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2024-01-11 25:14

e53 やせ薬が学習も改善する

やせ薬として注目されるGLP-1作動薬ですが、肥満の人の学習の低下も改善するという話です。


https://www.nature.com/articles/s41593-023-01466-6

https://www.nature.com/articles/s42255-023-00859-y

https://www.nature.com/articles/s42255-023-00870-3


https://www.news-medical.net/news/20230822/Study-explores-mechanism-behind-liraglutide-associated-weight-loss-in-obese-individuals.aspx

サマリー

GLP-1受容体作動薬は、糖尿病の治療薬として注目されており、体重を減らす効果もあります。GLP-1作動薬は脳に直接作用して食欲を減らすことが考えられています。また、GLP-1作動薬はドーパミンという神経伝達物質を作り出す神経細胞にも効果を及ぼし、ドーパミンは学習に重要な役割を果たすことが知られています。このエピソードでは、インスリン抵抗性の人と正常な人に対してGLP-1作動薬を投与した場合の学習能力の改善について話されています。

GLP-1作動薬の効果
糖尿病の治療薬で、GLP-1受容体作動薬というグループのものがあるんですけど、これが体重を落とす薬として注目されているんです。
そもそも糖尿病、特に新型糖尿病というのは、体がインシュリンというホルモンに適切に反応しない状態で、それで血糖値が上がるものなんです。
体の中にGLP-1というのがあって、血糖値が高い時には、このGLP-1がインシュリンの分泌を促進して、
インシュリンには血糖値を下げる作用があるので、その結果血糖値が下がるという、そういう働きがあるんです。
このGLP-1と同じ働きをする、GLP-1作動薬というタイプの薬があるんですね。
化合物としては、リラグルチドとかセマグルチドというのがあって、
セマグルチドの方は、リベルサスとかオゼンピックという商品名で使われているものなんです。
こういった薬というのは、インシュリンに適切に反応しない人、インシュリン抵抗性の人に投与すると、血糖値を下げるという作用があるんです。
さらに体重の減少も起こすんですね。
これは、
このGLP-1作動薬が脳に直接作用して、食欲を減らすからだって考えられているんです。
脳に直接作用するっていうことなんですけど、
ドーパミンという神経伝達物質を作る神経細胞にも、GLP-1が作用すると考えられているんですね。
ドーパミンって、
よく聞くと思うんです。
快楽とか報酬に関わるみたいな言われ方をして、つまり幸せとか嬉しいとか気持ちいいっていう、そういう感情を起こすものっていうような言われ方がするんですね。
そういった感情っていうのは、やる気とか学習に重要なので、
ドーパミンはモチベーションとか記憶学、
学習に大事であると言われるんです。
じゃあ、糖尿病とかこのGLP-1作動薬と学習の関係ってどうなんだろうっていうのが疑問として湧くんですよね。
GLP-1作動薬と学習
今日は、そこを調べていった研究の話をしたいと思います。
ホットサイエンティストへようこそ。
コナヤです。
今日紹介する論文は、
マックス・プランク研究所のルース・ハンセンらによって行われた研究で、
2023年8月のネイチャーメタボリズムに掲載されたものです。
この研究では、
肥満でインスリン抵抗性の人、
つまり糖尿病と言っていいような人と、
それの比較の対象として、
痩せてインスリンへの反応、
その反応性が正常な人について、
連合学習のテストを行っています。
連合学習っていうのは、
一つの刺激と別の刺激を結びつけるっていう学習なんですね。
有名なのは、パブロフの犬っていうやつで、
ベルが鳴ると餌が出てくるっていうのを繰り返し、
刺激として、
与えてそれを学習すると、
ベルが鳴るだけで餌は出てなくても、
よだれが出るみたいな、
そういうふうに2つの刺激を結びつけるっていうような学習です。
この研究では、
参加者にリラグルチドを投与した状態と、
そうでない状態で、
