未来の食卓の概念
ブク美
はい、毎日未来創造、本日もまだ見ぬ未来のプロトキャスト、可能性を探ってみます。
ノト丸
よろしくお願いします。
ブク美
今週のテーマは、食と資源の未来です。
ノト丸
はい。
ブク美
今回はですね、あるリスナーの方から共有いただいた、近未来SFショートショート〈培養肉の晩餐〉。
ブク美
ええ。
それと、その作品に添えられていた深い考察文。
ええ。
ブク美
ですね、この2つをもたに掘り下げていこうと思います。
ノト丸
なるほど、面白そうな組み合わせですね。
ブク美
培養肉が当たり前になったかもしれない未来。
ブク美
そういう食卓では、私たちの食べるっていう行為とか、あるいは命に対する価値観ってどう変わってるんでしょうかね。
ノト丸
大きな問いですね。
ブク美
さあ、この未来の食卓の可能性、一緒に紐解いていきましょうか。
ブク美
はい。
ブク美
まず、この物語が描いている世界観、ちょっと覗いてみましょう。
ブク美
ええ。
ブク美
舞台は2048年の東京だそうです。
ノト丸
ほう、近未来ですね。
ブク美
で、想像してほしいんですけど、あなたの家のキッチンには、ピカピカのフードプリンターがあって。
ノト丸
フードプリンターですか。
ブク美
そう、で、培養ビーフのカートリッジ、これをポンとセットするだけで、
数分後には、見た目も栄養価も完璧にデザインされたハンバーグが印刷されると。
ノト丸
ああ、印刷ですか、すごいですね。
ブク美
そういう日常なんですよね。
うーん。
この培養肉、作中ではクリーンミートって呼ばれてるんです。
クリーンミート。
家畜を育てる広い土地とか、大量の水とか、厚生物質なんかももういらない。
ノト丸
環境負荷が低いわけですね。
ブク美
そうなんです。だから環境負荷も劇的に減って、食料問題も過去のものになったという設定です。
ブク美
その結果、じゃあもともとあった肉、つまり自然肉ですね。
ノト丸
これはどうなってるかというと、ごく一部の富裕層だけが味わえる、すごく高価な嗜好品になってるんです。
逆転してるわけですね、価値が。
ブク美
そういうことですね。便利でクリーンになった食卓。
でもそこからは、なんていうか、かつてあったはずの血の匂いとか、後はどこか後ろめたいような感覚。
はいはい。
命をいただくっていう、そういう実感みたいなものがほとんど消えちゃってる。
ノト丸
効率化の代償というか。
親子の食体験
ブク美
そうかもしれません。もしあなたの食卓から、そういう命の痕跡が完全になくなったらどう感じますかね。
物語の中心人物は母親のユミと、小学校3年生の息子ソラ。
ノト丸
親子ですね。
ブク美
クリーンミートのハンバーグをソラは美味しそうに食べてるんですけど、ある日、すごく無邪気にでも確信をつく質問をユミにするんです。
ノト丸
ほう、どんな?
ブク美
昔の人って本当に牛さんを殺して食べてたの?絵本で読んだけど可哀想だよ、ひどい残酷だって。
ノト丸
うわー、それはきますね。
このソラの言葉すごく象徴的ですよね。
彼にとって肉っていうのは工場で衛生的に作られる食品。
だから命ある存在とかましてや死とは全然結びついてない。
ブク美
そうなんですよね。
ノト丸
牛とか豚はもう絵本とかアニメの可愛いキャラクターっていう認識なんですよ。
ブク美
まさに。だからユミはその言葉にガツンと衝撃を受けるわけです。
安全で効率的で環境にも優しい食卓を実現したはずなのに、その代わりに何か人間としてすごく根源的で大切な感覚をこの子から奪っちゃったんじゃないかって。
ノト丸
うーん、悩ましい。
ブク美
それでユミはある決意をするんです。
はい。
ソラに食の本当の意味を言葉じゃなくて体験で伝えようと。
ノト丸
体験で。
ブク美
それで普通はなかなか手に入らないようなすごく高価な自然肉のステーキを特別なルートで手に入れるんです。
ノト丸
おー、自然肉を。
ブク美
届いた肉はやっぱり普段見慣れている均一な培養肉とは全然違う。
形もいびつだしサシの入り方も均一じゃない。
ノト丸
なるほど。リアルな感じ。
そして何より培養肉にはない微かな鉄のような命を感じさせる匂いがするんです。
命の匂いですか?
