S3E12 Xによる免疫の異常
2025-08-07 22:55

S3E12 Xによる免疫の異常

自己免疫疾患は男性よりも女性の方がはるかに多いです。この理由はX染色体にあることを示した研究を紹介します。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867424000023?via%3Dihub

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.01.16.633465v1.full


この後、数週間夏休みとなります。これまでお聴き頂きありがとうございました。

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今日は、なぜ自己免疫疾患は女性に多いのか、という話になります。
自己免疫疾患というのは、本来は自分の体を守るためにある免疫系が、自分自身を攻撃するために起こる病気の相性です。
有名なものとしては、関節リウマチやイチガタ糖尿病がそうですし、他にも全身性エリテマ糖ですとか、シェーグレン症候群などがそうです。
現在知られているだけでも100種類以上あって、症状が出る臓器も多様です。
このような病気が起きる仕組みなんですが、何らかのきっかけで、自分自身の一部、自分自身のタンパク質などが免疫のターゲットとなります。
そうすると、免疫細胞の一種、B細胞がそれに結合する抗体を作るようになります。
そして抗体が増産されると、慢性的な炎症が起こって、組織が損傷していきます。
さて、自己免疫疾患ですが、男性よりも女性で多いことが知られています。
例えば全身性エリテマ糖ですでは、男女比が1対9、関節粒マチでも1対4程度と大きな差があります。
でもこれがなぜなのかは謎なんです。
以前は、女性ホルモンであるエストロゲンが免疫を過敏にするっていう説明がされていました。
しかし、平均してホルモンバランスが変わった後も男女差は消えないので、
ホルモンでは説明がつかず、自己免疫疾患が女性で多い理由は謎のままになっています。
そもそも、男女は何が違うんでしょうか。
性別を決めているのは性染色体です。
遺伝情報の実体はDNAなんですが、DNAから情報が移し取られ、RNAっていうDNAとよく似た分子が遺伝子の情報を細胞内で運びます。
こういったRNAはメッセンジャーRNAと呼ばれるんですが、このメッセンジャーRNAの情報からタンパク質が作られます。
遺伝子の数だけ多様な種類のタンパク質が作られますが、タンパク質は様々な活性、分子としての働きを持っていて、これが細胞、つまり生き物を働かせています。
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DNAは非常に長い分子なんですが、いくつかに分かれて細胞の中にしまわれています。
人間の場合は23組46個の染色体にDNAが分かれています。
このうち1組が性別を決定する性染色体です。
女性は性染色体としてXX、Xを2つ持っています。
そして男性はXY、X1とY1を持っています。
男女の違いというのは、この染色体の構成の違いなんですね。
ということは、この性染色体の違いに何か、自己免疫疾患が女性で起こりやすい理由があるはずです。
でも、男性でもXを1つは持っているので、ただX染色体が自己免疫疾患で標的になるものを作っているというシンプルな仕組みではなさそうです。
性染色体以上として、クラインフェルター症候群というのがあるんですね。
クラインフェルター症候群の人では、染色体の構成がXXYという典型的な男性XYから、さらにXが1本増えた形になっています。
この人たちは、見た目は男性なんですが、女性とほぼ同じ確率で自己免疫疾患にかかることが分かっています。
典型的な男性とクラインフェルター症候群の人の違いは、X染色体が1本多いことですから、2本目のX染色体が自己免疫疾患のリスクを押し上げていると考えることができます。
ここで重要になるのが、X染色体不活性化という仕組みです。
女性の細胞はXが2本ありますが、男性は1本なので、このままでは女性ではX染色体の遺伝子の働く量、発現量が男性の2倍になってしまいます。
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発現量のバランスをとるために、女性では2本のX染色体のうち1本を働かなくする仕組みが哺乳類の細胞では備わっています。
働かなくなったX染色体は細胞の片隅でギュッと凝縮していて、そこからは遺伝子が発現しません。
このX染色体不活性化で司令塔の役割を果たすのが、XIST、エグジストです。
これは長いRNA分子で、RNAの構成単位が2万個くらいつながったものになります。
