00:00
皆さんこんにちは。 かなり前になるんですが、2023年にこの番組でアルツハイマー病の研究を一つ紹介したんですね。
最近、その研究の信頼性に疑義を報じる記事がサイエンスに掲載されたんです。 今回はその内容について話していこうと思います。
そのエピソードがE34アルツハイマー病による認知症を防ぐ遺伝子というもので、論文は2023年にネイチャーメディスンに掲載されたものになります。
まずこの論文の内容なんですが、コロンビアのある地方に比較的若いうちにアルツハイマー病を発症する大きな家系があって、その人たちの遺伝子解析を行ったものになります。
アルツハイマー病の多くは特定の一つの遺伝子だけで起こるものではなくて、比較的恒例になってから発症します。
でもこの家系の人ではパイサ変異と呼ばれる遺伝子変異を持っている人がいて、この変異によって40代から認知機能が低下していくんです。
でもこのパイサ変異を持っていても、60代後半まで認知機能がかなり保たれていた男性が見つかったんですね。
この人の遺伝子を調べたところ、リーリンというタンパク質を作る遺伝子に珍しい変異があったんです。
さらに細胞とかマウスを使った実験で、アルツハイマー関連タンパク質に対するこのリーリン変異の作用などを解析していて、この変異がアルツハイマー病を抑えているのではないかという結論だったんです。
このグループはその前にも似た研究をしていて、2019年にはパイサ変異を持っているのに、70代まで認知機能が保たれていた女性を報告しています。
この女性はアポイイという遺伝子にクライストチャーチと呼ばれる珍しい変異を2コピー持っていたんです。
このクライストチャーチ変異がアルツハイマー病を抑える可能性を示していました。
つまり、アルツハイマー病になる原因遺伝子を持っているのに発症が遅い人がいて、その人の遺伝子を解析してアルツハイマー病から守る遺伝子の候補を見つけるという研究をこのグループはしているわけです。
03:15
これらの研究に現在疑念が出ているわけなんですが、それを理解するのに必要になるので、このグループのこれまでの研究の流れを少し遡って話していきたいと思います。
この家系の研究を長年率いてきたのがコロンビアの神経内科医のフランシス・ロペラという人なんですね。
この人は1980年代からこの家系を調査していて、1990年代にはパイサ変異の童貞を報告しています。
ロペラと長く共同研究をしてきた重要な研究者がいるんですが、ジョセフ・アルボレダ・ベラスケスとヤキール・キロスという夫婦なんです。
2人ともこのコロンビアの研究グループで研究経験を重ねて、その後アメリカに移って研究を行っています。
このロペラを含めたグループで、先ほどの2019年のクライスト・チャーチ、2023年のリーリン変異の報告を行ったわけです。
さらにこちらはまだ正式な論文になってないんですが、このグループはその後、マコンドと名付けられた3つ目の防御的な変異というのも見つけたと言っています。
ただロペラ自身はその後、2024年にガンのために73歳で亡くなっています。
これらの研究なんですが、アルザイマ病の治療という観点から非常に魅力的なんですね。
もし一つの遺伝子変異によってアルザイマ病を20年とか30年遅らせることができるのであれば、
この変異の作用を薬で再現すれば、強力なアルザイマ病治療薬が作れるかもしれないんです。
すでにアルザイマ病の治療薬というのはあるんですが、感知させることはできないですし、その効果自体も限定的なんです。
だからこれらの遺伝子変異というのは大きな注目を集めたんですね。
それでこのグループには多額の研究費が集まってますし、治療薬開発を目的とした会社というのも設立しています。
ただ、クライスト・チャーチとかリーリンの研究では、今回のサイエンスの記事より前から弱点が指摘されてました。
06:09
例えばリーリンの研究では、発症の遅い男性のゲノムを解析して、
そこで見つかった遺伝子変異の中からリーリン一つに注目して、
細胞とかマウスを使った実験で、この変異がアルツァイマ病を抑える方向に働くということを示したわけなんですね。
でも一人の人間のゲノムを解析すれば非常にたくさんの遺伝的な違いが見つかります。
その中に一つアルツァイマ病を抑えるような作用が見つかったとしても、
それが発症を遅らせた主要な原因であるとは限らないんです。
リーリンに実際に防御的な作用があったとしても、
その効果はそれほど大きくなくて、
この男性が特別に発症しにくかったのは、
他の複数の遺伝的要因が
組み合わさった結果だったという可能性もあるんです。
ただまあ、この段階で問題になってたのはそういう解釈のところであって、
基本的には受験結果そのものがおかしいという話はなかったんですね。
でもその後、クライストチャージについてもう少し具体的な問題が出てきます。
これがヘテロ接合体の人を調べた研究から来てるんです。
その2019年に最初に報告された女性は、
クライストチャージ変異を2コピー持ってました。
この状態をホモ接合体って言います。
これに対して、
父親母親片方から受け継いで、変異を1コピー持って普通のコピーを1個持っている人を
ヘテロ接合体って言います。
もしクライストチャージに非常に強いアルザイマ病の防御作用があるんであれば、
1コピーだけでも発症がある程度遅れるかもしれません。
で、2023年にニコラス・コクランらが同じコロンビア家系の人たちについて調べた論文っていうのがあるんです。
で、この論文自体はクライストチャージの効果を調べるために行ったわけではなかったんですが、
後にコクランがこの時のデータを確認すると、
