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S3E8 蚊をマラリアから守る薬
2025-07-03 21:26

S3E8 蚊をマラリアから守る薬

マラリアは蚊によって媒介されます。ヒトではなくて、蚊の感染を予防することで、ヒトの感染を予防する薬物について話します。

https://www.nature.com/articles/s41586-025-09039-2

マラリアワクチンについて

https://www.nature.com/articles/d41586-024-03817-0


感想

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マラリアっていう病気は、アフリカを中心に今でも大きな被害をもたらしていて、毎年数億人もの人が感染して、50万人以上の人が亡くなっています。
特に5歳以下の子供の死者が多いっていう点で、非常に重大な脅威なんです。マラリアはマラリア原虫っていう単細胞の生物の感染によって引き起こされる病気なんですが、この病原体は主にハマダラカという蚊によって媒介されます。
マラリア原虫が人の体に入ると、まず肝臓の中で増えます。 その後、赤血球で増えて、これが発熱などマラリアの症状を引き起こします。
マラリアに感染した人の血をハマダラカが吸うと、今度は蚊に感染します。 蚊の腸の中で優生生殖を行って少し増殖して、
最終的に蚊の唾液栓に移動します。 そしてこの蚊が人を刺すことによって、また感染のサイクルが回るっていう形になります。
ですからマラリアの被害を抑えるためには、この蚊によって媒介されるプロセスを抑えることが重要です。
以前はマラリアによる死者は増加を続けていたんですが、 1998年からロールバックマラリア運動っていう国際的なマラリア対策が始まりました。
その結果、2000年をピークに死者が減少に転じ、 2000年から2015年の間にマラリアによる死者は約半減しました。
中でも効果が大きかったとされるのが殺虫剤処理した蚊や、蚊を避けるネットです。 流行地域に蚊やを配布するんですが、そのネットを長期間持続する殺虫剤で処理する技術が開発されて、
これを使うとネットに触れた蚊が死にます。 これで媒介者である蚊を駆除することで感染予防が行われ、大きな効果が見られました。
しかし2015年以降は死者が減らなくなり、 ここ数年ではまた増加に転じています。
このように殺虫剤処理ネットの効果が頭打ちになってしまったのは、 多用されたことによって薬物耐性を持つ蚊が増えたせいだと考えられています。
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病原菌に対する抗生物質なんかもそうなんですが、 特定の生物を駆除する薬物を使っていると、その薬物に対して抵抗するための遺伝子を獲得した個体が増えていくことがあって、
まさにそのような耐性を持つ蚊が生まれたということです。 そしてその結果、今でも毎年5、60万人が亡くなっているっていうのが現状なんです。
ですので、何か別のメカニズムでマラリアの感染を抑える方法を開発することが急務となっています。
今日は、蚊ではなくて、蚊の中にいるマラリア原虫そのものを標的とすることで、マラリア予防をする薬物を見つけた研究について話していきます。
ポッドサイエンティストへようこそ、サトシです。 今日紹介するのは、ハーバード大学のアレクサンドラ・プロブストラによる研究で、
2025年5月のネイチャーに発表されたものです。 ここでは殺虫剤を蚊帳にくっつけているのと同じように使える、
蚊の中にいるマラリア原虫を殺す薬物を探すっていうアイデアで研究を行っています。
マラリア原虫を殺す薬物なんですが、 そもそもマラリアに感染した人を治療する薬っていうのがあって、そういった薬物はマラリア原虫に対して効果があるわけです。
この研究グループは以前の研究で、人に投与するマラリア治療薬の一つをハマダラカに塗れば、ハマダラカの中のマラリア原虫の増殖を抑えることができるということを示しています。
今回の研究では、実際に流行地域で使えるような、もっと効果が高くて使いやすいものを探すのが目的です。
すでに治療に実際に使われているものの他にも、マラリア原虫を殺すと実験的には示されている薬物っていうのが治療薬の候補としてすでに何個も見つかっているので、それらをまず対象としています。
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81個候補として、それらを一つ一つテストして、蚊の中のマラリアに効果があるのかを調べていきました。
具体的な実験内容としては、薬物を溶媒に溶かして、これをハマダラカの体に塗ります。