エグジストは、先ほど話したDNAの遺伝情報を伝えるメッセンジャーRNAではなくて、タンパク質の合成には関わらず、RNA自身が仕事をこなす、調査ノンコーディングRNAと呼ばれるタイプのRNAです。
エグジストのRNAの情報を持つ遺伝子はX染色体上にあるのですが、不活性化されるX染色体だけからエグジストは作られます。
不活性化されていない、働いているX染色体からはエグジストは作られないのです。
エグジストRNAが作られると、それに80種類程度のタンパク質が結合し、巨大な複合体を形成します。
この複合体、エグジスト複合体が、眠らせるべきX染色体の上を覆うように広がって、X染色体に結合します。
これによって、X染色体上の遺伝子をまとめて沈黙させるのです。
ここで重要なのは、エグジスト複合体はX染色体を複数持っている人だけに存在するという点です。
X染色体としてXYを持つ男性では、1本しかないX染色体は不活性化されず、エグジスト複合体も働きません。
XXの女性では、片方のX染色体を不活性化させるので、エグジストが働いているわけです。
また、XXYを持つクラインフェルタ症候群の人では、女性と同じように1本のX染色体が不活性化されます。
そして、この人たちはY染色体を持つので、体は男性だし、男性ホルモンも働いているんだけど、女性のように自己免疫疾患が多いんです。
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ということは、エグジスト複合体が自己免疫疾患を引き起こしているという可能性が考えられます。
でも、どうやったらこれを検証することができるんでしょうか。
今日は、マウスでエグジストをオスで人工的に働かせた研究について話していきます。
ホットサイエンティストへようこそ。
サトシです。
今日紹介するのは、スタンフォード大学のダイアナ・ドーラによる研究で、2024年2月のセルに発表されたものです。
さて、自己免疫疾患では、自分自身が持つタンパク質などの分子が異物とみなされ、それに対する抗体ができます。
ターゲットとされるのが自己抗原、それに対する抗体が自己抗体と呼ばれます。
この研究グループは、2015年の研究で、エグジストに結合するタンパク質を網羅的に見つけています。
これらのタンパク質について過去の研究を調べてみたら、一部については、人の自己免疫疾患で自己抗原として報告されていたんです。
ここから、女性だけに存在するエグジスト複合体のタンパク質が自己抗原となることで、女性では自己免疫疾患が多くなるという仮説に行き当たりました。
これを検証するのが今回の論文なんですが、マウスを用いて実験を行っています。
自己免疫疾患をマウスで再現するときによく使われるのがプリスタンモデルです。
プリスタンという薬物をマウスのお腹に注射すると、数ヶ月のうちに全身性エリテマトーデスによく似た自己免疫反応が起こります。
具体的には自己抗体が増えて腎臓や肺に炎症が広がって、人のエリテマトーデス患者で見られる障害が再現されます。
ちなみに全てのマウスの品種でこのようになるわけではなくて、SJLJという特定の系統が使われます。
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さらに重要な点として、マウスのプリスタンモデルでは人と同じく、メスの方が重症になりやすいという精査まで再現されます。
このため、人の病態を映し出すモデルとして使用されています。
この論文では、プリスタンモデルを使ってエグジストが自己免疫疾患に関わっているという仮説を検証していくわけですが、
シンプルな調べ方として、エグジストが通常は働いていないオスのマウスでエグジストを働かせるということをしています。
もしエグジストが自己免疫疾患を起こすのであれば、オスでエグジストを作らせれば、メスのように自己免疫疾患が起きやすくなるはずです。
このために、オスのマウスでエグジストを人工的に発現させるマウスを作りました。
もともと、オスのX染色体にもエグジスト遺伝子は存在するんですが、これは働かないので、別にエグジストを導入して強制的に発現させています。
ただし、正常なエグジストを作らせると、X染色体を不活性化してしまいます。
そうすると、オスのマウスはX染色体の機能が全くなくなってしまって、生きていけなくなるので、今回は部分的に異常のあるエグジストを使っています。
エグジストのうち、X染色体の不活性化を行う部分だけ書いているんですが、他の部分は正常で、他のタンパク質とエグジスト複合体を形成することができるものです。
これを使えば、メスと同じレベルでエグジストを発現することをまず確認しています。
エグジストを発現するオスのマウスができたところで、このマウスにプリスタンを投与して全身性エリテマトーデスを引き起こすという実験を行っていきます。
普通のメス、普通のオス、そして先ほどのエグジストを作るオスにプリスタンを投与していきます。
