1. ポッドサイエンティスト:ライフサイエンス
  2. S3E13 続けるのか、諦めるのか
S3E13 続けるのか、諦めるのか
2025-08-28 22:12

S3E13 続けるのか、諦めるのか

ヒトもその他の動物も、今やっていることを続けるのか、新しいものを探すのか、諦めるのかという選択をします。そのスイッチを脳内に見つけた研究の話です。

https://www.nature.com/articles/s41586-025-08672-1


感想

まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!

00:02
あの、生きていると、今やっていることを続けるのか、それとも何か別のものを探すのかっていう選択を迫られます。
例えば、野生の動物がサバンナにいるとします。 目の前に餌場があれば、そこで引き続き食べる。
あるいは、もっといい餌場がないか探しに行く。 さらには、一旦探すのをやめて休む、といった選択をするわけです。
これらはそれぞれ、パーサベイランス、固執、 エクスプロレーション、探索、そしてディセンゲージメント、離脱と呼ばれる行動戦略です。
今ある餌場に固執すれば、すぐに食べられるし、危険も少ないでしょう。 一方、新しい餌場を探索すれば労力がかかりますが、もっといい食べ物が見つかるかもしれません。
あるいは、離脱して休めばエネルギーを温存できますし、 捕食者に見つかるリスクも減ります。
状況に応じて、固執、探索、離脱をバランスよく切り替えることは、生き延びる上で非常に重要です。 これは私たち人間も同じで、
例えば見ているテレビ番組を見続けるか、 チャンネルを変えて別の番組を探すか、
それともテレビを切るかっていうのもそうですし、 もっと重要な今の仕事を続けるのか、新しい仕事を探すのか、それとも休むのかっていうのも同じ、
固執、探索、離脱の選択です。 限られた時間やリソースをうまく使って、不確実な情報しかない世の中を生きていくために、
このような戦略の選択を行っているわけです。 この切り替えがうまくいかない状態と考えられる病気があります。
脅迫性障害は同じ行為を何度も繰り返してやめないっていった病気ですし、 自閉症でも特定の行動への固執がよく見られます。
さらにADHDや相乗体っていうのは様々なものに手を出すっていう、 探索が働きすぎている状態とも言えます。
そして鬱病では、何にも興味が持てない、意欲が出ないっていう、 強い離脱の状態が症状として現れます。
03:11
ですから行動戦略の正常な切り替えが重要なんですが、 これを担う脳の仕組みはまだよくわかっていません。
これまでの研究では主に大脳皮質の前頭前野という領域が注目されてきました。 この部位は特に人間で発達している脳の領域で、
行動の存得を評価して異なる選択肢の価値を計算したりする 高度な働きを行うんですが、
これが行動戦略の選択に関わっているのではないかという考えで研究されています。
また、神経伝達物質であるドーパミンが報酬と関係あるので、 ドーパミンが働く領域の関与についても調べられてきました。
こういった領域が重要であるっていうことはわかってきているんですが、 根本的に行動状態を切り替える神経回路については謎のままでした。
固執・探索・離脱っていう行動戦略の選択っていうのは、 どんな動物でも行っている基本的なものなんですね。
そうであれば、霊長類だけで特に発達している前頭・前夜ではなくて、 もっと脳の基本的な部分で行われていそうです。
しかしそのような脳の領域に注目して行われた研究はあまりありませんでした。 今日はマウスを使って脳の中に行動戦略を切り替えるスイッチとなる神経細胞を見つけた研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ、サトシです。 今日紹介するのは、ユニバーシティカレッジロンドンのメフラン・アフマドルらによる研究で、
2025年3月のネイチャーに発表されたものです。 この研究で注目しているのがミディアンラフェニュークリアス、MRN、日本語だと内側方線核と呼ばれる脳の領域です。
06:00
方線核は脳の内側で生命維持に関わる部分である脳幹に位置する小さな領域です。
これはセロトニンという神経伝達物質を作る主要な部位なんですが、 MRN はその一部ということになります。
MRN にはセロトニンを作る神経細胞もあるんですが、それは5から10%で、 他にはギャバというのを作るのが60%
グルタミン酸を作るのが25%くらいです。 ですから放出する神経伝達物質の種類が違う神経細胞が主に3種類あるということになります。
