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2026-03-12 47:12

213エドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」(朗読)

【作品】「アッシャー家の崩壊」

【作者】エドガー・アラン・ポー(1809-1849)

【あらすじ】病弱なロデリック・アッシャーの屋敷を訪れた語り手が、その家系と建物が共に怪奇な死と崩壊へ至る過程を目撃するゴシックホラーです。双子の妹マデリンの死と埋葬、その後生還した彼女の現出により、屋敷は湖の裂け目へと沈没し崩壊します。

【こんな方に】寝る前に聴きたい / 名作文学 / 睡眠用BGM / 朗読 / 青空文庫 / 聴き流し


読むの大変でした

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00:07
寝落ちの本ポッドキャスト、こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、
それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見・ご感想・ご依頼は、公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。
また別途投稿フォームをご用意しました。リクエストなどをお寄せください。
それから、まだしてないよというそこのあなた、ぜひ番組のフォローをよろしくお願いします。
それから最後に、おひねりを投げてもいいよという方、概要欄のリンクよりご検討いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
さて、今日は、江戸川アランポーさんのアッシャー家の崩壊です。
翻訳は、笹崎直次郎さん。
1月1日に公開した、モルグガイの殺人事件も同じ作家さん、そして同じ翻訳家というコンビでしたね。
アッシャー家の崩壊。
一応、この江戸川アランポーさんを語るときに、この2つのタイトルが上がるようです。
アッシャー家の崩壊とモルグガイの殺人事件などで有名になったみたいな代表作のうちの1つですね。
文字数は、3万7千字。
あ、違う、これモルグガイの方だな。
アッシャー家の崩壊は2万1千字。
だから、1時間かかんないと思います。
はい。
怖いんですかね。どうなんですかね。
やっていきましょうか。
どうかお付き合いください。
それでは参ります。
アッシャー家の崩壊。
彼が心はかかれるびわにして、
さわれればたちまちになりひびく。
ド・ベランジュ。
雲がおも苦しく空に低くかかった。
物多い暗い赤幕とした秋の日を一日中、
私はただ一人馬にまたがって、
妙に物寂しい地方を通りすぎていった。
そして、
黄昏の影があたりに迫ってくる頃、
ようやく、憂鬱なアッシャー家の見えるところまで来たのであった。
どうしてなのかは知らない。
が、その建物を最初にちらと見た途端に、
耐えがたい優秀の情が心にしみわたった。
耐えがたい、と私は言う。
なぜなら、その感情は高齢とした、
あるいは物凄い自然の最も純厳な姿に対する時でさえも常に感じる
あの素敵な半ば心地よい上主によって
少しも和らげられなかったからである。
私は目の前の風景を眺めた。
ただの家とその邸内の単純な景色を。
荒れ果てた壁を、
目のようなポカッと開いた窓を、
03:00
少しばかり生い茂った菅草を、
四五本の枯れた木々の白い幹を眺めた。
あへん端的者の酔いざめ心地、
日常生活への忌まわしい粋、
無限の帳の忌まわしい落下、
といったもののほかには
どんな現世の感覚にもたとえることのできないような
魂の全くの沈鬱を感じながら、
心は氷のように冷たく打ち沈み、痛み。
どんなに想像力を刺激しても
装備なものとはなし得ない救いがたいもの。
寂しい思いでいっぱいだった。
何だろう。
私は立ち止まって考えた。
明日明けを見つめているうちに、
このように自分の心を打ち沈ませたものは何だろう。
それは全く解きがたい神秘であった。
それからまた私は、
物思いに沈んでいるとき、
自分に群がり寄ってくる影のような
いろいろな妄想に打ち勝つこともできなかった。
そこには確かに、
我々をこんなにも感動させる力を持った
まことに単純な自然物性の結合があるのだが、
その力を分析することは、
我々の知力ではとてもかなわないんだ、
という頼りない結論に落ちるより仕方がなかった。
また、この景色の個々の地別の、
つまりこの画面の細々したものの
配置をただ変えるだけで、
物悲しい印象を人に与える力を少なくするか、
あるいはきっとすっかりなくすのではあるまいか、
と私は考えた。
そこで、この考えに従って、
この家のそばに静かな光をたたえている
黒い不気味な沼の険しい崖縁に馬を近づけ、
灰色の菅草や薄気味の悪い木の幹や
うつろな目のような窓などの水面に映っている
遠影を見下ろした。
が、やはり前よりももっとぞっとして
身震いするばかりであった。
そのくせ、この隠屋敷に今私は
二、三週間滞在しようとしているのである。
この家の主人、ロデイック・アッシャーは
私の少年時代の親友であったが、
二人が最後に会ってからもう長い年月が経っていた。
ところが、最近になって
一通の手紙が遠く離れた地方にいる私の元へ届いて
彼からの手紙であるが、
それはひどくせがむようなかけぶりなので
私自身出かけて行くより他に返事のしようのないようなものであった。
その筆跡は明らかに神経の興奮を表していた。
急性の体の疾患のこと、
苦しい心の病のこと、
彼の最も親しい、そして実にただ一人の友である私にあい
その愉快な交友によって
病をいくらかでも軽くしたいという心からの願いのこと
などを彼はその手紙で語っていた。
すべてこれらのことや、なおその他のことのかけぶり、