それは強烈でしょうね。
えー。
まさにリアルとの遭遇ですね。
効率化の中で切り捨てられてきたノイズとか不完全さ。
そうですね。
でもそれが本来の姿だったのかもしれない。
ブク美
えー。
そして週末の晩餐。ユミはその自然肉をステーキにして食卓に出すんです。
はい。
ソラは初めて見るその不恰好な肉の塊を不思議そうに見つめている。
うーん。
ユミが意を決して告げるんです。
ソラ、これはね、本当に生きていた牛さんのお肉なのよって。
うわー、どうなるんだろう。
ブク美
えっ、じゃあこのお肉を食べたらその牛さんは死んじゃったの?
ブク美
ああ。
ソラの顔からみるみる笑顔が消えていって、大きな瞳がうるみ始めるんです。
そっか。
絵本で読んだあの残酷な物語が目の前の現実として立ち現れた瞬間ですよね。
うんうん。
フォークとナイフを握りしめたままもう動けなくなっちゃう。
そうでしょうね。
しばらく沈黙があって、その後涙でぐしゃぐしゃになったソラがゆっくり顔を上げるんです。
はい。
ブク美
そして、おぼつかない手つきで震えながら肉を切り分けて、口に運ぶ前にいつもはただ流れ作業でやってた食前の挨拶、いただきますをですね、生まれて初めて自分の意思で小さな両手を合わせてやるんです。
ブク美
自分の意思で?
涙声で震えながら彼は言う、「命をいただきます」って。
うーん。
ノト丸
これは胸に迫るものがありますね。
でもこのシーン、単に感動的というだけじゃなくて非常に重要な示唆を含んでいると思います。
ブク美
と言いますと?
ノト丸
ソラの涙っていうのは単なる子供の感傷じゃないんですよ。
はい。
テクノロジーによって覆い隠されていた命のプロセスという現実。
ブク美
へえ。
ノト丸
その手触りに初めて触れた瞬間の反応なんだと思うんです。
ブク美
なるほど。クリーンで安全な日常と引き換えに押し触れていた感覚がリアルな体験によって呼び覚まされたってことですか?
ノト丸
そういうことですね。
それはただ悲しいっていう感情だけじゃなくて、もっと複雑な何か。
ブク美
複雑な何か。
ええ。
ノト丸
ユミが意図的に用意した不便でリアルな自然肉という存在。
ブク美
はい。
ノト丸
それがソラを世界の根源的な真実、つまり我々が生きていくためには他の命が必要だっていう命の連鎖。
儀式としてのいただきます
ブク美
命の連鎖ですか?
ノト丸
ええ。そこに直面させた。
これは効率とか清潔さだけを追求していく社会が見失いがちなすごく重要な気づきだと思うんです。
ブク美
命の連鎖か。
普段スーパーでパックされた肉を見てもそこまで意識することって少ないかもしれないですね。
ノト丸
そうですよね。
だからこそこの物語は未来における、"いただきます"という言葉の意味合いそのものが変わっていく可能性を示唆しているとも言えるんです。
ブク美
ほう。いただきますの意味が変わる?
ノト丸
ええ。単なる食前の習慣とか挨拶とかじゃなくて、もっと意識的な行為。
ブク美
意識的な。
ノト丸
ええ。失われたプロセスへの想像力を働かせて感謝を捧げるための儀式のようなものになるかもしれない。
ブク美
いただきますの再発明。
なるほど。面白い視点ですね。
ブク美
普段何気なく使っている言葉が未来ではもっと重みを持つようになるかもしれないと。
ノト丸
そういう可能性もあるんじゃないかと。
ブク美
そしてこの物語とその考察文はさらに未来の可能性を広げてくれてるんです。
ノト丸
はい。一つはブラックボックス化する世界という視点。これは考察文でもかなり強調されていました。
ブク美
ブラックボックス化ですか?培養肉みたいにプロセスが見えなくなるということですね。
ノト丸
まさにその通りです。培養肉だけじゃなくて、例えばエネルギーは壁のコンセントから、水は蛇口から、いろいろな商品はドローンが届けてくれる。
ブク美
便利ですよね。
ノト丸
でも私たちはその結果だけを享受してその裏にあるプロセス、例えば発電所の仕組みとか、水源の状況とか、工場での労働環境とか、そういうのを知る機会もあるいは知ろうとする意識すらも失っていくかもしれない。
ブク美
ああ、なるほど。
ブク美
考察文が問いかけているプロセスを知らずに結果だけを享受する未来は、人間をどう変えてしまうのかという問いは非常に本質的だと思いますね。
確かに。プロセスが見えないとその価値とかそこに関わっている人たちの苦労とか環境への影響とか、そういうことへの想像力が働きにくくなるかもしれないですね。
ブク美
ええ。
なんか責任感みたいなものもちょっと薄れてしまうかも。
ノト丸
まさにそこが懸念される点なんです。そしてもう一つ重要なのが、さっきもちょっと触れましたけど、いただきますの再発明と儀式の重要性。
ブク美
儀式ですか?