MRN は脳の様々なエリアから情報を受け取って、情報を統合する中継地点でもあります。
先ほど話した高次な判断をする前頭前夜からの入力もありますし、 他にも感情とか内部状態の情報が入る場所なので、
行動戦略を柔軟にコントロールするのに理想的な位置にあると考えることができます。 研究チームはこの部位が
固室探索離脱という行動戦略の切り替えに関係があるのかを調べることにしたんですが、 まずそれを調べるためのテストを開発しています。
多項目神経物体テストと呼んでいるんですが、 これはマウスがいる部屋に20個ほど小さな物体を一度に置いて、2分間自由に行動させるというものです。
マウスは好奇心が旺盛なので見慣れない物質がたくさんあると駆け寄って調べます。 その様子をビデオ撮影して後で詳細に解析しました。
具体的にはマウスの行動を物体に近づく、 食わえたりかじったりするみたいな深い関わりの行動。
物体の匂いを嗅ぐ程度ですぐ離れるっていう浅い関わり。 動かない、何もせず歩き回るっていう物体との関わりのない行動というふうに分類します。
このデータを使って機械学習でマウスの状態を3つに分けることができました。 それぞれが固執、探索、離脱に相当するわけなんですが、
09:02
固執の状態っていうのはマウスが特定の一つの物体に対して長時間深い関わりを繰り返す時間です。
例えば一つの物体をずっとかじったり食わえたりして遊び続けるっていうような状態になります。
探索の状態はマウスが次々と別の物体へ素早く移動し、 あまり深く触れずに渡り歩いている状態です。
そして離脱の状態ではどの物体とも関わらずに、ただ歩き回っているか動かずにじっとしたりしています。
この研究の実験条件では特に何も操作してない普通のマウスでは、この3つの状態に費やす時間がほぼ同じでした。
つまり固執、探索、離脱、それぞれ30%ぐらいだったわけです。
次に研究者らは注目しているMRNの神経細胞の活動を弱くしたり強くしたりして、それによってこのテストで3つの状態にいる時間に変化がないかを調べました。
これによってMRNの神経が行動戦略の切り替えに影響がないかを調べることができます。
MRNには3種類の神経細胞、ギャバ、グルタミン酸、セロトニンという異なる神経伝達物質を使う神経細胞があるっていうことだったわけですが、
それぞれに光を当てると神経を活動させるタンパク質、もしくは活動を抑制するタンパク質を遺伝子を導入して作らせます。
さらに脳の中に光ファイバを入れて、光をオンにしたりオフにしたりして、人工的に神経の活動を強くしたり弱くしたりしたっていう形になります。
ではまず、ギャバを作る神経の働きを調節した結果です。
ギャバ神経の活動を抑制した時には、マウスの行動に劇的な変化が見られました。
マウスは一つの物体が気に入ったかのように、それで長時間遊び続け、物体をあまり変えなくなったんです。
つまり固執状態に偏ってしまって、探索や離脱に費やす時間が大幅に減りました。
ギャバの働きを止めると固執状態ばかりになるっていうことですから、ギャバ神経の働きは固執状態を止めるスイッチであるっていうことが示唆されました。
12:11
次にグルタミン酸の神経細胞を活性化あるいは抑制して、新規物体テストを行っています。
今度はグルタミン酸神経を活性化した時に、マウスが探索状態に費やす時間が増え、固執状態に費やす時間が明らかに減少しました。
つまり物体から物体へよく移っていくようになったということです。
この結果はMRNのグルタミン酸神経は、探索をオンにするスイッチであることを示唆しています。
さらにセロトニー神経についても同様に調べています。
この神経細胞を抑制してみると、マウスは離脱状態に費やす時間が大幅に増加しました。
通常のマウスでは3つの状態をバランスよく行き来していたわけですが、セロトニー細胞を沈黙させるとマウスは物体にあまり関与せず、ただじっとしたり歩き回ったりしている時間が長くなっていました。
ですからセロトニー神経は離脱を抑制するスイッチということになります。
以上の結果をまとめると、MRNのギャバ神経は固執のスイッチ、
グルタミン酸神経は探索のスイッチ、セロトニー神経は離脱のスイッチというふうに、
脳の小さな領域の一つのタイプの神経細胞が、一つの行動戦略をオンにしたりオフにしたりするスイッチとして働いているということが示唆されたわけです。
ただここでは一つのテスト、新しい物体に関わるかっていう本能的な行動だけを見ているので、
一般的に固執、探索、離脱をこの3種類の神経が制御しているのか、まだわかりません。
