S4E11 伝染する癌
2026-09-24 19:00

S4E11 伝染する癌

*Spotifyでは、ビデオポッドキャストとして視聴が可能です。


通常、癌は一匹の動物の体の中で生まれ、その動物が死ねば、癌細胞も一緒に死にます。この常識に合わない癌についての話です。

https://www.nature.com/articles/s41586-026-10828-6

https://www.uvm.edu/uvmnews/news/more-parasites-tumors-vermont-scientists-discover-transmissible-cancer-catfish


感想

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2012年、アメリカのバーモント州とカナダのケベック州にまたがる湖で、ある異変が起きていました。
この湖、メンフレマゴグレークには、ブラウンブルヘッドという種類のナマズが生息しているんですが、
釣り人が釣ったこのナマズに、真っ黒い盛り上がった病変を持つものが見られるようになったんです。
その後に行われた研究で、この黒い病変は皮膚の癌、メラノーマであることがわかりました。
このメラノーマが見られるナマズは1匹や2匹ではなく、2014年から17年にかけて行われた調査では、30%程度の個体で見られることが報告されています。
このブラウンヘッドという魚は、アメリカ北東部に広く分布していて、湖の底付近で生活します。
このため、水だけではなく、底に蓄積した化学物質などにも継続的に暴露されやすいので、水域の汚染や環境状態を推測するための指標となる生物として扱われています。
このナマズにメラノーマが多く見つかったのはメンフレマゴグレークだけで、他の湖では少なかったので、当初この湖で何か環境汚染が起きていることが疑われました。
実際、2011年8月には、アメリカ北東部をアイリーンと名付けられた熱帯暴風が襲い、大規模な洪水が起きています。
この湖の近くには埋め立て処分場があるんですが、そこからの汚染物質の流入が関係あるのではないかと指摘する人もいました。
しかし調べてみると、処分場から遠い場所でも近い場所でも同じような割合でメラノーマを持つナマズが見つかっていました。
またナマズから検出されたピーファスなどの汚染物質も、この癌の原因と特定できるような高いレベルではなかったんです。
30%っていう非常に高い頻度で癌が生じている理由として、他に考えられるものはウイルスや細菌による感染です。
癌と感染症は全く別の病気だというイメージがあるかもしれません。
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でも、癌を引き起こす感染症っていうのがあるんですね。
有名なのがヒトパピローマウイルス、HPVです。
発眼性の高いタイプのHPVが持続的に感染し細胞に異常をもたらすことが子宮頸癌の原因となります。
実際にHPVのワクチンに子宮頸癌を予防する効果があることが示されていて、HPVワクチンは日本でも定期接種になっており推奨されています。
またウイルスだけではなく細菌でも癌の原因になるものがいて、例えば胃に感染するピロリ菌は胃癌の原因になります。
ですから、ナマズからナマズへ何らかの病原体が感染してそれが癌を起こしているっていうのは十分考えられる仮説です。
しかし調べても、癌のあるナマズにだけ存在する病原体は見つかりませんでした。
今日はDNA解析によってこの謎に対する意外な答えを明らかにした研究を紹介します。
フォトサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのはバーモント大学のエミリー・カードラによる研究で、2026年7月にNatureに発表されたものです。
そもそも癌とは何かっていうところなんですが、癌は動物の体が持つ細胞が異常に増殖してしまったものです。
動物の体は精子と卵子が合わさってできた1個の受精卵からスタートします。
受精卵は1つの細胞なわけなんですが、これが分裂を繰り返し、例えば人間であれば何十兆個の細胞にまで増えることで、人間個体ができあがるわけです。
同じ細胞から分裂してできているので、動物の体の細胞はよく似たDNAを持っています。
生物は遺伝情報をDNAという分子として持っていて、すべての細胞が1セットの遺伝情報を持っているんですが、細胞が分裂する際にDNAも複製されて、同じDNAのコピーを持った細胞ができます。
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ただし、動物のすべての細胞が完全に同じDNAを持っているわけではないんですね。
DNAにはたまに変異が入って、その配列が変わることがあります。
動物の一生の間でも、体の細胞のDNAに変異が入ることがあるので、ほんのごく一部なんですが、同じ受精卵から分裂の繰り返しでできた細胞でも、少しだけDNAの配列が違っている箇所があります。
これは本当にほんの少しであって、同じ種の別の個体との間で見られる違いよりは、だいぶ小さい違いなんです。
つまり、私の体の中にある2つの細胞の間での違いと、私の1つの細胞とあなたの1つの細胞との違いの大きさを比べると、私とあなたの違いの方がはるかに大きいんです。
それから、この生きている途中で起こるDNAの変異が、細胞の分裂を制御している遺伝子のある場所で起きることがあります。
こうした変異が蓄積すると、細胞が増えるべきではないときに分裂して増えるようになることがあって、そのような細胞がガン細胞なんです。
ですから、ガン細胞もその他の正常な体の細胞も同じ受精卵からできていますから、1つの個体のガン細胞と正常な細胞のDNAの配列はかなり似ているんです。
じゃあ、仮に2匹の個体がいて、どちらもガン、例えばメラノーマがあるとします。
そうすると、個体Aのガン細胞と正常の細胞はDNAの配列がよく似ているし、個体Bのガン細胞と正常細胞はよく似ているわけです。
でも、個体Aのガン細胞のDNAは、個体Bのガン細胞とも正常細胞ともあんまり似ていないんです。