彼の願いの中に温かに現れている心情が
私に少しのためらう予兆も与えなかった。
そこで私は、今もなお大変奇妙なものと思われるこの招きにすぐと応じたのである。
子供の頃、二人はずいぶん仲の良い友達ではあったが
私は実のところ彼についてはほとんど知らなかった。
彼の無口はいつも極端で、しかも習慣的であったのだ。
だが私はごく古い家柄の彼の一家が
遠い昔から特別に鋭敏な感受性によって世に聞こえていて、
06:01
その感受性は長い時代を通じて多くの優秀な芸術に現れ、
近年になってはそれが音楽理論の正当的な、
たやすく理解される美に対するよりも、
その作奏した美に対する熱情的な献身に現れているし、
また一方ではいく度も繰り返された
莫大な、しかし一目に立たぬ慈善行為に現れている、
ということは知っていた。
また、アッシャー一族の血統は非常に優秀あるものではあるが、
いつの時代にも決して永続する文献を出したことがない。
言い換えれば、全一族は直系の子孫だけであり、
ごく些細な、ごく一時的な変化はあっても、
今日まで常にそうであった、という誠に驚くべき事実をも知っていた。
その屋敷の特質と、一般に知られている
この一家の人々との特質とが完全に調和していることを思い浮かべながら、
また数世紀も経過する間に、
その一方が他方に与えた影響について思い巡らしながら、
私は次のように考えた。
この文献がないということと、
世襲財産が家名とともに父から越え、
代々よそへそれずに伝わったということのために、
とうとうその世襲財産と家名との二つが同一のものと見られて、
領地の本来の名をアッシャー家という奇妙な両方の意味に取れる名称。
この名称は、それを用いる農夫たちの心では、
家族のものと一家の邸宅との両方を含んでいるようであった、
の中へ混濁させてしまったのではなかろうかと。
私のいささか子供らしい試みの、
沼の中を覗き込んだことの唯一の効果が、
ただ最初の奇怪な印象を深めただけであったことは既に述べた。
私が自分の名刺、
そう言ってはいけない理由がどこにあろう、
の急速に増していくことを意識していることが、
かえってますますそれを深めることになったということは何の疑いもないことだ。
こんなことは前から知っていたことだが、
恐怖を基としている全ての感情に通ずる逆説的な法則である。
そして私が池の中に映っている家の影から、
再び本物の家に目を上げたとき、
自分の心の中に一つ奇妙な空想の訳が起こったのも、
あるいはただこの理由からであるかもしれない。
その空想というのは実は笑うべきもので、
ただ私を悩ました感情の強烈な力強さを示すために、
印に過ぎない。私は想像力を働かして、
この屋敷や辞書の辺りはそこら辺りに特有な雰囲気、
大空の大気とはちっとも似ていない枯れ木や灰色の壁や、
ひっそりした沼などから立ち上る雰囲気、
どよろした呪い、ほとんど目に見えない鉛色の有毒で神秘的な水蒸気が、
一面に溜め込めているのだと、
本当に信ずるようになったのである。
夢であったに違いない。
こんな気持ちを心から振り落として、
私はもっと念入りにその建物の本当の様子を調べてみた。
まず、その第一の特徴はひどく古いということであるらしい。
幾時代も経っているので、全く古式尚然としていた。
微細な金が細かにもつれた蜘蛛の巣のようになって、
軒から垂れ下がり、建物の外側一面を覆い尽くしている。
しかし、こんなことはみなひどく破損しているということではない。
石細工のどの部分も崩れたところはなかった。
そしてその各部分がまだ完全にしっくりしていることと、
一つ一つの石のボロボロになった状態との間には、
09:01
妙な不調があるように見えた。
この有様を見ていると何となく、
どこかの打ち捨てられた穴蔵の中で、
外気に当たることもなく、長年の間朽ちるがままになっていた、
見かけだけはそっくり完全な古い木細工を思い出させるのであった。
しかしこの広大な荒廃の兆しのほかには、
その建物は別にもろそうな有様をほとんど示していなかった。
ただおそらく、念入りに観察する人の目には、
ほとんど目につかないくらいの一つのひび割れが、
建物の前面の屋根のところから電光状に壁を這い下がり、
沼の陰気な水の中へ消えているのを見つけることができたであろう。
こんなことに目を止めながら、
私は短い土手道を家のほうへと馬を進めた。
そして待ち受けていた召使いに馬を取らせると、
玄関のゴシック風の経廊に入った。
そこからは忍び足の持者が無言のまま、
多くの薄暗い入り組んだ廊下を通って主人の所在へと私を導いた。
その途中で出会った多くの者は、なぜかは知らないが、
前に述べたあの漠然とした感情を高めるだけであった。
私の周りの事物が、天井の彫刻、
壁のくすんだ架け毛線、
黒炭のように真っ黒な床、
歩くにつれてガタガタ音を立てる原影のような紋章付きの戦利品などが、
自分の幼少の頃から見慣れていたもの、
あるいはそれに類したものであるにもかかわらず、
どれも皆自分のよく見知っているものであることをすぐと認められるにもかかわらず、
平凡なものの形が自分の心に煽り立てる空想のあまり機械なのに私は驚いた。
ある一つの階段のところで、私はこの一家の医者に会った。
彼の要望は卑屈な口角と頭脇との混じった表情を帯びているように私には思われた。
彼はおどおどしながら挨拶して通り過ぎていった。
やがて自社は扉をさっと開いて、主人の前に私を案内した。
その部屋は非常に広くて天井が高かった。
窓は細長く尖っていて、内側からは全然手が届かないくらい、
黒い樫の床から高く離れたところにあった。
弱々しい真紅色の光線が格子型にはめてある窓ガラスを通して差し込んで、
辺りの人気を目立つものを十分はっきりとさせていた。
しかし、部屋の遠くの隅々や、あるいは組子細工の丸天井の奥の方は、
どんなに目を見張っても視力が届かなかった。
黒ずんだ壁掛けが壁にかかっていた。