ノト丸
ええ。考察文では現代に残る儀式としてBBQが挙げられていましたね。
ブク美
BBQ。なるほど、バーベキューですか。確かにあれは手間がかかりますよね。
ノト丸
そうですよね。
ブク美
火を起こして、うちわであおいで煙にまみれて、でもそれがまた楽しかったりする。
ノト丸
そうなんです。火を起こす手間とか、肉が焼ける音や匂い、立ち上る煙、そして仲間との共同作業、こうしたある種の意味のある不便さ。
ブク美
意味のある不便さですか。面白い表現ですね。
ノト丸
ええ。これが食事っていう行為に命を扱っているという実感とか、準備してくれた人への感謝とかを取り戻させてくれる側面があるんじゃないかと。
ブク美
効率化とは真逆ですけど、確かにそこに価値を感じる瞬間ってありますよね。キャンプで飲むコーヒーがなんか特別に美味しく感じるとか。
ノト丸
まさに。ですから、未来のいただきますは単なる挨拶じゃなくて、このブラックボックス化されたプロセスの向こう側を想像して、見えないところでつながっている命の連鎖に自分を意識的に接続するための、
いわば魔法の言葉のような、もっと積極的な意味合いを帯びるかもしれないと考察されているんです。
ブク美
魔法の言葉ですか。なるほどな。
ノト丸
そして、こうした命の不在とかプロセスのブラックボックス化が逆説的なんですけど、新しい教育とかビジネスの可能性を生むかもしれないとも書かれていましたね。
ブク美
教育やビジネスですか?具体的にはどういう?
ノト丸
教育面でいうと、ソラの体験が示しているように、単に知識を教えるだけじゃなくて、心を揺さぶるようなリアルな体験の価値が高まるだろうと。
はい。
考察では、例えばVR技術。これを使って、牛が牧場で生まれ育って、食肉として加工されて、食卓に届くまでの一生を、倫理的な配慮は必要ですけど、追体験するプログラムとか。
ブク美
VRで牛の一生を体験。うわー、それは強烈な体験になりそうですね。食に対する見方が根本から変わりそうです。
バイオニクと命の関係
ノト丸
ですよね。あるいは、もっとアナログですけど、学校教育の中で、土に触れて作物を育てて、収穫して調理するまでの都市型農業。
ブク美
都市型農業。
ノト丸
ええ、これを必修科目にするみたいなアイディアも挙げられています。
ブク美
それも食べ物がどうやってできるのかを実感として学べますね。
ノト丸
はい。ビジネス面ではどうでしょうか。
はい。
命とかプロセスが見えにくくなるからこそ、本物とかストーリーの価値が相対的に高まる可能性がある。
ブク美
あー、なるほど。
ノト丸
例えば、ただの肉じゃなくて、その動物がどんな環境で、どんな餌を食べて育って、どんな一生を終えたのかっていう物語を付加価値とするストーリー付きミート。
ブク美
ストーリー付きミート、なるほど。
生産者の顔が見える野菜みたいな感覚に近いかもしれませんけど、もっと深いレベルでの物語性ってことですね。
ノト丸
そうですね。あるいは、もっと踏み込んで、専門家が目の前で命の解体プロセスを解説しながら、その場で調理して提供する。
ブク美
えっ、解体ですか。
ノト丸
ええ。教育的なエンターテイメント性も兼ね備えた解体ショーダイニング、みたいな高級業態も考えられるかもしれないと。
ブク美
解体ショーダイニング。
ノト丸
もちろんこれは賛否両論あるでしょうけど、命と向き合う一つの形として提案されてるんですね。
ブク美
かなりインパクトがありますが、確かに究極のプロセスを見せる形かもしれませんね。便利さの対極にあるような。
ノト丸
そうなんです。でも、だからこそ価値が生まれる可能性もあるということですね。まさにそういうことです。
そして、これらの考察を踏まえると、私たち自身への問いが浮かび上がってくるわけです。
はい。
テクノロジーが進化し続けて、生活のあらゆる側面でプロセスがブラックボックス化していく未来。
うんうん。
そんな世界で、私たちはどうすれば、物語のソラが涙ながらにつかんだような命の重さとか、そこから生まれる感謝の心を失わずに次世代へと繋いでいけるんでしょうか。
ブク美
