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食事は免疫の働きにどのような影響があるんでしょうか? 食事の内容が免疫に影響するということは、これまでにたくさんの研究で示されています。
例えば、脂肪の多い高カロリーの食生活を続けていると、体の中で慢性的な炎症が起きやすくなることが示されています。
逆に栄養素が不足すると、病原体に対する抵抗性が落ちることもあります。 さらには、食物繊維を多く含むような食事だと、腸内細菌に働きかけて腸での防御機構が改善することも知られています。
ただ、こういった研究が調べてきたのは、特定の食事を何週間何ヶ月と続けたときに起きる免疫系の長期的な変化です。 じゃあ、もっと短い時間ではどうなんでしょうか?
1日の中で空腹の時とご飯を食べた後では、免疫の働きに違いがあったりするのでしょうか? 食事をすると、私たちの血液の中に含まれる成分が短時間のうちに変化するんですね。
血糖値が上がり、脂質やアミノ酸が血中に増え、様々なホルモンや代謝産物の濃度も変化します。 お腹が減っているときにはまた別の変化が起きていて、食事をするたびに血液の成分が変化しているんです。
血液の中には様々な免疫細胞が存在していて、それらをまとめて白血球と呼んでいるわけです。 そうなると、食事によって血液の成分が変われば、免疫細胞の働きも変わるのではないかという素朴な疑問を持つこともできます。
一部、炎症に関連する研究なんかはあったんですが、1回の食事による栄養状態が免疫細胞に対してどのような短期的な効果があるのかを調べた研究っていうのは、長期的な影響を調べたものと比べると、それほど多くはありませんでした。
今日は、この素朴な疑問。1日の中で食事が免疫細胞にどのような影響を与えるのかについて、検証した研究を紹介します。
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スポットサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのは、ピッツバーグ大学のアロク・クマーラによる研究で、2026年4月にネイチャーに発表されたものです。
この研究では最初に、人を対象とした試験を行っています。
実験参加者には、まず一晩絶食をしてもらって、朝、空腹時に1回目の採血を行います。
その後の6時間は自由に食事をしてもらって、同じ人からもう1回採血をしました。
こうすることで、個人差の影響を抑えながら、同じ人の食前と食後を比較できます。
この研究では、免疫細胞の中でも特定のタイプのT細胞に着目しています。
このT細胞は、ウイルスに感染した細胞とか、ガン細胞を見つけて排除する免疫細胞なんですが、
それぞれのT細胞に特定の標的があるんですね。
標的に関する情報を受け取ると活性化して、急速に増殖して、感染した細胞やガン細胞を攻撃できる状態になります。
ですから普段は静かな状態にあるんですが、標的によって活性化されると増殖したり攻撃したりするので、たくさんのエネルギーが必要になる、そういったタイプの細胞になります。
まず、食後に採取されたT細胞と、空腹時に採取されたT細胞で、エネルギーを作る能力に違いはないかを調べました。
これは人のサンプルではあるんですが、採血して体の外にありますから、こういうふうに細胞の機能を測ることができるんです。
その結果ですが、食後のT細胞ではエネルギー源となる糖を取り込む力が強くて、脂肪も多く蓄えられていました。
さらに細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリアという器官も増えていて、多くのエネルギーを作れる状態になっていたんです。
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だから単にT細胞が活発になっていたのではなくて、免疫反応で必要になるエネルギーをよりたくさん用意できる状態になっていたということになります。
次にT細胞を刺激して、免疫反応が起きる状態にしてみています。
そうするとT細胞が増殖するわけなんですが、食後に採取されたT細胞の方が、空腹時のT細胞よりも多く増えていたんです。
つまり実際に刺激を受けた時の増殖能力も、食時によって高くなっていたんです。
ですからT細胞の状態が、空腹時と食後では違っていて、食後の方が刺激を受けた時に免疫反応を強く起こせる、言ってみれば元気な状態にあるということがわかったんです。
ただここで一つ問題があります。
最初の採血は一晩絶食した後に行われて、2回目の採取はそれから6時間後に行われています。
ですから食前と食後では、食事をしたかどうかっていう違いだけではなくて、採血した時刻が違うんですね。
体内時計の影響っていうのもあり得ますから、今回の条件で観察された変化が、食事によるものなのか、朝と昼の違いによるものなのかが区別できていないんです。
そこで時間帯の影響を調べるための比較の実験も行っています。
一部の人については、1回目の採血から2回目の採血まで、参加者に食事を取らないで絶食を続けてもらいました。
この場合だと、食後に2回目の採血を行ったグループで観察されたT細胞の代謝機能の増加は見られなかったんです。
これによって、確かに食事の影響でT細胞の代謝能力が高くなるのが確認されたということになります。
次に、分子的には何が起きているのかを調べています。
人で調べるのは難しいので、次はマウスを使った実験を行っています。
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まず最初に、人の時と同じように、空腹の時のT細胞と食事をした後のT細胞を比較して、
食事後のT細胞の方が代謝能力が高く、明顯反応を起こす抗原と反応した時に、より増殖することを確認しています。
つまり、マウスでも人と同じようなことが起きることが確認されました。
次に、食後に何がT細胞を変えるのかを調べました。
食後のマウスのT細胞は代謝能力が高い元気な状態にあるわけなんですが、
食後のマウスから採取した血清を、空腹なマウスのT細胞の培養液に加えてみたんです。
