死の瞬間の体験
あの、人が死ぬ瞬間っていうのは、どんなものなのか、どんな感覚なのかっていうのは、一度は考えたことがあるんではないでしょうか。
もちろん、死を経験した人は、もうその体験を伝えることができないので、死の体験っていうのは、生きてる人は原理的に知ることができないわけです。
臨死体験っていうのがありますよね。 心臓が止まったりして、死の直前まで行った人が蘇生されて、
言ってみれば、生き返った人がその体験を語ったものです。 そのような話は、全く科学的ではないものとして捉えられることも多いんですが、
医療の進歩によって、心停止から蘇生される人が増えたこともあって、大規模に臨死体験を調査した研究っていうのもあります。
2021年のサム・パーニアによる研究では、心停止から生還した人のうち10%程度が臨死体験と呼べるものを報告したということでした。
臨死体験の内容には個人差があるんですが、文化的背景に関係なくよく見られるものがあります。
一つは光で、暗いトンネルの先に明るい光が見えるっていうものです。 もう一つは体外離脱で、
自分は天井に浮いてるんだけど、ベッドに横たわっている自分と治療をしている医師や看護師が見えるっていうやつです。
じゃあこういう経験は何なのかですが、 もちろん死後の世界っていうのがあって、それを見ていたっていう宗教的であったり、
そうでなくても、現在の科学の枠の外の考え方もできます。 でもそうではなくて、科学的に理解しようっていう試みも行われています。
心臓が停止すると脳への酸素の供給がなくなるので、脳の機能が急速に失われると考えられています。
そしてそうすると意識を失うわけです。 脳波っていうのは脳の電気的な活動なんですが、脳波計で測定すると脳の機能が失われれば、脳波はすぐに弱くなってフラットになります。
この脳波のほぼない状態っていうのが渾水状態で、精神の状態は停止していて、何も感じないし考えないし覚えていないっていう状態になるわけです。
で、そうであれば死の直前には何も見えないということになります。 でも脳波の活動は心臓が止まってからも起きることがあるっていう報告があります。
まず動物で行った研究ですが、ラットに塩化カリウムを注射して心停止させた実験で、脳波が完全に止まる前に一時的に脳の活動が増加するっていうことが示されています。
ここで出ている脳波が高い周波数を持つガンマ波というもので、ガンマ波は脳の高度な情報処理を表していると考えられています。
ですから、死の直前に認知機能が働いている可能性があります。 しかし、たとえこのようなラットを蘇生させても、ラットにとってどのような体験であったかを教えてもらうことができないので、この脳波の活動が何を意味しているかはよくわからないわけです。
また、重症患者が亡くなるところで脳波を測定した研究もあって、約半数の人では一時的な脳の活動が見られることが報告されています。
ここで重要なのが、脳死の患者ではこのような脳波が観察されなかったっていうことで、観察された脳波は測定の異常などではなくて、何らかの脳の活動であると考えられます。
しかし、このような死の直前の脳の活動が脳のどの部分で起きているかはわかっていませんでした。
今日は、脳波計による測定中に亡くなった患者のデータを詳細に解析することで、臨時体験の実態に迫ったとする研究と、その問題点について話します。
研究の実施と結果
ポッドサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日紹介するのはミシガン大学のガン・シューラによる研究で、2023年5月のアメリカ科学アカデミー企業PNASに発表されたものです。
まず第一に、人が亡くなる瞬間のデータを取ることは非常に難しいことなんです。
まさに人が亡くなろうとしている時っていうのは、普通は懸命に治療が行われている時なので、そんな時に必要ない計測機器をつけるなんていうことはできないわけです。
それでこの研究では、すでに亡くなった人のデータから、たまたま必要があって脳波形が取り付けられていた患者で、かつ解析可能であったものを探し出して、それを用いて解析を行っています。
こういった事情があるので、データ数は少なくて4人になります。
