未来の栄養と感情の欠如
ブク美
毎日未来創造。本日もまだ見ぬ未来のプロトキャスト、可能性を探ってみましょう。
今週はですね、食と資源の未来というテーマでお送りしています。
今日は、リスナーのあなたから提供いただいた、これすごく面白い近未来SFショートショートがありまして、
〈ラボの静寂とピーマンの涙〉これをもとに、少し先の食卓がどうなるのか、ちょっと深く見ていきたいなと。
ノト丸
えー、興味深いですね。
ブク美
物語の舞台は、2050年の東京食品科学研究所だそうですね。
ノト丸
そうなんです。
ブク美
そこでは、あらゆる栄養を完璧に満たすっていう、完全栄養作物の開発が進んでいると。
特に注目なのが、食べた人の状態に合わせて栄養素を最適化するインテリジェントビーンズ。
ノト丸
すごい名前ですよね。
ブク美
ですよね。今の個別化医療みたいな考え方を、食に持ち込んだような。
ノト丸
まさに。ただ、この物語が我々に突きつけてくるのは、こういう問いかけなんですよ。
ブク美
と言いますと。
ノト丸
もし、その完璧すぎる健康を手に入れたその代償としてですね、人間らしい感情の豊かさみたいなものを失ってしまうとしたら。
ブク美
うわー。
ノト丸
ちょっとこう、想像力をかきたてられますよね。
ブク美
それはゾクッとしますね。
物語の中では、そのインテリジェントビーンズを食べた被験者の人たち、健康指数がもうのきなみ100%。
ノト丸
データ上は。
ブク美
病気もないし、老化もない。
まさに生物学的な理想形みたいな。
ノト丸
そうなんです。データだけ見ればもう完璧なんですけど、ここからがこの物語の核心に迫る部分で。
はい。
主人公の研究者が、と気づくんですね。
ある被験者が、すごく評価の高いコメディ映画を見ているのに、全く笑わない。
笑わない?
表情が、何か凪だ水面みたいに静かで、バイタルはもちろん完璧に安定、ストレス反応もゼロ。
ブク美
データ上は全く問題ない。むしろ理想的。だけど…
ノト丸
そう。で、同僚なんかは、いやこれは穏やかな幸福状態なんだよって肯定的に言うんですけどね。
ブク美
うーん。
ノト丸
でも主人公の研究者は、そこに感情の揺らぎが全くない。
一種の空虚さというか、人間味のなさみたいなものを感じ取るんです。
ブク美
なるほど。精巧だけど魂がない人形みたいな感じですかね。
ノト丸
それに近いかも知れません。その違和感、大事ですよね。
完璧を目指すあまりに何か大事なものが抜け落ちてしまう感覚。
ブク美
そんな時にその研究者、偶然何かを見つけるんですよね。
不完全さの価値
ノト丸
そうなんです。研究所の片隅に、生産性とか栄養価が低いからって不要って判断された古代種のピーマンが残されているのを見つけるんです。
ブク美
古代種のピーマン。
ノト丸
思わずというか、衝動的にそれをかじってみる。
ブク美
かじる。
ノト丸
そしたら口の中にワーッと爆発するんですよ。予測不可能な感覚の嵐が。
嵐。
強烈な苦味、エグ味、それから青臭さ。
完璧に調整された食事に慣れ切った身体には衝撃ですよね。
ブク美
普通なら、うわ、まずいってなりそうですけど。
ノト丸
そうなんです。でも、そのある意味不快なはずの不完全な味覚体験が、なんか眠った五感を無理やりこじ開けるような。
ブク美
ああ、なるほど。
ノト丸
それで研究者は不意にワーッと涙を流して、でも次の瞬間には笑い出しているんです。
ブク美
涙して笑う。
ノト丸
おいしくはない。むしろはっきり言って不味い。
でも、その強烈な不完全さが心を揺さぶって、ああ、俺、今生きてるなっていう生々しい実感を与える。
ブク美
なるほど。健康指数100%の静かな幸福とは全く違うカテゴリーの。
ノト丸
全く違うその完璧なデータとピーマン齧って涙して笑っている自分。この対比の中に何かこう真実のようなものを見出すわけですね。
ブク美
深いですね。この物語が示唆しているのってつまり、生命をデータとして正しく養うっていうことと、感情とか体験も含めて豊かに生かすことの間には、なんか決定的な違いがあるぞと、そういうことでしょうか。
ノト丸
そうかもしれませんね。その効率化とか完璧さを追求する過程でどうしてもこぼれ落ちてしまうもの。例えば不完全さとか予測できない揺らぎとか。
ノト丸
実はそれこそがなんか人間らしさとか生きている実感そのものに深くつながっているんじゃないかと。この物語はそういう可能性を未来への問いとして投げかけている気がしますね。
ブク美
考えさせられますね。効率化の果てに私たちは一体何を手に入れて何を失う可能性があるんでしょうか。あなたにとってその未来の食卓に本当に必要なものって完璧な栄養ですかね。それともこういう予測不能な体験の方なんでしょうか。
ノト丸
ちょっと未来を占うリトマ試験紙みたいになりますけど、こんなことを試してみるのはどうでしょう。明日のランチ、栄養バランスの数字だけじゃなくてその食事の体験の方に目を向けてみる。
ブク美
体験ですか。
ノト丸
つまり口に入った時の味、香り、それから食感、歯ごたえ。何よりそれを食べている時のご自身の気持ち。
ブク美
あー、気持ち。
ノト丸
そういう感覚にほんのちょっとだけ意識を向けてみる。もしかしたら何か新しい発見があるかもしれないですよ。
ブク美
面白い試みですね。それはぜひやってみたいです。さて、明日も引き続き食と資源の未来をテーマに、まだ見ぬ未来の可能性を探っていきます。
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