S3E20 暴力が暴力を生む
2025-10-30 18:24

S3E20 暴力が暴力を生む

仲間の暴力を目撃するだけで、自身の暴力性が増すという話があります。マウスで攻撃性の伝播の仕組みを調べた研究の話です。

https://www.jneurosci.org/content/45/39/e1018252025


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あの、暴力が暴力を生む、と言われます。
暴力を加えたり受けたりするだけではなくて、暴力を目撃するだけで自身の暴力性が増すっていう話を聞いたことがあるんではないでしょうか。
1960年代に行われた古典的な研究があるんですが、大人が人形を乱暴に扱うのを見た後、子供も同じように人形を乱暴に扱う傾向が強まることが示されています。
他にも、暴力を受けたり見て育った子供が将来暴力的になりやすいことを示した研究もいくつもあります。
ですから、自身が暴力に関わっていなくても、暴力を見ることで攻撃性が広がっていくっていう、いわば攻撃性の伝染とも言えることが起きるわけなんです。
その暴力を目の当たりにするような環境で自身の攻撃性が増すっていうのは、自らを守るっていう意味で自然界に住む動物にとっては役に立つと考えられます。
でも人間の現代社会では、暴力的であることは不利益なことが多くて問題なわけです。
では、この攻撃性の伝播はどのように起きているのか、そしてその時に脳の中で何が起きているのかですが、まだあまりよくわかっていません。
実験動物としてよく使われるマウスでは、攻撃性の伝播が起こるという結果の研究もあれば起きないっていう研究もあるんですね。
2023年に行われた研究では、マウス同士が喧嘩しているのを見ても目撃したマウスの攻撃性は増えないっていうことが示されていました。
これに対して2024年の別の研究では、10日間連続で同じマウスが喧嘩しているのを見せるっていうことをしているんですが、
これを見ていたマウスの攻撃性が増すっていう結果でした。
ですから結果が一貫してないので攻撃性の伝播自体がどれだけ起こるのかがまだよくわかってないですし、この現象に関わる神経回路もよくわかっていませんでした。
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マウスの社会的学習では観察対象が誰であるかが観察者が何を学ぶかに大きく作用することがわかっているんですね。
例えばマウスに電気ショックを与えているところを別のマウスに観察させるっていう実験があるんですが、
そうすると観察していたマウスは自分自身が電気ショックを受けていなくても恐怖を感じているような行動を示すんです。
でもこのように恐怖を示すのは電気ショックを受けていたマウスが知り合いのマウス、一緒に飼育されていたマウスの場合だけで、知り合いではない知らないマウスがショックを受けているのを見てもあまり恐怖を示さないんです。
ですから知り合いからは恐怖が伝わるんだけど他人からはそうでもないということになります。
先ほどの攻撃性の研究で10日間連続で攻撃しているところを見せると観察していたマウスが攻撃性を示すっていう話だったんですが、
ひょっとしたら10日間見ていることで知り合いとして認識するようになっている可能性があります。
そして知り合いのマウスだから攻撃性が伝わったっていう可能性があるわけです。
今日はこの仮説のもと実験を行って攻撃性の電波に関わる神経細胞を明らかにした研究を紹介します。
ポッドサイエンティストへようこそ、サトシです。
今日紹介するのは南イリノイ大学のマグダリン・アジェイ・ラニオル研究で、
2025年9月にジャーナルオブニューロサイエンスに発表されたものです。
研究チームはまず攻撃性の電波を測定する新しい実験システムを作りました。
ここでは透明な壁で2つに仕切られた部屋を用意して、
片側に観察者となるマウス、もう一方に観察される対象、実演者となるマウスを入れています。
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まず実演者の方の部屋にもう一匹マウスを入れます。
マウスは侵入者がいると攻撃するっていう性質がありますから、実演者マウスは侵入者マウスと喧嘩するわけです。
10分間この状態にしておくんですが、その間、観察者マウスは透明な壁越しにこの様子を観察することになります。
10分が終わると、実演者と侵入者を部屋から移動させます。
この30分後に観察者だったマウスの攻撃性を測定します。
そのために今度は観察者マウスがいる部屋に先ほどとは別のマウスを入れるんですね。
そうすると観察者だったマウスは侵入者を攻撃するんですが、攻撃を始めるまでに要した時間やどれぐらいの時間攻撃を行っていたかを測定して、それを攻撃性の指標としました。
また、比較の対象として隣の部屋に侵入者を入れずに喧嘩しているところを見せないという条件でも調べています。
これと比較すると、喧嘩を観察したことによる攻撃性の変化がわかるわけです。
先ほどの仮説では、実演者、喧嘩をしているマウスが知り合いかどうかで攻撃を見ることで攻撃性が増加するかが違うのではということでした。
ですので、この研究ではさらに喧嘩をする実演者マウスが観察者マウスにとって知り合いの場合とそうでない場合で実験をしています。
つまり、隣の部屋にいる実演者マウスが同じケージで飼育されていた馴染みのあるマウスである場合と、別のケージで飼育されている初対面のマウスの場合で実験をしたわけです。
2つの部屋を仕切る壁が透明なので、知り合いかどうかが見てわかるのに加えて、壁に小さな穴も開いていて、匂いでも知り合いかどうかがわかるという形にしてあります。