そしてその後にマラリア原虫を含む血液を蚊に吸わせます。
そうすると通常は蚊の腸の中でマラリア原虫が増えるので、その数を調べるっていう実験をしています。
非常に手間のかかる実験だと思うんですが、81種調べた結果、そのうち22個では増えてくるマラリア原虫の数が何も薬を使わない場合に比べて減っていました。
もともとマラリア原虫に対して効果のある薬を調べているのに、そのうちの4分の1程度しか効果がないっていうことだったんですが、
これは薬物を蚊の体に塗っただけだから、多くの薬物は体内まで入っていかなかったからではないかと考えられます。
ただ、この実験では薬物を溶媒に溶かしているので、その溶媒が蚊の殻の口蔵成分を溶かしたりしていそうなので、それなりには体内に入りやすい条件と言えます。
次は、溶媒に溶かした薬物をガラスの上に塗った後に、溶媒を揮発させて、薬物だけがガラスの上に残った状態にしています。
そしてそのガラスに蚊の足だけを触れさせるっていうことをしています。
実際、蚊やのネットに蚊が止まる時っていうのは足だけが触れるので、それに近い状態にして試したわけです。
この条件だと試した薬物のうち、一つだけがマラリア原虫の増殖を抑制する効果がありました。
おそらくこの条件の方が、さらに薬物が体内に入っていきにくいっていうことだと考えられます。
この薬物がELQ456っていうものでした。
この薬物はミトコンドリアで働くシトクロームBっていう分子を疎外する作用があるんですが、
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シトクロームBはミトコンドリアでエネルギーを作るのに必要なんですね。
ですからELQ456があると、エネルギーが作れなくなってマラリア原虫は生きていくことができないっていうことになります。
このELQ456に加えて、ELQ331っていうのにも筆者らは注目しています。
ELQ331は456と同じようにシトクロームBを疎外するんですが、456とは作用する部位が違うというものになります。
この331の方は、蚊に薬物を塗る実験ではマラリアの増殖を抑制したんですけど、足が触れるだけの実験では抑制できなかったっていうことです。
次にELQ331と分子の構造が少しだけ違うものをテストしていきました。
分子の構造が少し変わると水への溶けやすさや油への溶けやすさが変わるんですね。
そうすると動物の皮膚とか昆虫の殻への染み込みやすさが変わります。
シトクロームBに作用する部分は同じで、マラリアの増殖を抑える効果は同じなんだけど、その他の部分が少し違うことで染み込みやすいものを探すっていうことをしていったんです。
その結果、ELQ613っていう別の薬物を見つけてきて、こちらでは足からでも染み込んでマラリアの増殖を抑えることが分かりました。
さらに先ほどのELQ456についてもELQ453っていうより効果の高いものを見つけてきました。
薬物の名前、番号っていうのはここでは重要ではないんですが、足から染み込んで蚊の中にいるマラリアの増殖を抑える効果の高い薬を2つ見つけることができたわけです。
ここからさらにこれらの薬物が実用に向くことを確認していきます。まずこれら2つの薬物がどれだけ効果があるかを確認していて、これらの薬物それぞれ単独、もしくは2個同時に触らせた蚊では、その後にマラリア原虫を感染させても全くマラリア原虫が増えないことを示しています。
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しかもこの効果が2日以上続いていました。 さらに感染の予防だけではなくて、すでに感染してしまった蚊がこれらの薬物に触れた場合でもマラリア原虫の増殖がゆっくりになっていたということでした。
野生では蚊の寿命っていうのはそんなに長くないので、増殖をゆっくりにすることができれば感染の拡大を抑えるのに効果があるだろうということでした。 最後にこれらの薬物を蚊帳で使うような繊維に練り込む加工をしています。
この状態でもマラリアの増殖を抑える効果があったっていう結果でした。 さらにこれらの薬物の合成加工にはそんなにお金がかからないっていうことでしたし、少なくとも1年以上安定な状態だったということで、
蚊帳に含ませて使うっていう実用に耐えるということを示していました。 というわけで、まだ実際に蚊帳を作って流行地域で感染を抑える効果を検証したわけではないので、本当に実用化が可能かはわからないっていう段階ではあるんですが、かなり有望な薬物が見つかったっていうことになります。
でも、これは結局イタチごっこではないかと感じる面もあるかと思います。 殺虫剤に耐性を持つハマダラカが生まれたのと同じように、今回見つかったようなマラリア原虫をターゲットにした薬物を蚊帳に含ませて大量に使えば、
