モルカヘテの背景と特性
ブク美
さあ、紐解いていきましょうか。今日、あなたが持ってきてくださったこのメモ、テーマはモルカヘテですね。
ノト丸
ええ、モルカヘテです。
ブク美
アボカドをつぶしてガカモレをつくる、あの火山岩でできた石臼。
ノト丸
そうですね。
ブク美
メモには、奥様にまたこんな邪魔なものをって言われながらも、これはロマンが詰まった道具なんだと。いや、この感覚なんかすごくわかります。
ノト丸
ありがとうございます。まあ、単なる調理器具じゃない何かがあるんですよね。
このモルカヘテいただいた資料にもありましたけど、もともとはナワトル語のモルカチトル、石のボウルっていう意味だそうです。
ブク美
へえ、石のボウル。
ノト丸
歴史はなんと紀元前まで遡るかもしれないと。
ブク美
紀元前。
ノト丸
すり棒の方はテホロテって呼ぶんですよね。
ブク美
テホロテ、なるほど。資料だとLAのメキシコスーパーで見つけて。
そうなんです。
まあ、衝動買いに近い感じで手に入れたってありましたね。ただの重い器に見えるかもしれないけど、なんか惹かれたと。
ノト丸
まさにそこには、ただ食材をつぶすだけじゃない、文化とか歴史とかを受け継ぐみたいな側面があるんでしょうね。
資料でも強調されてましたけど、金属のボールとかミキサーなんかじゃ到底出せない香りがあると。
ブク美
香りの立ち方ですか。
ノト丸
そうです。石のザラザラした表面と食材が擦れることで香りがふわっと解き放たれる。五感全部を使うまさに生きた道具って感じなんですよ。
ブク美
生きた道具か。いい言葉ですね。それでこのモルカヘテ手に入れてはいどうぞってすぐ使えるわけじゃないんですよね。
ノト丸
そうなんです。そこがまた面白いところで。
ブク美
育てるための何か儀式みたいなのが必要だと。
ノト丸
その通りです。資料にもありましたね。粉が出るっていう洗礼が。
ブク美
洗礼は具体的にはどうするんでしたっけ。
ノト丸
えーとですね、まず新しいモルカヘテって表面がまだちょっと粗いというか粉っぽいんですね。
はいはい。
ノト丸
なので最初に粗塩と乾燥したお米、これを中に入れてテホロテでひたすら擦りつぶすんです。
ブク美
ゴリゴリガリガリって感じですかね。
ノト丸
まさにその音です。ゴリゴリガリガリ。そうするとお米がだんだん石の削りカスで黒っぽくなっていくんですよ。
ブク美
へー。なんだかこう石と対話してるみたいな。
ノト丸
そうなんです。静かでちょっと気がな時間ですよね。
で、それが終わったら今度は洗剤は絶対使わずに水だけで。
ブク美
洗剤はダメなんですね。
ノト丸
ダメなんです。石が吸っちゃうので水だけで丁寧に洗い流して日陰で2日間くらいじっくり乾かす。
ブク美
2日間もこれもなんか待つ料理の一部みたいな感じがしますね。道具への敬意というか。
ノト丸
そう思います。丁寧に向き合う感じがしますよね。
ブク美
そしていよいよ最初のガカモレ作り。
ガカモレの調理過程
ノト丸
そうです。ここからが本番ですね。
ブク美
まず粗塩とニンニクをつぶして香りを石に染み込ませると。
ノト丸
これが大事な下準備で。
ブク美
この一手間が良さそうですね。
で、主役のアボカド。
ノト丸
はい。
ブク美
熟した果肉が石のザラつきでねっとりと潰れていく感触。
メモにもありましたけど想像するだけでなんかたまりませんね。
ノト丸
わかります。そこにライムを絞って玉ねぎ、トマト、パクチー。
ブク美
いいですね。
ノト丸
そしてピリッとハラペーニョですね。
これらを混ぜ合わせながらさらに潰していく。
その過程でも食材の香りがフワっと立ち上ってくるんですよ。
ブク美
まさに五感で料理してるって感じですね。
そうなんです。そのプロセス自体がもう御馳走というか。
そうやって出来上がったガカモレがこれまで味わったことのない奥深く、そしてどこか懐かしいような味だったと。
これはやっぱりただ混ぜただけじゃ出せない味なんでしょうね。
ノト丸
絶対に出せないと思います。
そこであなたがメモで書かれていた石に味が染み込むっていう感覚。
これがすごく興味深いなと。
使うたびに食材の油分とか旨味とか香りが石の目に見えないような小さな穴に入り込んでいく。
ブク美
なるほど。
ノト丸
それで時間をかけてそのモルカヘテ自体がなんというか風味を帯びてくる。生きて育っていくんですね。
ブク美
生きて育っていく。
ノト丸
手間暇をかけた分だけ本当に自分だけの道具になる。
これが多分最初に感じたロマンの正体なんじゃないかなと。
ブク美
なるほどな。邪魔なものって言われちゃうかもしれないけど、その裏には確かに単なる便利さとか効率とかそういうものだけじゃない価値とか物語があるんですね。
時間と手間をかけることで道具そのものが育って、それが味の深みにつながっていく。
ノト丸
そうですね。効率ばかり追い求めるとちょっと見失いがちな豊かさというか。
このモルカヘテで作った最初のガカモレがあなたにとって特別な味だったように、これからこの石臼と一緒にどんな料理のどんな味の物語を紡いでいくのか。
ブク美
そうですね。このずっしり重いイシュウスがこれから自分の手によってどんな味とかどんな記憶を刻んでいくことになるのか。考えるだけでちょっとワクワクしますね。
ノト丸
楽しみですね。まさに生きた道具とのこれからの付き合いが始まるわけですから。
ご視聴ありがとうございました。