クライストチャージを1コピー持つ人には明らかな防御作用は見られなかったんです。
しかし2024年にヒローズら、元のグループが
09:03
クライストチャージを1コピー持つ人
27人を調べた論文を
ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディソンっていう雑誌に発表しました。
こちらでは、クライストチャージを1つ持つ人は
持たない人よりも
認知機能の低下とか認知症の発症が
数年遅れているっていう結果だったんです。
だから同じ家計を調べているのに、結果が違ったんです。
何が起きてたかというと、
同じ患者について
何歳で認知機能低下が始まったかとか、
何歳で認知症になったかっていうデータが
以前使われていたものから
変わっていた例があったんです。
だからコクランが解析した時と、ヒロスが解析した時では、患者についてのデータが
書き変わってたんです。
これについてヒローズらは
より詳細な臨床データを使って、患者の状態を再評価した結果だと
説明しているんですね。
これは原理的にはあり得ることなんです。
でも変更によってクライストチャーチの防御効果が強く見えるようになっているので、
都合の良いデータ変更をしたのでは?っていう疑問が生まれたんです。
コクランはこの問題を
この雑誌にコメントとして発表して、
これに対する
アルボレダ・ベラスケスらの反論も同じ雑誌に掲載されていました。
こういう状態だったので、サイエンス誌がさらに詳しい調査を行うことにしたんです。
やったことの一つとしては、このグループが発表していた論文の画像を
研究不正を調べる専門家に確認してもらうということです。
その画像の不正というのは、
それがあれば、研究に何らかの問題があることの証拠になるんですね。
こういった解析を行った結果、
12本調べた論文のうち3本で、画像に疑わしい重複などが見つかりました。
以前この番組で紹介した2023年のリーリンの論文もその一つだったんです。
この論文には、異なる遺伝子変異を持つマウスの脳折片の画像が掲載されているんですね。
12:04
でも別のマウスから取ったはずの組織で、
細かい特徴が非常に似ているものがあって、
同じ個体の組織ではないかという疑いが指摘されているんです。
ただ、これだけで意図的な捏造があったとは言えなくて、
画像を取り間違えたという単純なミスの可能性もあります。
でもこういった問題が複数の論文から見つかったのであれば、
この研究グループのデータ管理が信頼できるのかという問題になるわけです。
さらにはグループの内部の研究者からも異論が出ていました。
これがディエゴ・セプルベダ・ファジャーという人で、
コロンビアの患者から得られたノース組織を長年研究していて、
リーリンの論文では責任著者の一人だった人です。
サイエンスによると、
セプルベダ・ファジャーは研究について疑念を持って、
作成中の論文の著者から降りた上で、
アルボレダ・ベラスケスにその懸念を伝えたということです。
さらに2026年には、セプルベダ・ファジャー自身が、
さどく前なんですけれども、論文を発表していて、
リーリン変異単独でアルツアイマ病の発症を抑えるのではなくて、
他の遺伝子変異との組み合わせではないかという内容でした。
さらに、クライスト・チャーチについても同じような考えであると、
サイエンスの記事にはありました。
以上が今回の議議になるわけですね。
記事全体の印象として私が読み取ったのは、
最初に研究を始めたロペラについては、実直に研究をしていて、
その次の世代、アルボレダ・ベラスケスとキロスに疑いがあるというような感じでした。
ただし、これはその記事の書かれ方で断定はされていません。
ここからどう考えればいいのかというところなんですが、
まずクライスト・チャーチの論文とかリーリンの論文は現在のところ撤回はされていないんですね。
著者らが研究不正を認めれば、撤回されたり訂正されたりするんですけれども、
このグループは研究不正があったとは認めていないんです。
15:00
ですから、現段階では全て嘘だったというような結論をすることはできないです。
でも一連の研究の信頼性が以前より下がったとは言えると思います。
もともと一人の特殊な人から一つの遺伝子変異を原因だと決めるというところには弱さがあるわけですね。
論文自体は適度に弱く結論が書かれているんですが、この考えで資金を集めて研究を進めていたわけです。
そこにクライスト・チャーチ研究で発症年齢データの変更をめぐる疑問が加わって、
さらに関連論文の画像にも問題が指摘されたという形になります。
ただ、研究不正があったかどうかと論文の結論が間違っているかどうかというのは技術的には別の問題であって、
クライスト・チャーチとかリーリンがアルツァイマ病に対して何らかの
防御的な作用を持つ可能性は必ずしも否定されたわけではないというのはあります。
ただいずれにしても
一つの遺伝子変異だけで非常に強力にアルツァイマ病を抑えているっていう
そういうストーリーについては慎重に考えるべきかもしれません。
実際には小さな効果を持つ複数の遺伝子が組み合わさっているっていう可能性があって、
もしそうであれば
一つの経路だけを薬で操作して劇的な効果を得るっていう
治療への期待も弱くなることになります。
その
後から論文に問題が見つかるっていうのはどうしてもあるし、
それを含めて科学研究だっていうところがあるわけなんです。
なので
今後も必要に応じて
疑義とか訂正とかも取り上げていきたいと思っています。
では今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までありがとうございました。