うーん。これは本当に難しい問いですね。テクノロジーの恩恵は、それはそれで手放したくないし、でも失いたくない感覚もあるし。
ノト丸
そこであなたに問いかけたいんです。What if?。もし、培養肉やフードプリンターが当たり前の世界になったとして、あなたは自分の子供に、食について何をどうやって伝えますか。
うーん。
ソラの母親ユミのように、あえて不便なリアルを体験させるでしょうか。
ブク美
それも一つの手かもしれないけど。
ノト丸
あるいは、もっと根源的な問いとして、便利さとか効率性と引き換えに、失っても構わない、あるいはむしろ失うべきだと考える感覚というものは、果たして存在するんでしょうか。
ブク美
失っても構わない感覚ですか。
ノト丸
例えば、痛みとか罪悪感みたいな感覚。これらは未来の食卓にはもう不要なんでしょうか。
ブク美
いやー、それは不要だと簡単に言い切れない気がしますね。その感覚があるからこそ生まれる優しさとか想像力とかもあるような気がしますし。
ノト丸
そうですよね。
ブク美
すぐに答えは出ないですけど、考え続けることが重要なんだろうなと感じます。
ノト丸
そこでですね、今日の考察を受けて、ぜひあなたに試してほしい、24時間以内にできる簡単な未来リトマスがあります。
ブク美
お、未来リトマス。
ノト丸
はい。次の食事の時、ほんの少しだけでいいんです。いつもよりちょっとだけ意識的にいただきますって言ってみてください。
そして、目の前にある食べ物、例えばご飯一粒でも野菜一枚でもいいんですけど、それがどこから来て、どんな人の手を経て、今あなたの目の前にあるのか。
はい。
その旅路に少しだけ思いを馳せてみてほしいんです。
ブク美
なるほど。
ノト丸
あるいは、考察にあったBBQじゃないですけど、少しだけ手間のかかる料理をしてみるのもいいかもしれません。
ブク美
ああ、いいですね。
ノト丸
普段ならカット野菜を使うところを自分で切ってみるとか、出汁を粉末じゃなくて昆布とか鰹節から取ってみるとか。
ブク美
そのひと手間に何か発見があるかもしれませんね。
ノト丸
ええ。その時あなたが何を感じるか。面倒だなと感じるか、それとも何かちょっと温かい気持ちになるか。
ブク美
それが、この物語が問いかける未来の食卓、そして私たち自身の在り方を考える、ささやかだけれどとても大切なヒントになるはずです。
問いかけと未来の考察
ノト丸
ぜひ試してみたいですね。
ブク美
今回は、近未来SF〈培養肉の晩餐〉とその考察を手がかりに、食と資源の未来について深く掘り下げてきました。
ええ。
培養肉というテクノロジーは、地球環境とか食料問題に対して本当に計り知れないほどの恩恵をもたらす可能性を秘めていますよね。
それは素晴らしいことだと思います。
ノト丸
ええ。間違いなく。
しかし同時に、その効率性とかクリーンさのうれで、私たちは痛みとか命の手触り、そしてそこから生まれる感謝といった人間が本来持っていたはずの感覚を無意識のうちに手放してしまう。
そういうリスクも抱えているわけです。
ブク美
そうですね。考察文が最後に示唆していたように、重要なのは培養肉か自然肉かっていう二者択一じゃないのかもしれない。
どちらを選ぶ未来になったとしても、あるいは両方が共存する未来だとしても、大切なのは、あのブラックボックス化されたプロセスの向こう側を操縦して、見えない繋がりとか命に対して感謝を捧げる心、これを私たちがどう育み続けられるかということなんでしょうね。
ノト丸
まさにそこが核心だと思います。
ブク美
物語の最後、涙ながらに命をいただきますといったあのソラの姿は、便利さの中で生きる私たち一人一人への静かで、でもすごく重い問いかけなのかもしれない。
さて、明日も引き続き、食と資源の未来をテーマに、まだ見ぬ未来のプロトキャストをしていきます。
今回の探究であなたが感じたこと、考えたことがあれば、ぜひ#毎日未来創造をつけて、SNSなどでシェアしてみてください。
ぜひ。
あなたの気づきが他の誰かの未来へのヒントになるかもしれませんから。
そうですね。
ノト丸
それでは、また明日お会いしましょう。
ブク美
ありがとうございました。
ありがとうございました。