連合学習のタスクを行ってもらっています。
結果なんですけれども、
インシュリン抵抗性の人では、
正常な人よりも学習が悪かったんですね。
でも、リラグルチドを事前に投与すると、
正常の人と同じように学習をしていたということなんです。
でも、リラグルチドは、
正常な人に投与しても、
その人の学習をさらに良くするというような効果はなく、
インシュリン抵抗性の人の異常を元に戻すという効果があるという、
そういう結果だったんです。
ということは、
投与病っていうのは、
もちろん体の健康に悪影響があるんですけれども、
それだけじゃなくて、
学習にも悪影響があるっていうことなんですよね。
さらに、
このGLP-1作動薬っていうのは、
その部分、
自分も治療できるっていうことが明らかになったんです。
でですね、
一般向けに書かれた短い記事なんかには、
こういうふうにこの論文の内容が紹介してあったんです。
でも、論文を見てみると、
ここでやっている連合学習のタスクっていうのが、
かなりややこしいもので、
こんなには単純な話ではないんですね。
で、僕自身もちゃんと正確に理解できているか、
あんまり自信がないんですけど、
ここからそのややこしい中身に入っていこうと思うので、
大雑把にはこんなもんだっていう、
ちょっと話半分で聞いてもらえればと思います。
で、まず、
ドーパミンが報酬とか、
快楽の伝達物質であるっていう考えなんですけど、
それが今はもう古いというふうになってきているようなんです。
確かに結果として報酬とかやる気に関わっているんですけど、
でもドーパミンの機能の本質はそれではないんですね。
じゃあ何かっていうところなんですけれども、
このプレディクションエラー、
予測との違いを検出していると言われています。
その脳っていうのは、
周りの環境についてモデルを構築していて、
外界から何か刺激を受けた時に、
その予測と違った時に、
そのモデル自体をアップデートするっていうことをいつも行っているんです。
それが脳の機能の本質であるっていう考えなんです。
だから予測と違っていたら、
それは情報としてすごく大事なことで、
それにドーパミンが関わっているっていうことなんです。
有名な実験があるんですね。
これは猿の脳の中にあるドーパミンを作る神経の活動を記録したっていうものになります。
でですね、猿に餌を与えると、
ドーパミンの神経が活動するんですね。
だからそういう餌みたいな報酬になるようなものと関係があるって人は考えてたんです。
でもこれはですね、
いつ餌が来るか分かってないんですよ。
で、突然餌が出てきて予測ができて、
餌が来てないので、予測と違うから反応してるっていう考えなんです。
で、なんでそういうふうに考えるのかっていうのが、
次の実験で明らかになるんですね。
その猿に餌を与えるんですけれども、
ブザーを鳴らして、その後に餌をあげるっていうのを繰り返すことによって、
ブザーと餌を学習させるんです。
で、そういう状態の猿の神経の活動を記録したんですね。
で、そうするとブザーが鳴った時にドーパミン神経が活動したんです。
で、その後餌が出てくるわけなんですけれども、
餌が出たタイミングではドーパミン神経は反応してなかったんです。
その何の刺激もなくても、
少し反応があって、そういうベースラインの反応があるんですけど、
餌が出てきてもそのレベルの反応しかなかったんです。
で、報酬になるのは餌の方なんですよね。
ブザーじゃないんですよね。
だからドーパミンは報酬のところで活動してるわけじゃないんです。
で、ブザーのところでは活動してるんですけど、
それはブザーがいつ鳴るかわからないんで、
違いでドーパミン神経が反応してるっていう、
そういう考えになっていったんです。
で、ちなみにですね、
ブザーは鳴ったんだけど、
餌は出さないっていうこともやってみたんですね。
で、そういう時はブザーの後に神経が活動して、
で、餌が出てこなかった時に、
ドーパミン神経の活動がベースラインよりも、
ドーパミン神経の活動がベースラインよりも、
さらに下がったんです。
で、これも予測と違ってるから、
そういう反応が起きたっていう、
そういうことなんです。
で、GLP-1に話を戻すと、
GLP-1がドーパミン神経をコントロールしてそうなわけです。
だからこの論文では、
プレディクションエラーの関わる学習について、
調べていってるんです。
で、たぶんですね、
単純な連合学習とかしても、