年齢が24、57、77、86歳で、心停止などでICUに入っていて、刺激には反応しないし意識がないと判断される状態で、人工呼吸器で呼吸を維持していたということです。
低酸素脳症か脳内出血があって、それをモニターするために脳波形が取り付けられて測定が行われていました。
特筆すべき点としては、患者のうち2人では転換の経験があったということなんですけど、少なくとも過去24時間には発作がなかったということです。
これらの患者の状態は悪くて、回復の見込みがないということで、家族の同意が得られた後に人工呼吸器の停止を行うということになりました。
この過程の脳波と心電図の測定が行われていて、このデータを研究グループは入手し、詳細に解析したということになります。
その結果ですが、2人については特に大きな脳波の反応はなく、呼吸が停止してしばらくすると脳の活動が静かに停止したということです。
しかし残り2人については強い脳の反応が見られました。
呼吸が停止する前の状態よりも強い脳波が見られ、一旦止まったり戻ったりを繰り返して、その後10分から20分で完全に脳波が平坦になったということです。
研究の解釈と批判
ここで強い活動が見られたというのが、工事の精神機能に関係あるとされるガンマ波で、これは酸素がなくなったことが過剰な活動を起こしたんだと筆者らは考えています。
この研究では、この活動が脳のどの部分で起きているかも解析しています。
いくつかの場所で活動が見られていたんですが、特に注目すべきなのがTPOジャンクションという部位で活動が見られたことです。
このTPOというのがテンポロパリエトオシピタルジャンクションということで、頭頂瘍、側頭瘍、後頭瘍という脳の上の部分、横の部分、後ろの部分を繋ぐ領域なんです。
ここが視覚とか空間認識などの認知プロセスに関わる脳のハブとして機能する部位とされています。
さらに解析の結果、このTPOジャンクションの活動がそこに繋がる領域と連動していたということもわかりました。
だからそういった領域と情報のやり取りが行われていると考えられるわけです。
このことは臨時体験というものを考えると興味深いことがあります。
TPOジャンクションは脳の上、横、後ろが繋がる部分なんですけど、それと一部重なるTPジャンクション、脳の上と横が繋がる部分っていうのは体外離脱との関係が知られています。
だからこの領域が損傷したり刺激されたりすると体外離脱の体験、体から出て外から見ているような感覚が引き起こされるっていう例が報告されているんです。
さらにTPOジャンクションやここに繋がっている領域っていうのが意識が存在する脳の部位だと考えられているので、ここで活動が見られるっていうことは、死の直前に患者が何かを感じていて、その活動がこれであるっていう可能性があるというわけです。
というわけで、この研究では死の過程にある人の脳をモニターして、活動の起きる場所を明らかにしているわけです。
で、この活動が臨時体験なのではないかと推測していました。
でもこれはわずか2人で見られたものですし、この2人で臨時体験というか死の直前に何かを見るっていうような体験が起きたのかっていうのは知る術もないので、注意が必要であると筆者自身も指摘しています。
ただ少なくとも、死んでいく人の脳は静かなものではなくて、大きな活動が起きている場合もあることを示しているだろうということです。
しかし、この論文に対する批判も挙げられています。
同じ雑誌に掲載されたコメンタリーでは、特に1点重要な問題を指摘していました。
それが今回、死の際に脳の活動が観察された2人の患者が転換発作の経験があるという点です。
それに対して、活動が見られなかった2人はそうではなかったわけです。
呼吸が止まって低酸素状態になると、神経細胞の興奮と抑制のバランスが崩れた異常な状態になると考えられます。
なので、たとえ最近は転換発作がなかったとしても、低酸素が引き金になって転換の発作が引き起こされてもおかしくないので、
この研究で解析したのは発作の反応だった可能性は十分あると、この記事は指摘していました。
というわけで、死の体験に関する研究っていうのは、データを得られる機会が非常に少ないのに加えて、
ターミナルルシディティの紹介
