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2023-10-26 08:47

【朗読】#16 愛しのカレー

週も後半。ちょっと疲れたなあ、そんなときこそひとやすみ。喫茶クロスロードでは毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。/今月のテーマは「食欲の秋」今日は、誰にとっても身近で思い出いっぱいの「あの料理」のエッセイ「愛しのカレー」/ 書き手:ひと/語り:セイ

00:06
スピーカー 2
カランコローン
いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
スピーカー 1
いよいよ週も後半。ちょっと疲れたなぁ。
今週もなんだかバタバタしていたなぁ。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。
そんな時こそ一休み。ここでのんびりしていきませんか。
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、
スピーカー 2
月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは【食欲の秋】。
スピーカー 1
今日は、きっと誰にとっても身近で、
だからこそいっぱいの思い出が詰まっている
あの料理にまつわる人のエッセイを、
スピーカー 2
私、SEIがお届けします。
それではどうぞ。
愛しのカレー。カレーが好きだ。
スピーカー 1
お肉と野菜がゴロゴロ入った王道のカレーも好きだし、
スピーカー 2
スープカレーや焼きカレーのようなご当地カレーもいい。
スピーカー 1
タイカレーはココナッツミルクの風味がまろやかだし、
ワンプレートにご飯と数種類のカレーを盛り込んで食べる
スピーカー 2
スリランカカレーは見た目にもおいしい。
スピーカー 1
とにかくカレーと称される料理をこよなく愛している。
食いしん坊の私は過去を振り返る時も食べ物がセットだ。
あの時あれ食べてたな。
あの頃あれにはまってたな。
食べ物の記憶が思い出をより鮮明によみがえらせる。
中でもカレーは品質料理だ。
個性豊かなカレーたちがいろんな思い出を引っ張ってくるから、
スピーカー 2
カレーはやっぱり私にとって特別な料理だと思う。
大学生の時初めてできた恋人が初めて振る舞ってくれた手料理もカレーだった。
スピーカー 1
6畳のワンルームで引っ越したてでまだテーブルもなかったから
ダンボールの上にお皿を並べて食べた。
ルーの箱の裏のレシピ通りに作られたういういしいカレーだった。
それから私たちはその部屋でたくさんの食事を共にした。
小さくて古い安アパートの一室だったけれど
彼と一緒にいるだけで当時の私にとって
どこよりも居心地が良く安心できる場所だった。
03:03
スピーカー 1
6年間続いた彼との関係は
お互いの存在が当たり前になりすぎて
一緒にいるための努力がおろそかになった時
あっさりと終わりを迎えた。
何事も反応が遅い私は別れて数ヶ月後に
ようやく失ったものの大きさに気がついた。
じわじわと増す喪失感に耐えられなくて
たくさんたくさん泣いたけれど
成す術はなく、ただ時が過ぎるのを
じっと待つしかなかった。
大学院在学中、1年ほどミャンマーに留学していた。
滞在先は他に日本人にほとんどいない小さな村だった。
ホームシックな私の心を癒してくれたのは
ヒンと呼ばれるミャンマー風カレーだ。
小さい村だから外食の選択肢は数えるほどしかない。
昼食の時間になったら友人のバイクに二人乗りして
家族経営の小さな店に向かう。
チキンカレー、エビカレー、かぼちゃカレー、豆カレー
数種類のカレーを注文してみんなで分けて食べる。
食べて食べてと友人がご飯にいろんな具を乗せてくれる。
足元では野良犬がきるねをしている。
ご飯には絶えずハエがたかる。
スピーカー 2
食べているすぐそばをバイクが排気ガスを出して通り過ぎていく。
スピーカー 1
厳しいミャンマーの暑さの中でも不思議と食欲は失われず
スピーカー 2
クーラーのない店内で汗を流しながら夢中で食べた。
スピーカー 1
帰りにアボカドジュースを買って帰ろう。
ガバも食べたいねと食事をしながら
スピーカー 2
すでにおやつの話をしているのがおかしくてクスクス笑った。
スピーカー 1
片言のミャンマー語しか話せず、日常会話もままならない私と
一緒にテーブルを囲んでくれる友人たちの優しさがありがたくて
それなのに感謝の気持ちを思うように伝えられなくてもどかしかった。
あれから数年たって就職して結婚して去年娘が生まれた。
ある日初めての育児に余裕のない私を見兼ねて
夫が今夜は俺が作るよと夕飯作りを買って出てくれた。
06:05
スピーカー 1
一年に数回しか料理をしない彼のレパートリーは
種類は違えどすべてカレーだ。
ありがたくお願いすると彼は玉ねぎを弱火でじっくりと飴色に炒め
たくさんのスパイスを駆使した類をことこと煮込み
数時間かけてこだわりのカレーを完成させた。
その間泣く声をやしお風呂に入れ寝かしつけをするのはもちろん私だ。
育児に疲れた私を少しでも元気づけようという彼の優しさを
今なら素直に受け止められるけれど
当時の私はご飯なんて何でもいいから子供の面倒を見るの変わってほしいと
スピーカー 2
本気で腹を立てた。
スピーカー 1
それでも時間をかけて丁寧に作られたカレーは
それはそれはおいしくて
スピーカー 2
ぺりぺりと怒りながらおかわりまでしてもりもり食べた。
スピーカー 1
今となっては笑い話だけれど
あの時はそんな些細なことで気分が落ち込むほど
スピーカー 2
心も体もギリギリだったのかもしれない。
スピーカー 1
今夜は半年ぶりに夫がカレーを作ってくれる。
新メニューの夏野菜カレーだそうだ。
スピーカー 2
キッチンはクーラーがないから汗だくになって作る。
スピーカー 1
お米たくさん炊かないと。
スピーカー 2
明日の朝のドロドロになったカレーも楽しみだな。
夕食が大好きなカレーというだけで口元がほころぶ。
私の思い出にまた一つ新たなカレーが追加される。
スピーカー 1
いかがでしたか?
さて、名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードは
あなたがほっこりした時間を過ごせるよう
毎週月曜日と木曜日
夜21時よりゆるゆる営業していきます。
それでは本日はお越しいただきありがとうございました。
またお待ちしております。
08:47

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