インシュリン抵抗性の人でも成績が悪いわけではないんだと思うんですね。
だからこんな複雑なことをやってるんだと思います。
で、実験の具体的な内容なんですけれども、
これが非常に複雑なので、ゆっくり話していきますね。
で、これは聴覚と視覚の連合学習になります。
で、聴覚としては、
高い音と低い音の2種類があるんですね。
で、視覚の方は顔が写った写真と家が写った写真になります。
で、実験に参加した人にはテストをしていくんですけれども、
音が出た後に写真が出てくるんですけれども、
どの写真が出てくるかを予測してボタンを押すっていうものになります。
で、ボタンを押したらその後、実際に写真が出てくるんですね。
だから当たってたかどうかが分かるっていうことです。
で、こういうテストを何回も連続してやっていくということになります。
320回ですね。
でですね、この聴覚と視覚の結びつきが決まってるわけではないんです。
だから高い音だったら顔。
とか言って決まってるわけではないんですね。
で、複雑なんですけれども、
さっき言ったように予測をするっていうテストを320回やるんですが、
それがいくつかのブロックに分かれています。
で、ブロックの長さも固定されていなくて、
24回もしくは40回ということですね。
もしたまたま全部40回だったら、
8ブロックに分かれるっていうこと。
でですね、ブロックごとに結びつきが変わるんです。
しかも単純に高い音なら顔とか、低い音なら顔とか、
そういうふうになってないんです。
高い音なら90%の確率で顔みたいな感じになってるんですね。
で、これが5種類あって、
10%の確率で顔みたいな感じになってるんですね。
10%、30%、50%、70%、90%っていう確率になってるんです。
で、それがブロックごとにランダムに現れるっていうことです。
で、しかもどういう結びつきになってるかはもちろん参加者には知らされてないですし、
いつブロックが変わったのかっていうのも知らされないんです。
だから参加者には知らされてないんです。
参加者からすると予測するっていうのがなかなか難しいんですね。
その90%の場合だと、
GLP-1作動薬の効果
例えば高い音なら顔っていうのがだいたい続くわけですよ。
でも時々違うんです。
で、10%だったら高い音なら家っていうのがだいたい続くみたいな感じなんです。
でも知らないうちに突然ブロックが変わって、
この傾向っていうのが変わるんですね。
で、さらには30%とか70%っていう緩い結びつきの場合もあるし、
50%っていう完全にランダムで予測することができないっていう状態にもなるわけなんです。
だから参加者は常に予測をアジャストしていかないといけないっていうことなんです。
で、このややこしいテスト、
これをインシュリン抵抗性の人、糖尿病みたいな人とインシュリン感受性が正常の人に対してリラグルチド、GLP-1作動薬を投与したときとそうでないときっていう形で受けてもらったわけです。
で、参加者がこのテストをやるとどういう予測をしたのかっていうのがデータとして得られるわけですね。
で、それに加えて正解だったのかどうか。
っていうのもデータとして得られるわけです。
で、これを解析するといくつかの要素が計算できるということなんですね。
ちょっとこの辺の計算は僕にはよくわからなかったんですけれども、
でもどういう意味なのかが書いてあったので、その結論だけ話していきます。
で、計算して得られる要素の一つがプレディクションエラーなんですね。
だから予測がどれぐらい間違ってるかっていうことです。
もう少し言うと、どれぐらい正解すると予測してるかっていうのと、実際どれだけ正しかったかのズレなんだそうです。
で、これについてはインスリン抵抗性の人と正常の人で違いがなかったということなんですね。
で、それから計算される2つ目のもの。
1つ目のものとしてはアダプティブラーニングレート、適応学習率というのがあります。
で、これは結びつきにどれだけ確信を持てないかっていうことで、
そのアジャストして学習していくことに影響することなんだそうです。
で、さらにこの1つ目のプレディクションエラーと、
2つ目のプレディクションエラーと、
2つ目のプレディクションエラーと、
3つ目のアダプティブプレディクションエラー、適応的予測誤差っていうのが計算できるそうなんですね。
で、これの意味なんですけれども、
実際の結果からどれだけ学んでアップデートして次の選択をしてるかっていうことなんだそうです。
