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72才 薬膳&料理研究家の木下 賀律子です。
今日は、小泉武雄著 江戸の健康食の中から、
漬物について読み上げ、音声を収録していきます。
昔の日本人は、野菜を摂る手段として、漬物を上手に摂り入れていました。
では、始めていきます。
日本人は、大変古い時代から漬物を食べていた。
すでに縄文時代には、野菜の皮を塩漬けした簡単なものがあったし、
平安時代の文献には、多くの記録が残っている。
その後、室町時代を経て江戸期に入ると、漬物文化は一気に全国へ広がっていく。
このように、日本が長い歴史に育まれた漬物の伝統国になった理由は、
味噌、醤油、酒かす、米ぬか、麹など、変化に富んだ漬物の材料が豊富だったことによる。
加えて、漬け床にあった野菜が実に多種にわたって栽培されていたためである。
漬物が風味豊かに漬け上がる原理は、塩分の作用によって細胞から水分が侵出し、
野菜が脱水されることにより、細胞の生理作用が止まって保存が効く状態になり、
脱水された水分に代わって、漬け床の味や香り、そして栄養成分が野菜に入っていくことにある。
さて、日本の漬物には日本人の知恵がたくさん盛り込まれている。
例えばぬか漬けにしても、ぬかはビタミンB群の宝庫だが、
活気や体力の衰え、疲労といった症状の原因であるビタミンB群の欠乏をこの漬物で補っていた。
これは、米を漬いて出た副産物のぬかから漬物の風味を高めるとともに、
栄養素まで経験的に摂取しようとした生活の知恵である。
また、味噌や醤油もろみに野菜を漬けておきさえすれば、
食べたい時にいつでも食べられる即席の便利さは質素で、
その上、食事に時間をかけたがらない日本人にぴったりの知恵であった。
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知恵がある日本人はまた、自分たちの漬物が腸内で体に良い働きをする微生物、
とりわけ乳酸菌をその腸内で増やすのに大いに役立つものであることを体験的に知っていた。
野菜にはもともと乳酸菌がついているが、これを漬物にすると、
食塩に対して抵抗力の強い乳酸菌はその漬け床で盛んに繁殖するのである。
人がこれを食べると、漬物から入った乳酸菌の一部は、
強酸環境にある胃をくぐり抜けて腸に到達し、そこに住みついて活発に増殖する。
そのため腸内は体に良い乳酸菌で湿られるようになり、
腐敗菌や胃腸発酵菌などが腸内に侵入しても、その繁殖を抑えることができるのである。
その上、有益な乳酸菌が腸内に多くなると、
彼らはそこで他種のビタミンを生合成して分泌してくれるので、
腸はこれを吸収し、体の働きのために役立ててきたのである。
ちょうどヨーグルトや乳酸菌の生菌入り発酵乳飲料を摂取した場合の作用と同じなのだ。
昔の人は、漬物を食べるとき、漬け上がった野菜だけを食べたのではなく、
なんと、2日に一度はぬけどこをぬるま湯に溶いて飲んだという。
ぬかみそなどはまさに乳酸菌の宝庫であり、
あたかもヨーロッパの人々がヨーグルトや乳酸菌飲料を飲むのとそう変わらぬことを知っていたかのようである。
ここまでが漬物と乳酸菌のお話ですけれども、
次は食物繊維のお話になります。
食物繊維は生野菜の4倍というサブタイトルがついております。
野菜には肉や魚にはない食物繊維、ダイエタリーファイバーやビタミンなど健康に大切な成分が多く含まれている。
その野菜を食べるには煮る、焼く、炒める、蒸すなどがある。
そして生で食べたりもするが、ご飯のおかずにするにはやはり加熱が主になってくる。
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ところが、野菜を一晩か二晩かけて漬物にしてみるとどうか。
いくら強いアクのある野菜でもたちまちのうちにアクは抜け、
またビタミンを失うこともないばかりか、ビタミンの宝庫と言われるような理想の食べ物になるのである。
次に、漬物に含まれる成分の中で最も大量に存在し、摂取した人の体内で重要な役割を担ってくれるのが繊維成分である。
日本人の食事を先前と先後とで比較してみて、最も大きな違いが見られるのは食物繊維の摂取量である。
ゼンマイ、わらび、すくし、たけのこ、れんこん、いとうり、もやし、ふき、こんにゃく、ごぼうなど、
食物繊維をたくさん含んだ山菜と野菜は日本人にとって重要な食材として昔から多量に食べられてきた。
ところが、戦後、日本人の生活様式が少しずつ変わっていくにつれ、その摂取量もどんどん少なくなっていった。
そして今日では、戦前に比べて4分の1の量しか食べなくなってしまったという。
昔の日本の平均的な食卓といえば、毎日毎日、ご飯になっぱのみそ汁、いわしのまるぼし、
それに必ずと言っていいほど、きんぴらやごぼうやれんこんの煮付け、そして漬物であった。
これだけでもかなりの食物繊維をとっていたわけだが、
現代では、漬物や根菜の煮物、なっぱのみそ汁などは、そう毎日は愚痴にすることはないであろう。
体の中に入った繊維素は、水を吸収して膨らみ、腸幹を通過する際に腸内を掃除し、お通じが良くなることは昔から言われているところだ。
その上、繊維素は体にとって有益な腸内細菌をたくさん増殖させる場ともなる。
さらに繊維素は単重酸の分泌を多くして、脂肪の分解やコレステロールの過剰を抑えるのに効果があるとされ、体にとってとても役立つ存在である。
現代人のこの食物繊維の不足は、糖尿病、心臓病、癌、肥満、高血圧、慢性便秘、胃腸病といった、いわゆる文明病の多発症へとつながったと言われている。
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以上です。
この他にも小泉氏は、漬物にはカルシウムをはじめ、重要ミネラルが豊富であると述べています。
江戸時代というのは、肉食禁止令が続いていたこともあり、かなり素朴な食をしている様子が読み取れます。
そんな中で、かつて漬物は重要な位置を占めていましたが、現在の私たちの生活では塩分過剰の心配があり、ずいぶん事情も変わってきました。
かつて私は、京都の台所と呼ばれる日式市場で、漬物アフタヌーンティを掲げているお店に入ったことがあります。
漬物アフタヌーンティ。
確か日式というお店だったと思いますが、1階は漬物を販売し、2階が食事どころになっており、
2段トレイには漬物入りの冷製ショートパスタや、同じく漬物入りのサンドイッチ、そして和風のデザートがついていました。
飲み物は紅茶ではなく、ほうじ茶だったような気がいたします。
漬物屋さんの新たな取り組みを体験した次第です。
今日は江戸の健康食から、乳酸菌や食物繊維を豊富に含む漬物について収録しました。
最後までお聞きくださりありがとうございました。