もちろん同じ生物種なので結構似てはいるんですが、同じ個体の正常細胞のDNAほどは似ていないんです。
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つまり、個体Aのガン細胞も個体Bのガン細胞も同じメラノーマで異常に増えるという性質は共通していても、全体的なDNAの配列はあんまり似ていなくて、むしろ同じ個体の正常細胞と似ているということになるんです。
通常、ガンでは、ガン細胞も正常細胞も同じ受精卵から複製されてできてくるから、このようになっているわけなんですね。
これは、HPBみたいな病原体の感染によるガンでも同様なんです。
HPBが働いてはいるんですが、実際にガンになるのは感染された動物個体の細胞なので、ガン細胞と正常細胞のDNA配列がよく似ているのは同じなんです。
しかし今回の論文では、メンフレマゴグレークの生図、ブラウンヘッドのガンではこれが成り立ってないことを発見します。
この論文でヒッシャラは、この生図のメラノーマの部分とガンではない正常な部分の細胞をとって、そのDNAを解析しています。
さらに、ガンのない個体や別の湖に住む個体についてもDNAの解析を行っています。
解析によって得られたDNAの配列データを使うと、それぞれのDNAがどの程度似ているかを計算することができるんですね。
さらに系統樹を書いて、系統関係、つまり共通祖先からどのように分岐して生まれてきたかを理解することができます。
その結果ですが、まず同じ個体のガン細胞のDNAと正常細胞のDNAがあまり似ていませんでした。
さらに、別の個体のガン細胞同士のDNAの配列がよく似ていたんです。
この結果は、先ほどまで話していた通常のガン細胞のDNAの話とは合いません。
ミトコンドリアDNAを調べたり、核のDNAを調べたり、DNAの変異の中でも大きな変異や小さな変異を調べたりして、いろいろな解析をしているんですが、その結果は同じで、
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同じ個体でもガン細胞と正常細胞のDNAが似ていないし、別の個体のガン細胞のDNA同士がよく似ていたんです。
だから、通常のガンではまずありえない解析結果だったということになります。
この論文の結論は、この生図のメラノーマでは、ガン細胞自体が伝染しているというものでした。
ごく例外的な存在として、ガン細胞自体が個体間で伝播する伝染性ガンというのが報告されています。
ある時、どこかで一つの個体に変わったガン細胞が生まれ、何らかの経路でこの細胞自体が別の個体に移動し、その個体の中で増え、さらに別の個体に移動していった。
このような成り立ちを伝染性ガンは持つと考えられています。
ですから、病原体が個体間を移動して感染を広げるように、ガン細胞自体が伝わっていくということになります。
これまでに伝染性ガンは3種類のみが報告されています。
有名なのがオーストラリアの有体類、タスマニアデビルの顔にできるガンです。
タスマニアデビル同士が噛み合う時にガン細胞が移動すると考えられていて、ガンになった個体はほぼ死にます。
このガンが生まれたのはほんの数十年前だと考えられているんですが、この病気のためにタスマニアデビルの個体数が急激に減少して、現在、絶滅の脅威となっています。
他には犬にも伝染性のガンがあって、主に交尾などの際にガン細胞が個体間を移動します。
こちらは数千年前に生まれたと考えられていて、タスマニアデビルのものとは違って、このガンは自然に小さくなって消えることも多く、通常このガンを持つ犬は生存します。
さらにアサリの仲間やムール貝など海に住むニマイ貝では、白血病に似た伝染性ガンが見つかっています。
これらの伝染性ガンでは、それぞれある時生まれたガン細胞が分裂を繰り返しながらどんどん別の個体に移動していっているわけなので、別の個体のガン細胞が同じ祖先を持つことになります。
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今回の研究で示されたブラウンブルヘッドのDNA解析の結果は、このような伝染性ガンだと考えなければ説明が難しいというのがこの論文の結論になります。
一つ残った謎が、ガン細胞がどうやってナマズからナマズへ移動しているのかです。
これについては、この研究ではまだ答えが出ていませんが、ヒッシャラはいくつか仮説を挙げています。
一つは、このガンが繁殖年齢よりも若い魚では見つかっていないということから、繁殖と関係があるのではないかというものです。
ブラウンヘッドは繁殖期になると狭い場所に集まって魚同士が物理的に接触して繁殖を行うので、この際にガン細胞が移動しているという考えです。
他には、水や固定の泥を介した感染で、2枚外の伝染性ガンではガン細胞が海水中を漂って別の個体に移ると考えられているので、ナマズでも同じようなことが起きている可能性などが挙げられていました。
ガンというのは、普通一匹の動物の体の中で生まれ、その動物が死ねばガン細胞も一緒に死にます。
これに対し、伝染性ガンでは細胞が個体間を移動しますが、別の個体の細胞は通常免疫の働きで排除されるということを考えると、伝染性ガンは存在すること自体が不思議です。
でも、このような常識に合わない例外的な存在として、タスマニア、デビル、犬、貝の伝染性ガンが見つかっていました。
そして今回の研究は、魚類、そして淡水中に生息する生物で初めて見つけたものになります。
伝染性ガンはこれだけしか報告がないので、とても珍しいものと思ってしまうんですが、今回の研究で行っていたように、詳しくDNAを調べてみないと、普通のガンと見分けるのが難しいわけです。
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なので、調べられていないだけで、ひょっとするともっとたくさんあるのかもしれません。
じゃあ今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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