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2023-09-07 15:17

e38 人工的に休眠状態を作り出す

超音波によって休眠状態を作り出すというネズミを用いた研究です。

脳の中の変わった分子がこの現象を起こしているようです。

宇宙開発や医療のために人間を休眠状態にする方法につながるのか?


https://www.newscientist.com/article/2375650-ultrasound-can-trigger-a-hibernation-like-state-in-mice-and-rats/

https://www.nature.com/articles/s42255-023-00804-z

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2163-6

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2387-5

サマリー

遺伝子改変なしで人間の休眠を作る研究が進展しています。また、超音波が思考下部の神経を刺激して求眠状態を引き起こすことが現れています。

休眠状態の実現
よく宇宙モノの映画なんかであるのは、惑星間の移動をする時に、宇宙飛行士がなんかカプセルみたいのに入って、休眠状態になるっていうやつなんですね。
だいたい低温にするみたいのが多くて、アイデアとしては、代謝が落ちてエネルギーも使われなくなるっていうもので、だから食べなくてもいいし老化もしない。
だから長い時間かかる移動をそういう状態でやることができるっていうやつなんですよね。
でももちろんこれはフィクションなんだけれども、でもそれを実現するのに一歩近づいたんではないかっていう研究があって、今日はそれを紹介していきたいと思います。
pod scientistへようこそ。こなやです。
哺乳類とか鳥類っていう高温動物はずっとエネルギーを使い続けているんですよね。
でもこういった動物の中でも、休眠状態って言って体温を下げて代謝がゆっくりになった状態を作ることのできる動物っていうのもいるんです。
で、まあ冬眠っていうのはその一つだし、一部のコウモリとか鳥ではですね、夜間に休眠状態になるっていうものもいるんです。
実験でよく用いられるマウス、ハツカネズミっていうのも、食べ物がなくなると休眠状態になるっていうことが知られているんですね。
マウスだといろいろ遺伝子をいじるっていうことができて、かなり複雑な実験をすることができるんです。
そのおかげもあってですね、2020年にマウスの脳の特定の場所、具体的には思想下部の一部が休眠に関わっているっていうことを示した論文が出版されたんです。
この論文では、この特定の部位の神経細胞を刺激するとマウスが休眠状態になるっていうことを示しています。
ただですね、そういうふうに特定の神経細胞を刺激するために、かなりややこしいことをやっているんですね。
遺伝子を導入して、この特定の場所だけで人工的な分子、タンパク質を作らせるっていうことをやっています。
この時作らせた分子っていうのが、ちょっと変わった受容体で、動物の体の中にはない特別な薬にだけ結合して、その結果その神経細胞を活動させるっていう性質を持ったものなんです。
そういうふうに遺伝的に改変したマウスを用いれば、その薬を投与した時だけこの神経が刺激されて、その結果休眠が起きるっていう結果だったんです。
この発見自体はすごいことだし、薬を飲めば休眠状態になっているっていうことだから、人工的に動物の休眠を作るっていうことに成功しているわけなんですよね。
だから人工的な人間の休眠にも近づいたっていう感じがするんだけど、でも遺伝子を導入しているっていう時点で、人間での応用は全然現実的ではないっていうことなんです。
やっぱり理想的には遺伝子改変なんかしてない普通のそのままの人間で休眠ができた方がいいわけなんですよね。
遺伝子改変による休眠の実現
というか、そうでないと実際に使うっていうことはできないわけなんです。
でもですね、脳の特に思想下部みたいな、割と中の方にある場所を刺激するのっていうのはすごく難しいんです。
だからこそこの論文ではマウスにそんな遺伝子改変をして刺激をしているわけなんですね。
もちろんゴレントゲンみたいな放射線なんかを使えば脳の中までその放射線が入っていくわけなんですけど、でも放射線に反応して神経を働かせる分子なんていうものがないので、放射線を使って脳を刺激するなんていうことはできないわけなんです。
だから普通に考えるともうここで手詰まりなんですよ。
なんですけど、今日紹介する論文ではですね、著者らは超音波を使えばこの場所を刺激できるんではないかっていう、少し斜め上を行くような発想で実験を進めていったんです。
この論文がアメリカ・ワシントン大学のヤオ・フン・ヤンらによる研究で、Nature Metabolismに掲載されたものです。
超音波っていうのは脳の中まで到達はするんですね。
ただ、到達したとしても超音波に反応するものがなければ、その場所で神経の活動が起きないわけなんです。
でもこのグループの人たちはですね、この思想株の神経はきっと超音波に反応するんじゃないかと考えたんですけれども、