家具は大概大掛かりで、わびしく古びてボロボロに壊れかけていた。
書物や書きがたくさんあたりに散らばっていたが、
それはこの場面に何の正気を与えることもできなかった。
私は悲しみの空気を補給しているのを感じた。
厳しい、深い、救いがたい憂鬱の気が一面に漂い、すべてのものに染み渡っていた。
私が入って行くと、アッシャーは長々と横たわっていたソファーから立ち上がって、
快活な親しみを持って迎えたが、
そこには胴すぎた痕跡。
人生に安入を感じている俗人のわざとらしい努力がだいぶあるようにはじめ私には思われた。
だが一目彼の顔を見るとすぐ彼の完全な誠実を信ずるようになった。
12:04
二人は腰を下ろした。
そして彼がまだ話し出さない間、
私はしばらく半ば憐れみの半ば恐れの情を持って彼を見守った。
確かにロデリック・アッシャーほど、こんなに短い間にこんなに恐ろしく変わり果てた人間はいまい。
今自分の前にいるこの青ざめた男と、自分の幼年時代のあの友達とが同一の人間であるとは、私にはちょっと信じられなかった。
それでも彼の顔の特徴は昔と変わらず目立つものであった。
死人のような顔色、大きい澄んだ類いなく輝く目、少し薄く酷く青いが非常に美しい線の唇、
優美なヘブライ型の、しかしそのような形のものにしては珍しい美行の幅を持っている鼻、
良い格好ではあるが、突き出ていないために精神力の欠乏を語っている顎、
クモの巣より柔らかく細い髪の毛、
それらの特徴はコメ髪のあたりの上部が異常に広がっていることとともに、
全く絶やすく合わせられぬ要望を形作っている。
そして今、私が誰に話しかけているのだろうと疑ったほどの酷い変化は、
これらの要望の主な特徴とそれがいつも表している表情とがただ一層強くなっているという点にあったのだ。
何よりも今のものすごく青ざめている皮膚の色と今の不思議な目の輝きとが私を驚かせ恐れさせさえした。
絹糸のような髪の毛もまた全く手入れもされずに生え伸びて、
それが子雲の巣の乱れたようになって顔のあたりに垂れ下がるというよりも漂っているのであったから、
どうしても私はこの機械な要望と普通の人間という観念とを結びつけることができなかったのである。
友の態度にどこか辻褄の合わぬこと、矛盾のあることに私はすぐに気がついた。
そして間もなくそれが絶え間のない敬礼。
極度の神経興奮を抑えつけようとする力弱い無駄な努力から来るものであることがわかった。
もっともこんなことがあろうとは彼の手紙だけでなく、
子供の頃の特性の階層や彼の特殊な体質と気質とから考えて、
かえて私の気していたところであった。
彼の挙動は快活になったり陰気になったりした。
声ははっきりしない震え声、活気がまるでないように思われる時のから、
急に酔い潰れてしまった酔いどれや手のつけられぬアヘン喫煙者などの極度の興奮状態にある時に認められるような、
あの力のある歯切れの良い声、あの突然な重々しい落ち着いた鱗声の発音、
鈍い、よくずれ合いが取れた完全に調節された高音に変わったりした。
私の訪問の目的や私に会いたいという切望や、私から得ようと期待している慰安などについて、
彼の語ったのはこのような調子であったのだ。
彼は自分の病気の性質と考えていることを少し詳しく話し出した。
彼の言うところによると、それは生まれつきの遺伝の病であり、治療法を見出すことは絶望だというのであった。
最もただの神経の病気で今にきっと治ってしまうだろうと彼はすぐ付け加えたが、
15:05
その病気は多くの不自然な感覚となって現れた。
その中の兄さんは彼が詳しく話している間に、
おそらくその言葉遣いや全体の話しぶりの関係からだったろうが、
私に大変興味を感じさせ、また驚かしたのであった。
彼は感覚の病的な鋭さにひどく悩まされているのだ。
もっとも、淡白な食物でなければ食べられない。
ある種の知質の衣服でなければ着られない。
鼻の香りはすべて息苦しい。
目は弱い光線にさえ痛みを感じた。
彼に恐怖の念を起こさせない音はある特殊な音ばかりで、それは弦楽器の音であった。
私には彼がある異常な種類の恐怖の虜になっているのがわかった。
僕は死ぬんだ、と彼は言うのだった。
こんな惨めなくだらないことで僕は死なねばならぬのだ。
こうして他のことではなく、必ずこうして死ぬことになるだろう。
僕は未来に起こることをそれだけとしては別に恐れないが、その結果が恐ろしい。
この耐えがたい心の動揺に影響するようなことは、どんなに小さいことでも考えただけでゾッとする。
実際僕は危険が嫌なのではない。
ただその絶対的な結果、恐怖というものが嫌なんだ。
こんな弱り果てた、こんな哀れな有様で、
あのものすごい恐怖という原因と戦いながら、生命も理性も共に捨てなければならぬ時が、
遅かれ早かれ必ず来るのを感じるんだ。
なお、私は時々ギレギレの曖昧な暗示によって、彼の精神状態のもう一つの奇妙な特質を知った。
彼は長年の間、一歩も出ずに住んでいる自分の住居に関して、
ここでもう一度述べることのできないくらいに漠然とした言葉で話したある想像的な力の影響、
つまり、彼の言うところでは、先祖からの屋敷の単なる形態と実質とのある得意性が、
長い間の本人によって彼の心に及ぼした影響、
灰色の壁と塔とそれらのものが見下ろしている薄暗い沼とのフィジックが、
とうとう彼のモラルにもたらした効果に関して、ある迷信的な印象にとらわれているのであった。
しかし、ためらいながらも彼の認めたところによれば、
このように彼を悩ましている特殊な憂鬱の大部分は、
もっと自然で、よりもっと明らかな原因として、
長年の間彼のただ一人の伴侶であり、
この世における最後にして唯一の血縁である深く愛している妹の長い間の10秒を、
またはっきり迫っている死を、挙げることができるというのであった。
彼女が死んでしまえば、
と彼は、私の決して忘れることのできない痛ましさで言うのであった。