これで、実演者が知り合いの場合とそうでない場合に実験をして、喧嘩を見た後の攻撃性に違いがあるかを調べたということになります。
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では、その結果です。
まず最初に、オスのマウス・メスのマウス両方で実験をしてみたんですが、メスのマウスではこの条件では実演者マウスの攻撃自体があまり見られませんでした。
一般的にオスのマウスの方が攻撃性が高いのでこのようになったというわけなんですが、この後の実験についてはオスだけを対象にしています。
オスの結果ですが、仮説を見事に裏付けるものでした。
具体的には知り合いのマウスの喧嘩を目撃したオスは、目撃していないオスに比べて侵入者への攻撃を始めるまでの時間が大幅に短く、攻撃に費やす時間も長くなるという傾向が見られたんです。
ですから、攻撃性が伝播しているということになります。
でも知り合いではない初めて見たマウスの喧嘩を見ても観察者の行動に目立った変化は起きませんでした。
つまり知り合いではない他人の攻撃性は伝播しないという結果だったんです。
この研究では次にこのような攻撃性の伝播に関わる脳の働きを調べています。
ここでは変動体と呼ばれる脳内の感情や本能行動に関わる部分に注目しました。
この研究グループは過去の研究で、攻撃のプライミングと呼ばれる現象に変動体の一部の神経細胞が関わることを示しています。
人間でも一度喧嘩をすると興奮が覚めずにしばらく怒りっぽくなるということがあると思いますが、
マウスでも一度自分が攻撃行動を取ると、その後はしばらくは攻撃性の高い状態が続くんですね。
これが攻撃のプライミングと呼ばれます。
この時、変動体の一部の神経が興奮していて、これらの細胞によって攻撃性の高い状態が維持されるということが示されています。
そこでこの論文のヒッシャラは、仲間の攻撃を目撃しただけでも、まるで自分が攻撃したかのようにこの変動体の神経が活動し、攻撃性の高い状態になるのではないかと考えたんです。
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つまり、自分が喧嘩して攻撃性が高い状態が維持されるスイッチと、他人の喧嘩を見て攻撃性が高まるスイッチが同じではないかと考えたんです。
ここからは様々な遺伝的ツールをマウスに導入することで、この変動体の神経の働きを観察したり止めたり、逆に無理やり働かせたりする実験を行いました。
まず、これらの神経の活動のモニタリングをしています。
その結果、仲間のマウスが侵入者を攻撃しているときに、観察者のマウスの変動体神経の活動が強まることがわかったんです。
つまり、仲間が喧嘩しているときに、観察しているマウスの脳でもこのスイッチがオンになるということがわかったんです。
さらに神経活動を抑制する遺伝子を導入することで、この神経の働きを一時的にオフにする実験も行いました。
そうすると、仲間の攻撃を見ても、自分の攻撃性は強くならなかったんです。
ですから、攻撃性の伝播には、この変動体の神経の働きが必要であるということがわかったわけです。
最後に、これらの神経を人工的に活動させる実験も行っています。
具体的には、本来なら攻撃性が伝播しない状況、つまり知り合いではないマウスの喧嘩を見たときに、変動体神経を人工的に活性化してみたんです。
通常では、この条件では、観察者のマウスは攻撃的にはならないんですが、人工的に神経を活動させると、まるで知り合いが喧嘩しているのを見たときみたいに、攻撃的な行動を示すようになったんです。
ですから、この変動体の神経をオンにすれば、本来攻撃性の伝播が起きないときでも起きるようになったということなんです。
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以上の結果から、攻撃性の伝播が起きているときに、変動体の特定の神経が活動しているし、この神経の活動を止めれば攻撃性の伝播は起きない。
さらには、人工的にこの神経を活動させれば、攻撃性を高めることもできるということが明らかになったわけです。
というわけで、この変動体の特定の神経細胞が攻撃性が伝わるためのスイッチになる可能性が示されたわけです。
ただし、なぜ仲間のときだけにこのスイッチがオンになるのかは、この研究では明らかになっていないので、そこは今後の課題ということになります。
また、今回の実験系では、メスは攻撃性が低くて測ることができなくて、オスしか実験をしていないので、今回の結果っていうのはあくまでもオスのマウスではということになります。
さて、今回の研究から馴染みのある仲間の暴力を見ると、自分も攻撃性が高まるっていうことが示されました。
これは進化的に見れば有用な仕組みであると考えられます。
仲間が戦っているような状況っていうのは、自分自身も危険である可能性が高いので、戦闘体制になっておいたほうがいいでしょうし、仲間と一緒に外敵と戦うっていう仕組みとしても有用だと思われます。
今回の研究は、この仕組みの一部を明らかにしたっていうことになります。
その、暴力の連鎖は人でも確認されていて、現代社会においては攻撃性はむしろ問題を生み出すリスク要因っていう面を持っています。
全く同じ仕組みが人に存在するかわからないわけですが、今回の研究はこういった暴力の連鎖を断ち切る手がかりになるかもしれません。
じゃあ今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
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最後までお付き合いありがとうございました。
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