その理由は、この神経にはトリップチャネルと呼ばれる変わった分子が存在することがすでに明らかになっていたからなんです。
このトリップチャネルというのはですね、細胞の電気的な状態を変化させて、神経細胞なんかを興奮させることのできる分子で、細胞の表面にあるんですね。
光とか温度、それから浸透圧みたいな物理的もしくは科学的な刺激で働くことが知られていて、外界のセンサーとしての役割を持っているんです。
だからこのトリップチャネルは皮膚とかそういう外界を認識するような場所にあって働いているんですね。
でも脳の中にもあるっていうことがわかっていたんです。その脳っていうのは頭蓋骨もあるし、外界から閉鎖された場所なんですね。
だから脳の中にそういう外界からの刺激のセンサーみたいなものがあるっていうのはちょっと不思議なんですけど、
このトリップチャネルっていうのは細胞の中にある化学物質によっても活動するので、脳の中では主にそういう働きをしているんだろうと考えられているんです。
この求眠を司っている思想下部にはですね、トリップM2という超音波に反応するタイプのトリップチャネルが存在するっていうことがわかっていたんです。
だからこの論文の著者らはですね、思想下部に焦点を当てて超音波を送れば、この部分の神経が活動して、求眠状態が引き起こされるのではないかと考えたんです。
超音波を用いた休眠状態の実現
実験としてはですね、マウスの頭に超音波照射装置を貼り付けたんですね。でも脳の中につけたわけではなくて頭蓋骨の外に貼り付けたわけなんです。
それでもって思想下部を狙って照射したんですね。その結果なんですけれども、超音波を当てるとマウスの体温が低下して心拍数が下がって代謝が低下するっていう、まさに求眠状態のような状態になったんです。
この実験ではですね、断続的に超音波を当て続けるということもやっていて、最大で24時間連続して求眠状態を作り続けるということにも成功しています。
さらにですね、この超音波を切ると特に健康被害なく元の状態に戻ったと、そういう結果だったんです。今話したのはハツカネズミ、マウスの結果だったんですけれども、別のネズミ、ドブネズミ、ラットと呼ばれるネズミでも同じ実験を行っています。
注目すべき点はですね、マウスは餌がなくなると求眠状態になるって分かってたんだけど、ラットの方は餌がなくても寒くても求眠状態にならないということが分かっていて、ラットは求眠状態にならないと考えられているんです。
ラットでも同じ部位を超音波で刺激してみたんですね。そうしたらラットでも体温の低下が見られたんです。ということは、通常は求眠しないラットでもこの超音波を用いた方法であれば、求眠を起こすことができるということなんですよね。
だからひょっとしたら、人間を含めて他の求眠しない動物でも同じ方法で求眠を引き起こすことができるのかもしれないっていう、そういう可能性を示唆する結果だったんです。
ただ、今回の結果とかそういう考えにはですね、いろいろ怪異的な見方もあるんです。
まず一つはですね、本当に超音波がトリップチャンネルを刺激して神経の活動が起きているのかっていうところですね。
その高エネルギーの音を当てれば、そこで熱が発生するので、ひょっとしたら脳の中で熱が発生して、それを下げるために体温が下がっているっていう可能性も考えられます。
あとはもちろん、ネズミではこういう結果だったけれども、他の動物、人間でも同じことが起きるかというと、それはわからないということになるわけなんです。
ただ、こういう超音波を送る装置っていうのは、人間用のものを作るっていうことも技術的には可能なようで、やろうと思えば試せるわけなんですけど、
実際そういうことをやった時の安全性がどんなもんかっていうのがわからないので、いろいろ検証してからということになりそうで、実際にテストが行われるのはしばらく先になるだろうというところです。
ただ、人間は今のところ計画しているのは、せいぜい火星に行くというところまでで、そんなに遠くの宇宙には行けないので、こういう技術が開発されないと困るようになるのには、まだしばらく時間があるということではあります。
ただ、こういう休眠っていうのは、惑星間移動だけに役に立つものではないんですね。
その心筋梗塞とか脳梗塞が起きた時に、代謝をゆっくりにすると組織へのダメージが減るっていうことが知られているんですね。
だから人間でもこんなふうにサッと休眠状態を作ることができれば、医療的な応用もあり得るので、そういう面でもこういう研究は期待をされているというところなんです。
8月はですね、ちょっとお休みをしたりとか、古い音源の再利用をしたりしていました。
それで過去にやっていた番組についてちょっと問い合わせがあったんですけれども、先月公開したものっていうのは1年前ぐらいに収録したものなんですね。
それでその番組ではですね、あんまりちゃんと研究を紹介したものは少なくて、今はもう非公開にしています。
というわけで、新しいエピソードの公開はもう1月ぶりぐらいでお待たせしてしまったんですけれども、今後は週1回新しいエピソードを公開するっていう元のスケジュールでやっていく予定でいますので、変わらず聞いていただけると嬉しく思います。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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