00:01
お母さんはえらいな。
小川美名
兄さんや姉さんたちの果物の話
一番下のイサムちゃんには、よくお腹を痛めるので、なるべく果物は食べさせないようにしてありましたから、他の兄さんや姉さんたちが果物を食べるときには、イサムちゃんの遊びに出ていないときとか、
また夜になってイサムちゃんが寝てしまってから、こっそりと食べることにしていました。
僕、ピュアが食べたいのだけど。
私は、スイミツが食べたいわ。
兄さんや姉さんたちは、果物の季節になると、いろいろおいしそうな果物が店頭に並ぶのを見てきて話をしました。
晩にイサムちゃんが休んでから、買ってきてお食べなさい、とお母さんはおっしゃったのであります。
ところがある日のこと。
お土産に見事なパイをもらったのでした。
「まあ、おいしそうね。」とお姉さんが言いました。
「お母さん、すぐに切っておくれよ。」と太郎さんが言いました。
果物が入っているから、イサムちゃんは食べてはいけないのですね、と太郎さんがパイを眺めながら言いました。
さっきからやはり黙って、おいしそうな大きなパイを眺めていたイサムちゃんは、
これを聞くと真っ赤な顔をして、太郎さんに飛びつきました。
「そんなことあるもんか。僕、みんな食べるんだい。」と喧嘩が始まったのでした。
これはイサムちゃんも食べていいんですよ、とお母さんがおっしゃったので、やっとイサムちゃんの怒りは解けましたが、
「僕、たくさんもらうんだ。」とイサムちゃんが頑張ると、
「ずるいや母さん、公平に分配してくださいね。」と二郎さんが叫びました。
「お母さんはいつも公平に分配するじゃありませんか。」
このとき二郎さんがメートル尺を持ってきたので、みんなは笑い出しました。
ゼリービーンズの公平な分配
パイを食べた後で、お母さんは棚からゼリービーンズの入った袋を下ろして、
四人の子供たちに分けてくださいました。
色とりどりなまがたまがたのお菓子は、めいめいの前にあった皿の中で輝いて見えました。
「僕のは五連ばかし。」と太郎さんが言いました。
「姉ちゃんが一番たくさんだ。」と二郎さんが言いました。
「いいえ、みんな同じですよ。勘定してごらんなさい。」とお母さんが言われました。
四人は勘定すると、一番小さいイサムちゃんのが一つ多かっただけで、
三人のゼリービーンズの数は全く同じだったのです。
それごらんなさい。お母さんは勘定しなくても公平でしょ。
お母さんはえらいなと、子供たちは感心して目を見張りました。