僕は、何の望みもない虚弱な僕は、古いアッシュアイ氏族の最後のものとなって残されるんだ。
彼がこう話している間に、マデリン城というのが彼女の名であった。
わ、ゆっくりと部屋の遠くの方を通り、
私のいるのに気もつかずに、やがて姿を消してしまった。
私は、恐怖をさえ交えた非常な驚きの念を持って、彼女をじっと見守った。
しかも、そのような感情をどうにも説明することができなかった。
18:00
目が、彼女の左翼補聴を追うとき、私は茫然と痺れるような感覚に襲われた。
とうとう扉が閉まって彼女の姿が見えなくなると、私の視線は本能的に熱心にその兄の顔の方に向けられた。
が、彼は顔を両手の中に埋めていた。
そして私はただ、ひどく青ざめた色が野生をとろえた指に広がり、
その間から熱い涙が滴り落ちるのを認めることができただけであった。
マデリン城の病には熟練した医者たちもはやずっと前からサジを投げていた。
慢性の無感覚、体の全身的衰弱、短期ではあるが頻繁な累観性の疾患などが、世にも稀なその病の症状であった。
これまでは彼女はけなげに自分の病気の苦痛をしのんで決してとこにつかなかったんだが、
私がこの家に着いた日の夕暮れ、
その夜、彼女の兄がいいようもなく興奮して私に語ったところによれば、
病魔の力に屈してしまったのであった。
そしてさっき、私が彼女の姿をちらりと見たのがおそらく見納めとなるだろう。
少なくとも彼女の生きているうちに二度と見られんだろうということを私は知った。
その後、四、五日間は彼女の名をアッシャーも私も口にしなかった。
その間、私は友の憂鬱を和らげようとする熱心な努力に忙しかった。
私たちは共に絵を描き、本を読み、
あるいは彼のそうする流れるように巧みなギターの奇怪な即興曲を夢見心地で聞いた。
こうしてだんだんと深く親密になって、
隔てなく彼の心の奥へ入れば入るほど、
痛ましくも彼の心を引き立てようとするくわ立てのすべてが無駄であることがわかった。
彼の心からは暗黒が、生来の絶対的な特性であるかのように一筋の休むことのない憂鬱の放射となって、
精神界と物質界とのあらゆる事物の上に注ぎかかるのであった。
アッシャー家の主人とただ二人だけでこうして過ごした多くの物寂しい時の記憶を私はいつまで心に留めているであろう。
しかも、彼が私を誘い、あるいは導いてくれた研究、
あるいは仕事の正確な性質をどんなに伝えようと試みてもできそうにもない。
興奮した非常に病的な想像力がすべての物の上に仰のような光を投げていた。
彼の即興の長い蛮歌は永久に私の耳の中になり響くであろう。
その他の物では、フォン・ウェーベルの最後のワルツのあの奔放な旋律を奇妙に変えて複雑にしたものが痛ましく心に残っている。
彼の精緻な空想がこもり、また一筆ごとにおぼろげなものとなった。
何故とも知らず、二部類するためになおさらぞっとするような絵。
それらの絵、それは今もなおありありと目の前に浮かぶから、ただ文字で書き表し得られるものを引き出そうとしてもほんの一部分しか得られないであろう。
21:00
完全な単純さによって着想のあからさまなことによって、彼は人の注意を引き、これを威圧した。
もし観念で絵を描いた人があるとすれば、ロディー・ガッシャーこそまさにその人であった。
少なくとも私に言うわ。
その時の私の周囲の事情にあっては、この憂鬱症患者が彼のカンバスの上に現そうとした純粋な抽象的観念からは、
あのフューゼリーの確かに灼熱的ではあるが余りに偶像的な幻想を見つめてさえ、その影すら感じなかったほどの強烈な耐え難いイフの念がわき起こったのである。
とものこの幻想的な概念の一つは、それほど厳密に抽象性を持っていないので、かすこにではあるが、言葉でその大体を表すことができるかもしれん。
それは小さな絵で、低い壁のある平坦な白い切れ目もなければ何の装飾もない非常に長い茎の穴ぐら、またはトンネルの内部を表していた。
その構図のある付随的な書点は、このホラー穴が地面からよほど深いところにあるという感じをよく伝えている。
この広い場所のどの部分にも出口がなく、かがり火やその他の人工的な光源も見えないが、しかも強烈な光線があまねく満ちあふれて、全体がものすごい不可解な空気の中に浸されているのであった。
病的な聴覚神経のために弦楽器のある音を除いてあらゆる音楽が彼に与えられなかったことは前に述べた通りである。
彼の演奏に大いに幻想的な性質を与えたのは、おそらくこのように彼がギターだけに狭く限ったためであったろう。
しかし、彼の即興詞を作る燃え立つような迅速さに至っては同じように説明することができない。
彼の不思議な幻想曲の歌詞はもとより、その曲調も、というのは彼はちょいちょい韻を踏んだ即興詞を自分で伴奏したから、
前に述べたような最高の人為的興奮の特別な瞬間にだけ見られる強烈な精神の集中の結果であるべきだったし、また事実でそうであったのだ。
このような競争曲の一つの歌詞を私は容易く覚えてしまった。
彼がそれを聴かせてくれた時、そんな強い印象を受けたのは、おそらくその詩の意味の底の神秘的な流れの中に、
アッシャー自身が彼の高い理性がその王座の上でぐらついていることを十分に意識しているということを、私が初めて知ったように思ったからであろう。
《魔の宮殿》という題のその詩は、正確ではないにしても大体次のようなものであった。
1. 良き天使らのスマイル 緑いとこき我らが他に
かつて麗しく大いなる宮い 輝ける宮殿そびえ立てり
大なる思想の領域にそは立てり
セラフもいまだかくも麗しき宮の上に そが翼を広げたることなか力
2. 気なるはえある金色の旗
そがいらかの上に踊りひるがえれり
こはすべてこは遠き昔のことなりき
戯れそよぐ奈夜風に
いともよきその日
24:01
雲をかざる青白き砦に沿いて
翼ある香り通り去りぬ
3. この幸ある谷をさまよいし人々は
輝く二つの窓より見たり
調べ整える琵琶の音につれ
王座をめぐりて聖霊らの参るを
