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S4E12 インフルエンザにならない人
2026-10-08 14:58

S4E12 インフルエンザにならない人

*Spotifyでは、ビデオポッドキャストとして視聴が可能です。

インフルエンザウイルスにさらされても、症状が出ない人がいます。そのような人から、インフルエンザウイルスに対する防御因子を見つけ、それが作用する仕組みを明らかにした研究を、アオイとサトシが会話形式で紹介します。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2424461123


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今回は、葵さんと会話形式で論文を紹介する回になります。
こんにちは、葵さん。
こんにちは、サトシさん。
今日は、私からインフルエンザに関する論文を紹介したいと思います。
はい、お願いします。
そろそろまたインフルエンザのシーズンになりますが、サトシさんはインフルエンザにかかったことはありますか?
ああ、はい。かかる年、結構ありますね。
一応、毎年ワクチンは受けてるんですけどね。
うんうん、ワクチン毎年受けているんですね。えらいですね。
インフルエンザのワクチンって、重症化が防げるという点ではすごく重要なんですが、
接種した人全員の発症を完全に防ぐものではないんですよね。
インフルエンザウイルスは変異を起こしやすい上に、ウイルスの型がいろいろあるので、ワクチンで防ぎきれないんです。
一度感染して免疫ができたとしても、また感染してしまうっていうのも、こうしたウイルスの変異であったり、型の違いが理由の一つだと考えられています。
でも、一度もインフルエンザにかかったことがないっていう人がいたりしませんか?
そうですね、そんなふうに豪語する人はいますね。でも本当かなって思ってますけどね。
本当に発症しない人って実際にいるみたいで、研究によって差はあるんですけれども、ウイルスにさらされた人のうち何割かの人は症状を出さずに住んでいるとされているんです。
同じようにウイルスと接触しているはずなのに、なぜ発症する人としない人がいるのか不思議なんですが、そのメカニズムはあまりよくわかっていませんでした。
今日はこの点を調べた論文をご紹介したいと思います。
これは2026年3月のアメリカ科学アカデミー企業PNASに掲載されたパウラ・コレル・エスクインラによる論文です。
動物の免疫には感染やワクチンによって免疫を得る獲得免疫と生まれつき備わっている自然免疫がありますが、この論文ではインフルエンザを発症しない人は自然免疫の方に違いがあるのではないかという考えで研究を行っています。
なるほど。ウイルスの方が変化するから全くかからないのであれば、生まれ持ってのウイルスへの抵抗性だと考えたわけですね。
はい、その通りです。自然免疫にはいくつかの仕組みがあって、免疫細胞が病原体を取り込んで分解するものや、感染によって炎症反応を起こす仕組みなどのほかに小さなタンパク質が病原体を直接攻撃するようなものもあります。
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このような小さなタンパク質は抗菌ペプシドと呼ばれていて、細菌やカビ、さらにウイルスにまで直接作用するものがあります。
人には100種類程度の抗菌ペプシドがあるとされていますが、通常のタンパク質よりもかなりサイズが小さいため、方法によっては検出が難しいこともあるんです。
この研究では、インフルエンザにならない人では特定の抗菌ペプシドが働いているのではないかと考えて、特にそのようなペプシドを探していきます。
そのためには、インフルエンザにならない人のサンプルが必要なのですが、自己申告ですが、インフルエンザ患者と接触し続けても一度も症状が出たことのない医療従事者19人を対象とすることにしました。
なるほど。そうなんですよ。インフルエンザになったことがないって自分で言ってる人でも、単に人と接触する機会が少なくてウイルスにあんまさらされてない人とか、自分にインフルの症状があるとわかってない人もいると思ったんですよ。
でもインフルエンザの患者との接触がしょっちゅうある医療従事者だったら、それなりに信頼できますね。