だからどれだけ予測を適応しているかっていうのが計算できるそうなんですね。
適応させているかということで、これがその学習の指標になっているということです。
でですね、この指標、アダプティブプレディクションエラーは、
インスリン抵抗性の人は正常の人よりもスコアが悪かったんです。
で、ついでに一応言っとくと、その2つ目の適応学習率っていうのも、
インスリン抵抗性の人は正常の人よりもスコアが悪かったんです。
インスリン抵抗性の人の方が悪かったんです。
だからインスリン抵抗性の人は予測を適応させていくっていうのが、
正常の人よりもうまくできていなかったっていうことなんですね。
でですね、GLP-1作動薬であるリラグルチドを投与すると、
このインスリン抵抗性の人で見られていたスコアが悪いっていう、
研究の必要性と結論
というのが改善していたんです。
で、正常の人にリラグルチドを投与した場合はですね、
学習が良くなるわけではないんですね。
この論文の中ではむしろ低下したと書いてあったんですけど、
ほとんど変わっていなかったんです。
だからこのGLP-1作動薬はインスリン抵抗性の人だけで、
学習の異常を改善していた。
そういう結果だったんです。
それからこの研究では、
ファンクショナルMRIっていう脳のどの部分が活動しているかを調べる機械で測定をして、
これをこの連合学習のテストと同時にやっています。
このデータから、
そのアダプティブプレディクションエラーと関係がある脳の場所を特定して、
そこの活動、
活動を見ることができるということなんですね。
それがドーパミン神経がある場所なんです。
インスリン抵抗性の人はここでの活動が弱いっていう結果のようで、
これもリラグルチドを投与した場合には回復しているという、
そういう結論だったんです。
というわけで非常にややこしいことをやっているわけなんですけれども、
この論文から考えられることは何かっていうところですね。
インスリンとかGLP-1みたいなホルモンの働きっていうのは、
今、体の中にエネルギーが十分にあるかどうかっていうのを伝えるっていうことなわけです。
そういった情報っていうのは、
どういうふうに学習するのかとかにも影響を与えると考えられていて、
だからこういう情報の伝達が異常になっている糖尿病の場合では、
学習がおかしくなっているんだろうっていうところなんです。
今回の研究では、糖尿病の治療薬であるGLP-1作動薬を使うと、
こういう学習に関わるところも改善できるっていう結果だったわけです。
ただ、この研究には限界点もあって、
ドーパミンとの関係については、まだはっきりしないところがあるんですね。
っていうのは、ドーパミンの神経がある場所の活動は見てるんですけれども、
実際にドーパミンがこの経路に関わっているっていうことを検証する実験はしてないわけなんです。
それからもう一点は、このGLP-1作動薬、リラグルチドの作用っていうのも、
直接脳で作用している。
直接ドーパミン神経に作用しているのかっていうのを検証してなくて、
インシュリンとか血糖値の糖、グルコースへ影響を与えるはずなので、
それが間接的に脳に作用している可能性っていうのもあります。
だから、まだまだ研究の必要はあるんですけれども、
糖尿病では学習にも異常があって、
今話題になっているのは、
GLP-1作動薬がそれを改善する作用があるっていう可能性を示したという点で、
インパクトのある研究でした。
今回の話なんですけれども、後半はかなりややこしい話でした。
おそらく大雑把にはあっていると思うんですけれども、
もし間違っているっていうところがあるとわかった人がいたら、
訂正したいので、ぜひご指摘ください。
いろんな分野のことをやっているので、なかなか追いついていないところもあるので、
そういった指摘っていうのは大歓迎ですし、
何ならそういうことが分かる方には、相談役とかにぜひなってもらいたいぐらいなので、
もしあればご連絡いただければと思います。
というわけで、今日の話はかなりややこしかったので、
ここまでご視聴いただきありがとうございました。
ここまで聞いている人は案外少ないのかもしれないですけれども、
もし聞いてくださっていたら最後までお付き合いありがとうございました。
25:14

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