最初は効果があっても、それに対する抵抗性を持つマラリアが生まれてしまうんではないかと懸念されます。 それどころか、このようにして生まれた耐性マラリアは、
感染した時の治療薬にも耐性を持っていて、治療ができなくなってしまうんではないかとさえ心配になります。 確かに、薬物耐性についてはどうしてもイタチごっこの側面があって、いずれは耐性株が生まれる可能性があります。
しかし、今回の研究で見つかった薬物に関しては、ある程度耐性株を生み出しにくいという議論が論文内でされていました。 まず今回見つけてきた薬物ですが、現在主流のマラリア治療薬とはターゲットとなる分子が違います。
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ですので、マラリアに感染した後に使われている治療薬に抵抗を持ったマラリア原虫がこれによって生まれてくることはないだろうということです。 それからマラリアは人の中では大幅に増えるんですけど、蚊の中ではそんなには増えません。
抵抗性の遺伝子が生まれて増えるのは、個体が増えているときなので、蚊の中のマラリアをターゲットにしているときは、耐性株が生まれるチャンスは比較的少ないということになります。 さらに今回の研究では2個の薬物を見つけています。
どちらもシトクロムBをターゲットにしているんですが、作用する部位が違います。
これは実験的にも検証しているんですけど、片方に対して抵抗性を獲得してももう片方の作用には影響がないということでした。
ですから、この2つの薬物を混ぜて同時に使うことによって、耐性株の出現が抑制できるだろうということなんです。
耐性を持った株は、たまたま抵抗性を持つような遺伝子変異を持った株が増えることで生まれます。
そういう遺伝子を持って生まれる確率は非常に低いんですが、そのような珍しい遺伝子が2つ同時に現れるのは極端に可能性が低いということになるので、
2つ同時に使っていれば耐性株の出現には時間がかかるだろうということでした。
今回の研究で薬物を見つけてきたプロセスは、おそらく非常に労力のかかるものだったと思います。
でもそれだけの手間をかけてでも、使えそうな薬物を2つ見つけてきたのが重要なポイントだということになります。
予防においてもう一つ重要なのがワクチンです。
マラリアのワクチンがやっと最近実用化されて、今2種類のワクチンが流行地域で使われています。
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これは重要な進歩で多くの命が救われることになります。
しかしこれらのワクチンは効果がそこまで高くないっていうのと、何回も打つ必要があって、より良いワクチンの開発が今も行われています。
そんな中、ちょっと面白いワクチンの臨床試験の結果が報告されていたので、こちらも簡単に話したいと思います。
これが2024年ニューイングランドジャーナルオブメディスンのレイム・アズラニオル論文なんですが、
遺伝子組み替えて弱毒化したマラリア原虫を作り出しています。
マラリア原虫は人間の肝臓で増えて、その後血液に移動して症状を起こすんですが、
この過程に異常がある株で、人への毒性が小さい株ということになります。
これをハマダラカに吸わせてワクチンとしていて、この蚊に噛まれることで弱毒マラリア原虫が投与されるっていう形です。
臨床試験としては、この弱毒マラリアを持つ蚊に刺される人が9人、マラリアを持っていない蚊に刺される人3人っていう少ない人数なんですけど、
この後全員が普通のマラリアを持つ蚊に刺されるっていうチャレンジ試験を行っています。
だからたまたまマラリアに感染するのを待つんではなくて、予防効果を確認するために全員を病原体にさらすっていうものです。
その結果プラセボ群では全員がマラリアに感染したんですけど、弱毒マラリアを持つ蚊にまず刺されていた人では9人中8人までマラリアに感染しなかったっていう結果でした。
で、もちろんマラリアに感染した人にはその後に治療するっていう安全を確保した状態でやったっていうことになります。
そのマラリアは蚊の中で人に感染しやすい形になりますから、それを利用してワクチンを蚊が刺すことで注入するっていう形で臨床試験が行われたっていうことでした。
まだまだ実用は先ですし、製品化に向けては普通に注射できる形に改良するんだと思うんですが、マラリアのワクチン開発の過程では蚊で注射するっていうアプローチが取られるっていうことで、ちょっと面白いので紹介しました。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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