そうすると、T細胞がより元気な代謝能力が高い状態になったんです。
ということは、食後の血液の中に何かT細胞の代謝能力を高める物質が存在しているということになります。
食後の血液の中では様々な変化が起こっているんですが、この論文では特に死亡が重要であるということを明らかにしています。
食後には血中の脂肪の量が増えるんですね。
食事から吸収された脂肪はカイロミクロンという粒子にまとめられて血液中を運搬されています。
それで、食後のマウスからカイロミクロンを取ってきてT細胞にふりかけるという実験をしているんですが、
そうするとT細胞が元気な状態になっていたんです。
この結果などから、食事によって血液中に増加する脂肪によってT細胞が増殖しやすい元気な状態になるんだと結論付けています。
では、食後の脂肪を受け取ったT細胞の中では何が起きて細胞の状態が変化するのでしょうか。
そもそも細胞の状態とは何かということなんですが、細胞の中では様々なタンパク質が働いています。
このタンパク質の働きでエネルギーを作ったり使ったり、細胞の分裂をしたり免疫反応を起こしたりしているわけです。
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タンパク質がどういうふうに作られるかというと、DNAの情報から作られます。
細胞の持つDNAに遺伝子というのがたくさんあるわけなんですが、
一つの遺伝子のDNAをテンプレートにしてRNAという分子が作られて、そのRNAの情報からタンパク質が作られます。
このDNAからRNAの部分を転写、RNAからタンパク質の部分を翻訳と言います。
細胞内のRNAを網羅的に調べることで、その遺伝子の転写がどれくらい起きているのかを推定する方法があって、RNAシークと呼ばれます。
この方法は根が張るんですけど、どの遺伝子の働きに違いがあるかなど、たくさんの情報が得られるので、
最近では細胞の状態の違いを調べるのには非常によく使われている手法です。
この研究でもこの方法で、空腹時のT細胞と食後のT細胞の違いを調べたんですが、
あまり大きな違いはないという結果でした。
つまりT細胞の遺伝子の転写は、食事で大きく変化はしてないって考えられるわけです。
でも確かに食後には代謝能力が上がっているなど、細胞の状態は変化しているんです。
それで、RNAからタンパク質、翻訳に違いがないかも調べていて、タンパク質の合成が全体的に増加していることがわかりました。
この翻訳の増加が、食後のT細胞の代謝能力とか、その後の免疫反応の強さに関係していることも示されたんです。
ですから、食事をすると血液中に脂肪が増えます。
これによってT細胞の中でタンパク質の翻訳が増えて、細胞の代謝能力が上がり、空腹時よりも刺激に強く反応できる状態になるという仕組みが考えられます。
T細胞は、ガン細胞の除去にも働いているんです。
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異常な細胞を見つけると、その細胞を攻撃して排除することで、その異常な細胞が増殖して腫瘍ができるのを抑えています。
そして、通常のT細胞の働きでは抑えきれないときに、ガン細胞が増殖してガンになったりするんです。
このT細胞がガンを抑える仕組みを応用したガン治療法で、カーティ療法というものがあります。
カーティ療法がどのように行われるのかですが、この療法ではまず、ガン患者自身からT細胞を取り出します。
次に、このT細胞に患者のガン細胞が持っている分子を認識するタンパク質の遺伝子を導入します。
このようにしてできた細胞をカーティ細胞と呼ぶのですが、この細胞はガン細胞をターゲットとして攻撃する能力を持っています。
このカーティ細胞を患者の血液に戻してやって、患者のガン細胞を攻撃させるという治療になります。
実際にこのような治療がすでに行われていて、保険適用のものもあるのです。
この療法では患者のT細胞を取り出して使うわけですが、食事によってT細胞の状態に変化が起こるのであれば、
T細胞を採取するタイミングによってカーティ療法の効果に違いがあるのではと、この論文の筆者らは考え、この検証を最後に行っています。
まず、空腹の人から取ったT細胞と、食後の人から取ったT細胞それぞれから特定のガンを標的としたカーティ細胞を作成しました。
この細胞がガンを攻撃する能力に違いがあるのかを調べるわけなんですが、人で実験するのはいろいろ大変なので、人のガンを移植したマウスにこのT細胞を投与しています。
そうしたら、食後のT細胞から作ったカーティ細胞の方が、空腹時のT細胞から作ったカーティ細胞よりも効果が大きかったんです。
空腹時由来のものでも確かな効果はあるんですが、食後由来のものはさらにガンを抑える効果が大きくて、ガンをより長期間抑えていたし、マウスが生きていられる期間も伸びていたんです。
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この結果は、カーティ療法のためのT細胞のタイミングが治療効果に影響する可能性を示しています。
食事の免疫に対する影響を調べた研究というのはたくさんあったんですが、どのような食事を続けるとどのような影響があるのかという長期的な効果を調べたものが多かったんです。
1日のうちで食事による変化はあるのかという点を調べた研究はそこまで多くありませんでした。
今回の研究はこのシンプルな疑問から始まりました。
筆者自身もあまり期待をしていなかったということなんですが、実際には食事によりT細胞の状態が変わり、より強く免疫反応を起こせる状態になるという予想外に興味深くかつ重要そうな結果が示されました。
この結果を考えると、空腹時には感染症にかかりやすくなるのではないかとか、食後にワクチンを接種すれば人でも効果が高くなるのではないかと思ってしまうんですが、
この辺については直接の検証はされていないので、まだそこまでは断言できない段階ということになります。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。