
だからレニンはメスの方では関係なさそうだということなんですね。
でも他のことも調べていて、558のないメスで血圧が上がっている原因は血管が固くなっているからだということを示唆するデータも示しています。
というわけで、558がないマウスでは血圧の精査がなくなるメカニズムを一部明らかにしたわけです。
でも研究者自身もまだ全てが解明されたわけではないと述べています。
実際、558の下流で何が起きているかについても全てがわかったわけではないですし、
どのような臭い物質が血管で作用しているのかっていうのもわかっていないわけです。
それでもこの研究では558がないマウスではオスとメスで血圧に差がないっていうことをはっきりと示していて、
血圧の精査を生み出す要因の一つを明らかにしたものなわけです。
でもこれはマウスの話です。
じゃあ人ではどうなのかっていうところが疑問として残っています。
もちろん人で実験をして調べるのは難しいわけですが、
今回の研究では一部この検証も行っています。
まず人もこのマウスで血圧の精査を受けたときに、
今回の研究では一部この検証も行っています。
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まず人もこのマウスの558とそっくりの受容体を持っていて、
人では臭い受容体51E1という名前がついています。
このE1受容体の遺伝子ですが、
このゲノムワイド関連解析というものによって、
血圧と関係あることがすでに示されていました。
このゲノムワイド関連解析というのは、
たくさんの人のDNAサンプルを解析して、
特定の病気とか性質がどの遺伝子変異と関係あるのかを調べるという手法になります。
この手法で血圧に関係ある遺伝子を探したところ、
E1遺伝子の配列の個人差と血圧に関係があったと報告されていたということです。
ただ、これはこの受容体と血圧が関係あるということを示唆しているんですけれども、
この解析では性別による血圧の違いについては調べられていませんでした。
そこで今回の研究では、すでに行われていた大規模調査のデータを使って、
男女に分けてこの受容体の遺伝子と血圧の関係を調べました。
いろんな解析をしているんですが、東アジアで見られる稀な変異を解析したときに興味深いことが分かりました。
この変異を持つ女性では、平均として6くらい血圧が上がっていました。
男女の差が10でしたから、かなり男女差が縮まるだけの上昇をしていたということなんですね。
ただ、統計的には意味があるかどうかギリギリのところなので、何とも言えないところではあります。
ただ、興味深いのは、この効果は50以下の若い女性でより大きかったということで、
血圧の男女差が大きい年代でこの遺伝子の変異の影響が大きいということになります。
じゃあ、この変異を持つ男性ではどうだったかというと、
一応血圧は下がってたんですが、これは統計的に意味のある変化ではなくて、
結論としては、男性ではこの変異の効果は見られなかったということです。
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というわけで、この変異は女性だけで血圧を上げる作用が一応あったということで、
影響が男女で違うということなわけです。
しかもその結果、血圧の男女差を減らす方向の関係があるということがわかったわけです。
このE1受容体の稀な遺伝子変異が受容体の機能にとってどういう意味を持つのかというのも興味があるところなわけです。
これについては、この研究グループがすでに調べていました。
この変異を持つ受容体の働きを調べるということをしているんですけれども、
正常な受容体に比べて作用が低下しているということが実験的に示されています。
先ほどのマウスの結果を思い出すと、
マウスではこの受容体のないマウス、受容体の機能がないマウスでは血圧の男女差がなくなっているということでした。
そして人では、受容体の機能を低下させる変異がある人では血圧の男女差が減っていたという結果だったわけです。
もちろん人でやっているのは遺伝子の変異を調べるというタイプの解析で、
マウスみたいにきれいに制御された実験ではないんですが、
一応人でも同じような作用があるかもしれないという状況証拠が示されたわけです。
ただ繰り返しですが、人での解析の結果については統計的に微妙なものもあるので、
筆者らも慎重な言い方をしていて、さらなる研究が必要であると言えます。
さて、今回の研究では性別によって血圧が異なる仕組みについて、
臭い受容体という今までその要因として全く考えられていなかったものが関わっているということを少なくともマウスで明らかにしたわけです。
もちろん今回の発見は、特に男女別の高血圧の治療とか予防に遠い将来つながる可能性というのがあって、そういう有益さがあると言えます。
でも血圧に男女差があるのは多くの人が知っていて当たり前だと感じるし、
男性の方が体が大きいからだとかホルモンのせいだと言われれば、まあそんなものかと簡単に納得してしまうわけです。
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でも今回の論文はそんな当たり前とも言える基本的な疑問についてわざわざ研究をして、全く新しい発見をしているわけで、それ自体に個人的には興味を惹かれます。
そしてそこに行き当たったのも、これは私が読んだ感覚ですが、たまたま研究がそこに流されていったのをうまく捕まえる準備があったからなのかもしれません。
今日は科学系ポッドキャストの日の配信でした。
今回は英語でサイエンスしないとという番組がホストで、共通テーマがアツでした。
このテーマでさまざまなポッドキャスト番組が配信をしています。
そのプレイリストがSpotify上にあるので、ぜひチェックしてみてください。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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