その王座にはポーフィロ寺院
その誉れにふさわしき威厳もて
この国の主ざせり
4. またすべて真珠と紅玉とをもて
麗しき宮殿の扉はきらめけり
その扉より流れ
流れ流れて永久にひらめきつつ
小玉の人群へ来たりぬ
そが楽しき勤めはただ
人も絶えなれる声をもて
歌い讃えるのみなりき
そが王の妻と知を
5. さらど魔物悲しみの頃もきて
この王の高き国を襲いぬ
悲しきかな
彼が上に明月は再び明るうことあらじ
かつては彼の住まいをめぐりて
輝きはやし栄光も
埋もれて果てし遠き世の
おぼろげなる昔語りとなりにけり
かつて今この渓谷を旅ゆく人々は
赤く輝く窓より見るなり
平べ乱れなる額の音につれ
大いなる物陰の狂い動けるを
また青白き扉隠りて
魔の川の早き流れのごとく
恐ろしき人群とはに走り入れ
高笑いす
さるどもはや微笑まず
このバラットから生じたさまざまの暗示が
私を一連の考えに導き
その中でアッシャーの一つの意見を明らかにすることができたことを
私はよく覚えている
その意見をここに述べるのは
それが神気のため
他の人々はそう考えている
よりも彼が必要にそれを誇示したためである
その意見というのは大体において
すべての植物が知覚力を有するということであった
しかし彼の混乱した空想の中で
この考えはさらに大胆な性質のものとなり
ある条件のもとでは
無機物界にまで及んでいた
私は彼の信念の全部
あるいはその熱心な心推を証明する言葉を持たない
がその信念は前にもちょっと述べたように
彼の先祖代々の家の灰色の石と関連しているのだった
彼の想像によると
知覚力の主条件はこの場合では
これらの石の配置の方法の中に
石を覆っている多くの金や
あたりに至っている枯れ木などの配置とともに
石そのものの配列の中に
とりわけこの配列が長い間見出されずに
そのまま続いてきたということと
それが沼の静かな水面に影を落としているということの中に
備わっているのである
その証拠は知覚力のあることの証拠は
彼の言うところでは
27:00
そしてそれを聞いたとき私はぎょっとしたが
水や壁のあたりにそれらのもの独特の雰囲気が
だんだんにしかし確実に凝縮していることの中に認められる
というのであった
その結果は幾世紀もの間に
彼の一家の運命を形成し
また彼を今私が見るような彼
つまり現在の彼のようにしてしまった
あの無言ではあるが
しつこい恐ろしい影響となって現れているのだ
と彼は付け加えた
このような愛見は別に注釈を必要としない
だから私はそれについては何も書かないことにする
私たちの読んだ書物
長年の間この病人の精神生活の大部分を成していた書物は
想像もされようが
この幻想の性質とぴったりあったものであった
二人は一緒に
グレッセの『ヴェルヴェルとシャルトルーズ』
マキャベリの『ヴェルフェゴール』
スーデンボルグの『天国と地獄』
ホルベルヒの『ニコラス・クリムの地下の旅』
ロバート・フラットやジャン・ダンダジネや
ドラ・シャンブルの『手相学』
ティークの『青き彼方への旅』
カンパネーラの『太陽の都』
というような著作を読みふけた
愛読の一巻は
ドメニック派のソウ・エメリック・ド・ジロンヌの
『ディクトリウム・イン・キジトラム』の小さな憶定簿であった
またポンポニウスメラの中の
サターやイージパンについての三、四節は
アッシャーがよく何時間も
夢見心地で単読していたものであった
しかし彼の一番の喜びは
コート・ゴシック時代の非常なチンポン
ある忘れられた教会の祈祷書を熟読することであった
私はこの書物に記してある
奇異な儀式や
それがこの憂鬱症患者に与えそうな影響などについて
考えないではいられなかった
するとある晩
突然彼はマデリン城の死んでしまったことを告げてから
彼女の亡骸を二週間
最後の埋葬をするまで
この建物の礎壁の中にたくさんある穴倉の一つに
収めておきたいという意向を述べた
しかしこの奇妙な処置についての実際的な理由は
私などが無遠慮に口出しする限りでなかった
兄としてこのような決心をするようになったのは
彼が私に語ったところでは
死者の病気の性質が普通のものではないことや
彼女の遺種の側のさじでがましい熱心な戦策や
一家の埋葬地が遠い野沢市の場所にあることなどを考えたからであった
私がこの家に着いた日に
階段のところで出会った男の陰厳な要望を思い出したとき
対して害のない
まだ決して不自然でもない要人と思われることに対して
強いて反対する気がしなかったということは
私も否定はしない
アッシャーの頼みで
私はこの仮埋葬の支度を手伝った
遺骸を棺に収めてから
私たちは二人きりで
それをその安置所へ運んでいった
それを置く穴倉
ずいぶん長い間開けずにあったので
その行き詰まるような空気の中で
持っていた松明は半ばくすぶり
辺りを調べてみる機会はほとんどなかったが
小さくて湿っぽく
全然光線の入る道がなく
この建物の私の寝室になっている部屋の真下の
30:00
ずっと深いところにあった
その床の一部分と
入っていくときに通った長い経路の内面の全部とが
根入りに銅で覆われているところを見ると
それは明らかに遠い昔の宝剣時代には
力をという最も悪い目的に用いられ
後には火薬またはその他の何か
高度の可燃物の貯蔵所として
使用されていたものであった
巨大な鉄製の扉も同じように
銅張りになっていた
その扉は非常に重いので
蝶使いのところを回るときには
異様な鋭い騎士竜とを立てた
この恐ろしい場所の課題の上に
悲しい仁を置いてから
二人はまだねじ釘を止めていない
棺の蓋を細めに開けて
仲なる人の顔を覗いてみた
兄と妹との驚くほど似ていることが
そのとき初めて私の注意を引いた
するとワッシャーは私の心を悟ったらしく
妹と彼とは創生時で
二人の間には常にはほとんど理解できないような
性質の感濃があった
というようなことを二子とみこと呟いた
しかし私たちの視線は
長くは死者の上には留まっていなかった
