はじめに:『妊娠カレンダー』との出会い
こんばんは、サリーです。
アパート3号室へようこそ。
今日は本の話をしてみようと思います。
小川洋子さんの『妊娠カレンダー』を読んだので、その感想をちょっと話してみようと思っています。
この本はね、今週末、金曜日ですね。
今宵はここまでに読書会の課題本になっているんですけど、初めて読みました。
小川洋子さん結構好きで、これまでいくつか読んだつもりだったんだけど、これは未読でしたね。
全然わからなくて、前情報ゼロであらすじも何も見ずに、いきなりページを開いて読み始めたっていう感じだったんですけど、
面白かったです。すごく。
どんな話かというと、
姉妹の話かな、ですね。
姉が妊娠したっていう、そういう出来事を、主人公である妹が私で、一人称で語っていくっていう物語なんですけど、
このタイトルが妊娠カレンダーっていうタイトルにもあるんですけど、物語は何月何日、何週と何日っていうふうに、
妊娠が分かってから出産までが、週数で、日記みたいな感じで淡々と書かれている感じなんですね。
事実だけを淡々と書き連ねていくっていう感じなんだけど、やっぱり小川陽子さんの初期の作品だなっていう感じで、
非常にちょっと不気味なというか、気持ちが悪いなっていうのが、
滲み出る作品でした。
物語の概要と初期の印象
お姉ちゃんが妊娠で、つわりで何も食べられなくなっちゃって、どんどん痩せていくんだけど、
そのお姉さんのために妹がね、グレープフルーツでジャムを作るんですよ。
アメリカ産のグレープフルーツは防火備材のPなんとかっていう農薬が使われているという、
そういう勉強会みたいなのに参加した情報を思い出して、
その防火備材が人間の染色体を破壊する可能性があるっていう、そういう情報も勉強会かなんかで知った。
そういうこともグレープフルーツのジャムを見ながら思い出すんですね。
思い出すんだけど、それでも作り続けるっていう、そういう話なんですね。
最初に、一番最初に読んだ時は、もう怖ってなって、
気味悪いっていうか、何て言うか、純文学風のサスペンスじゃないかな、これはみたいな感じで、
怖って思って読んでたんですね。
で、これ1991年だったかな、の作品で、
多分ね、今の時代だったらアウトになるような表現も結構あって、
その時代、今よりちょっと緩かったのかもしれないけど、
不快に感じる人も多いんじゃないかなという、そういう描写もありましたね。
読む人を選ぶ作品かもしれないなというふうに、ちょっと感じました。
とにかく、妊娠っていうテーマにもかかわらず、全然明るいイメージがないんですよね。
ずっとザワザワしてて、薄気味悪い感覚が体につきまとうみたいな、なんか読んでて、そういうお話でした。
再読による妹の心情の解明
一番最初に読んだ時はそういう印象を受けたんだけど、
もう一回再読してみたら、やっぱり再読っていうのは大事ですね、本当に。
少しずつ場面場面の解像度が上がって見えてきて、
そうすると、妹の心情が炙り出されるように、じわっと見えてくるようになってきたんですね。
まずね、この妹がだいぶ、なんというか、シスコン気味だなと思いました。
お姉ちゃんが大好き、大好きというか、すごく複雑に、
精神的にちょっと歪んだ繋がりがあるような印象を受けたんですけど、
両親が亡くなって、姉妹二人で暮らしてきたんですよね。
何度も何度も、私たちっていう言葉が出てくるんですよね。
多分これ意識的に小川陽子さんが書いてるんだろうなと思ったんだけど、
幼い時からずっと姉妹は二人セットで、二個一で生きてきたみたいな、そういう二人なんですけど、
そこにお姉さんが結婚して、義理の兄ですね、義兄が登場すると。
で、三人暮らしになるんですね。
妹がまだ学生だから、家を出るということもなく、
お姉ちゃんとお姉ちゃんの旦那さんと妹の三人で生活してるんだけど、
なんかそのね、義兄が登場してから何となく妹がモヤモヤし始めてるんだけど、