この結果ですが、まずオスでもメスでもプリスタンを投与すると死亡組織の炎症など軽度の変化は見られました。
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でもメスでは腎臓・肝臓・肺といった臓器で重度の障害が見られました。
ですから確かにメスの方が自己免疫疾患のような症状はひどかったわけです。
エグジストを発現させたオスはどうだったかですが、こちらでもメスで見られたような重度の障害が見られました。
この結果からエグジストが存在すればオスにもメス並みの自己免疫疾患のような症状を起こすということが示されたわけです。
次に細胞レベルの解析を行っていて、免疫に関わるB細胞とかT細胞の遺伝子の働きを網羅的に調べています。
このようにすると細胞の状態がわかるんですね。
その結果ですが、エグジストを作らせたオスでは免疫細胞の状態が通常のオスとは違っていて、メスの状態にある程度似た状態になっているということがわかりました。
特に自己抗体を作る異常なB細胞の量が増えているということがわかりました。
というわけで、本来はメスだけが作っているエグジストをオスで働かせると、オスのマウスで自己免疫疾患が起こりやすくなって、免疫細胞の状態もメスのように変化しているということがわかったわけです。
これでエグジストには自己免疫疾患を引き起こす作用がありそうだということがわかりました。
エグジストはたくさんのタンパク質と結合しているのですが、これらのタンパク質が抗体の標的となることで異常な免疫反応が起きるというのが仮説でした。
一部のエグジストに結合するタンパク質は自己抗原であるということが既に報告されていたのですが、この研究では次にエグジストに関係するタンパク質を網羅的に調べていきます。
このために、実際の人の自己免疫疾患、全身性エリテマ等ですなどの患者の血液を提供してもらって、そこに存在する抗体を調べています。
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先ほどのエグジストを発現させる実験みたいに遺伝種を導入したりする必要がないし、血液だけで調べることができるので、これは人で調べることができるわけです。
エグジストに結合するタンパク質や比較の対象となるタンパク質など、合計で180種類くらい調べているのですが、ここではオートアンティジェンアレという、一度にたくさんの抗体反応を調べられる手法を使っています。
その結果、53種類のエグジスト結合タンパク質について、自己免疫疾患患者では病気でない人よりも多く抗体が反応していることがわかりました。
つまり、自己免疫疾患の人では、53種類のエグジスト結合タンパク質に対する自己抗体を持っているということがわかったわけです。
さらに、マウスでも同様の実験をしていて、同じように多数のエグジスト結合タンパク質が自己抗原となっていることを示しています。
エグジスト結合タンパク質の中には自己抗原であることがすでにわかっているものがあるということだったのですが、今回の研究ではそれらを確認するとともに、多数の新しい自己抗原候補を見つけたわけです。
自己抗体が免疫反応を起こすことで自己免疫疾患になるわけですから、これらのタンパク質が自己免疫疾患を引き起こしている可能性があるということになります。
以上の結果から、エグジスト複合体が自己免疫疾患での自己抗原になっている可能性が示されました。
エグジストはX染色体の不活性化という非常に重要で基本的な機能を持つものなんですが、X染色体不活性化が起きるのは女性だけで、エグジストは女性だけで作られます。
ですから今回の研究は、自己免疫疾患が女性で多いのは、女性だけで働くエグジストとそれに結合するタンパク質が原因である可能性を提示しているということになります。
ただし、今回の研究では、なぜ自己免疫疾患ではエグジスト複合体に対する抗体ができるのかは明らかにしていません。
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また、たくさんのエグジスト複合体タンパク質のうち、どれが自己免疫疾患の症状を引き起こすのかについてもわかっていませんでした。
今回の論文の研究グループは、2025年にも、茶読前ですが論文を発表していて、この点について調べて、特に自己抗原になりやすい部分を明らかにしていました。
このように、自己抗原が明らかになることで、将来的には診断、そして治療につながる可能性が指摘されていました。
当番組はこれから数週間、夏休みになります。
一応、8月28日の再開を考えていますが、変更がある場合にはホームページ等でお知らせしたいと思います。
では、これまでどうもありがとうございました。またお会いしましょう。
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