はい、そうなんです。この人たちのうがい液からRNAを回収して、遺伝子ライブラリを作成しています。
生物の細胞では、遺伝子であるDNAからRNAが作られて、RNAの情報からタンパク質が作られます。
ですから、RNAを回収すれば、それはその細胞で働いている遺伝子の情報だけを集めたことになります。
こういう特定の条件の遺伝子の集まりを遺伝子ライブラリと呼ぶのですが、今度はこの遺伝子ライブラリからタンパク質を作らせれば、回収したときに含まれていたと思われるタンパク質を試験管の中に作ることができます。
つまり、うがい液に含まれているタンパク質を作らせて、さらにその遺伝子も特定できる状態にしました。
今となっては割と古典的な実験のやり方ですね。
はい。次に、このタンパク質群にインフルエンザウイルスの働きを抑制するものがないかを探しました。
このためにやったのが、赤血球凝集抑制試験という、これも古典的な実験です。
インフルエンザのようなウイルスは、まず細胞にくっついてから細胞の中に入っていくのですが、このくっつく際にはウイルスのヘマグルチニンというタンパク質が細胞と結合します。
一つのウイルスにはヘマグルチニンがたくさんあるので、一つのウイルスがたくさんの細胞と結合するし、一つの細胞がたくさんのウイルスと結合することもできます。
この試験では赤血球が含まれている液体にウイルスを加えるのですが、そうすると赤血球とウイルスがたくさん結合して凝集します。
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もしこのウイルスが細胞に結合するというステップを阻害するような物質があれば、赤血球が凝集しにくくなるので、この試験によってウイルスの働きを抑制するものを探すことができます。
先ほどのウガエキから作った遺伝子ライブラリについてこの試験をしていったのですが、最終的に一つの抗菌ペプシドがインフルエンザウイルスの細胞への結合を抑制することが分かりました。
これがダームシジンと呼ばれるもので、もともとは皮膚とか汗の中に存在していて細菌を殺す作用があることが分かっていました。
でもウイルスに対して効果があるかは今まで分かっていなかったのです。
そこでダームシジンを合成してウイルスに対する効果も確認しています。
ウイルスの型によって効きやすさに差はあったのですが、よく流行するH3N2型、2009年にパンデミックを起こしたH1N1型、どちらのタイプにも効果があることが分かりました。
それからダームシジンはヘマグルチニンに直接結合することも示しています。
ちょっとこれは不思議ですよね。
ワクチンとか感染で作られる抗体っていうのもヘマグルチニンが主な標的の一つだと思うんですが、
ウイルスのタイプごとにヘマグルチニンの配列が少し違うので、複数の方には抗体は効きにくいっていうことなんですよね。
でもダームシジンは両方に効くんですね。
はいそうなんです。それどころか、さらにある種のコロナウイルスやマシンウイルスにも凝集抑制試験で効果が見られたんです。
それで次にダームシジンがヘマグルチニンにどのように作用しているかを調べるためにシミュレーション解析を行っています。
ダームシジンとヘマグルチニンのタンパク質としての情報から、これらがどのような立体構造をしてどのように結合しているのかをコンピューター上で予測しました。
その結果ですが、まずダームシジンはヘマグルチニンの根元に近い部分に結合してそうだということが分かりました。
これに対して抗体はヘマグルチニンの先端部分、ウイルスが細胞と結合するあたりに結合するものが多いんです。
ヘマグルチニンの性質として先端部分は変異しやすくて、根元部分は変異が少ないというのがあります。
ダームシジンは異なる型のウイルスでも配列が似ている部分に結合しているので、
種類の異なるウイルスに対して抑制効果があるのではないかと考えられます。
なるほど、面白いですね。
ただ抗体は細胞とくっつく先端部分に結合するのでヘマグルチニンの機能を邪魔できるというのは分かるんですけど、
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根元に結合しているダームシジンはどうやって細胞との結合を阻害しているんでしょうか。
それについてはダームシジンはヘマグルチニンの立体構造そのものを変化させているみたいです。
ヘマグルチニンは細胞の外にいるときと中に入ったときでは立体構造が違うことが知られているのですが、