その感情ははっきりとは書かれてないんですよ。
淡々と静かに、妹目線で日常が綴られていくんだけど、
何回か読んでいくと、妹の心の不安というか、
嫉妬とかいろんな複雑な感情が浮かび上がってくるなと思って読んでましたね。
小川陽子さんらしい世界観と文体、
それが小川さん流に言うと、密やかに描かれていくっていう感じですね。
妹の言動を見ていると明らかに、それまで二個一だった私たちの間に、
第三者が入り込んでくるのをうとましく思っているような感じに見えてくるという。
象徴的な小道具とモチーフ
それは感覚だけじゃなくて、それを裏付けるような小道具というかモチーフがいろいろ出てくるんですけど、
例えば、お姉ちゃんが受診することになった三婦人科のM病院というのが一番最初からずっと出てくるんだけど、
妹はM病院に忍び込んで庭で中を覗き込んで遊ぶっていうのが子供のとき楽しみだったっていう感じだったんだけど、
古くからあるM病院にお姉ちゃんがそこで子供を見たいって言って受診するんだけど、
そこで三婦人科の看護婦さんが2人いると、それが年取った女性2人で双子のようにそっくりとかっていうのをさらっと書かれたり、
あとは、それもすっごいさらっとなんだけど、床に姉が脱いだ手袋の片方が落ちていたと書かれていたり、
読み飛ばしちゃうと気にならないような表現なんだけど、そういうついになっているモチーフみたいなのが本当にさりげなくさらっと書かれるんですよね。
手袋って本来あるべきもう片方がない状態では使えないから、そういう賭けをね、
お姉ちゃんが賭けていなくなる、二個一だった私たちの片方がいなくなるみたいな、そういう心の喪失感みたいなのを表している、
そういう小道具なのかなと思ったりして、だとしたらすごいなと思ったんですけど、
読んでいる読者の無意識にサブリミナル効果みたいな感じで、そういうモチーフが投げ込まれてくる感じがあるんですよ。
すごいですよね、小川陽子さん。
祝福できない妊娠と「おめでとう」の意味
お姉ちゃんの妊娠だから、本来だったら手放しで祝福するものだと思うんだけど、妹はこういう風に言うんですよ。
しかし本当に姉と義兄の間に子供が生まれるということがおめでたいのだろうか。
私は辞書でおめでとうという言葉を引いてみたって書いてあって、その言葉自体には意味がないというその解釈を知って、
その全然おめでたくない雰囲気の感じを指でなぞったりするっていう感じで書かれてるんですけど、
妹にとっては全然おめでたくないんですね。姉の妊娠が。
でもそれが自分でもわからないというか、うとましく感じているということに気づいていないという感じですね。
だからおめでたくないっていうことを指でなぞるみたいなのとかも、
本当に細やかな、そういう人の行動の裏に隠された真理みたいな、そういうのをやっぱり描き出すっていうのは、
本当に小川陽子さんすごいなと思いましたね。
お姉ちゃんもそうなんですよ。望まない妊娠とまでは言わないんだけど、明らかに妊娠を喜んでいるような様子が描かれてないんですね。
それが自分のお腹の中の赤ちゃんの呼び方にそれがすごく出てて、赤ちゃんとかね、
自分の愛情を感じるような呼び方っていうのが全然出てこなくて、
胎児って言ったり、赤ん坊みたいに言ったり、そういう冷たい言い方をするんですね。
だから姉が本当に妊娠を喜んでない感じで、妹もだから祝福できない。
姉の夫、義兄もなんか晴れ物に触るみたいな感じでおどおどしてるし、
姉自身が自分の体の中の異物としての赤ちゃんとか、妊娠による体調の変化とかに戸惑ってるから、
妹も素直に喜べない、祝福できないのかなと思って。
もうちょっとこの夫婦がね、妊娠祝福モードだったら、妹の反応も違ってたのかもしれないなと思ったりしましたね。
不気味な食べ物の描写
あとね、印象的だったのが、食べ物の描写なんですけど、これがね、どれもこれもめちゃくちゃ気持ち悪く描かれてて、
いや本当にこれは小川陽子さんだなぁと思って読んでたんだけど、