この論文では違うタイプのテスト、学習した行動についてのテストでも調べています。
具体的にはT字型のツールを使って、まずマウスに右に行けば餌があると学習させます。
学習後のマウスがどれだけ右に行くことに固執するかを調べるっていうテストなんですが、
15:00
これで同じようにギャバ神経が固執に、グルタミン酸神経が探索に関わるっていうことが示されました。
例えばギャバ神経を抑制したときには、右に餌がなくても右に固執して右を選び続けるっていう結果が示されています。
ですからMRNの神経は調べているテストのタイプに限定されないで、一般的に行動戦略のスイッチになっているのではないかと考えられます。
ここからこのスイッチがどう機能しているのかをもう一段階深く調べていきます。
まずギャバ神経を抑制すると固執するっていうわけなんですが、これはマウスにとって心地いいのかそうでないのかが気になります。
新規物体テストでこの物体が気に入ったと感じて固執しているのであれば、心地いいと思っていそうです。
それを調べるために自己刺激テストっていうものをしています。
マウスの部屋に2つのボタンが準備してあって、片方は押すと光ファイバーからの光がオンになって、自身のギャバ神経が抑制されるようになっています。
もう一個のボタンはダミーになります。
そうしておくとマウスはギャバ神経を制御する方のボタンを選んで押すっていう結果でした。
どちらのボタンを押してもいいのに、わざわざギャバ神経につながっている方を押すっていうことは、ギャバ神経を抑制された状態、マウスを固執させる状態はマウスにとって心地がいいからやっているっていうことになります。
でですね、NRMA、心地いいっていう情報、プラスになるものっていう情報を伝える神経回路があります。
思想下部は動物の本能的な欲求を司る脳領域で、接触行動とか快感に関与することが知られているんですが、思想下部からMRNへつながる神経があります。
だからこれがMRNにポジティブな価値を伝えているんです。
事件の詳細は省きますが、この経路が特にギャバ神経に伝わっているっていう結果でした。
18:02
つまりプラスであるっていう情報がギャバ神経に伝わって、固執すべき価値があるっていう評価になって、行動が継続すると理解することができます。
さらにMRNのセロトニン神経が離脱のスイッチだということでした。
セロトニン神経が抑制されると離脱状態になるっていうことだったわけです。
ということは、これはマウスにとって不快な感覚でありそうです。
これも自己刺激テストをしていて、マウスはセロトニン神経が抑制されるボタンを避けるっていうことを示しています。
だからマウスは不快な感覚があるから関わるのをやめて、離脱状態になると理解することができます。
で、この不快な感覚をMRNに伝える神経回路も明らかにしていて、タズナ核と呼ばれる部位から入ってくる神経がネガティブな価値の情報を伝えるっていうところまで示していました。
さて、今回の研究では膨大な実験がしてあって、かいつまんで簡単に話してきたんですが、結果として行動戦略のスイッチが脳の中に見つかりました。
MRNっていう脳の中でも基本的な働きをする部分に3種類の神経細胞があるんですが、それぞれが固執・探索・離脱のスイッチとして働いているっていうことが示されました。
現時点では人でも同じことが起きているかはわからないんですが、行動戦略の切り替えの異常が様々な精神疾患に関与しているようですから、今回のこの実験はこれらの疾患の理解・治療に将来的にはつながる可能性もあります。
ただ、MRNの入力は今日触れた領域以外にもたくさんありますし、下流でどこへ伝わっているかもまだわかってないので、今回明らかになったよりも複雑な仕組みである可能性はあります。
それでも、固執・探索・離脱っていう3つの行動戦略を操ることができるスイッチが、それぞれ別の神経細胞として1箇所に存在する、まるで行動戦略の制御板のような場所が脳の基本的な部分に存在することを明らかにしたっていう点が、今回の論文のポイントになります。
21:05
それから、今このポッドキャストを聞いているあなたは、この番組を聞き続けるのか、別の番組を探すのか、それともただ聞くのをやめるのかっていう選択を聞いている間ずっとしてきたわけなんですが、今回の話からいくと、その間ずっとこの制御板の固執スイッチがONの状態だったということなのかもしれません。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
22:12

コメント

スクロール