威風の念なしに彼女を見ていることは
できなかったからである
青春の盛りに
彼女をこのような棺の中へ入れてしまった
その病気は
全てのはっきりした累観性の病の常として
胸と顔とに
微かな赤みのようなものを残し
死人には実に恐ろしい
あの疑い深く
ためらっているような微笑を唇に残していた
私たちは蓋をしてねじ釘を止め
鉄の扉をしっかり閉めてから
やったのを思いで
この家の上の方の
穴倉とあまり変わらないくらい
陰気な部屋へたどり着いた
さて
ひたましい悲嘆の幾日かが過ぎると
目立った変化が
友の心の病気の兆候に現れてきた
彼のいつもの態度は
消え失せてしまった
いつもの仕事も打ち捨てられ
または忘れ去られた
彼は部屋から部屋へと
慌ただしい
乱れた
当てのない足取りで歩き回った
青白い顔色は
一層ものすごい色となった
目の輝きはまるで消えてしまった
かつてオリオリに聞いた
しゃがれ声はもう聞かれなくなり
極度の恐怖から来る
おどおどした震え声が
いつも彼の話しぶりの特徴となった
実際私は
彼の絶えず乱れている心が
何か重苦しい秘密と戦っていて
その秘密を言い出すに必要な勇気を
出そうともがいているのではなかろうかと
時々考えた
また時には全てをただ説明しがたい
狂気の気まぐれと決め込んでしまわねば
ならないようなこともあった
というのは
彼が聞こえもせぬ
何かの物音に耳を澄ましてでもいるように
非常に注意深い態度で
長い間じっと空を見つめているのを
見たからである
このような彼の様子が私を恐れさせ
私に感染したって怪しむことはない
私は彼自身の幻想的な
しかも力強い迷信の奇妙な影響が
少しずつではあるが確実に
自分に忍び寄ってくるのを感じた
特にそのような感情の力を
十分に経験したのは
マデリン城を地下牢の中に収めてから
7日目か8日目の夜遅く
床に着いた時のことであった
眠りは私の枕辺にもやってこなかった
33:02
そして時は刻々に過ぎていく
私は全身を支配している神経過敏を
理性で払い抜けようと努めた
自分の感じていることの
まあ全部ではないとしても
その大部分はこの部屋の陰気な家具
吹き募ってくる嵐の息吹に吹き煽られて
時々壁の上をゆらゆらと揺れ
寝台の飾りのあたりで不安そうに
サラサラと音を立てている
黒ずんだボロボロの壁掛け
の人を迷わすような影響によるものだと
無理に信じようとした
しかしその努力も無駄だった
抑えがたい旋律がだんだん体中に広がり
とうとう心臓の上に
全く訳のわからない恐怖の悪夢が座った
あいりもがきながらこれを振り落として
枕の上に身を起こし
部屋の真っ暗闇の中を熱心にじっと見つめながら
耳をそば立てると
なぜそうしたのか
本能の力がそうさせたというより
他に理由はわからないが
嵐の絶え間に長い間置いて
どことも知れぬところから
低いはっきりしない物音が聞こえてきた
わけのわからぬ
しかも耐えがたい激しい恐怖の情に圧倒されて
私は急いで着物をひっかけ
もう夜中寝られないという気がしたから
部屋中あちこちと足早に歩き回って
自分の陥っているこの哀れな状態から
逃れようと努めた
こんな風にして
三四回も歩き回らないうちに
片腹の階段を登ってくる軽い足音が
私の注意を引いた
私にはすぐそれが
アッシャーの足音であることがわかった
まもなく彼は静かに扉をたたき
ランプを手にして入ってきた
その顔はいつもの通り屍のように青ざめていた
がその上に
目には狂気じみた歓喜とでもいったようなものがあり
挙動全体には明らかに
病的興奮を抑えているようなところだった
この様子は私をギョッとさせた
がとにかくどんなことでも
今まで長く辛抱してきた孤独よりは
マシなので
私は彼の来たことを救いとして喜び迎えさえした
君はあれを見なかったんだね
しばらく無言のまま
辺りをじっと見回した後
彼は不意にこう言い出した
じゃああれを見なかったんだね
だが待ちたまえ見せてあげよう
そう言って注意深くランプに傘をかけてから
一つの窓のところに駆け寄り
それを嵐に向かってさっと開け放った
たけり狂って吹き込む烈風は
ほとんど私たちを床から吹き上げんばかりであった
実に大荒れの
しかしおごそかにも美しい夜
またそのもの凄さと美しさとは
例えようもない不思議な夜であった
まさしく扇風がこの辺りに
その勢いを集中しているらしく
風向きはしげしげと
また猛烈に変わり
非常に濃く立ち込めている雲
それはこの家の小塔を
あするばかりに低く垂れていた
もう遠くへ飛び去ることなく
四方八方から互いにぶつかり合って
疾走しながら飛んでくる
その命あるもののような速さを
認めることを妨げはしなかった
いかにも非常に濃く立ち込めている雲も
こういう有り様を認めることを
妨げはしなかった
が月や星はチラリとも見えなかった
36:00
また稲妻のひらめきもなかった
しかし我々のすぐ周囲の
あらゆる地上の物象だけでなく
騒ぎ立っている雲の
巨大な塊の下面までが
屋敷の周りに垂れ込めて
それを包んでいる
ほのかに明るい
はっきりと見える
ガスの蒸発機の
控えな光の中に
輝いているのであった
見ちゃいけない
これは君には見させない
と私はアッシャーを優しく
また強く窓際から椅子の方へ
連れ戻るときに
にぶるいしながら言った
君を思い合わせるこの有様は
めざしくもない
ただの電気の現象なんだ
それとも沼のひどい毒気が
このものすごい有様の
原因になっているのかもしれない
この窓を閉めようじゃないか
空気は冷たくて
君の体には毒だ
ここに君の好きな物語が
一冊ある
読んで聞かせてあげよう
そして一緒に
この恐ろしい夜を
明かすことにしよう
私の取り上げた古い書物は
ランスロット・キャニング卿の
クルエル会号であったが
それをアッシャーの好きな書物と
言ったのは
真面目でというよりも
悲しい冗談で言ったのだ
なぜかといえば
この書物のまずい
想像力に乏しい
縄慢さの中には
確かに友の高い