ダームシジンが結合すると細胞の外にいるときに中の状態になるようで、これが細胞への結合ができなくしているのではないかと考えられます。
これでダームシジンはインフルエンザウイルスの働きを抑制することが分かったのですが、
次に実際に体の中でどのように働くかを調べています。
もともとダームシジンは汗に含まれることが分かっていたのですが、インフルエンザの感染経路、目とか鼻とか口にあるのかを調べました。
そうすると鼻や喉の粘液、唾液、涙などに含まれることが確認されました。
それから過去にインフルエンザにかかったことがある人とかかったことがないという人を比べると、かかったことのないという人の方が鼻や喉のダームシジンの濃度が6倍ほど高かったのです。
さらにこの違いはダームシジンの遺伝子そのものの配列の違いによるものではないということも明らかにしています。
それからインフルエンザに感染するとダームシジンの量が増えるということも示していました。
なるほど。だから理由はよくわからないんだけれども、ダームシジンの量がもともと多い人がいて、そういう人はインフルエンザの経験のない人が多い。
それとは別にインフルエンザに感染しているときにはダームシジンの量が増えるっていうことなんですね。
そうですね。ただこの観察はダームシジンの量が多い人が症状がないという関連であって、人でダームシジンがインフルエンザを抑えているという因果関係を示したものではないんですね。
そこで最後にダームシジンが実際にインフルエンザの発症を抑えるのかを調べる実験をマウスで行っています。
ダームシジンありとなしでインフルエンザウイルスにさらすという実験を行っているのですが、ダームシジンとウイルスを混ぜて投与したときはウイルスの症状が抑えられていて、既存の抗ウイルス薬を投与したときと同じくらいの効果が見られました。
しかしウイルスを感染させた後にダームシジンを投与した場合には効果が見られませんでした。
ですからマウスではダームシジンはインフルエンザに対して少なくとも予防効果はあるかもというような結論になります。
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ダームシジンをあらかじめ鼻に塗っておいたとかではなくて、混ぜたということですから先にウイルスと混ぜてからマウスに投与したということですか?
なんかそれは何というか実験としてちょっと弱いですよね。
そうなんです。通常予防効果と言われて思い浮かべるものとはちょっと違う気がしますね。
ここまでに綿密な実験とシミュレーションをしてダームシジンの分子としての作用を明確にしています。
最後にマウスでウイルスの作用を見ようとしてはいるのですが、ダームシジンがウイルスに試験管内で作用する形になるので、生体内で予防作用があるかは改めて検討が必要と言えるかもしれませんね。
そうですね。
というわけで、まだ密関性の部分はあるのですが、なぜインフルエンザにかからない人がいるのかという謎から始まって、ダームシジンという新しいタイプの防御因子を見つけた研究ということになります。
既存のインフルエンザ治療薬って細胞の中で増えたインフルエンザウイルスを放出するのを阻害するのでしたよね。
そうですね。オセルタミビルとかザナミビル、商品名だとタミフルとかリレンザというのは細胞からインフルエンザウイルスを放出するときに働くノイラミニダーゼを阻害することで働きます。
ダームシジンはヘマグルチニンがターゲットのようなので、新しいタイプの薬の開発につながるかもしれないというのがヒッシャラの主張になります。
ただし、マウスが感染した後にダームシジンを投与しても効果はないという結果になりました。
ああ、そうでしたね。
それでもインフルエンザに感染したときにはダームシジンの量が増えているので感染中に何かをしている可能性はあると思うのですが、やはり体の中で何が起きているのかが次の課題になりそうです。
あとは本当に人でダームシジンの量で発症しやすさが変わるかっていうのが問題として残ってますよね。
いつも同じ結論になってしまうんですけど、今後に期待っていうところですかね。
そうですね。
じゃあ今日はこの辺で終わりにしましょうか。
はい。
では皆さん最後までお聞きいただきありがとうございました。
ありがとうございました。
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