横田めぐみさんの背景
第7話 横田めぐみさん 後編
産経新聞社がお届けする音声ドキュメント 北朝鮮による日本人拉致事件
原作 産経新聞出版 安倍政美著 メディアは死んでいた 検証 北朝鮮拉致報道
2018年5月28日 初版発行
製作 産経新聞社 案内役は私、話科の劉邸一光です。
横田めぐみさんの存在を知った安倍は、父親の茂さん、母親の崎江さん夫婦から話を聞いた。
神奈川県内の横田家を訪ねると、めぐみさんの父、茂さんが一人で留守番をしていた。
えっ、昔、あの記事を書いた人ですか?
17年前、近所の人が持ってきた産経新聞で、
アベック3組、謎の蒸発、外国情報機関が関与、の記事を読んだ母、崎江さんが、
産経の新潟市局へ、
もしや、うちの娘も、と問い合わせに出かけたことをこの時知った。
茂さんは、二昔近くも前に、あの記事を書いた記者が現れたことに驚かれたようだった。
確かに、17年間も同じ事件に関わるなど、聞いたことがない。
というより、それほど長期に渡って継続する事件など、滅多にあるものではない。
私の場合、たまたまそうなっただけだ。
拉致が頭から消えたことはないが、一貫して執念深く追ってきたなどという、テレビドラマのようなことではない。
茂さんは、恵美さんが通っていた中学校から自宅、
日本海の浜までの地図を紙に丁寧に書き、長く保管してきた。
恵美さん失踪を伝える新潟日報の切り抜き記事や、
写真が大きく乗る公開手配のポスターなどを示しながら、
娘がいなくなった日の状況を細かく説明してくれた。
恵美さん拉致を簡単に振り返る。
昭和52年、1977年、11月15日の午後6時半前だった。
恵美さんは、バドミントンのクラブ活動を終え、
仲間の友人2人と一緒に夜を過ごした。
友人2人と一緒により井中学校の校門を出た。
新潟大学理学部跡地前のバス通りの坂道を日本海に向かって歩いていく。
手には本の手下げ鞄とラケットを入れた赤いスポーツバッグ。
つるべ落としの秋の日はとうに暮れ、通学路の街灯は頼りなかった。
校門から家までは500メートル足らず。
途中、友人1人とはすぐに別れ、
もう1人とも家まで残り250メートルほどの交差点で手を振ってさよならした。
それが最後の姿だった。
そこから日本海に向かって150メートルの停止路を左に流れば、
家までは残りわずか100メートル。
家族の苦悩と報道
巡視艇やヘリコプターが出動して、
陸、海、空から大捜索が行われ、
ボランティアで参加したダイバーも海に潜ったが、
何一つ見つからなかった。
校門から恵美さんの匂いを追ってきた警察犬は、
自宅と目と鼻の先の停止路まで来て動かなくなった。
停止路から日本海。
よりぃ浜までは300メートルもない。
両親はひたすら恵美に似た少女。
を探し求めてきた。
雑誌、新聞の写真に面影の似た少女が写っていると、
雑誌社、新聞社へ問い合わせた。
テレビのワイドショーの人探しコーナーには4度も出演した。
新潟県から神奈川県に引っ越してからこんなこともあったそうだ。
新聞の地方版にある女流画家の古典開催の案内記事があった。
少女を描いた日本画が載っていた。
とても似ている。
夫婦で展覧会へ出かけて実際に絵を見ると、やはりよく似ている。
恵美はどこかで記憶を失ってモデルをしているのではないか。
画家に再会し直接確かめると全くの別人だった。
根拠のない曖昧な情報であっても万一に期待を繋いだ。
その夜の茂さんへの取材で鮮明に覚えている話がある。
恵美さんの双子の弟の一人が秋に結婚を控えているが
行方知れずの姉がいることを向こうの家に言えずにいる。
恵美さん拉致疑惑発覚後に催された披露宴では
横田家のテーブルに恵美さんの席も設けられて料理が並んだ。
と後に聞いた。
20年前、13歳少女拉致。
北朝鮮亡命工作院証言。
新潟の失踪事件と告示。
韓国から情報。
1997年2月3日付。
産経長官一面中央の五段見出した。
リードと呼ばれる導入部の文章を引用する。
昭和52年に新潟県で失踪した女子中学生。
当時13歳が北朝鮮に拉致されていた可能性が2日までに強まった。
韓国当局側から日本政府、公安当局にももたらされた
亡命工作院の証言が少女の失踪当時の状況と告示しているためで
公安当局は重大な関心を示している。
実名官、匿名官。
匿名官。
横田茂さん、酒井さん夫妻の意見が割れていることは知っていたが
横田恵美と実名で書いた。
中学の制服姿の写真も載せた。
恵美さんは風疹のため中学の入学式を欠席したが
早くしないと桜が散ってしまうと
茂さんがその後に校門へ連れ出して撮った写真だという。
被害者・犠牲者を実名報道すべき。
匿名報道にすべきか。
犯罪や事故、災害の報道につきまとう難題だ。
相反する意見がある。
すべて匿名とすべし。
との極論もあるが、私は苦味しない。
匿名報道は官公庁や警察の匿名発表、匿名社会へとつながり
情報捜査や知る権利の侵害へ向かう懸念を持つ。
実名で報じることによって記事は事実の重みを伝えることができる。
読者や社会への訴求力を持つ。
性犯罪などの例外があることは言うまでもないが
記者という職に就いた時からずっとそう考えてきた。
被害者の名前は事実の確信であり、記事が本当かどうか
第三者による検証も可能になる。
もちろん考えた。
メディアの役割と影響
横田恵と実名で報じた場合と顔も良心も見えず
具体的な成長過程などが明かされない場合と
読者や社会が示す反応はどう違うのか、違わないのか。
それによって救出への動きは、北朝鮮の対応はどう違ってくるのか、違わないのか。
家族は誰だって匿名を望むと思われるかもしれないが、そうとは言い切れない。
名前が報じられることで娘の身に被害が及ぶのではないか
という先恵さんの心配は痛いほど分かっていたが
私は実名報道にこだわった。
横田家から匿名報道を要請された事実はないが
恵さんを顔の見えない少女Aとすることはできなかった。
実名派だった茂さんは次のように言われたと記憶する。
匿名では信憑性が薄れてしまう。
危険なことがあるかもしれないが、本名を公開して世論に訴える方がいいと思う。
双子の弟たちはこのことが報道されれば
自分たちの将来に悪い影響があるんじゃないかと悩んでいた。
しかし恵には何の落ち度もないのです。
これは我が家の恥ではないのだと説得して分かってもらいました。
家長として苦渋の判断だったと思う。
いかがでしたか?
これは音声ドキュメント
北朝鮮による日本人拉致事件のシリーズ第7話です。
皆様から番組の感想をぜひ聞かせてください。
メールアドレスは
u-service at sankei.co.jp
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この作品は元産経新聞社会部記者 安倍政美による著書
メディアは死んでいたを再構成したものです。
第8話 再開
産経の拉致報道が正しいことが証明されます。
では次回
あなたは拉致をいつ知りましたか?