この体験をした人は何も語ることができないっていう制約もあります。
なので、まだまだわからないことが多いっていうのが現状で、死の体験がどんなものであるかは不明です。
でも、それがどんなものであるかは、遅かれ早かれ生と死の境界線を越えるときに、私たち全員が知ることになると、この記事は結ばれていました。
ここからは、葵さんと会話形式で研究を紹介するパートです。こんにちは、葵さん。
こんにちは、佐藤さん。
今日の話は、死の直前に起きる脳の活動の話でしたが、私からも死と密接に関係する現象について紹介したいと思います。
はい、お願いします。
ターミナルルシディティというのですが、死の直前に精神がはっきりするという現象があるんです。
ターミナルが最後の、ルシディティが頭が裂いていることという意味なので、日本語では終末期名席と訳されたりします。
アルツハイマー病などの患者では、記憶や認知機能が低下し、病気が進行して、死が近くなるとまともに意思疎通ができなくなるわけですね。
でも、19世紀には、すでに医療関係者に知られていたことなのですが、そういった患者が突然、名席差を取り戻すことがあるそうなんです。
長い間会話ができていなくて、もうそんな能力は失われたと思われていた人が、一時的ではあるんですけれども、記憶を取り戻して、話す能力も取り戻して、昔のように人と会話をするんです。
さらに、認知症では、記憶や認知機能が低下するだけではなく、人格も変わるんですけれども、このターミナルルシディティが起きているときは、それも戻って、まさに過去を取り戻したようになるということなんです。
そんなことがあるんですね。
はい。でも、これは一時的で、数十分から長くても数日しか続かないんです。しかも、そのすぐ後に死が訪れることが多いんです。
ある研究では、このように、一時的な迷跡差を経験した人の40%程度が24時間以内に死亡して、80%以上が1週間以内に亡くなったということが報告されています。
ちょっと悲しいような話でもあるのですが、家族からすると、最後にもう一度以前のように会話をして、お別れを言う時間を与えてくれるという考え方もできますね。
メカニズムと研究の難しさ
なんか不思議な現象ですね。
はい。多くの人はその直後に亡くなるのですが、一部の人はその後も当面生きているんですね。このような終末期でないものは、パラドキシカルルシリティと呼ばれます。
何がパラドックスなのか。アルツハイマー病などの認知症では、脳の神経細胞が死んで失われるわけですから、記憶も認知機能も不可逆的に失われていくと考えられているので、一時的にでも認知機能が回復するというのは謎なんです。
確かにそうですね。でもそうなってくると、ターミナルルシリティが起きるメカニズムが明らかになれば、認知症の治療の糸口になりそうなんですけど、メカニズムについて何かわかっているんですか?
ターミナルルシリティのメカニズムについては、まだ何もわかっていないというのが現状ですね。一応、先ほど話に出ていた臨時体験と何か関係があるのではないかという仮説はあるんですけれども、まだ根拠はない段階です。
そもそも研究自体まだ少ないのですが、いつ起きるのかもわからないので、ターミナルルシリティを体験している人を調べるということが難しいみたいです。
それに、ターミナルルシリティが起きている時間というのは、本人にとっても家族にとっても最後のお別れを言うことのできる貴重な時間なので、それを研究のために使うのは倫理的な問題があって、現実的ではないのかもしれませんね。
確かにそうですね。
今日も面白い話どうもありがとうございました。
今日は科学系ポッドキャストの日の配信でした。
今回はサイエントークという番組がホストで、共通テーマが教会です。
多くの科学番組が配信をしていて、そのSpotifyプレイリストが10日に公開される予定ですので、ぜひチェックしてください。
それから今回はポッドキャストシンポジウムというイベントとの連動企画になっています。
イベント自体はこれが配信される頃には終わっているんですけれども、その配信が行われる予定となっています。
こちらもぜひチェックしてみてください。
今日はこれで終わりにしたいと思います。
最後までお聞きいただきありがとうございました。
ありがとうございました。