具体的に描くとあれかもしれないんですけど、白くてドロドロしたものがとにかくたくさん出てきます。
最初にヨーグルトをぐるぐるかき回している姉のシーンが出てくるんだけど、基礎体温表について話している場面で、
ヨーグルトをぐるぐるかき回して、それがスプーンからこぼれ落ちるみたいな。不透明に白く光りながらトロトロこぼれ落ちるみたいなね。
うーん、何かを示唆しているんじゃないかなぁみたいなこととか、
マカロニグラタンのホワイトソースが出てきたり、あとは義兄がコーヒーに生クリームをいっぱい入れるとか、
あとはね、妹バイト先のスーパーでホイップクリームをね、白い生クリームですよね、それをシャカシャカ泡立てたりとか、
あとは庭でインスタントのクリームシチューを食べたりみたいな感じで、白くてドロドロするような乳製品がとにかく多く描かれてて、
これもきっと意味があるんじゃないかなぁと思ったりしてました。
さらにそのグラタンのホワイトソースを、お姉ちゃんが内臓の消化液みたいって言ったり、
マカロニの形が消化管みたいなぬるぬるした管とか言ったり、他にもなんかいろいろね、食べ物の描写がいろいろ出てくるんだけど、ことごとくグロいんですよね、なんかね。
これはね、ほんと初期の作品って作家性が出るってよく聞くけど、本当にそうだなっていうふうに思いましたね。
そんなお話でした。
語り手自身の妊娠体験との共鳴
でね、これずっと妊娠がなんていうか、ちょっとグロテスクみたいな感じで描かれてるんだと思うんですけど、
お姉ちゃん自身も自分の体の変化、体調の変化を持て余していて、理解できない、対処できないみたいな戸惑いとかも描かれてて、
それを読んでると、私自分自身の妊娠してた時の感覚をものすごく思い出したんですよね。
私も長男の一番最初に第一子を妊娠した時に、自分の体に異物というか、自分とは違う生き物が入り込んだという感覚がすごいしてたことを思い出したんですよね。
妊娠するとジマシンみたいなのが出るんだけど、それが赤ちゃんがいるお腹のあたりだけにブワーッと出るっていうのが、
私、8ヶ月ぐらいの時にめちゃめちゃつらかった記憶があって、それを思い出したんですけど、
病院で相談したら、免疫反応というか、自分の体が母体が赤ちゃんに異物として拒否するというか、反応してアラートを発しているみたいな、そういう疾診なんですよ。
どんなに痒くても、お腹の赤ちゃんに影響が少ないような弱い痒み止めしか処方されなくて、
あまりの痒さに悶絶して眠れなくて本当につらかったなっていうような記憶を思い出したんですね。
赤ちゃんと自分の血液型が違うと結構こうなることがあるらしくて、見事にうちは子ども全員と私の血液型が違うので、
長男の時だけだったけどね、そのジマシンに悩まされたというのは。
でも本当につらくて、そのときにすごく、それ以外にもね、切迫粒子になったりとか切迫創剤になったり、
半年くらいずっと絶対安静で家で寝てたんですよね。大医師の時仕事を求職して。
その時にやっぱなんか、お腹の子どもに対してなんというか、脅威を感じるというか、
目には見えないんだけど、自分の中の生き物が私の体を乗っ取られるって言うとあれだけど、
自分の体で生きてきたのが自分のものじゃなくなるみたいな、そういう感覚がしたんですよね。
それを思い出したんですね。この妊娠カレンダーを読んで。
作品の総括と推薦
本当に読んでよかったなと思います。いろんなことを思い出したし、いろいろと感じることができて、
子がいお子さんらしさがぎゅーっと煮詰められて凝縮されているような作品だなと思いました。
すごく短い短編なので、本当に1、2時間もかからず、1時間ぐらいで読み終えるんじゃないかなと思うんですけど。
もし興味を持った方はぜひ読んでみていただけたらと思います。
最後までお聞きくださりありがとうございました。
今日は妊娠カレンダーについてお話していました。
アパート3号室のサリーでした。それではまた。