知的の想像力にとって
興味を持つことのできるものは
ほとんどなかったからである
しかし
それはすぐ手近にある
唯一の本であったし
また私は
今この憂鬱症患者の心を
掻き乱している興奮が
これから読もうとする
極端に馬鹿げた話の中にさえ
慰安を見出すかもしれない
精神錯乱の記録は
この書の変則に
満ちているのだから
という微かな希望を
抱いたのであった
実際
彼が物語の文句に
耳を傾けている
あるいは見たところ
いかにも耳を傾けているらしい
異常に緊張した
生き生きした様子で
判断することができるのなら
私は自分の計画の
うまく当たったことを
喜んでもいいわけであった
私は
この本の主人公
エセルレッドが
隠者の住居に
穏やかに入ろうとして
入れないので
力づくで入ろうとする
あの有名なところへ
読みかかった
ここでは人の知る通り
物語の文句は
次のようになっている
かくて生まれつきたけく
その目に呑みたる
酒の効き目にて
一層力も強き
エセルレッドは
まこと
固くなにして
横島なる隠者との
談判を待ちかね
檻から肩に
雨の降りかかるを覚えて
嵐の来たらぬことを恐れ
たちまち
その土木を振り上げて
幾度か打ち叩き
間もなく
扉の板張りに
小手はめたる
手の入るほどの穴をぞ
うがちける
かくてそこより
力を込めて引きたれば
扉は破れ
割れ
みじんに砕けて
渇きたる
虚ろに響く音は
森も
とどろにこだませり
この文章の終わりで
私はぎょっとして
しばらくの間
言葉を止めた
というわけは
すぐ自分の興奮した空想に
騙されたのだと
思い返しはしたが
屋敷のどこか
ずっと遠いところから
ラーンスロット卿が
詳しく書き記した
あの破れ割れる音の反響
抑えつけられたような
鈍いものではあったが
にそっくりな物音が
かすかに私の耳に
聞こえてきたような
気がしたからである
もちろんただ
その偶然の位置ということだけが
私の注意を引いたのであった
窓開くの
ガタガタ鳴る音や
なおも吹き募る
嵐のいつもの
雑然たる騒がしい音の中では
39:01
そんな物音は
ただそれだけでは
もとより私の注意を引いたり
私を脅させたりするはずが
なかったからである
私は物語を読み続けた
しかるに
優れたる戦士エスルレッドは
今や扉の中に入り
かの横縞なる
忍者の影すらも
見えざるに怒り
呆れ果てぬ
再度その代わりには
鱗生えて
大いなる姿の
一刀の竜
炎の舌を吐きつつ
白金の床
敷きたる黄金の宮殿の前にぞ
疎く回りて守りける
しかしてその壁には
輝ける真鍮の盾掛かりて
次の如き銘
記されたり
ここに入る者は
勝利者たりし者
この竜を殺す者は
この盾を得ん
ここにおいてか
エスルレッドは
土木を振り上げ
竜の頭上をめがけて
打ち下ろしければ
竜は彼の前に打ち倒れ
毒ある息を吐き上げて
恐ろしくもまた
鋭き叫び声を上げたるが
その突き刺すばかりの
響きには
耳を塞ぎ立てるほどにて
かかる恐ろしき声は
かつて世に聞きたることも
なかりき
ここでまた私は
突然言葉を止めた
今度は激しい驚きを感じながら
というのは
この瞬間に低い
明らかに遠くからの
しかし鋭い長びいた
全く異様な
叫ぶような
又は帰しるような音
この物語の作者の書き記した
竜の不思議な叫び声として
私が既に空想で
思い浮かべていたものと
まさしくそっくりな物音を
実際に聞いた
最もどちらかの方向から
ということは言えなかったが
ことは何の疑いも
なかったからである
この二度目の
しかも異常な暗号に出会って
主に驚きと
極度の恐怖との
勝ったさまざまな
矛盾した感情に
圧倒されながら
それでもなお私は
何かそのことを
口に出して
友の過敏な神経を
興奮させることを
避けるだけの
落ち着きを失わなかった
彼の挙動には
確かにこの数分間に
奇妙な変化が
起こっていたけれども
例の物音に気づいているとは
思われなかった
彼は私に向き合った位置から
その部屋の扉の方に
顔を向けて
腰を掛けられるように
少しずつ椅子を回していた
だから私には
ほんの一部分しか
彼の顔が見えなかった
ただ聞き取れないほど
低く呟いてでもいるように
唇が震えているのが見えた
頭は胸のところへ
うなだれていたが
横顔を落ちられると見ると
目は大きく
しっかり見開いているので
眠っているのではないことが
分かった
体を動かそうと
しているということも
眠っているという考えとは
相入れないものであった
静かに
しかし絶えず同じ調子で
体を左右に
揺すっているのである
素早く
これだけのことを
みんな見て取ってから
私はラーンスロット教の
物語を読み続けたが
それは次のようであった
かくて
今や竜の恐ろしき怒りを
免れたる戦士は
彼の真鍮の盾を思い浮かべ
そが上に
記されてある妖術を
とかんとて
竜のむくろを
道より押しのけ
竜を越して
館の白銀の床を踏み
盾の掛かれる
壁へ近づけるに
盾は誠に
彼の来たりとるを
待たずして
そが足元の
白銀の床の上に
いとも大いなる
恐ろしく鳴り響く音を
立てて落ちきたりぬ
この言葉が
私の唇から漏れるや否や
42:01
まるで本当に
真鍮の盾が
その時
銀の床の上に
呈然と落ちたかのように
はっきりした
虚ろな
金属製の
壮然とある
しかし明らかに
何かは押しつつんだような
反響が聞こえたのだ
私は全く
度肝を抜かれて
飛び上がった
アッシャーの
規則的な体を揺する運動は
少しも乱れなかった
私は
彼の掛けている椅子の
ところへ駆け寄った
彼の目は
じっと前方を見つめていて
顔面には
石のように
こわばった表情が
みなぎっていた
しかし
私が手を肩に掛けると
彼の全身に
激しい旋律が起こった
陰気な微笑が
彼の唇のあたりで
震えた
そして
まるで私のいるのを
知っていないかのように
低く
早口に
途切れ途切れに
私は見た
ぴったりと
彼の上に身をかがめて
やっと私は
彼の言葉の
恐ろしい意味を
矛盾に聞き取った
聞こえない?
いや聞こえる
前から聞こえていたんだ
長い長い
長い間
何分も何時間も
幾日も
前から聞こえていたんだ
が僕には
おお
憐れんでくれ
なんとみじめな奴だ
僕には
僕には思い切って
言えなかったんだ
僕たちは
彼女を生きながら
墓の中に入れてしまったんだ
僕の感覚が
鋭敏なことは
前に言ったろう
今こそ言うが
僕には
あの棺の中で
彼女が最初に
かすかに動くのが
聞こえた
幾日も
幾日も前に
聞こえたんだ
だが僕には
僕には思い切って
言えなかったんだ
そして今
今夜
エルフレットが
はっはっ
忍者の家の
戸の破れる音
そして
龍の断末魔の叫び
それから
盾の鳴り響く音とか
それよりも
こう言った方がいい
彼女の棺の割れる音と
あの牢獄の鉄の
蝶ツ貝の軋る音と
彼女が穴蔵の胴張りの
境牢の中で
もがいている音とね
おお
どこへ逃げよう
もうすぐ彼女は
ここへやってきやしないだろうか
僕の
誤った仕業を
攻めに急いで来るのではないか
階段を上がる
彼女の足音が
僕には聞こえていないのか
彼女の心臓の
重苦しい
恐ろしい動機が
分かってはいないのか
鬼畜夢
こう言うと
彼は激しく飛び上がった
そして
死にそうなくらいの努力で
一号一号を絞り出した
鬼畜夢
彼女は今
その扉の外に
立っているんだぞ
彼の言葉の
超人的な力に
まるで呪文の力でも
潜んでいたかのように
彼の刺した
その大きい古風な
扉の共犯は
たちまち
その重々しい
黒炭の口を
ゆっくり後ろの方へと
開いた
それは吹き込む
疾風の仕業だった
がその時
扉の外には
まさしく
背の高い
強肩びらを着た
アッシャー家の
マデリン状の姿が
立っていたのである
彼女の白い着物には
血がついていて
その痩せ衰えた
体中には
激しくもがいた跡が
あった
しばらくの間は
彼女は敷居のところで
ブルブル震えながら
あちこちと
よろめいていた
それから低い
うめき声を上げて
部屋の中の方へと
彼女の兄の体に
ばったりと倒れかかり
激しい断末魔の
苦悶の中に
彼をも床の上へ
押し倒し
彼は死体となって
横たわり
前もって
彼の予想していた
恐怖の犠牲と
なったのであった
45:03
その部屋から
またその屋敷から
私は恐ろしさで
夢中になって
逃げ出した
古い土手道を
走っているのに
気がついたときには
嵐はなおも
怒り狂って
吹き荒んでいた
突然道に沿って
ぱっと異様な光が
射した
私の背後には
ただ大きな家と
その影とが
あるだけであったから
そのような
ただの光が
どこから来るのかを
見ようと思って
私は振り返ってみた
その輝きは
沈みゆく
血のように赤い
満月の光であった
月は今
その建物の屋根から
電光型に
土台まで伸びていると
前に行った
以前はほとんど
目につかぬくらいだった
あの亀裂を通して
ギラギラと
輝いているのであった
じっと見ているうちに
この亀裂は
急速に広くなった
一陣の扇風が
凄まじく吹いてきた
月の前輪が
突然として
私の眼前に現れた
巨大な壁が
真っ二つに
崩れ落ちるのを見たとき
私の頭は
ぐらぐらとした
幾千の
怒涛の響きのような
長い
轟々たる
叫ぶような音が起こった
そして
私の足元の
深いどん寄りした沼は
圧歯明けの破片を
陰鬱に
音もなく
飲み込んでしまった
1951年発行
新庁舎
新庁文庫
黒猫
黄金虫
より独りを
読み終わりです
妹さんに
殺されちゃったんですか
猫も不思議がっている
読みづらかったなぁ
難しかったです
文章の並びというか
運び
一応代表作の一つ
らしいですよね
これは結構
値落ちできたんじゃないか
だと思います
では終わりにしましょうか
無事に値落ちできた方も
最後までお付き合い頂けた方も
大変にお疲れ様でした
といったところで
今日のところはこの辺で
また次回お会いしましょう
おやすみなさい
47:12

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